遊戯王 復活のオレイカルコス   作:みんふみ

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海馬モクバ

「止まれ!!」

 

 海馬コーポレーションの本社ビルまでやってきた俺たち。

 だが、入り口で黒服の男に止められてしまった。

 おかしいな、確か海馬コーポレーションビルは、下の階なら一般人も入ることができたはずだ。

 デュエルリングが設置してあったり、これまでの海馬コーポレーションの歩みを見ることのできるコーナーなんかがあったはずだ。

 24時間入れるわけではないが、この時間ならまだ入れるはずだが……。

 

「今は副社長であるモクバ様の指示で、一般人の立ち入りは受け付けていない」

「あら、私は一般人じゃないわよ。デュエリスト証見せようか?」

 

 そう言うと、レベッカさんはポケットから運転免許証のようなカードを取り出した。

 あれは確か、大会で上位者になると発行される、プロデュエリストであることを証明するカードだ。

 俺もいつかはあのカードを手にしてみたい。

 いわば、プロデュエリストを目指す人間の憧れだ。

 

「ダメだ。今は社員以外の人間は、何人たりとも入れてはいけないとのご指示だ」

「……副社長のモクバさんの指示って言いましたよね? 社長の瀬人さんはいらっしゃらないんですか?」

「瀬人様は現在出張中だ」

 

 香里奈の質問によって、このビルの今の最高責任者は副社長の海馬モクバだってことが分かったわけだ。

 なら、なんとかしてモクバに会わないと……。

 

「なんとか、副社長に取り次いでもらえないっすか? 俺たち、ヤバいカードを持ってるんすよ。これがあると、世界が大変なことになっちまうんすよ」

「ヤバいカード? どんなカードだ、見せてみろ」

 

 半信半疑の黒服男の目の前に、俺はオレイカルコスの結界のカードを差し出した。

 

「……文字が読めないぞ」

「あー、それは俺も読めないっす。でもこれ、オレイカスコスの結界ってカードらしくて……」

「なっ……す、少し待て」

 

 どうやら、オレイカルコスの結界のカードのことは、この人にも伝わっているようだ。

 黒服男は内ポケットから携帯電話を取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。

 

「……磯野常務ですか? こちら入り口の大黒です。ただ今オレイカルコス……は? はい、承知いたしました」

 

 黒服男は常務役の人に連絡をしていたらしい。

 だが、途中で話を遮られていたような気もするが……。

 大丈夫なのか?

 

「磯野常務とモクバ様が直接お会いするとのことだ。お前たち4人の立ち入りを許可する」

「なんか、あっさり決まったわね」

「モクバ様は副社長室にいらっしゃるとのことだ。エレベーターホールの一番右側のエレベーターに乗って、最上階まで行け」

「了解っす」

 

 こうして俺たちは、海馬コーポレーションの本社に足を踏み入れることができた。

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

「ようこそ海馬コーポレーションへ。副社長の海馬モクバだ」

 

 エレベーターへ最上階へと上がった俺たち4人は、すぐさま『副社長室』と書かれた立派な部屋へと通された。

 広い部屋には応接用だろうか、高級そうなテーブルとイスが中央に置かれていた。

 そことは別に事務用の机があり、そこに海馬コーポレーションの副社長を務める海馬モクバが座っていた。

 その隣には黒服の男が立っていた。

 この男が、さっきの電話に出ていた磯野常務か?

 

「レベッカ・ホプキンスとヴィヴィアン・ウォンは、国際大会の席で何度か会ってるよな。二人のデュエルはモニターさせてもらっていたよ。それから……」

 

 モクバは俺と香里奈の方へと視線をむけた。

 

「勝手だけど、君たちのことも一応調べさせてもらったよ。東雲優輝に九段下香里奈だな? 特に東雲は、オレイカルコスの結界の前にもくじけずに勝ったのが印象的だったよ」

「そう言ってもらえて光栄です。全世界でデュエルモンスターズを展開している海馬コーポレーションの副社長にお褒めの言葉を頂けるなんて、夢みたいです」

「そんな、敬語を使わなくてもいいよ。俺たちは同い年だ、気兼ねする必要はないぜ」

 

 そう言ってモクバは、俺たちに高級そうなイスへ腰かけるよう促した。

 なんか、想像していたよりモクバが大人しい人物だ。

 5年前のバトルシティの時とかにもメディアへの露出があったが、その時は言動なんかも子供っぽかった。

 まぁ、俺も当時は同じ12歳だったから人のことは言えないけど。

 だが、副社長という役職をまっとうしながら成長したせいか、同い年なのに立ち居振る舞いとかが大人びて見える。

 

「……さて、だいたいの事情は把握してる。5年前に消えたはずのオレイカルコスの結界が、今また復活してる。さらに、俺たちの知らない未知なる召喚方法がデュエルディスクで認識されている」

「エクシーズ召喚ね」

 

 レベッカさんの言葉に、モクバは首を横に振った。

 

「実は、それだけじゃないんだ。エクシーズ召喚以外にも、シンクロ召喚というものと、ペンデュラム召喚というものが確認されている」

「シンクロ召喚に、ペンデュラム召喚……?」

 

 どっちも、聞いたことのない単語だ。

 いったい、どんな召喚方法なんだ……?

 

「えっと、デュエルディスクがそのエクシーズ召喚とかを認識してるってことは、デュエルディスクにアップデートが施されたってことですよね?」

「ああ」

「確か、アップデートのデータって、海馬コーポレーションがネットワークを使って配信してるんですよね?」

 

 香里奈の疑問はもっともなものだ。

 つまり、この新規の召喚方法は、海馬コーポレーションが認可して配信したって考えるのが普通だ。

 だが、さっきモクバは未知なる召喚方法と言った。

 これはどういうことなのか。

 

「それは磯野に説明してもらおう」

「ハッ。実は、レベッカ・ホプキンスとヴィヴィアン・ウォンがデュエルを始める10分から15分ほど前に、我が社のシステム室を経由する形で、我々の知らないアップデートデータが全世界に配信された」

「……つまり、海馬コーポレーションは一切関知していなかったってことですか?」

「そうだ。解析はおおよそ終わっている。シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムの三つの召喚方法に関するシステムアップデートと、オレイカルコスの結界を使用不能にできないようにするロックがかけられている」

「それってつまり、オレイカルコスの結界をディスクに置いたら必ず認識されて、しかもここのシステム室から干渉できないってことよね?」

「その通りだ」

 

 どうやら、敵の方が一枚上手だったようだ。

 しかも、海馬コーポレーションの人間に気付かれることなく、そんなデータを流すことのできる敵。

 これは、相当に厄介な事件だ。

 

「……そういえば。ヴィヴィアンさんはどうやってオレイカルコスの結界と、エクシーズモンスターを手に入れたんですか?」

「知らない男からね。このカードを使えばお前はさらに強くなる、なんて言われて。それから、結界の効果とエクシーズ召喚の方法を説明されたわ。ま、結界のことは噂で聞いたことがあったし、そんなカード使って勝っても自分にとって何のプラスにもならないって思って。だから使わなかったのよ」

「つまりその男みたいに、結界のカードと、未知の召喚をばら撒いてるやつらがいるって考えられるわけね」

「レベッカの言うとおりだ。最低限、結界のカードだけでも使用不能にしたかったんだが……磯野、システムはなんとかできないのか?」

「現在、システム室の人間が総出で取り掛かっておりますが、ロックが厳重で一筋縄ではいかないかと……」

 

 海馬コーポレーションが総力を挙げても対処に困る相手。

 そんな相手、それこそ国家権力ほどの力でもないといけないはずだ。

 ……だがその前に、5年前の敵が復活したと捉える方が自然じゃないか?

 

「なぁモクバ……副社長。5年前、オレイカルコスの力を使って世界を混乱させたのは、ドーマとかいう連中なんだよな?」

「そうだ。あいつらは強敵だった。兄様と遊戯が全力で対峙して、なんとか倒すことができたんだ……」

「もし、そのドーマの連中が5年ぶりに復活して、今再び世界を恐怖に陥れようとしているとしたら?」

「……」

 

 モクバは沈黙した。

 恐らく、その考えにはモクバもすぐ至ったはずだ。

 なら、何か対策の一つも思いついていそうだと思ったんだが、果たして……。

 

「……兄様と遊戯なら、この状況を何とかできるかもしれない。だけど、兄様は俺にも行き先を告げずに緊急で出張に行ってしまったんだ。そして、遊戯とも連絡がとれないんだ」

「そんな、ダーリン……」

 

 レベッカさんの表情にも不安の色が見える。

 無理もない、レベッカさんの話が本当なら、オレイカルコスの結界は、遊戯さんをも敗北させるほどの力を持っているってことになる。

 そして、もしドーマが復活したと仮定すれば、自分たちを倒し得る可能性のある存在……つまり、武藤遊戯や海馬瀬人を真っ先に倒しにいくことは十分に考えられる。

 最悪の状況として、すでに遊戯さんや海馬瀬人が倒されているということも考えられる。

 

「ねぇ、海馬コーポレーションの総力を挙げて、なんとかダーリンたちの場所を調べられないの? ハッキングとかが必要なら手伝うわよ?」

「実は今、兄様や遊戯のデュエルディスクに反応がないか、リアルタイムでチェックしているんだ。もしデュエルが始まれば、すぐに場所と対戦相手が分かるように。だけど、今のところ反応はない」

「そう……」

 

 モクバの言葉に視線を落とすレベッカさん。

 よほど遊戯さんのことを心配しているんだな……。

 どんな手がかりでもいい、何かないのか?

 

「……そういえば磯野、城之内には連絡したのか?」

「城之内と言いますと……城之内克也ですか?」

 

 城之内克也……この名前も有名だ。

 武藤遊戯や海馬瀬人ほどではないが、遊戯さんの盟友としてデュエリストで知らない人はいない。

 

「そうだ。城之内なら、兄様や遊戯の居場所について何か知ってるかもしれない。それに、城之内も5年前、ドーマと戦った一人だ。もしかしたら、今回の件も何かすでに把握してるかも……」

「ではすぐに、城之内克也に連絡をとってみます」

「ついでに、システム室の様子も見てきてくれないか? 解析の進捗状況を、磯野自身の目で見てきてくれ」

「ハッ!」

 

 モクバの命を受けた磯野は、素早い足取りで副社長室を後にしていった。

 それにしても、城之内さんも5年前、ドーマと戦ってたのか。

 まぁ、遊戯さんの無二の親友なのだからそれも当然か。

 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)の使い手として、プロデュエリストの中でも最高レベルの実力の持ち主だ。

 そんな城之内さんに連絡がとれれば、これほど心強いことはない。

 

「さて、磯野から連絡がくるまでの間、俺たちも今後について話し合いを……」

「ちょっと失礼するよ」

 

 突然、この部屋の誰のものでもない男の声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、童実野町を見下ろせる大きな窓のすぐ近くに、高そうなスーツに身を包んだ一人の男が立っていた。

 

「……お前、誰だ?」

 

 モクバは落ち着いた雰囲気で、相手の男に問いかけた。

 

「いや、どこかで会ったことがあるな……確か、世界中のアミューズメント会社が集まるパーティだったか……?」

「海馬コーポレーションの副社長に覚えてもらえているなんて、嬉しい限りだよ。僕はある男のもとでナンバー3の立ち位置にいるんだ。もっとも、今じゃ僕がトップみたいなものだけどね」

「ある男……?」

「ああ。海馬モクバ、君もよく知っている男だ。……ジークフリード・フォン・シュレイダーは知ってるな?」

「シュレイダー社の社長……そうだ、思い出した。お前は確か、シュレイダー社の専務取締役のハーゲンだな?」

 

 シュレイダー社……確か、海馬コーポレーションとはライバル関係にありながらも、上手く共存共栄しているアミューズメント会社だ。

 そんな会社のナンバー3が、どうしてこんなところに?

 というより、そもそもどうやってこの部屋に現れたんだ!?

 

「ご名答だ」

「……シュレイダー社はいつからマジシャン養成所になったんだ? ここのセキュリティーをすり抜けるマジックなんて、なかなかハイレベルじゃないか」

「いやいや、これはほんの余興にすぎない。僕はシュレイダー社のトップとして、海馬コーポレーションのトップに挨拶をしにはせ参じたのだ」

「お前がシュレイダー社のトップ……?」

「そうだ。いわゆる繰り上がりというやつだな。トップがいなくなればナンバー2がトップになり、そのナンバー2が消えればナンバー3が上にのし上がる……簡単だろう?」

「しかし、どうやってそんなこと……」

 

 モクバがそう言うと、ハーゲンはニヤリと不敵に笑って、懐から一枚の紙を取り出した。

 いや、紙は紙でも、あれはカードだ。

 ま、まさか……。

 

「これを使えば簡単なことさ」

「それは……オレイカルコスの結界!?」

「そうだ。このカードのことはお前たちも知っているようだな?」

「そのカードをどこで……!!」

「知りたいか? ならば、デュエルで僕に勝つことだ。相手は誰でもいいぞ?」

 

 何を舐めたことを言ってるんだ。

 こっちには5年連続全米チャンプのレベッカさんがいるんだ。

 ロックデッキはひょっとすると危ないかもしれないが、レベッカさんはドラゴン族デッキもメインとして使っている。

 いやいや、レベッカさんに出てもらうまでもない。

 こんな雰囲気からしてむかつくやつは、俺がボッコボコにして……。

 

「言ったな? それじゃあ、俺が相手になる。兄様の会社で狼藉を働いたこと、後悔させてやるよ」

「え、副社長自ら戦うんすか? こんな相手、俺が倒してやりますよ」

「いや、俺が戦うよ東雲。兄様がいない今、会社を守るのは俺の仕事だ」

 

 モクバはそう言うと、机の引き出しを開けてデュエルディスクを取り出した。

 

「さぁハーゲン、かかってこいよ。俺に勝てないようじゃ、兄様に挨拶なんてさせられないからな」

「生意気な副社長様だ。お前を倒し、海馬瀬人も倒して、この会社も僕のものにしてやるよ」

 

 

――つづく。

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