遊戯王 復活のオレイカルコス   作:みんふみ

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始まり

『人の心の闇が存在し続ける限り、私は不滅の存在……そう、人間が存在する限り、何度でも復活することができるのだ』

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

「んー!! やっと今日も学校が終わったぜ!!」

 

 俺は腕をグーッと上に伸ばして、体の疲れを取ろうとする。

 まったく、学校ってのは退屈極まりないところだぜ。

 一日の大半を椅子に座らせて、いったい何がさせたいんだ。

 そんなことに時間を費やすくらいなら、その分デュエルさせてくれたほうが何倍も効果的だってのによ。

 

「やっとって……授業の大半を寝て過ごした優輝君は、そんなに疲れてないでしょ?」

「分かってないな香里奈は。デュエリストってのはな、デュエルをしてないとダメなんだよ。デュエル以外の時間は苦痛そのものさ」

「優輝君って、恐ろしいほどのデュエル脳だよね……」

 

 香里奈はそう言ってため息をついているが、俺たちデュエリストからすれば、今の言葉はむしろ褒め言葉に近い。

 数年前なら、デュエリストと名乗ることはどちらかと言えば恥ずかしいことだったかもしれないけど、今は違う。

 正式にプロデュエリストが職業となっている今、デュエリストであることを誇りに思い、それのプロを目指すことは立派な就職活動の一つだ。

 プロになるためにデュエルに打ち込むことは、野球部員がプロになるために一生懸命練習しているのと大した違いはない。

 そんなことはさておくとして、今日はどうするかな。

 

「香里奈、今日は予定あるのか?」

「え、特にないけど……どうして?」

「じゃあ、海馬ランド行こうぜ? あそこ限定のカードが手に入るかもしれない、特別パックが今日から発売なんだ。香里奈も一応デュエルやるんだし、興味あるだろ?」

 

 限定カードなんて言われちゃ、デュエリストたるもの、これを見過ごすことなんてできないぜ。

 

「も、もちろん興味はあるけど……」

「ん? 何か用事でもあるのか? それなら無理にとは言わないけど」

「う、ううん、違うの。でも、その……ふ、二人で行くの?」

 

 香里奈のやつ、急に変なことを言い出したな。

 俺以外に香里奈しかいないこの状況で、他に誰がいるってんだ?

 まぁそりゃあ、携帯で呼べないこともないけどさ。

 クラスの他の連中も、俺ほどデュエルにのめり込んでるやつはほとんどいないからな。

 数少ない理解者である香里奈くらいしか、声をかける人がいないってのはある。

 ……なんか、少し悲しくなってきたな。

 

「ああ。なんかまずかったか?」

「……ううん! それじゃ、早く行こう!!」

「おいおい、急に手を引っ張るなって!! いてて痛い痛い!!」

 

 なんだ香里奈のやつ、急にメチャクチャ元気になったぞ?

 ま、香里奈もデュエリストだ。

 限定カードが手に入るかもしれないチャンスだし、テンションが上がってるんだろう。

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 俺と香里奈は今、自転車に乗って海岸線の通りを走っている。

 俺たちの通っている学校から海馬ランドまでは、少し距離がある。

 タクシーとかを使えば早く着けるんだろうが、俺たちはまだ高校生。

 割り勘したって、タクシー代はそこそこになっちまう。

 なら、少し時間はかかるけど、通学に使っている自転車でそのまま行った方が安上がりだし、海風の気持ちいい海岸線の道を通ればリラックスもできる……っていうのが、香里奈の提案だ。

 

「あ! 見て優輝君!!」

「ん?」

 

 香里奈が海の方向を指さした。

 そこには、オレンジ色の夕日が海に吸い込まれようとしている光景があった。

 

「おお、こりゃ綺麗だな」

「ね、この時間帯にここ通って良かったでしょ?」

「ああ。いつも校舎とビルばっか見てるから、この光景は新鮮だ」

 

 俺たちが住んでいるここ、童実野町はここ数年でかなり発展を遂げた。

 その大きな要因は、童実野町に本社をかまえている海馬コーポレーションの発展だ。

 デュエルディスクを筆頭に、デュエル関連の商品が全世界でバカ売れしているんだ、そりゃ嫌でも発展するわな。

 今年もそろそろ、KCグランプリが開催されるし、またこの町が盛り上がりを見せるのは間違いない。

 

「……っとと。どうした、香里奈」

 

 そんなことを考えながら自転車をこいでいると、不意に香里奈がブレーキをかけて自転車を止めた。

 

「あ、ごめんね。でもほら、歩道に立ち止まってる人がいて」

「んー?」

 

 前を見てみると確かに、一人の男が歩道のど真ん中に立っている。

 正確に言えば、ここは自転車通行可の道路標識がある歩道だ。

 なので、幅はそれなりに距離があるし、横を避けて通ることも出来なくもない。

 だがこの男は、俺たちのことを真っ直ぐ見据えて、あたかも通せんぼをするかのように両手を広げていた。

 そして、この男の右手にはデュエルディスクが。

 

「あのー、通してもらっても良いですか?」

「待て香里奈。……なぁ、ひょっとしてデュエルの申し込みか?」

「……え? いや優輝君、何言ってるの?」

「いやだってこの人、腕にデュエルディスクしてるんだぜ? そんなかっこうで俺たちを通せんぼするってことは、つまりそういうことだろ」

「……優輝君。いくら君がデュエル脳だとしても、いくらなんでもそれは……」

 

 香里奈は否定的みたいだが、俺の言葉に答えるように、男は右手を自らの身体の前に構えた。

 ガシャガシャと機械音がして、男のデュエルディスクが展開される。

 

「……うそ」

「な、言ったろ香里奈。そういうことなんだよ」

 

 そうとなれば話が早い。

 俺も自転車の前かごに入れていたカバンからディスクを取り出して右腕に装着する。

 出た当初は恐ろしい金額をしていたデュエルディスクだが、今や家庭用ゲーム機と同程度の値段にまで下がっている。

 俺みたいな高校生でも、すこし節約すれば手に入るのが嬉しい。

 こうやって毎日持ち運んで、路上ですれ違いざまにデュエルするのも珍しいことじゃない。

 そこから交友の輪が広がることもあるし、良いことづくめだ。

 

「後はデッキを装着して、と」

 

 ディスクの所定の場所にデッキとエクストラデッキをはめ込むと、ディスク上部の画面に自分の初期ライフポイント4000の数字が浮かび上がる。

 二人のプレイヤーのディスクにデッキが装着されると、二つのディスクのあいだで自動的に通信が始まる。

 

『二台のデュエルディスクの接続完了。互いのプレイヤーは手札5枚をデッキから引いて下さい』

 

 ディスクの案内に従って俺と相手が5枚のカードを引くと、それを認識したディスクから再度音声が流れる。

 

『すべての準備、オールグリーン。プレイヤー、東雲優輝の先攻でデュエルを開始して下さい』

「俺の先攻みたいだな。心の準備は大丈夫か?」

「……」

 

 ……この男、俺の言葉にピクリとも反応しないな。

 普通、挨拶の一言くらいは返してくれそうなものだが。

 

「……ねぇ優輝君、あの人静かすぎない?」

「ああ。もしかしたら、カードを狙ってる盗賊団的なやつなのかもしれない。一応、周りの様子には気を付けておいてくれ」

「う、うん」

 

 確か、5年前の第1回バトルシティじゃ、グールズとかいう盗賊集団が暗躍したらしいが、今じゃそんな集団は見かけない。

 技術が進んで、盗むよりはコピーカードを作る方がリスクも少なくて、何より欲しいカードのデータさえあれば簡単に作れるからな。

 デュエルディスクの認証さえ通せれば、正規品とコピー品の違いなんてまず分からない。

 っと、今はデュエルだ。

 

「アンタの名前も知らないけど、よろしくな。さ、俺の先攻みたいだ。俺のターン!」

 

 昔はできたが、今じゃ先攻のプレイヤーは最初のターンにドローできない。

 ……正直言って、あまり良い手札じゃない。

 だがまぁ、仕方ない。

 

「俺は『アレキサンドライドラゴン』を攻撃表示で召喚! ターンエンドだ」

 

 伏せカードを出せないのは少々怖いところだが、とりあえず攻撃力2000のモンスターを出すことはできた。

 効果モンスターが主流の今のデュエルじゃ攻撃力はさほど意味を持たないけど、それでも攻撃力2000はある程度の抑止力にはなるはずだ。

 

「……私のターン、ドロー。私はこのターン、手札からフィールド魔法を発動する」

 

 そう言うと男は、一枚のカードを手札から取り出すと、フィールド魔法のカードを置く場所を開いた。

 それは、別に普段のデュエルでもよくある光景だ。

 

 だが、なぜだ。

 場の空気の温度が、数度下がったように感じる。

 あの男の持つカードから、言いようのない不気味なものを感じる。

 この感覚はいったい……

 

「今こそ復活の時だ。発動せよ、『オレイカルコスの結界』!!」

「オレイカルコス……?」

 

 聞いたことのあるような、ないような、そんな単語。

 だが問題はそこじゃない。

 オレイカルコスの結界とやらがデュエルディスクに吸い込まれ、カードが認識された瞬間、ゾワリとした感触が全身を撫でた。

 そして、あの男の足元を中心に、緑色の光が同心円状に広がった。

 

「なんだ、このカードは……」

「きゃあ!?」

「香里奈!?」

 

 後ろから聞こえてきた悲鳴に振り返ると、香里奈が緑色の光に弾かれていた。

 光に弾かれるなんて初めて表現したが、そうとしか言いようが無かった。

 

「こ、これは一体……?」

「フフフ、ついにこの時を迎えたのだ。再びオレイカルコスの力が、世界を恐怖に染め上げるのだ」

 

 こいつは何を言っているのか?

 確かにこの緑の光は不気味ではあるが、たかだかフィールド魔法1枚発動して、世界だの恐怖だのと言い始めるとは予想外だ。

 

「意味が分からない、といった表情だな。安心しろ、じきにお前にも分かる。そして、お前が名誉ある最初の生け贄になるのだ」

「訳の分からないことをごちゃごちゃと……」

「私のターンはこれからだ。私は『切り込み隊長』を攻撃表示で召喚する」

 

 奴のフィールドに、両手に剣を持った剣士のソリッドビジョンが出現した。

 その直後、切り込み隊長の額に、フィールドに出現している緑の紋章と同じ形、色の紋章が浮かび上がった。

 それだけじゃない。

 切り込み隊長の瞳が不気味な赤色に染まった。

 

「この結界の中では、私のモンスターは闇の力を得るのだ。その力により、攻撃力が500アップする」

「それがこの結界の能力か」

「ほんの一部にすぎないがな。さらに、切り込み隊長の効果を発動。このモンスターが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。私は手札の『ダーク・ヒーロー ゾンバイア』を攻撃表示で特殊召喚」

 

 特殊召喚されたダーク・ヒーロー ゾンバイアも、切り込み隊長と同様に緑の紋章が浮かび上がった。

 なんとも不気味な姿だが、不気味がっている場合じゃないな。

 ダーク・ヒーロー ゾンバイアは元々攻撃力2100のモンスターだが、今は奴の発動した結界とやらの効果で、攻撃力が2600に上昇している。

 

「バトルフェイズに入る。私は『ダーク・ヒーロー ゾンバイア』で『アレキサンドライドラゴン』に攻撃」

「600のダメージ……だがこの瞬間、手札の『霊廟の守護者』の効果を発動! このカードが手札・墓地に存在し、『霊廟の守護者』以外のフィールドの表側表示のドラゴン族モンスターが効果で墓地へ送られた場合、または戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動でき、このカードを特殊召喚する。俺は『霊廟の守護者』を守備表示で特殊召喚!!」

「『霊廟の守護者』の守備力は2100……切り込み隊長の攻撃力1700では倒せぬか」

「それだけじゃない。墓地へ送られたモンスターが通常モンスターだった場合、自分の墓地のドラゴン族通常モンスター1体を選んで手札に加える事ができる。墓地に送られた『アレキサンドライドラゴン』はドラゴン族通常モンスターだ。俺は墓地に送られたばかりの『アレキサンドライドラゴン』を手札に戻すぜ」

「私はこれでターンを終了する」

 

 ふぅ、なんとか最小限のダメージで凌ぐことができたな。

 だが、油断はできないな。

 ダーク・ヒーロー ゾンバイアは戦闘によってモンスターを破壊する度に攻撃力が200ポイントダウンするモンスターだ。

 本来なら攻撃力は1900になっているのだが、結界の効果でいまだに攻撃力が2400もある。

 霊廟の守護者の守備力は2100なので、このままだと次のターンには戦闘で破壊されてしまう。

 なんとかしてダーク・ヒーロー ゾンバイアを倒したいところだが、切り込み隊長が存在する限り、俺は切り込み隊長以外の戦士族モンスターには攻撃できない。

 くそ、攻撃力500アップってのは地味にキツイな。

 

「色々と考えているようだな。そうだ、もっと悩め、苦しめ。このデュエルでの勝利と敗北は、特別な意味を持つ」

「……?」

 

 特別な意味?

 なんだ、まさか何かの選考会を兼ねているという訳ではあるまい。

 

「特に、敗北は終焉を意味する。この結界の張られたデュエルで負けた者は、その魂を奪われるのだからな。フフフ……」

「……魂を奪われる、だと?」

 

 何を馬鹿なことを言ってるんだ。

 デュエルに負けたら魂を奪われるなんて、そんなことあるはずないだろう。

 

「フフ、さぁお前のターンだぞ?」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 

こいつが何者で、何を企んでいるかは知らないが、要は勝てばいいんだ。

 

「優輝君、頑張って!!」

「ああ!!」

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