屋敷の最深部。
そこは大きなコンテナが3つだけ置かれていて、後は何にもない広い空間。
震えは無かった。臆する事も無かった。ただ、敵は倒すという気概で俺は此処に居る。
相対する、俺とルーファス。親子の殺し合いが、今始まろうとしていた。傍らに立つメリーも、体を帯電させながらやる気を見せている。
「さて、ガーネット君。君はどうしても私の邪魔をしたいようだね」
「ここでお前を逃したら、しばらくの間枕を高くして眠れないからな。ここでとっ捕まえて、刑務所の中に放り込んでやるよ」
「・・・もし、ここで見逃してくれれば、今後君達に危害を加えないとしたら?」
なんだと?
「正直な話、ゲンジがここに来る前に逃げなければ厄介な事になる。そこで君に、交渉を持ち掛けようではないか」
「交渉だぁ?」
「初めに言っておくが、ここで私と闘えば君はただでは済まない。これは誇張では無く、真実だ。それは君も望むところではあるまい。ここで見逃してくれるのであれば、君を含め、アクアマリンにもターコイズ君にも、今後一切危害を加えないことを約束しよう」
「そんなもん、俺が信じるとでも思ってんのかよ?」
「思えないね。だが私はこれでも商人だ。約束は必ず守る。決して悪い話ではないはずだ。両者無傷で、目的を果たせるのだからね」
「俺の目的がなんなのか、知っているのかよ?」
「表向きは私の捕縛だろう?だが君は、そんな事よりも仲間との未来を求めているはずだ。君だってわざわざリスクを取らなくとも、ノーリスクで目的を果たせる」
まるで俺達の会話を聞いていたかのように、俺に交渉を持ち掛けるルーファス。流石は古い商人の名家、俺の欲しいものはお見通しと言う事か。
「でもそいつは出来ねぇ相談だな」
「・・・何故かね?」
「確かによ、俺はお前が何処で何をしようが知ったこっちゃねぇよ。俺達に何にもしねぇってんなら、俺達も何もしねぇ。でもな、俺の目的はそれだけじゃねぇんだよ」
死んだのは、俺の母さんだった。大切だったし、絶対に無くしたく何か無かった。あんな風に居なくなってしまうなんて、思いもしなかった。
「それ以外の目的が、君にはあると言うのかね?」
「無けりゃ、話はここまでややこしくなっていねーよ」
ルーファスの悪事を追い続けて、7年間戦い続けて来た男が居る。そして、俺はその男の遺志を継いでこいつと戦いに来たのだ。
「どうしてもかね?」
「どうしてもだ」
道半ばで、夢破れた仲間が居る。周囲から蔑まれ続け、それを止められる立場に居ながら止めようともせず、最後は利用しようとして失敗したから切り捨てられた。
「非常に残念だよ」
「俺はこの展開を望んでたぜ・・・!」
感情を与えられず、生き方を作られて、未来までも奪われようとしている少女が確かに居る。その少女との約束を果たすべく、俺はこいつを倒して過去を清算しなければならない。
「ならば、もはや容赦はしない」
ルーファスはモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押す。
「っっ!!」
それと同時に放たれる、目にも止まらない早さで飛来する強烈なプレッシャー。強烈な突風。ロストタワーで俺達3人を纏めて倒した時と同じだ。避わせる様なものではない。
「メリー〝ほうでん〟!!」
メリーから前方180度に向かって激しい電撃が発せられる!まるでアリアドスの巣の様に展開された電撃は、音速で向かってきたピジョットを絡め取り、ダメージと共に動きを封じる!
「今だメリー!〝かみなりパンチ〟!続けて〝パワージェム〟!!」
相手が怯んだ隙を逃さず、ピジョットの顎を雷の拳で打ち抜き、至近距離から煌めく光線を浴びせるメリー。連続で攻撃を浴びたピジョットはそのまま戦闘不能になった。
「まさか、いきなりピジョットを倒されるとはね」
流石に想定外だったのか、目を見開いて驚くルーファス。
「お前のピジョットはかなり予習してきたからな」
そう言ってポケモン図鑑を取り出す。
ピジョットはマッハ2の速さで空を飛ぶポケモンだ。俺達を倒したのは、単なる〝ゴッドバード〟という技の威力だけじゃない。マッハ2と言う速度から生まれる強烈な衝撃があの威力を生んだんだ。
なら逆に、それだけの速さなら急には止まれないんじゃないかと言うのが、ターコイズの仮説だ。それなら、苦手な電気タイプの技で罠を張り、そこに突っ込んできたピジョットがダメージで動きが止まった所を連続で叩く。
本当ならレベル差がありすぎて、攻撃を無視して突っ込んでくる可能性もあったが、ゲンジお墨付きの攻撃力がそれを可能にした。
「なるほど。ポケモン図鑑に助けられたようだな」
そして新たにボールを取り出すルーファス。前回はピジョット以外のポケモンは使っていなかった。つまりここからは全くの未知の領域。俺は再度気合いを入れ直し、相手を睨む。
「行け、《ガマゲロゲ》」
現れたのは、青い体に所々瘤の様な物が出来ているポケモンだ。ガマゲロゲと言う名前らしいが、ポケモン図鑑を見てみても反応が無い。マニューラの時と同じだ。
ターコイズの言葉を借りるのなら、図鑑がガマゲロゲに対応してないという事か。
「でも構うか!メリー〝10まんボルト〟!!」
あの姿から察するに、ガマゲロゲは水タイプだ!なら電気タイプの技は効果抜群のはず!強烈な電撃は、真っ直ぐにガマゲロゲに直撃したが
「何ぃ!?」
どういう訳か、ガマゲロゲは全くと言っていいほどにダメージを受けていなかった。電気タイプに技を完全に無効化・・・こいつまさか!?
「ガマゲロゲは水と地面、両方のタイプを併せ持つ。〝ハイパーボイス〟」
全身の瘤と震わせ、途方もない爆音を発するガマゲロゲ。
「ぐあぁぁ・・・!!」
なんつー声だ・・・!自分の声が聞こえない・・・!!
俺が耳を押さえて苦しんでいると、メリーも同じく耳を押さえて苦しんでいた。その隙にガマゲロゲはメリーに肉薄し
「〝ドレインパンチ〟」
拳がメリーに食い込むのと同時に大気が大きく震え、メリーは壁まで吹き飛ばされて戦闘不能に陥ってしまった!何て威力だ・・・!
「拳を震わせて、威力を増幅させた〝ドレインパンチ〟だ。これを食らってタダで済んだポケモンはいない。まだ戦うかね?」
「ご高説どうも!そいつもすぐにぶっ飛ばしてやるよ!行け、ダン!!」
メリーを引っ込めて、新しくポケモンを繰り出す!現れたのはダーテングのダンだ。草タイプのダンなら、水/地面タイプのガマゲロゲには最高に相性がいい。
「私が草タイプ対策をしていないとでも思ったかね?〝こごえるかぜ〟だ」
強烈な冷風がダンに迫るが、弱点タイプの対策があるのはそっちだけじゃない!
「振り払え、ダン!!」
ダンは両手の扇を大きく振い、猛烈な風を巻き起こす!巻き起こされた風は風速30メートル。ガマゲロゲから放たれた冷風は押し返され、僅かながらガマゲロゲにダメージを与える。
「今だ、〝リーフストーム〟!!」
押し返された冷風と猛烈な風により怯んだガマゲロゲに、強烈な葉の竜巻を浴びせる!竜巻に巻き上げられながら葉で斬り裂かれたガマゲロゲは、天井に激突した後、地面に落下して戦闘不能となる。
「幾ら弱点タイプとは言え、このレベル差で一撃でガマゲロゲを倒すとは。ダーテングが巻き起こした風の力と、圧倒的な攻撃力の賜物だな」
そんな事を言いながら新たなポケモンを繰り出すルーファス。
現れたのは赤くて丸い体に、大きな腕が特徴のポケモン、《ヒヒダルマ》だ。ポケモン図鑑を見てみると、こいつは炎タイプ。ダンの弱点をもろに突いてきたか・・・!
「ヒヒダルマ〝フレアドライブ〟!」
全身に業火を纏い、猛烈な勢いで突っ込んでくる!離れていても伝わる熱気、これを食らえば確実に戦闘不能に陥るだろう。
「・・・ダン」
ダンはこちらを振り返り、俺を見る。その目は何物をも恐れぬ、覚悟を決めた瞳。神風の目だった。俺は一度だけ頷くと、ダンは迫りくるヒヒダルマを睨む。
これでいい。これはあらかじめダンと話し合って、決めていた事だ。ダンも分かってくれた。だから俺は、コンテナの影に隠れ、そして叫ぶ。
「やれぇ!!〝だいばくはつ〟だぁ!!」
その瞬間、部屋は光に包まれた。
コンテナの裏に隠れていてもまるで遮断されない衝撃と爆風。自身が戦闘不能になる代わりに、周りの全てに破滅をもたらす大爆発が巻き起こる。
「はぁ、はぁ・・・。やったか・・・?」
やがて爆発と光は収まり、俺はコンテナから顔を覗かせる。これで上手くいったら、ルーファスは動けなくなっているはずだ。
「ば、バカなっ!?」
そこに倒れていたのはダンとヒヒダルマの2体だけ。だったらルーファスはどこに行ったんだ!?周囲を見渡し、警戒態勢をとる。
次の瞬間、地面から何かが飛び出してきた。
「ごはぁぁっ!!?」
飛び出してきた何かは俺の腹に減り込み、俺は大きく吹き飛ばされて2回地面にバウンドしてからようやく止まる。痛みを堪え、前を見た。そこに居たのは、小さな紫色の体に、目が宝石の様なポケモンだ。ポケモン図鑑を見てみても、今回は何の反応もない。
「《ヤミラミ》、〝シャドークロー〟だ!」
ヤミラミと呼ばれたポケモンは、影から鋭い爪を形成して襲いかかる!
「行け、イヴ!!〝れいとうビーム〟だ!!」
こっちはイヴを繰り出し、強力な冷気を一直線に放出する。ヤミラミは空中で体を捻り、冷気を避けられたが、その隙に何とか体を起して態勢を整える事が出来た。
「これで君は後4体、それに対し、私は後3体。ここまでやるとは計算外だよ」
そう言いながらルーファスは地面からニュッと出て来た。そうか・・・!〝だいばくはつ〟を回避したのはあのヤミラミの〝あなをほる〟だったか!
「〝かげうち〟だ!!」
ヤミラミの影がこちらに伸びて来たかと思いきや、影が地面から盛り上がり、そのままイヴが吹き飛ばされた!何とか戦闘不能は免れたが、そう何度も食らっていられない!
「〝ふぶき〟だ!!」
極寒の猛吹雪がイヴから吐き出される。その雪と冷風は部屋の床や壁、天井を凍り付かせるが、ヤミラミはその素早い動きで吹雪を回避しながら俺に肉薄する!
ドスッ!!
影から出来た爪は、咄嗟に盾にしたポケモン図鑑を貫き、俺の胸に突き刺さった。
☆ ☆ ☆
アリアside
「・・・今の振動は、ダーテング?」
前方から生じた風と振動を、ガーネットのダーテングの大技〝だいばくはつ〟だと推測すると、アリアは重たい足に更なる気合いを入れて歩みを進める。
「・・・急がなくては」
ダーテングが自爆特攻をしたという事、つまりそれほどまでに戦況が緊迫しているという証だった。ならば一刻も早く駆けつけて、彼の力になりたい。
「・・・あれを無理矢理押し付けて正解でした」
ターコイズと話し合い、ガーネットに2人で押し付けた物。ガーネットは最初は渋ったが、ターコイズの説得で何とか受け取ってもらえた。
あれが何らかの力をガーネットに与えてくれている事を信じ、アリアは通路を全力で駆け抜ける。疲労は何とか回復してきていた。
☆ ☆ ☆
ヤミラミは咄嗟に盾にしたポケモン図鑑ごと、俺の胸を突き刺す。その事に思わず怯んだが、それに構わずヤミラミの腕を掴む!そのまま爪を引き抜き、砲丸投げの要領で中空へと放り投げた!
「やれぇイヴ!!〝シャドーボール〟だ!!」
大きな黒いエネルギー弾が、回避の叶わない空中に居るヤミラミに激突する!ヤミラミはそのまま放物線を描く様に地面に落ちてきて、戦闘不能となる。
「・・・結局、こいつに助けられたな」
俺は上着の胸ポケットを見る。そこには無残に破壊された2つのポケモン図鑑だ。
「結局壊しちまったぞ、しかも3つ同時に」
戦いの日の前日の夜、何を思ったのかアリアとターコイズが俺に使って欲しいと言ってきた。何でも戦いになったらすぐに壊すだろうという事だ。まったくもって失礼な話だが、それは現実のものとなり、こうして俺は生き長らえている。
俺は手に持っていた壊れた図鑑を胸ポケットに押し込み、ルーファスを見る。
「君はつくづく悪運に恵まれているらしいな」
そう言って呆れる様な眼差しを俺に向けるルーファス。そして残るポケモンは後2体だ。こっちは4体だが、ルーファスのあの余裕の態度を見る限り、油断はできない。
「行けっ!《クリムガン》!!」
現れたのは、青い体とは正反対の真っ赤な顔。こいつの事は良く知っている。ドラゴンポケモンのクリムガンだ!でもイヴは氷タイプだ!相性では勝っている!
「〝ふぶき〟!!」
極寒の猛吹雪が、辺り一面を再び凍り付かせる!これを食らえば、さすがにドラゴンタイプと言えどもタダでは済まないはずだ。
「そんなものでは、そいつは止まりはしない」
ルーファスがそう呟くと、クリムガンは守りの態勢を取ったまま吹雪を抜け出してきた!?まさか、〝まもる〟をしながら移動したってのか!?
「〝ばかぢから〟だ」
そのままイヴの体を鷲掴みにし、地面に力一杯叩きつける!床が大きく陥没するほどのパワーで叩き付けられたイヴは、そのまま戦闘不能になった。
「何てパワーだ・・・!」
「このクリムガンは私のお気に入りでね、そう簡単には倒せないので覚悟していたまえ」
ルーファスの最強の一角と言う事か・・・!ならこっちは!
「行け!マー坊!!」
マンキーから《オコリザル》へ進化したマー坊を繰り出す!クリムガンは巨体だ。あの図体で軽いフットワークが伴う訳が無い!ならこっちはそれで対抗する!
「〝クロスチョップ〟だ!!」
「〝ドラゴンクロー〟で迎え撃て!」
両手を使った交差打ちと、竜爪がぶつかり合う!力は互角と言ったところか!
「〝れいとうパンチ〟!!」
続けて冷気を纏った拳を繰り出す!当たれば効果抜群だが、驚くべき事にクリムガンは、身を屈めてそれを回避しやがった!
「〝いわくだき〟だ」
大岩をも砕く一撃が、マー坊に叩き付けられる!マー坊はそのまま地面に叩き付けられ、戦闘不能になってしまった!
「強い・・・!あの巨体からは想像もできない反射速度だ・・・!」
相手はパワータイプのポケモン。だったらこっちもパワーで対抗するしかない!
「頼むぞ、ドン!!」
オノンドから《オノノクス》に進化したドンを繰り出す!その黄土色の巨体に、顔の両側から生えた大きな斧の様な牙が何とも逞しい。
「〝ばかぢから〟だ!!」
「〝ばかぢから〟だ!」
強大な筋力と筋力がぶつかり合い、2体を中心に床が陥没する!やがてその均衡は崩れ、ドンは下からクリムガンをかち上げて、中空へ放り投げる!
「行けぇ!!〝ギガインパクト〟ォ!!」
クリムガンを追い掛ける様にして跳んだドンは、渾身の力でクリムガンを地面に叩きつける!ドンのパワーとクリムガンの体重で床が大きく陥没し、クリムガンは戦闘不能になった。
「まさか、ここまで私を追い込むとはね」
クリムガンをボールに戻し、そう呟くルーファス。そして新たに取り出されたボールの中に居るのは、正真正銘、切り札の一体だろう。
「この一連の戦闘で、君のポケモンのパワーには感動すら覚える。故に、ここで必ず倒さなければ、今後の作戦にも大きく影響を及ぼすだろう」
「御託は良い・・・。掛ってきやがれ!!」
俺の叫びに呼応する様に、ドンも雄叫びを上げる!あの一体に勝てば、俺達の勝利だ!
「良いだろう、これが最後の戦いだ」
そして繰り出される最後の一体。現れたのは、クリムガンよりもさらに巨体。頭から背中にかけて突き出た角、そして頑丈な岩の甲殻。
山崩れのニュースでも有名なポケモン《バンギラス》だ。
「さぁ行くぞ、バンギラス」
バンギラスの雄叫びと共に巻き上がる風、それはバンギラスの特性〝すなおこし〟で発生した砂嵐だ。激しく巻き上げられた砂塵はドンの体を傷つけていく・・・!
「〝かいりき〟で叩きのめせ」
「くっ!こっちも〝かいりき〟だ!!」
バンギラスとドンが組み合い、両者譲らず力は拮抗している!その力はクリムガンを上回り、ドンと互角に張り合っている!
でもこのままじゃ不味い。砂嵐は絶えずドンの体を傷つけていて、このままじゃ均衡は崩れるだろう。何とか状況を打開しないと!
「初めに言ったが私は急ぎなのでね。終わらせてもらう、〝ストーンエッジ〟!」
零距離から放たれた鋭利な岩礫が、ドンを襲う。ドンは何とか耐えているが、やがて力が抜けたのか、均衡は崩れ、ドンはバンギラスに押し倒されてしまった!
「次は君だ、〝ストーンエッジ〟!!」
「う、うおぉぉぉぉぉ!!?」
無数の岩刃が俺に襲いかかる!何とか避けてはいるが、こんなものがいつまでも続く訳もなく、岩の一つが足を掠め、俺は倒れ込んだ。
「しまっ!!?」
そして岩が俺に命中しようとした瞬間、何かが俺に覆い被さった!
「ドン!?」
顔を上げてみると、そこには苦悶の表情を浮かべて岩礫を浴びているドンの姿が。まさか、俺の盾になっているのか!?
「もうよせっ、ドォン!!」
俺の指示も受けずに、ジッと岩礫を受け続けるドン。そして岩礫が止むのと同時に、ドンは地面に倒れ込んで戦闘不能になった。
「くっ・・・!ドン、ゆっくり休んでくれ!!」
俺はドンをボールに戻し、敵を睨む。辺りは相変わらずの砂嵐だ。
「強力なオノノクスだった。私のバンギラスがここまで苦戦したのは久しぶりだよ」
「当たり前だ、俺の自慢の仲間だからな!!」
俺は最後のポケモンを繰り出す!こいつ無くしては勝利はあり得ない。この砂嵐を越え、奴らを倒せる唯一の存在。
「行くぞナツ!最後の戦いだ!!」
現れたのは、フライゴンのナツだ。地面タイプを併せ持つナツは、この砂嵐の中でもダメージは無い。俺はナツの背中に乗り、指示を出す。
「飛べ、ナツ!!」
翼を羽ばたかせ宙にに浮く。バンギラスはその重量から生みだす攻撃力故に、機動力に欠けるポケモンだ。だったらこっちは空を飛ぶというアドバンテージを最大限に活かす!
「〝アイアンテール〟だ!!」
「〝アイアンテール〟で弾き返せ!」
空中から背後に回り、硬化した尻尾を叩きつけようとしたのに対し、バンギラスも同じ〝アイアンテール〟で応戦する!ちっ、流石に隙は簡単には作らないか!
「だったら〝じしん〟だ!」
大地を大きく揺らし、その衝撃で当たりの敵を一掃する大技、〝じしん〟で決定打を図る!バンギラスは岩タイプを併せ持つポケモンだ。地面タイプの技は効果抜群だ!
「〝じしん〟!!」
だか、バンギラスも地面を揺らし、その衝撃でナツが放った振動を打ち消しやがった!まさか〝じしん〟をこうやって防ぐなんて・・・!
「まるで烈火の様な攻めだな。〝はかいこうせん〟!!」
破滅の光線が、バンギラスの口から放たれる!ナツは空中を旋回し、何とか回避に成功した。どうやらあのバンギラスは、遠距離技も豊富らしい。
「行けっ!〝とんぼがえり〟だぁ!!」
攻撃後、すぐにその場を離れる技〝とんぼがえり〟。こうやってヒット&ウェイを繰り返し、着実にダメージを与えていくつもりだったが
「〝かいりき〟で押さえこめ!!」
攻撃してきた所を見計らって、ダメージを受けながらも怪力で背中に乗っていた俺諸共ナツを押さえこまれてしまう!くっそ・・・!なんて馬鹿力だ・・・!!
「それでも負けるかぁ!!ナツ〝かえんほうしゃ〟!!」
首を捩り、バンギラスの顔目掛けて激しい炎を吐き出す!怯んで手の力を緩めたのを見計らって、拘束から抜け出す!今のでナツの体力は限界に近い。次の手で決めなければ・・・!
「少し君に問いたい」
バンギラスをどう攻めるか頭を悩ませていた時、ルーファスは静かに問い掛けた。
「なぜ、ここまでして私に足掻く?戦力差は圧倒的だったあの頃から、君の目からは諦めというものが宿らなかった。浅ましく生きようとする道化にも見えなかったがな」
そんな事を聞いてくるルーファス。その台詞は、こいつが言った途端に酷く滑稽なものに聞こえた。だってそうだろう?結局こいつも
「それは、お前と一緒だ・・・!ルーファス」
「私と同じ・・・?」
俺と同じ穴のムジナなんだからな。
「どんなに強い奴が敵でも、破滅の未来が待ち受けていたとしても」
恋人を生き返らせるために、全てを生贄にしてきたこいつなら分かるはずだ。
「守りたい奴が居る。貫きたい、願いがある・・・!最後の最後まで、希望は捨てねぇ。たとえ其処が、地獄の底でもあっても!生きる為に足掻く!それが、俺達の生き方だ!!」
そう啖呵を切る俺を、ルーファスはジッと見つめていた。
「ならば、私がどんな選択を取るかも分かるな?」
「ここで諦める様な奴なら、こんなに苦戦してねぇよ・・・!」
外見は似ていても、中身は全く似てないと思っていた。でも、ただこの一点だけ、俺達はかなり似ているよ、ルーファス。
「私は全てを犠牲にしてでもエリーを取り戻す!!バンギラス!!」
「こっちも仲間の未来を任されてんだ!!簡単にくたばるかよ!ナツ!!」
2体の口に集束されていく、圧倒的なエネルギーの奔流。それはゆっくりと、しかし確実に限界まで溜め込まれ、遂に解き放たれる!!
「〝はかいこうせん〟!!」
「〝りゅうのはどう〟ぅぉぉぉおおお!!」
最大最強の攻撃がぶつかり合う!ナツのダメージも大きいが、〝とんぼがえり〟と〝かえんほうしゃ〟をまともに受けたバンギラスもダメージは大きい!
「うおぉぉぉぉ・・・!!」
「・・・ぃい行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
乾坤一擲。初めに均衡を崩したのはナツだった。竜のエネルギーは光線を食い尽くし、光線は弾けながら拡散する!
ルーファス、お前が背負ったもんは確かに重かろうさ。でも俺だって何にも背負ってねぇわけじゃねぇ。俺達には未来がある。過去に縛られて、ずっと後ろを見て来たお前じゃ分からねぇもんをな!
「貫けぇぇぇぇぇぇ!!」
エネルギーは光線を食い破り、バンギラスを飲み込んだ。巻き起こる爆発四散、煙が晴れた後に残っていたのは、戦闘不能になったバンギラスと、呆然としているルーファスの姿だ。
「俺達の、勝ちだ・・・!」
それと同時に倒れ込む俺とナツ。ナツは暫くの間、指先一本動かせないだろう。
「まだだ・・・!まだ、終わってはいない・・・!!」
「なっ!?」
そう言って、俺に拳銃を向けてくるルーファス。まずい!避けられねぇ!!
「・・・ライチュウ〝でんげきは〟」
ルーファスが引き金を引こうとした直前、高速の電撃が拳銃を弾き飛ばす。
「この電撃は、まさか・・・!」
「くっ!」
ルーファスは慌てて拳銃を取りに向かったが、突然現れたぺリッパーがそれを遮る!
「もう逃げられませんよ!」
「・・・あなたの抵抗もここまでです」
「アリア、ターコイズ!!」
現れたのは、後ろで戦っていてくれた2人の仲間。
「お前ら、ちゃんと勝てたんだな・・・!」
「・・・約束ですので」
「僕もなんとかね!」
そしてルーファスを取り囲む2人の手持ちポケモン。殆どは戦闘不能になってしまったのか、その数は合わせて4体しかいないが、俺にとっては最高の援軍だ。
「・・・最早、ここまでか」
そう小さく呟いて、ルーファスはポケットに手を入れた。その次の瞬間
ドオオオオォォオォンッッ!!!!!
棲様じい爆発音と共に、この建物全体が揺れ始めた!!
「この揺れ、まさか・・・!!」
「死にたくなければ、迅速に逃げる事を勧めよう。この屋敷は間もなく地盤沈下を起こし、地の底へと沈んでいくだろう」
そう言ってポケットから何かボタンの様な物が付いた小さな機械を投げ捨てる。ルーファスはその場に座り込んで、逃げる素振りすら見せない。まるで此処を死に場所と決めた様に。
「元は証拠隠滅の為に仕掛けた細工が、こんな形で使う事になるとはな」
「ルーファス、テメェ!!」
「ガーネット、いいから逃げるよ!!」
「・・・・・!!」
ルーファスに掴み掛ろうとする俺を、必死で抑えるアリアとターコイズ。
「ついでだ。これも持って行ってくれたまえ」
ルーファスは俺に向かって何かを投げつける。それはルーファスの手持ちが入った6個のモンスターボールだ。俺は反射的にそれを受け取った。
「えぇい、くそ!!」
俺は2人の誘導に従い、通路を走る。
聞きたい事は山ほどあった。でもそれが出来る状況ではない事を悟った俺は後ろ髪を引っ張られる様な気持ちで逃げだした。
ここで死んでは元も子もない、約束を守るためにも俺は振り返らなかった。
☆ ☆ ☆
「ふふふ、ここで私が死んでも、私の願いは叶う。君との再会も、そう遠くは無いだろう。だから今しばらく待っていてくれたまえ」
ガーネット達が逃げ果せた後、座して死を待つルーファスの心は穏やかだった。
懐から写真立てを取り出す。写っていたのはかつての自分と、この世で最も愛した女の幸せそうなツーショット写真だ。
「君は、ポケモンと笑い合う私が好きだと言ってくれたな」
なら、血の繋がった少年にボールを渡した事は間違いではない。
そう満足して、ルーファスは降り積もる大きな瓦礫の中に埋もれていった。
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