Fate/Shadow Lie   作:むっすー

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Side by 渚砂綾乃&Side by 光入観風

~ Side by 渚砂綾乃 ~

 

「――告げる」

 御影市の内陸側、生い茂る間霧山のふもとに佇む屋敷に1人。

 渚砂綾乃は幾度となくこぼれ落ちた涙を、また手の甲で拭き取った。ああ、メガネ邪魔。

 けれどこぼれ落ちる。ひっくひっくと肩が震える。こんな状態の私にマスター権を移譲するなんて、父は何を考えているんだろう。

 何を考えていたんだろう。

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 本音を言ってしまえば自信なんて皆無だ。

 綾乃は自分自身をコンプレックスの塊だと自負するほど。そんな人間にどうして自信が芽生えようか。

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

(それでも私は決めたんだ)

 魔方陣から暴力的なまでの光が迸る。

「誓いを此処に」

(父の遺志を継ぐって、決めたんだ)

 暴風が巻き起こり、不可視の力が渦を巻く。

 彼女の三つ編みが暴れ狂うが、そんなことは気にならない。

「我は常世総ての善と成る者」

 淡々と紡ぐ。呪文を紡ぐ。震える声で紡ぐ。言葉を紡ぐ。

 それ以外は考えない。考えたくない。

 けれど、意識を逸らそうとすればするほど、綾乃の脳裏には回想が巡って仕方が無い。

 ――サーヴァントの召喚を目前に控えたその日、彼女の父、渚砂壮馬は倒れた。

 綾乃はその病状について詳しく聞いていない。

 けれど、搬送先の病院で息を引き取ったのはこの目で見届けた。

 聖杯戦争の参加が叶わなくなったその無念と、その権利を娘に託し、彼はあまりにもあっけなく死んだ。

 本来なら綾乃は父の葬儀に参列する必要がある。

 父の魂を弔う必要がある。

 だが、その父がそれをよしとしなかったのだ。

『俺のかわりに聖杯を』

 それが父の遺言。

 託された綾乃に、はなから選択肢などなかったのだ。

 苦渋の選択さえできぬまま、そして彼女は今父の渇望したサーヴァントを呼ぼうとしている。

「我は常世総ての悪を敷く者」

 触媒は『鬼の血が付いた布切れ』のみ。

 父曰く、随分前に先祖が手に入れて蔵にしまってあったのだそうだ。

 真偽は定かではないが、少なくともそれが本当ならば鬼が呼べる。

 鬼となれば、弱小であるはずが無い。

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし」

 クラスはバーサーカー。日本に伝わる鬼は軒並み悪役だ。ならば主に従順であるとは限らない。

 理性の剥奪という保険を兼ねた賭けだ。

 代理で聖杯戦争に望むに当たって唯一幸運だったと言える事は、少なくとも父が知っていた聖杯戦争に関する知識全てを事前に聞いていたことだろう。

「汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」

 迸る光に凶暴さが宿る。轟音は唸り声のように屋敷を駆け巡った。

「汝三大の言霊を纏う七天」

 さあ、代行しよう。我が父の無念を。

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 一際強烈な光が綾乃を襲う。

 暴力的な光量に視界が染まり、思わず目を覆った。

 暴風は庭の木々をしならせ、植木を掘り返し、屋内の戸はガタンガタンと外れていく。

 そして、光と風はやがて収束した。

 かざしていた手をどけるも、まだ視覚はクラクラとしていて安定しない。

 だが荒れた庭の中央、魔方陣の中心に、小さな人影があるのだけはわかった。

 こちらを見ているのはわかるが、向こうはこれといった動作を見せようとしない。

(そうか、狂化されてるから言語能力がないんだっけ……)

 父からの説明を思い出し、向こうからのコンタクトが無いことを確認する。

 会話さえままならないというのは些か寂しい気もしたが、これは自分のための戦いではない。父のための戦いだ。ならばそこに自分の勝手なわがままは必要ない。

 ただ殺す為だけのクラス、バーサーカー。

 しかし狂戦士という名前の割には、やはり体躯が小さいような……?

 ――目が慣れると同時に、綾乃は我が目を疑った。

 そして同時に、我が耳を疑う事になる。

 爆音の後、初めて鼓膜を奮わせたのは、小さな女の子の声だった。

「あなたが、わたしのますたー?」

 

 

「……解せぬ」

 いやにおとなしいバーサーカーを引き連れて居間に戻った綾乃の、炬燵に入って第一声がそれだった。

 眼前のバーサーカーを見るたびその言葉が脳裏で反響し、彼女の思考を掻き乱す。

 疑問は多々あった。

 まず狂化がEとはどういうことだ。

 見たところ筋力のパラメーターだけ上がっているようだが……それもDだ。

 いやまあ、パラメーターも驚き桃の木山椒の木だけれども。

 それよりなにより、その見た目はどういうことだ。

 どこからどうみても童女ではないか。

 少し長めのおかっぱ頭に白い簡素な着物。背は低く目は大きい。童女。

 バーサーカーが童女……!?

「ますたー、おかわり」

「えっ? え、うん、どうぞ……」

 バーサーカーが差し出した空になった湯飲みに茶を注ぎながら綾乃は思う。

 ……ある意味、父が見なくて良かった結果かもしれない。

 いや、あるいはあの豪傑な父のこと、こんなサーヴァントでも策を巡らせて勝ち抜いてしまうのかもしれないけれど。

 ていうか何で自分のサーヴァントをもてなしているんだ私は。

 こればっかりは綾乃の性分なのだろう、どうしようもない。

 バーサーカークラスは元々あまり強くない英霊のパラメーターを底上げして戦えるようにするクラスだ。

 だというのに、このサーヴァントの狂化のランクは繰り返すがE。

 筋力だけランクアップして、無くしたものは複雑な思考能力のみ。

 しかもランクアップした筋力もD。

 他のステータスだって良しとは言えないようなものばかりだ。

 幸運がB、次いで魔力がC、耐久と敏捷に至ってはE。

 ……案外日本に語り伝えられている鬼って、そんなに強いものでもなかったんじゃないのか、なんて綾乃は想像してしまう。

 そういえばこの茨木童子だって鬼というだけでこれといった偉業を成し遂げている訳でもないし。

 まあステータスが全てという訳ではないのだから、そう目先の数値ばかりに気を取られていても仕方がない。それにもしかしたらトンデモ宝具を持っているかもしれない。

 けれど正直、綾乃は既に期待をしてはいなかった。

 そもそもこのバーサーカーは鬼なのかどうかすら怪しい。

「ねえ、バーサーカー?」

 バーサーカーはくいっと顔を向ける。

「あなた、名前は?」

 問うと、バーサーカーは首をかしげた後、端的に答えた。

「いばらきどうじ、ってよばれたよ」

「茨木童子……」

 その真名には心当たりがある。どうやら彼女は鬼で間違いないようだ。

 かの大妖怪、酒呑童子の舎弟であり、大江山に巣食う鬼達の副頭領たる妖怪。それが茨木童子の伝承。

 にわかに信じがたいが、まあ、そういうことならそうなのだろう。

「……このお饅頭、おいしい」

「いつの間に饅頭に手を出したのかしら、この子……」

 ていうかさっきから飲み食いしかしてないし……

「――さて、どうしたものかしらねえ」

 ため息と共に綾乃は愚痴を零す。

 強ければそれこそゴリ押しでも3騎士クラスとも対等に戦えるかと思ったのだが。

 こうなってしまうと、少し作戦を変更しなければいけない。

 夜の街をわざとうろついて敵を挑発、ひっかかったらバーサーカーを送りつけてゴリ押し短期決戦。

 まあこうも甘いものだとはさすがに思っていなかったが、これくらいは出来るだろうと踏んでいたのだ。

「……最初は手の内隠して敵情視察からが無難かしらね」

 そんでもって、隙をついて奇襲。

 単純ではあるけれど、そもそもバーサーカークラスは燃費が悪いのだ。綾乃自身の魔力量は少ないわけではないが、恐らくバーサーカーを使役しての長時間の戦闘には耐えられないだろう。

 現に今だって結構な量の魔力を持っていかれている。

 その点を踏まえると、この単純な作戦がもっとも効果的なはずだ。

 茨木童子の保有する宝具によっても若干変わるだろうが、基本はこれでいこう。

 今日は召喚直後の疲れもあるし、今の分を食べ終わったら霊体化して貰って、私はとっとと寝よう。

 それと普段はできるだけ霊体化していてもらおう。思った以上に魔力の消費が激しい。この状態で戦闘とか私耐えられるんだろうか?

 まあ、それはやってみないとわからないか。

 綾乃の決断はいつも早い。

 ていうか、サーヴァントってご飯とか食べなくてもいいはずなんじゃ……?

「ますたー、お饅頭もうないの?」

「この短時間で8つ全部平らげたの……!?」

 ……このバーサーカーが霊体化していないときはなるべく食べ物を見せないようにしようそうしよう。

 ああ、お父様。こんなバーサーカーで私大丈夫なんでしょうか。

 綾乃は一抹の不安を覚えざるを得なかった。

 

 

~ Side by 光入観風 ~

 

 御影市は大きく分けて5つのエリアに分類される。都市部、工業地帯、旧住宅街、現住宅街、港である。

 西南に広がる自然公園を中心にすると、北には間霧山、南には海がある。山からは間霧川という太い川が流れていて、自然公園の中央を通って海へと流れ出る。小規模ではあるが、御影市はいわゆる扇状地に成り立つ都市なのだ。

 自然公園を取り囲むようにして、御影市のシステムを凝縮した都市部が広がっている。高層ビルも少なくは無く、ショッピングモール等も内包しているため休日の日中などは嫌になるくらいの人が行き交うが、日が落ち始めるとその人ごみも目に見えて軽くなり、深夜帯に近付くとパタリと人がいなくなる。小規模なドーナツ化現象である。

 山の方には坂の多い旧住宅街、都市部より西側には比較的新しい住宅街が広がっている。都市部と両住宅街の境は軒並み繁華街や学校などが立ち並んでおり、都市部の明かりが落ち始めるのと入れ替わるようにして、この繁華街エリアは輝き出すのだ。

 旧住宅街は都市部に近いほど家の密集率も高いが、山の近くになればなるほど年代は逆行し、山の麓にまで至ると時代錯誤としか思えないような古式ゆかしい家屋も見られる。実際に住んでいる人間は御影市の古参であることが多い。また、川沿いにはそれなりの規模を誇る田園や畑、果樹園が広がっているのも特徴の一つだ。

 対して西側の住宅街はどこまで行っても普通の住宅街だ。比較的広めの道路の両脇にはびっしりと家が立ち並んでいる。似たような家屋が多いのも特徴だろう。

 都市部と住宅街より南は埋立地で、海に隣接していることもあり工業地帯が広がっている。小規模な港もあるが、御影市の港といえばもっと大きい。

 それが、都市部北西から伸びる御影大橋のたどり着く先にある離島である。こちらが御影市の本来の機能だ。

 大きな港。御影市最大の売りである。

 御影市は以上の5ブロックから成る。

 それら全てを一望できる場所など、間霧山の頂か都市部の中でも際立って高いセントラルビルより他に無い。

 知られていない事実ではあるが、セントラルビルの最上階と屋上はとある人物の専用フロアとなっている。

 光入観風――ここ御影市の霊脈を管理と魔術的な事件に対処、その痕跡の隠匿を生業とする魔術師。御影市における裏のトップでもある彼こそがその専用フロアを有する人物だ。

 セントラルビル屋上のフェンスに寄りかかり、スーツ姿の観風は眼下に広がる景色を呆然と眺めていた。

 屋上は至って簡素で、無骨な網目状のフェンスに囲われた冷たいコンクリートの地面に不自然な赤黒い模様が染み付いているのが特徴といえば特徴か。

 しかしここから見渡せる夜景は御影市最大のビルの屋上というだけあって絶景で、陳腐ではあるがそれを例えるならば小さな星の海といった具合だ。

 地上から見上げればギラギラと明るさを見せるネオンも、ここからではランプの明かりよりも小さい。

 あまりの非現実さに、自身の存在さえ観風は曖昧に感じた。

 時刻は夜7時。街の明かりがもっとも強く輝く時。

 普通なら美しく見えるであろうその光景に、

「……つまんねぇなぁ……」

 観風は小さく吐き捨てた。

 ああ、本当につまらない。

 そんな小さな灯では、満足できない。

 もっと、強い灯を。

「――マスターよ。この光景は、そんなにもつまらないものなのか……?」

 何も無い虚空から男の声が響く。

 太く逞しい声からは屈強な戦士の姿が連想されが、先述のとおりそこには虚空しか存在しない。

「あ? あー、オレからしたらつまんねぇつまんねぇ、つまんねぇの最上級だ。モースト退屈。こんなものを見るくらいなら蟻の巣観察の方がよっぽど楽しいね」

 まあ、数秒でぐちゃぐちゃだろうけどな、巣。

 そう付け足すと、観風はぺっと外へ唾を吐き出す。唾液は小さな星の海に沈み、そしてすぐに見えなくなった。

 つまらなさそうにため息をついて、観風は体を反転させてフェンスへと寄りかかる。下にどんな被害があろうと知ったことか。

「では、マスター……あなたは、何なら楽しいと申すのか?」

 虚空の声が再度問いかける。

 観風は一瞬眉をひそめるが、何かを思いついたように唇を吊り上げた。

「何だと思う? 当ててみろよ」

「……蟻の巣の観察?」

「バーカ、それは比較で例えだ」

「では、紙幣を数えることか? なんとなくその光景は似合いそうだ」

「テメェオレがそんな成金趣味に見えんのか? ……まあ金数えんのが好きなのは認めるが楽しいわけじゃねえよ」

「ううむ、考え事はあまり好きではないのだ……いかんせん、戦場ではただ殺して回るのみであったからな」

「なんだ? 降参か?」

「致し方あるまい」

 どうしようもないオーラ全開で虚空の声が降参をする。観風はため息を付いた後――嗤った。

 決して勘違いしてはならない。

 先ほどの笑みはあくまで口元を吊り上げるという表装上のもの。

 今観風が湛えた表情は、決してそんな優しいものではなかった。

 虚空は息を呑む。

 これが、自分のマスターなのだと。

「んじゃあ答えあわせだ脳筋サーヴァント。オレにとって楽しい事ってのは、テメェもよぉく体験してるはずだぜ?」 

「……?」

「――人が一番輝く時って、いつだと思う?」

 唐突に観風が問いかける。

「……一所懸命になっている時ではないのか?」

 特に、生きようと必至になっている時。

 文字通り命の炎を燃やしている時。

 虚空の声はそう答える。

「ああ、その通りだ。生きようと躍起になる。死にたくないと悲鳴を上げる。生きながらえることに全力を注ぐ……命の炎が一番輝く時だ。つまり、死ぬ時だ。望まぬ死を目前にしたとき、人は泣き喚く。何もかも投げ出して、ただ生きることを求める」

「――何が言いたいのだ、マスター」

「つまり血だ。叫び声だ。涙だ。悲鳴だ。命の炎が搾り出す生への執着全てだ。オレはそれを観るのが何より好きだ! 楽しくってたまんねぇ! 迫る死に怯える様はどんな映画よりどんなドラマより心躍る!」

 一句一句告げるごとに、観風の狂気が増していく。

 その様子に、サーヴァントはただ息を呑むばかりであった。

 召喚された当初は頼りになるマスターだと思っていた。いや、今でもそれは変わらない。

 ただ、彼へのイメージに一つだけ付け加えるならば。

 彼はまともな『人間』ではなさそうだ、ということだ。

「……なるほど、どうも我がマスターは『善』からはかけ離れているらしい」

「ほお、言うねえ。んじゃテメェはどうなんだ? 復讐の末死んで動かねぇ人間をずーっと引きずり回して見世物にしたんだってなぁ?」

「っ!」

「敵の水汲みの護衛を神殿まで引きずっていって惨殺したってえのも聞くが……さあて、テメェは『善』なのか?」

「…………」

 虚空の声は言葉を詰まらせる。

 観風はクヒヒと不気味に嗤った。

「まあ、戦闘時以外はそれはそれは優美な風流人で、心優しく正義感の強い英雄だったんだろうが……」

「――マスターよ、お褒めの言葉は有り難く頂戴するが……少しは言葉を選んではいただけないだろうか」

 ピシリと割り込む虚空の声。あろことか、声音には怒気さえ混じっているように感じられる。

 マスター、光入観風はそれだけのことを口にしたのだ。

 空気が張り詰める。が、観風はそんなものは意にも介さず言葉を続ける。

 空気に気づかないか。

 或いは、それさえ愉しみとしているか。

「あ? 怒ってんのか? ハハッ、笑わせる。俺もテメェも同じだっつってんのによぉ」

「何が同じか! 常日頃より人の死に悦を見出してなど、私はいない!」

「バーカ、頻度の問題じゃねえ。俺が毎日、テメェは敵を前にした時だけ。これが導く結果にどんな差異がある? 俺もテメェも『そいつを愉しんで殺す』っつう部分に違いはねえだろう?」

「…………」

「その行為の結果、目の前には死体が転がっている。さあ、どこにどんな違いがある? 論点は過程じゃねえ、結果だ。それはテメェもよぉくわかってんじゃねえのか?」

 虚空の声は返事をしない。

「過程はあくまで過程だ。結果ほど重要じゃねぇ。だが結果に至る過程がつまんねぇってのも考えもんだ。楽しい過程を踏んで、望む結果に至る。それが強者だろう?」

 虚空の声は返事をやめた。

 その通りだ。

 過程はどうあれ結果が重要だというのは、観風の言うとおりよく分かっていた。

 いくら戦場で奮闘しようとも、負けてしまえば意味がないのだから。

 つまり観風はそういうことを言っているのだ。

 何をしてでも、この戦争に勝つ、と。

「――ケッ、つまんねぇ。まあいい、前戯だ前戯」

 そう吐き捨てると、観風は再び眼下の街並みに目をやる。

「ああ、前戯だ。これから始まる殺し合い、聖杯戦争っつうゲームの前戯。なあ、折角大義名分を持って人を殺せるゲームなんだぜ。楽しまなきゃあ損だろう?」

 冷酷な殺人者の眼差しを受けてなお、街は煌々と輝く。

 だが、観風の表情は変わらない。

 無表情に冷たい瞳をたたえたまま、彼は再び虚空へと目をやった。

「――とりあえずは使い魔を飛ばして様子を探っている。動きがあったら呼び出すから、それまでは自由にしてろ」

 了解した、と小さく声が反応すると、次の瞬間にはそこにサーヴァントの気配はなかった。

 そして屋上には観風が1人残る。

「さあ……開戦だ――偽物の聖杯戦争の、な」

 まあ本物だろうが偽者だろうが関係ねえけど……せいぜい楽しむとしようか。

 愉しそうに嗤って。

 観風はようやく歩き出す。

 やがて月が厚い雲に隠れ。

 再びその顔をのぞかせたとき、屋上に観風の姿はなかった。

 

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