第1話
ああ──時間よ──どうか、これ以上に、遷ろわないで──
尊い祈り=唯一の願い──既に叶わない/時の遷移に任せて色褪せていくだけの──春の陽射しで雪解けを迎える粉雪のように/プラフスキー粒子の蒼白い輝きが消えていく。
静まり返る会場──観客は皆、喝采の声すら出せず。
本来、耐え難い熱狂の渦中にあったはずの空間/蒼白いプラフスキー粒子の残滓/機能を終えようとする台座に踏み上がり/ゆっくり歩んでいく──
込み上げるもの=熱い思い──ここはまだ通過点だと言うのに/道半ばで潰えた夢物語=遥か高みまで、複雑怪奇に絡みつく頂点への軌跡からの失墜のイメージ──
“違う” ──そんなものはどうでも良かった──今まで切り離していた思いが、独りでに総てをぶち撒ける時──それは声にはならず/これからも独り、この心中で燻りとなって遺されるもの。
(ありがとう)
視界を滲ませる涙の薄膜/目頭を圧迫するもの=一滴──それは頬の表皮に熱を失い/冷たい滴となり/道筋を描いて台座へと落ちる──とめどない熱さが冷たさに変わっていき/心から大切な暖かさを容赦無く奪っていく。
(お前に逢えて良かった)
だからせめて──プラフスキー粒子の恩恵から見放され/辺りに散らばるボロボロの破片と区別がつかないくらいに砕かれた『それ』=ガンプラ──短くも色濃い系譜を経て完成した、1つの到達点の体現。
丁寧に/破片1つ見逃す事も無く/脱ぎ捨てたダウンの上へ納めていく=それだけが形として遺されていた、たった1つの夢の跡。
(だけど、ごめんな)
下敷きにしたダウン/パーツたちに降り注ぐ雨──喉で鳴る小さな嗚咽/ガチガチと口を押さえつける顎が引き攣りそうなくらいに痛くて/せめてみっともない鼻水を拭うことしか出来なかった──
(俺は、お前とよろしくやれれば、それで良かったんだ。それだけで、良かったんだよ)
ここには、もう何もない──だから行こう──何処へ?
(今更、だよな)
道を避けるように脇へよろけるスタッフたち/誌面に載せる勝利文句を催促するマスコミ。
戸惑い/その一部は言葉も無く見つめるしかできないかつての
(好きだったんだ。ガンダムも、ガンプラも、バトルも──)
急速に色彩を喪っていく思い出たち──ガンプラファイトへの情熱/
(でも、一番は、やっぱりお前だったんだ。お前じゃなきゃ、俺はやっていけないんだ)
そこに王者は居ない──逃れる事も赦されない、永遠に忘却という恐怖に怯えるばかりの囚人。
(じゃあな、ガンプラ)
誰に告げる訳でも/刹那に名残を覚えて振り返る事も無く──しんと粉雪が降り降りてくる灰色の空の下へ、ゆっくりと歩んでいった──砕けた思い出が詰まったダウンを抱き締めて。
(俺は、ファイターを辞めるよ)