『先日ジョウト地方で発生した新生ロケット団のテロの裏で、ここカントー地方の名家であるアルティア家がロケット団にポケモン協会の情報を流していた事が、新たに判明しました。そして私は今、アルティア家総本山があるという森の中に来ていたのですが、見てください!この大きな穴!下を覗いてみると、そこには瓦礫の山です!ここで何があったのでしょうか!?警察は引き続き調査を』
プツッ!
俺はテレビの電源を切り、備え付けのソファーに腰を掛ける。
ここはタマムシシティのポケモンセンター。あの戦いの後、庭でのびていたタツヒコとユキを運んで(主にぺリッパーがすごく頑張った)ここまで来ていた。
来たのは良いのだが・・・
「凄い騒ぎになってるね・・・」
「・・・私達の顔が晒されていないのが救いですね」
「まぁ、ゲンジって言うか、協会の主導で動いてたから大丈夫だと思うけどな」
ルーファスが最後に押したスイッチは、あの屋敷の周囲を地盤沈下させるだけではなく、カントー地方全域に地震警報が鳴った位に大きかった。それだけでも騒ぎなのに、一夜にしてアルティア家総本山がピンポイントに地盤沈下していたら、そりゃ騒ぎにもなるよな。
「まぁ僕達も危うく地盤沈下に巻き込まれると事だったけど、こうしてみんな生きて帰れたんだから、今はそれでいいんじゃないかな?」
「確かに、ぺリッパーが居なかったどうなっていた事やら」
「・・・恐らく地盤沈下に巻き込まれて即死だったかと」
「嫌な事言うなよ・・・」
俺は屋敷があった森の方を見る。
俺達3人と、アルティア家の因縁の戦いは幕を閉じた。しかし、
「・・・残された謎は、相変わらず多いですね」
「あの研究所にあった樹のマークに、ルーファスが取ろうとしていた死者蘇生の方法、それから、サンゾウの支部長発言か・・・」
樹のマークはアルティア家の家紋とは別物らしく、死者蘇生の方法は俺達には見当もつかない。最後のサンゾウの支部長発言だが、これには頭を悩ませっぱなしだったりする。
ルーファスはアルティア家の当主、つまり組織のトップだ。対して支部長とは、大きな会社の傘下にある会社を任される者に対する呼び方だ。
組織のトップなのに支部長。そんな矛盾が孕んだ言葉の真意とは
「・・・ルーファスは、何らかの組織の幹部にすぎない?」
「その可能性が高いかもな・・・」
どうやらこの厄介事の根は深く、これだけでは終わってはいないみたいだ。でも、現状では敵の姿は一切見られないことから、今は一時の安寧と言ったところだ。今はこの件について頭を悩ませていても仕方がない。それに、俺達にはそれ以上の厄介事に直面しているのだから。
「このポケモン図鑑、どうしよう~~!?」
俺達の目の前には、無残に破壊された3つのポケモン図鑑が置いてあった。
☆ ☆ ☆
「さて、こいつをどうするべきか?」
あの後すぐにタマムシを出て、現在夕方の5時。
所変わって、ここはマサラタウン・オーキド研究所前。
ひょんな事から、この図鑑の持ち主があの有名なオーキド博士の物だと知った俺達は、戦いが終わったらこの図鑑をちゃんと博士に返すと決めてはいたのだが
「こんな風穴開いたやつ、返したら怒鳴られるだろうな~」
「・・・元はと言えば、私が盗み出したものです。よって私が返しに行くのが礼儀かと」
「いやいや、俺達もこれを使ってたんだから同罪だっての」
えぇい!人間度胸だ!とりあえず行くしかない!
「いくぞ!!たのもーーーーーー!!」
「そんな道場破りじゃないんだから!!?」
研究所のドアに手を掛け、勢い良く開く。中に居たのは数名の研究員のおっさんと、白髪の角刈りの老人だった。雑誌で見たとおりだ、こいつがオーキド博士か。
「な、何じゃ・・・?」
「ほら!博士と研究員の人たちがドン引きしてるじゃないか!!」
「すまん、ついノリで」
「って、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「・・・っ!?」
その時、一人の研究員がアリアを指差して絶叫する!何事!?
「博士、彼女ですよ!!ポケモン図鑑を盗み出したのは!!」
研究員の一言で、研究所の中は騒然となる。どうして戻って来たのか、とか、警察に連絡を入れるなどと不穏な空気が流れ始め、思わず腰のボールに手を伸ばしたが
「皆落ち付け!どうやら争いに来た訳じゃなさそうじゃ!」
パンパンと手を叩いて、場を諫めるオーキド博士。俺もそれに釣られてボールから手を離す。どうやら話の分かる人物らしい。
「さて、ガーネットにアリア、ターコイズじゃったな。ゲンジから話は聞いておる」
「え、何で僕達の名前を?」
「それに、何でそこでゲンジが出てくるんだよ?」
「うむ、わしとゲンジは古くからの友人での。昨日いきなり電話が掛ってきて、君達が今日図鑑を返しに来ると教えてくれたんじゃ」
どうやらゲンジが根回しをしていたようだ。どう話を切り出したらいいか悩んでいたので、今回ばかりはゲンジに感謝だな。
「こんな所で立ち話もなんじゃし、とりあえず客間で話を聞かせてくれんか?」
☆ ☆ ☆
「なるほど、そう言う事じゃったか」
俺達の話を聞いた博士は、目を閉じて深く頷いた。どうやら俺達の事情に納得してくれたらしく、初めに感じていた警戒心も今は解けている。
「・・・この度は、真にご迷惑をおかけしました」
「こいつも悪気があってやった訳じゃねぇんだ。許してやってくれねぇか?」
「お願いします!」
俺達は同時に頭を下げる。ここがある意味では一番の正念場だ。
「なに、気にする事は無い。図鑑が盗まれた事で生まれた絆があり、図鑑が壊れた代わりに、未来ある少年の命が守られたなら、開発者としてこんなに誇らしい事は無い」
「そう言ってもらえると、助かります」
何とか許しを貰え、ホッと息を吐く。
「今日はもう遅い。空き部屋があるので今日はそこで泊るといい」
「・・・よろしいのですか?」
「色々あって疲れたじゃろう?今日はゆっくりと休みなさい」
そう言って部屋を出ていくオーキド博士。確かに博士の言う通り、時刻は既に9時を回り、昨日の戦いの疲れが癒えないままマサラタウンまで来た俺達の体力は限界だ。
「それじゃお言葉に甘えて、今日はゆっくりと休むか」
「・・・そうですね」
「あ、待って2人共。ちょっと時間いい?」
そう言って、空き部屋に移動しようとした俺とアリアを引き止めるターコイズ。
「どうした?」
「あのさ、2人ともこれからどうするかはもう決まってるの?」
「アリアのやりたい事探し兼、俺の写真の旅だな」
「だったら、その、お金が必要だよね?」
「・・・???」
「まぁ、確かに要るけど」
旅行代もカメラの手入れ、写真を保存するデータメディアもタダじゃない。いつかは何らかの職について資金を集めなければと思っている。
「だったらさ、僕達3人で、会社を立ち上げない?」
「会社ぁ!?」
余りの突拍子の無い事に、思わず声を上げる。
「・・・会社とは、いったいどんなものを?」
「今まで理想のビジョンを浮かべて来たんだけど、そうだね、分かりやすく言うなら企業に売り込む派遣部とは違って、地域密着型の万屋って言えば分かるかな?」
「・・・万屋?」
「頼まれたら、それを依頼と受け取って何でもやる仕事の事だよ。仕事の範囲が広いから、世間では手伝い程度の認識なんだけどな」
「いや、もちろん嫌だったらそれでも良いんだよ!?ただ、皆で何か出来たら楽しそうだなって思っただけだから、別に断っても」
「いや、ありだと思うぜ?」
「え?」
俺達は資金繰りの為にいつかは職に就かなければならなかった。その職が、自分達で一から作った会社だって言うなら、確かにそんな道もあったなと思う。
「今は準備段階だろ?だったら次はどうするか決まってるのか?」
「え、あ、うん。まずは資金集めと事務所の確保、運営許可に地元住民の人たちの顔馴染みになるって言うのがあるかな。・・・・あの、もしかして僕と一緒に来てくれるの?」
「・・・私達の目的は、そんなに急ぐ事でも無いと思いますので」
「利害が一致してるしな。これまでの旅の延長みたいなもんだ」
そして何より、一度は夢に破れた仲間が立ち上がり、もう一度同じような道を通ろうとしている事に気づいてしまった。だったら何らかの形で応援してやりたいと思う。
それをターコイズ自身が、俺達に示した。示せるようになった。
「え、あ、あ、その、そ、それじゃあ、とりあえず明日また詳しく話すから、今日はもう寝ようか!朝はここで待っててよ!?絶対だからね!?」
「はいはい、分かったよ」
「それじゃあお休み!!」
早口でそう切り上げて、ターコイズは空き部屋へと早足で向かった。
「アリアは、これでよかったか?」
「・・・はい。資金はどうしても必要でしたし、また3人で過ごせるのなら」
「楽しい事になりそうだな」
「・・・はい」
世の中バトルのファイトマネーだけで生きていけるほど甘くは無い。バトルに勝ち続ければいずれは名も上がり、挑戦を受ける奴も少なくなるだろう。
そんな時のターコイズの提案は、まさに渡りの船だった。
☆ ☆ ☆
その夜、皆が寝静まった後。どうしても眠れなかった俺は部屋を抜け出して研究所の外で風に当たっていた。明日への期待と不安で、体が火照って暑い。子供か、俺は。
「・・・ガーネット?」
その時、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると、そこには髪を下ろしたアリアが居た。長い藍色の髪が、月明かりに照らされて輝いている。
「アリア?どうしたよ?」
「・・・ガーネットが部屋を出ていったので」
「あー、悪い、起しちまったか?」
「・・・いえ」
俺達は肩を並べて月を見上げる。修業中は、毎晩こうしていたっけな。
「今まで、色んな事があったな」
「・・・はい」
アリアとの出会いと闘い、ひょんな事からマサキと出会い、ターコイズとの出会いとサンゾウとの闘い、スズナに助けられた後はタツヒコとユキとの再会と出会い、そして、ルーファスとの邂逅。
「あれから2ヶ月も経っていないなんて、信じられない位濃い時間だったよな」
「・・・でも、私は楽しかったですよ」
それは、アリアにしては珍しい感情の吐露だった。これまでの旅がアリアを変えてくれたのか、それともこれが本当のアリアなのかは分からない。
でも、これで良いと素直に受け入れる。アリアも同じ気持ちだろうか?
「・・・サンゾウは、ルーファスの親友を元に生まれたクローンだったんです」
「それは聞いたよ。確かもう、その親友は死んじまったんだろ?」
「・・・この事をサンゾウから聞いた時、どうして失敗作の自分が生かされているのかが分からないと、サンゾウは言っていました」
そう言ってアリアは俺を見上げる。何が言いたいのか、俺には分かった。
「ルーファスは、死んだ恋人を生き返らせる為に悪事に手を染めただろ?アルティア家の当主としての富と名誉を全て投げだす勢いで。ここからは俺の勘なんだけどよ、何だかんだでルーファスは、サンゾウ越しに自分の親友を見ていたから、生かされていたんじゃねぇのか?でもそれが時間が経つにつれて心変りして、アリアを殺すとまで言い始めた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「戦ってみて分かったけど、あいつは澄ました顔してて中身はとんでもない激情家だ。だから、もしかしたら俺達を殺すことにも抵抗があったんじゃねぇかな?」
もちろん俺の勘でしかないが、嘘とは言い切れない何かが奴にはあった。サンゾウとルーファスの話題が終わると、また俺達は黙って月を見上げる。
「・・・私は、ガーネットに出会えて幸せでした」
「な、何だよ突然?」
「・・・これから私が生きていけるのなら、ターコイズとも、スズナとも、ガーネットとも一緒に過ごしていけますよね?」
「当たり前だろ?なんせ、約束だからな」
「・・・はい、ですから本当にありがとうございます」
「あー別にいいって!」
俺は気恥かしくて、思わず目を背ける。
「・・・あと、これだけは言わせてください」
「・・・・何だよ?」
「・・・私はもう、クローンの『アクアマリン』ではありません」
アリアは静かに俺に語りかける。その声に釣られる様に、俺はアリアの顔を見た。
「・・・私の名前は、『アリア』。あなたが付けてくれた名前」
穏やかな声で喋るアリアの髪は、夜風で踊る様に舞う。
「・・・私を、たった一人のアリアとして扱ってくれて、本当にありがとうございます」
月明かりに照らされた雪の様に白い端正な顔は、確かな微笑みを浮かべていた。
「・・・・・・・」
「・・・これからも、よろしくお願いします」
笑顔のままで、俺に手を差し伸べるアリア。それが握手の合図だと頭で分かっていながら、俺は指先一本動かせないでいた。初めてみるアリアの笑顔は本当に綺麗で、俺は顔から目が離せずにいた。
「・・・ガーネット?」
「お、おぉぉう!!?ど、どうした!?」
「・・・顔が赤いですよ?風邪ですか?」
「い、いや、握手だったな!うん、ほーれ!握手握手!!」
アリアの気を逸らす為に、無駄にハイテンションで握手に応じる俺。
その後も、俺達は語り合った。未来の先にある不安や困難よりも、その更に先にある新しい出会いや感動に思いを馳せる。
変わり行く人生の中で、変わる事の無い仲間と共に同じ夢を見たい。
そんな未来を作るべく、俺達は新たなる一歩を踏み出した。
次回は、閑話を数話済ませてから、お待ちかねの本編第6章・バトルフロンティア編です!
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