Fate/Shadow Lie   作:むっすー

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本格的に文章リハビリしなきゃと思いました。本来セイバー陣営のくだりがあった所、見直したらどうにもイメージ合わなくていやだったので埋め合わせにキャスター陣営のくだりとほんのちょっぴりライダー陣営を新しく書き加えたんですが、ダメですわ文章書けなくなってますわ頑張ります。完璧に第三者的な視点にしようと思ったんですがねぇ……


一夜

 深く静まる御影の街を、男は走った。

 視線は遠く、山の麓に佇む屋敷を見ている。

 流れる汗さえ拭わない。それが代謝によるものなのか、俗に言う冷や汗と呼ばれるものなのか、その判別さえする余裕はない。

 ただ、今は、逃げる。

 入り組んだ路地裏を曲がるとガツッと脚が何かに引っ掛かる。一瞬で彼の背筋を悪寒が滑り落ちていくも、それが大きめのゴミ袋だったことを横目で確認すると、彼はそのままスピードも落とすことなくその場を走り去る。

 彼の思考回路はショート寸前で、今は逃走以外に何も考える事ができなかった。

 むしろ無我夢中で走る事以外にすることはない。

 いつの間にか路地裏を抜けると、アーケード街のそばに出る。草木も眠る丑三つ時、にはまだ早いのだろうけれど、しかし日付はとうに超えている。草木も寝始めるそんな時間に商店街が活発であるはずもなく、商店街はどこまでもがらんとしていて、それは闇を吐き出す深い洞窟のようにさえ見えた。

 前方には暗がりの道。後方には危うい空白。

 何の気配も存在しない、死んだ街。

 誰一人として存在しない、暗闇の町。

 その奈落の中で1人、男は走り続ける。

「そんな、わけ……あるかよ……っ!」

 しかし男は苦しそうに小さく悪態をつく。

 気配がない、だなんてありえない。

 誰も居ないわけが無いのだ。

 何故なら彼は、先ほど人間を見ていたから。

 ――しかし、それが触れてはいけない一瞬だった事はすぐさま理解した。

 先ほど目撃してしまった聖戦は、決して部外者の侵入を許さないはずなのだ。

 魔術師は魔術を隠匿するもの。ことあの戦い――きっと、彼女の言っていた『聖杯戦争』ってヤツなんだろう――においては尚の事、目撃者は早急に抹消する必要がある。

 ならば自分は狙われていると思うのが妥当だろう。

 人の体を成した人ならざるものの戦いを目撃してしまったのだから。

 だが現実は彼の言葉どおり。

 不気味なほどに生を感じさせない空間が、そこにある。

 その静寂はこれ以上ないほどに男を焦燥へと駆り立てた。

 焦っているから気配が掴みにくいのかもしれない。けれど、殺気の1つさえこれっぽっちも感じないとはどういうことなのだろうか。

 それが何より不気味でしょうがない。

 かつてこれほどまでに静寂に恐怖したことがあっただろうか。

 ああ、早く。向かわなくては。

 目下目指すは渚砂の屋敷。

 あそこにたどり着く事さえできれば、とりあえず安全は保障されるだろうから。

 気付けば視界には沈黙を貫く寂れた田園風景が捉えられている。

 この坂を上れば、そこにあるはずだ。

 なかなかに急な坂道は容赦なく体力をそぎ落とす。

 しかし立ち止まってはいけない。もう少し、もう少しなのだ。

 走り出して何分だっただろうか。彼がたどり着いたのは、確かに渚砂の屋敷だった。

 けれど、そこは見知った屋敷などではなかった。

 少なくとも彼の知っている渚砂の屋敷は、付近の電柱に正体不明の赤い花が咲いているような場所などではない。

 こうも無残に血と殺戮の臭いを残すところでは、断じてない。

 ――この、惨状は、なんだ?

 わからない。

 逃走の恐怖が和らぎ、安堵を得た次に男が得た感情は疑念であった。

 普通の殺人事件、というわけでもないはずだ。あの赤い花はそういうモノではない。

 交通事故か何かというわけでもないようだ。なにせあれは意図して破壊された者なのだから。

 荒い呼吸を繰り返す彼の脳はその体調とは裏腹にひどく冴えていた。

 ふらつく足に喝を入れ、悪臭に顔をしかめながら花へと近づく。まだ、死んでそう時間は経っていないようだ。

 ふと、視界の隅に何かが映り込む。赤黒い血にまみれてはいるが、それは未だに鈍く月明かりを反射する。

 見れば、それは十字架のようなもの。それと、何かの柄のようなものだ。

 実際に見たことこそないものの、男の知識はこの因果関係から1つの推論を導き出す。

「――聖堂協会、の……? 代行者か、これ……?」

 しかし仮にそうであるとするならば。

 聖杯戦争参加者であるところの渚砂家、その家の前で死に果てる代行者。

 その仮説で考える場合、この惨状はここで行われた戦闘の形跡となる。おそらくは、聖杯戦争絡みで、だ。

 この周辺でそれに関わっている人物は、彼の知るところで1人。渚砂綾乃、その人である。

 連絡によると、今彼女は屋敷に1人。父は他界し、彼女を除いた住人は皆その関係で出払っている。

「……あいつが、これを?」

 あるいは、彼女が召喚したというサーヴァントか。

 ともあれ彼女に事情を聞かない事には始まらない。

 暫定的にそう結論付け、男は頭を振り、渚砂の門を潜る。

 そして玄関へと歩き出し。

 ――背後に気配を感じたのは、その刹那であった。

 

 

 

 

「えー、何ココぉ? こんな山ン中にお城なんてあったっけぇー?」

「んー? 知らないけどぉ、面白そうだしいいじゃん? んで、ここ何なの京ちゃーん?」

 如何にも夜遊び真っ最中といった様子の少女が2人、城を見上げて言葉を交わす。

「ここッスか? まあ、入れば分かるッスよ。楽しい楽しい所ッス」

 京ちゃん、と呼ばれた小太りの男は適当な答えを返す。不信もいいところな返事であるはずが、しかし少女2人は「そっかぁ」と納得した。視線は命令された犬のように城から動かない。

「葉菜ちゃんと早希ちゃんは順応が早くて助かるッス。さて……えーっと、名前、なんでしたかね?」

 男がもう1人、静かだった少女に声をかける。

 綺麗な黒髪の清楚な少女だ。間違ってもこんな時間に不審な男に付き従うようには見えない。

 異常な点をひとつ挙げるとするならば、彼女から「自我」らしきものが感じられないところだろうか。

 操り人形のようにふらふらと足を前に出し、少女は問いに答える。

「……如月英梨、です」

「そうッス。英梨ちゃんッスね、すみません。んじゃ、待たせても寒いッスね。中入りましょうか」

 男が声をかけると、城を見上げていた2人の少女は小走りで城へと向かう。不気味なのは、それこそ命令された犬のようだということだ。

「英梨ちゃんも、ほら」

 唯一動かなかったその少女の背を押し、男も城へと歩を進める。既に先の2人は城へと入っていってしまった。

 しかし少女の歩は遅い。

 しばらく押して歩いた男だったが、やがて痺れを切らしたように少女の肩を掴む。

 そして、少女と目を合わせた。覗き込むように、探るように、その様相はあたかも催眠術のようである。

「……い、や……」

「ふーん、なかなか手ごわいッスね。先天的な耐性とか、あるんスかね? ま、いいや――ほら、『行くんスよ』?」

 男は少女の目を見て離さない。少女の視線も男の目から離れない。しかし少しの抵抗の意を感じ取ることくらいは出来るだろう。

 まさぐって、染み込ませて。まさぐって、染み込ませて。まさぐって、染み込ませて。

 やがて少女から抵抗の意が消えると、

「……行き、ます」

 小さく、搾り出すように、そう口にした。

 男はニヤリと下卑た笑みを零す。

 

 

 城の内部は中世ヨーロッパを彷彿とさせるデザインとなっているが、実物のそれより随分とコンパクトである。

 広い大広間は厳格な石造りで、壁にかけられた無数の松明が内部をライトアップする。

 照らし出すものが無骨な牢屋ばかりでなければ、いい雰囲気でもあったのだろう。

 視界に入るものは鉄、鉄、鉄。耳に入るものは絶叫、罵声、悲鳴。鼻をつくのはつんとした血の香り。

 積み上げられた正方形の鉄格子の箱はさながらペットショップの鳥かごを彷彿とさせる。捕らわれているのはどれも若い少女達だ。

 絶叫し脱出を試みる者、絶望し涙を流す者、諦め無抵抗にへたり込む者。男は満足げにそれらを見渡す。

 籠の中には先ほどの2人の少女もいたようだ。何が起こったのか理解できていないのだろう、共にポカンとしている。

「うーん、姐さんの城はやっぱ格別ッスね。さて、さっきのビッチはいいとして、この上物は姐さんに直接渡さなくちゃならないッスよね。ほら、歩くッス」

 少女に進行を促し暫く進むと、より強い血の匂いが嗅覚をかすめる。同時に複数の断末魔が耳をくすぐり、男の心を興奮へと駆り立てる。

 見えてくるのは身の毛もよだつ拷問器具の数々だ。鉄格子で仕切られた狭い部屋の中では、少女達が掠れた声を上げつつ大量の血を流し、やがて静かになっていく。

 流れ出たおびただしい量の血は壁や床へと消える。最上階に鎮座する城の主の元へと送られているのだ。

 興奮を滾らせ、男の歩調は早くなる。

 階段を上ると、そこは広い部屋だった。カーテンに仕切られた巨大なバスが鎮座しており、中から若い女性が顔を出す。

「おお主よ、遅かったではないか」

「いやまあ、色々手間取っちゃいまして……つか姐さん、また若くなりましたね」

「ふん、当然よ。それはそうと……ふむ、なかなかの上物を捕まえたな」

 女性は男に連れられた少女を見やり、ニヤリと笑う。

「でしょう? これがまた、俺の目の効きにくい子だったんスよ。ビッチ2人はラクだったんスけどねぇ」

「ああ、さっき下で捉えた2人か。まあ、処女ではないにせよ若い女子であることに変わりはない、有り難く血液を頂戴するとしよう。今はそれより……その子じゃ。ほれ、こっちへ来い」

 そう言うと、女性はバスタブから液体をすくい取り、少女へと飛ばす。

 額に付着した血液は、たらりとその整った顔を伝って服にシミを作った。

 とたん、少女の動きが緩慢になる。そしてあれだけ男が動かすのに苦労した足を、とんとんと女性の方へと動かしていくのだ。

 それを確認すると、女性は近くの棚から鳥かごをその手にとった。

 手で持てる大きさの鳥かごだ。中には小さな少女たちが捕らわれ、内部に生えた無数の針に今尚呻き、ポタポタと血液が滴り落ちている。

 女性は愛おしそうにその鳥籠を開き、

「そうじゃ、いい子じゃ。そして……妾を楽しませてくれ――『羽無き少女の鳥籠(ピジョン・ブラッド)』」

 解放された魔力が少女を襲う。

 変化は一瞬、その少女が一瞬で小人ほどのサイズまで縮小された。

 そのまま吸い込まれるように鳥かごへと放り込まれる。

 ――はっと、少女が目を醒ます頃には、もう遅かったのだ。

「いっ、ぎ、ああああああああああああああっ!?」

 小さな悲鳴が新しく生まれ、女性はその様を愛おしそうに見つめていた。

 同時に籠の口から、1人の少女が吐き出される。

 籠から解放された少女は元のサイズへと戻るが、全身を切り裂かれぐったりとした様子だ。

「お、これはもしかして貰っていいヤツッスか?」

 男が嬉しそうに吐き出された少女へと駆け寄る。生きているかもわからない、肉体欠損のひどい少女だ。

 しかし男の昂ぶりは収まらない。鼻息荒く、しかし手は出さず、女性の返答を待っていた。

「うむ、もう少し絞れそうではあったがのぅ。どちらにせよ時間の問題じゃ、くれてやる。好きにせい」

「マジッスか! いやっほぉ! さぁて楽しむッスよ!」

 返答をもらった男はいやに機敏な動きで満身創痍の少女を担ぎ、部屋を後にする。

 少女を連れ込み、女性から処理済みの玩具を受け取り、その夜のお供にする。男はこれが毎日の楽しみになっていた。

 もはやこれを異常とも思えない。思うわけがない。何せ夢にまで見た生活だったのだから。

「いやぁ、マジ天国ッスねぇ! 毎日毎日こんな生活できるなんて夢みたいッス! 明日も頑張れる気がするッス!」

 意気揚々と拷問部屋を通り抜け、男は汚れた屍の待つ自室へと向かう。

 拷問と屍姦に満ちた狂乱の居城は、静かに、しかし着々とその規模を広げていく。

 

 

 

 

「……? ねえ、マスター?」

「ん、どうしたライダー?」

「いや、あそこ。空の上からだからわかりづらいけど、あの、ほら、開けたところ」

「……あそこがどうした?」

「いや、さ。結界が張ってあるんだよね、多分。かなり強力なヤツ」

「……結界?」

「うん。いや、もしかしたらキャスターの根城だったりするのかなぁ? って。あ、できれば今夜ドンパチは勘弁してよ? 結構ボクも疲れたし」

「ああ、それはそうだ、僕だって疲れてるし魔術戦なんて願い下げだ。もしキャスターの根城なんだとしたら、あそこは強烈な工房ってことになるし。それなりの準備も必要だしね」

「ふーん。まぁ、マスターなら余裕だよね」

「んー、魔術師との真っ向魔術戦はそんなに経験ないし得意じゃないんだけどなぁ」

「そう? ま、いいや。情報ひとつゲット、ってことで」

「本当にキャスターの根城かどうかは調べてみないとわからないけど……まあ、今後の方針としては調査対象にして損はしないだろうし。いい拾い物をしたよ」

「へへん、幸運Aは伊達じゃないって事だね! いやぁー役に立ててボクは嬉しいよ!」

「わかった! わかったから安全運転してくれ頼む!」

 

 

 

 

 目を覚ますと、そこはいつもの部屋だった。

 上を向いていた視線をコロンと横に向ければ、乱雑に放置された工具類や材料らしき木材に石の欠片、正体不明の液体が入ったビーカーや試験管が数本。傍らに積み重ねられた本の山は今にも崩れ落ちそうだ。

 間違いない。

 どれほど寝ぼけた頭でも、その部屋が西連寺志乃の、つまり自分の部屋であると認識する事は容易だった。

 しかし朦朧とする思考は状況判断さえ曖昧にする。そもそも何故自分はここに居るのか、まずその原因さえわからないでいた。

 いや、ここは自分の部屋だから居てなんらおかしいことは無いのだが、どうにも昨晩はここに戻っていないように思うのだ。

 ぼーっとした頭で考えていると、何の脈絡も無く視界に何かが映り込んでくる。

「ああ、志乃ちゃん。起きたね、おっはー」

「…………」

 数刻反応に迷った末、なんだかとても面倒になって、志乃は再び布団に顔を埋めた。

「あー! ちょっと志乃ちゃん、2度寝はダメだって、不規則な生活は美容の乱れに直結するんだから! はい起きる!」

「喪女に美容とか……マジ勘弁……てか昨日、私疲れたし……」

 ごろんと寝返りを打ち、志乃はそう返す。

 ――疲れて?

 はて、昨日は一体、何があったんだったか?

 ……。

 …………。

 ………………。

「あー、そうだ。昨日……ああ、思い出した。全部思い出した」

 唐突に思考回路がフル回転し、記憶を辿る。

 とても短い記憶だ。

 アーチャーに念話を送り、目撃者を追いかけようとして。

 そこで唐突に意識が飛んだんだっけ。

 思い返せば、召喚直後の疲労を抱えたまま戦闘へとなだれ込み、敵マスターの攻撃から逃げ回るのにやっとやっとなところに、目撃者という精神的ダメージ。今まで倒れなかった方が寧ろ不思議かもしれない。

 むくりと上体を起こし、1度目を擦ると、志乃は傍らに座り込んだ相棒に目をやった。

 長く綺麗な金髪で、どことなくエロティックな貫頭衣に身を包んだ美女。サーヴァント、アーチャーである。

「……ここに運んでくれたのは、アーチャー?」

 美女は笑顔で頷き、説明を始めた。

「そ。さすがに自分のマスター置いて追跡、ってワケにもいかなかったし、ラエラプスに行かせようかとも思ったんだけど、あの攻撃が結構効いてたみたいでね。追跡断念して、家に連れ帰ったの。やっぱりアサシンの連中が見てたみたいで、準備良くアサシンのマスター――祐一君、だっけ? あの人が休ませる準備しててくれて、今に至ります。報告以上っ」

 ぴしっと可愛らしく敬礼のような仕草をして、アーチャーは言葉を終える。なんだかお茶目だな、と志乃は感じた。

「そっか、祐一が手伝ってくれたんだ……それで、その、目撃者に関してはそれ以降スルー?」

「ううん、アサシンの子に追跡させてる、って祐一君は言ってたよ。どうなったか、その後はまだ聞いてないんだけど」

 なるほど、と答え、志乃は報告を整理していく。

 整理が終わる頃には、彼女はいつも通りの彼女だった。

「了解、わかったよ。迷惑かけてごめんね、ありがと」

「いいよ、謝らなくても。私は、あなたのサーヴァントなんだから」

 あはは、と苦笑を返す。

 けれど、その一言は彼女の覚悟を促す。

 ――覚悟、か。

 考えてもいないまま、こうして聖杯戦争を迎えてしまったけれど。

 こうなってしまった以上、覚悟は決めなければならない。

 まずは、昨日のような失態を犯さない事。戦う覚悟云々以前に、丸腰のまま戦線に出て行くだなんて、思い返せば異常にも程がある。

 祐一の言うとおり、まずは考える事から始めようと思った。

 しかしそれはそれとして。

 カレンダーを見れば日付は月曜日。高校生である彼女にはいつも通りの学校生活が待っているわけである。聖杯戦争なので学校を休みますとは言えない。

 その旨をアーチャーに伝えると、彼女は何の問題もなく了承した。霊体化して付いてくるという。妥当だろう。

「あ、コーヒー淹れたけど、アーチャー飲む?」

「コーヒー……? 貰ってみようかな」

「安物でごめんねー、でも頭は冴えるよ、これ」

「ありがと、っと、熱い熱い……に、苦いよ、これ?」

「あー、ごめんごめん、私いつもブラックだからつい。砂糖とミルク、あるけどいる?」

「もらえるなら、嬉しいかも」

「ん、了解」

 そうして、彼女達の非日常は平和からスタートを切った。

 

 

 

 

「……どう? 調べ、ついた?」

 同刻、相馬祐一。

 机に固定されたアームから伸びるデュアルディスプレイを巧みに操り、彼は着々とマスターを絞り込んでいく。

 本来ならば、昨晩の目撃者はアサシンに始末させる予定だった。気配遮断スキル持ちならば、相手が死んだ事を理解する前に殺す事だって可能だったろう。

 しかしそうはしなかった。

 ――目撃者たる彼は、他でもない魔術師だったのだから。といっても微弱も微弱、初歩中の初歩の魔術を扱える程度と推測される。魔術師かも、と思ってその気配を探らなければわからないほど微弱なものだ。

 その気配が確定に変わった瞬間、祐一はその目撃者が何かしら他のマスターと繋がっている可能性を考えた。

 そしてアサシンにそのまま追跡を続行させ、泳がせ続け。

 男がたどり着いたその先には、記憶に新しい処刑風景が広がっていた。

 そして男は、その傍らの屋敷の敷地へと入ろうとしていたのだ。

 黒ずくめの不審な男が背後に現れ何か言葉を交わしていたようだが、それについてはまた詳しく調べる必要があるだろう。おそらく無関係というわけでもあるまい。

 話を終えると黒ずくめの男は再び闇に消え、ターゲットの男は門を潜った。敷地に入った途端男の気配をロストしたことから、あの敷地には気配を遮断する結界が張ってあるとみて間違いは無い。あるいはそれ以上のものかもしれない。

 着々と様々な情報が集まっていく。圧倒的な情報アドバンテージを噛み締めると、祐一は思わず頬を緩めた。

「……ビンゴ、かな」

 しばらくの検索作業の末、祐一は纏めた情報をテキストとして打ち出す。

 ――旧住宅街に佇む巨大な屋敷。

 ――魔術師が張ったものと思われる隠匿の結界。

 ――魔術師の出入り。

 その家は複数人が同居する古来よりの家柄ではあったが、調べた所その家の当主はつい最近他界していることが判明した。

 そしてその家族構成を見るに、一族の後継者である可能性、そして魔術師である――すなわち、マスターである可能性がある人物はたったの1人。

 関連事項と裏づけとしてその人物について調べていくと、処刑現場にてバーサーカーに命令をしていたあの人間と面白いように一致する。

「アサシン。こいつが、バーサーカーのマスターだ。多分、間違いは無いだろう。覚えておいてくれ」

 こくりとアサシンは頷いて、その情報を脳へと叩き込んでいく。

 性別、女。

 年齢、18。

 髪型、肩辺りまで伸ばした黒髪の軽いソバージュ。発見した写真には三つ編みのものと二種類あったが、ソバージュが基本のようだ。

 特徴、いかにも委員長、といった様子のメガネをかけている。

 所属、御影北高校、3年2組。図書委員長であり、元拳法同好会会長。

 名前(ターゲット)――渚砂綾乃。

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