5年前に世界を破滅へと導こうとしたドーマという組織と、そいつらが使っていた魂狩りのフィールド魔法、オレイカルコスの結界。
使われることのなくなったはずのフィールド魔法が、5年の時を経て再び姿を見せた。
俺たちは当時を知る海馬瀬人に会うべく、童実野町の中心にある海馬コーポレーションの本社へと向かっていた。
そこに現れたのは、アジアのデュエル大会では有名な上位選手、ヴィヴィアン・ウォンだった。
彼女はなんと、オレイカルコスの結界のカードをちらつかせ、レベッカさんにデュエルを挑んできた。
『プレイヤー、レベッカ・ホプキンスの先攻でデュエルを開始して下さい』
「先攻は私ね。私はモンスターをセット。カードを三枚伏せて、ターンエンドよ」
「いきなり伏せカードが三枚……優輝君、レベッカさんはどういうデッキを主に使うの?」
「ここ最近は確か、二種類のデッキをメインで使ってるはずだ。一つはロック系のデッキで、もう一つはドラゴン族モンスターがメインのビートダウンデッキ」
「それじゃ、今回のデッキはロック系のデッキなのかな?」
「と思うが……」
レベッカさんは、その時の気分で二種類のデッキのどっちを使うか決めている、なんてインタビュー記事を見たことがある。
断言はできないが、伏せカード三枚というところをみると、ロック系のデッキを使っているのか?
どちらのデッキを使っても優秀な戦績を誇るということは、レベッカさんのデッキ構築やデュエルのタクティクスがハイレベルなものであることの証拠だ。
ただ、懸念もある。
近年のデュエルはモンスター効果が勝敗に大きく影響することが多く、かつデュエルが高速化している。
時間をかけてロックを構築する前に撃破されるか、せっかく時間をかけて防御を構築してもあっという間に攻略されてしまうことが多く、ロック系のデッキは苦戦を強いられることが多い。
もちろん、レベッカさんはそんなことは承知しているはずだ。
でも、負けたら魂を奪われるカードを相手が持っている状況で、デュエルの長引きがちなロック系のデッキを使うのは、怖い面もある。
初手からオレイカルコスの結界が手札に来ている確率は、後攻のプレイヤーは手札六枚と考えると15%。
デッキが40枚で、かつ一枚しか入ってないという仮定のもとだが、魂を奪われるカードが15%の確率で手札にあるのは高く感じる。
しかも、ターンが経過するたびに確率は増していく。
できることなら、相手に引かれる前に決着をつけたいというのが本心だ。
少なくとも、俺なら時間のかかるロック系デッキは選ばない。
「私のターン、ドロー! 私は手札から『カンフージャンシー』を攻撃表示で召喚!! カードを一枚伏せて、ターンエンド!!」
ヴィヴィアンが召喚したモンスター、カンフージャンシーは攻撃力1800のモンスターだ。
攻撃をしなかったのは、レベッカさんのロックを警戒してというのもあるだろうが、効果の発動を狙っているに違いない。
「なら、あなたのエンドフェイズに私は永続罠、『神の恵み』を発動するわ。このカードがある限り、私はカードをドローするたびにライフを500回復するわ」
「レベッカお得意の、ビッグバンガールを使ったコンボデッキって訳ね。でもそのためには、早くビッグバンガールを出さないとね?」
「言われなくても分かってるわよ。私のターン、ドロー! この瞬間、ライフが500回復する。私はメインフェイズ1で、セットしていた『UFOタートル』を反転召喚!」
UFOタートルは、戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚できるモンスターだ。
なるほどな。
「えっと、優輝君。レベッカさんは、わざとUFOタートルで特攻するんだよね?」
「そうだな。それで、攻撃力1300のビッグバンガールを特殊召喚するんだろう」
「バトルフェイズ、私はUFOタートルでカンフージャンシーへ攻撃!! カンフージャンシーの攻撃力からUFOタートルの攻撃力1400を引いた、400が私のライフから引かれるわ。でも、私は効果でデッキからビッグバンガールを攻撃表示で特殊召喚!!」
レベッカさんの使っているデッキは、いわゆるキュアバーンと呼ばれるやつだ。
このデッキのキモは、できるだけ早くビッグバンガールをフィールドに出すこと、ライフを永続的に回復できるカードを用意すること、相手の攻撃を防ぐことだ。
今の状況だと、とりあえずそのうちの二つはできたことになる。
「ビッグバンガールにも攻撃権があるけど、私はメインフェイズ2に入り、カードを一枚伏せてターンエンド」
「ひとまず、キーカードを出せたようね。でも、そうそう上手くはいかないわよ? 私のターン、ドロー! スタンバイフェイズに入り、カンフージャンシーの効果が発動するわ。自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが攻撃宣言をせずにターンを終了した場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズに発動することができる。つまり今、私はデッキからレベル4以下の「カンフー」モンスター1体を手札に加えるか、自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚することができる。私はデッキから『カンフーモシュシー』を攻撃表示で特殊召喚!!」
「……これって、レベッカさんのロックデッキが、かえってヴィヴィアンさんのカンフーモンスターの効果発動をアシストしてる形になってるよね?」
「まぁ、そうだな」
香里奈の言葉はおおよそ正しい。
ヴィヴィアンの扱うカンフーモンスターには、共通して「攻撃しなかった場合、次の自分のターンに効果を発動する」というのがある。
だが、通常のビートダウンデッキで、攻撃しないでターンを終了させることはまずない。
相手が普通のデッキならば、攻撃せずに効果を待つなんて悠長なことはまずしない。
基本的には攻撃をして、効果を使えればラッキー程度の感覚のはずだ。
だが、今ヴィヴィアンが戦っているのは、キュアバーンであることがほぼ明らかなレベッカさんだ。
であるなら、わざわざ攻撃を急ぐ必要もない。
どうせ攻撃をしても、攻撃妨害系の罠カードで防がれる確率が高いのであれば、攻撃をせずに効果を使うというのも戦略の一つのはずだ。
まして今特殊召喚されたカンフーモシュシーは、攻撃宣言をせずにターンを終了した場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズにデッキから魔法カードを一枚手札に加えるという、そこそこ強力な効果を持っている。
『ブラックホール』であったり、あるいは『ハーピィの羽根箒』であったり、強力な効果を持つ魔法カードを自由に選んで手札に加えられるのは、ヴィヴィアンにとっては有利になるはずだ。
もちろん、レベッカさんがカウンター罠を伏せていれば、それらに確実にカウンターを当てるはずなので、成功するとは言い切れない。
それでも、レベッカさんに強力な魔法カードをちらつかせることはできる。
「さらに私は、『ゴブリンゾンビ』を攻撃表示で召喚。バトルフェイズに入り、まずはゴブリンゾンビでビッグバンガールへ攻撃!」
ゴブリンゾンビの攻撃力は1100で、ビッグバンガールの攻撃力1300より低い。
恐らく、ゴブリンゾンビの持つ、「墓地へ送られた場合に、デッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える」効果を使いたいんだろう。
「させないわ! リバースカード、オープン! 永続罠、『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』を発動! このカードがある限り、レベル4以上のモンスターは攻撃できない!」
ヴィヴィアンのフィールドにいるモンスターは、すべてレベル4のモンスターだ。
このカード一枚で、攻撃をシャットアウトできる。
ただ、攻撃をさせないということは、カンフーモンスターの効果発動を許すということにもつながる。
この選択が吉と出るか、凶と出るか……。
「あーら残念。……でもねレベッカ、あなたは私には勝てないわ。少なくとも、『グラヴィティ・バインドに頼っている間』は」
「……?」
「私はバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移行。……さて、今私のフィールドには、レベル4のモンスターが三体いる。これが意味すること、分かる?」
「……あなたのモンスターは攻撃できない、違う?」
レベッカさんの回答に、ヴィヴィアンはフフッと不気味に小さく笑った。
「確かにその通りよ。でも大事なのはね、『私のフィールドに、同じレベルのモンスターが複数揃った』ってことなのよ」
「何を言って……」
「今から見せてあげる。私はレベル4のモンスター、カンフージャンシーとゴブリンゾンビでオーバーレイ!! エクシーズ召喚!!」
エクシーズ召喚……だと?
聞いたことのない召喚だ。
レベッカさんも目を見開いているところからすると、俺と同じ反応みたいだ。
だが、そんなインチキくさい召喚方法を、なぜデュエルディスクが認識しているんだ!?
「現れなさい!! ランク4、『カンフーダーロン』!!」
気付けば、ヴィヴィアンのフィールドからカンフージャンシーとゴブリンゾンビが消え去り、新たなモンスターが出現していた。
カンフーダーロンという名前のそのモンスターの周りを、小さな光の粒がクロスするように回転している。
見たことも、聞いたこともないモンスターだ。
「さぁ、ここからが面白くなるわよ」
一人楽しげな表情を見せるヴィヴィアンとは対照的に、俺たち、とりわけレベッカさんは当惑の表情をしている。
このデュエル、一体どうなるんだ……。
今回登場したオリカをのせておきます。
・「カンフージャンシー」……効果モンスター、レベル4、光属性、戦士族、攻撃力1800、守備力1500。自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが攻撃宣言をせずにターンを終了した場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズに発動することができる。デッキからレベル4以下の「カンフー」モンスター1体を手札に加えるか、自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚することができる。
・「カンフーモシュシー」……効果モンスター、レベル4、光属性、魔法使い族、攻撃力1500、守備力2000。自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが攻撃宣言をせずにターンを終了した場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズに発動することができる。デッキから魔法カード1枚を手札に加えることができる。
最後に登場したエクシーズモンスター、カンフーダーロンは次回にまわします。