Fate/Shadow Lie   作:むっすー

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Side by 貝原京介&Side by 西連寺志乃

~ Side by 貝原京介 ~

 

「全く何を考えておる。妾にこのような山道を登らせるなど、平民風情が粋がるでないわ。というかここに道はあるのか? 先より主よ、お主道無き道を進んではおらぬか?」

「よく仕組みはわかんねーッスけど、姐さん透明なんだからいいじゃないッスか。俺歩きッスよ本当に。それに姐さんご所望の場所なんてここくらいしかないわけッスから、ちょっとくらい勘弁して欲しいッスね」

「ふん、ならばつべこべ言わずにさっさと案内せい。あと先より気になっておったのじゃが、主の語調が気に入らん。なんじゃそのパワ○ロ9とかのサクセスモードで出現する足の速い後輩みたいな語調は」

「なんで知ってんスか姐さんそんなマイナーなの」

「ふむ、マイナーなのか? どうも聖杯の与える知識というのもなかなかいい加減なようでな……ともあれ気になるものは気になる。治せ」

「治せなんて言われても……一種の癖と言うかなんと言うか。まあ敬語の崩れなんで敬意の形として受け取って欲しいッスね」

「敬意か……主に敬意を示されるというのも不思議な話ではあるが、まあよい。これも一つの信頼関係というわけじゃな。もう一つ気になったのじゃが、お主、妾が霊体化していると1人でべらべらと喋っているように見えるのじゃろうな、客観的には。三十路小太りのチャラ男が山道を登りながら独り言とはなかなかに痛ましい光景ではないか」

「……誰も見てないッス。それに見られてたってどうでもいいッス。あと三十路小太りチャラ男ってすげー不名誉ッス」

「うむむ、やはりッスッスうるさいのう……まあ、それくらいは妥協してやるとしよう。じゃが三十路小太りチャラ男は外見そのままの印象じゃ、素直に受け止めよ」

「嬉しくないッスねえ……まあいいッス。あー、なんでも願いが叶うならその印象変えたいッス」

「なんじゃ? 説明したじゃろう、聖杯さえあればどんな願いも叶うと。これはその戦争なのだと」

「いやー、ぶっちゃけ俺聖杯? とか、聖杯戦争? とか、サーヴァント? とか、まだよくわかんねーんスよ。つーか実感がないっていうか。ただノリでいつも通り適当に見つけた可愛い子を壊しに行ったらオカルティックなこと始めようとしてたらしくて、まあ好奇心ッスね。それでソレが持ってた本に書いてあった文章……呪文みたいな? あれ口にしたらなんか姐さん出てくるし、そしたら右手に変な痣浮かぶし、その本持ってたソレは壊れたみたいに動かなくなっちゃうし」

「――まあ、わからぬ話でもなかろうよ。聖杯は万能の願望機。それを手にするチャンスを、よもやこんな三十路小太りチャラ男に横取りされたとあれば絶望もしよう」

「……でもあの後あの可愛い子いたぶってマジでブッ壊したのは姐さんッスよ?」

「何を言う、そこに美しい少女が居たのならばその血は妾の糧とならねばならぬ。いやなに、数えるのも億劫なほどの年月、妾は処女の血に飢えておったのでな。つい普段以上に弄んでしまったが……よもやお主『ドン引き』したというわけではなかろうな?」

「まさか、寧ろ感動したッス! あそこまで面白く壊れていく様子は生まれて初めて見たッスよ! マジ興奮したッス!」

「そうかそうか、やはり妾の主は理解ある主のようじゃ。しかしお主もとんでもない性癖の持ち主よのう? まさか壊れたそれをその場で玩具にしてしまうとは」

「いやだって、目の前であれだけの物を見たらそりゃあ興奮くらいするッスよ」

「まあ生憎と妾には屍姦の趣味はわからん。じゃが、故に妾とお主はいい関係になれそうじゃな?」

「理解してもらえないのはまあしょうがないッスけど、いい関係ってのは?」

「妾は少女の血が欲しい。じゃが餌がおらぬ。お主は屍が欲しい。じゃが殺す手間がかかる。餌の収集は端からお主の役割として、妾はお主の集めてきた少女を殺そう。さすれば妾は血を得ることができ、残った屍はお主に渡そう。『ギブアンドテイク』というやつじゃ」

「なるほど、確かにいい関係ッスね。まあ、探すのだけは骨が折れそうッスけど……壊れていく様もいいオカズ、その為ならちょっと頑張ってみるッス」

「うむ、楽しみじゃ。して、主よ。まだか?」

「ああ、丁度ほら、ここッス」

「――ふむ、なるほど、これだけの広さがあれば妾の城も作れそうじゃ。この土地も魔術的に申し分ない。早速結界を張るとしよう」

「どうも、そこは姐さんの領分みたいッスね。あ、俺なにかすることは?」

「そうじゃな……美しい少女を集めよ。結局求めるところはそこにある。お主の『眼』をもってすれば容易い事であろう?」

「ははは、まあ、了解ッス。注意点は?」

「まず最優先、右手の痣を隠すこと。次に、妾と同じような、つまり敵サーヴァントやマスターに遭遇したら、魔術師ですらないお主に叶う相手ではない、とにかく逃げろ。その時、ここへは来るな。敵に感づかれたくはないのでな。それと、最後に」

「最後に、なんスか?」

「――連れ来る少女は、できる限り処女であると、妾は嬉しい」

 

 

~ Side by 西連寺志乃 ~

 

 西連寺志乃。

 市立御影第3高校、2年2組、帰宅部所属。

 性別女性、年齢17歳、身長160cm、体重は神秘のヴェールの向こう側。

 私服はワイルドなものを好む。

 普段着は作業着。

 髪型は天然の茶髪のポニーテール。

 成績は上の下、運動は上の中、人望はそれなり。

 趣味は人形弄りとバスケットボール。

 好きなものは神話や逸話、オカルト全般、何かを作ること。そしてロマン。

 嫌いなものは卑屈な態度、夢の無い見解、理解する努力をしないこと。そして現実。

 ポリシーはとにかくチャレンジすること。

 長所はチャレンジ精神旺盛な所。

 短所は歯止めが利かない所。

 特技は趣味全般。

 現在親戚宅にて下宿中。

 幼馴染は相馬祐一。

 腐れ縁は相馬祐一

 インドア仲間は相馬祐一。

 理解できない人は相馬祐一。

 専属パシリは相馬祐一。

 自分を使う奴は相馬祐一。

 ライバルは相馬祐一。

 親友は相馬祐一。

 嫌いな人は相馬祐一。

 

 好きな人は、相馬祐一。

 

 

 西連寺志乃と相馬祐一は、物心ついた時からの知り合い、すなわち幼馴染という関係だ。

 あまり行動的ではなく何においても思考と探りが先行する祐一に対し、志乃は相反する性格を持っている。

 基本は祐一と同じく、現代の若者らしいインドア気質。

 しかし彼と決定的に違う点は、その行動力と好奇心にある。

 自分の知らないもの全てに等しく興味を持ち、それを知るためならばいかなる時間も労力も惜しまない。

 つまり祐一はこの正反対の性質を持ち合わせている――言ってしまえば無気力無関心面倒くさがり。

 そんな彼に、志乃は言うのだ。

『興味が無いのは仕方が無い。でも、頭から理解できないって否定から入るのはダメ。理解する努力はしようね?』

 と。

 とことん努力嫌いの祐一には決定打になりえないことを知りながら、志乃は幾度もこの台詞を口にする。

 文字通り、といえば文字通り。

 故に祐一にはそれこそ理解できないことだろうと、彼女もわかっていた。

 何せ彼女のその台詞の本意は自己主張にあるのだから。

『もっと――アタシの事を、わかって』

 無論、理解できない祐一がそんな事を知るはずも無く。

 今宵も彼は『腐れ縁の世話焼き』として志乃の家を訪れたのである。

 ――サーヴァント召喚の儀式は少しばかり時間がかかったが、なんとか成功した。数刻前のことである。

 念願のサーヴァント。自分のサーヴァント。

 噂に聞けども、目にすることは適わなかったそれが、目の前にいる。

 夢か現か幻か。言うまでもない、現実だ。己が体内から魔力が流れてゆく感覚がそれを実感させる。

 その実感は何よりも彼女を嬉々とさせ。

 同時に、どうしようもなく沈み込ませる。

 彼女の背後で一連を見守っていた祐一からは、その瞬間の表情など見えるはずもなかった。

 だからどうこう言える事でもないのだが、もしも見えていたとしたら、祐一は何を思っただろうか。

 サーヴァントを召喚したその瞬間。

 ――彼女は、諦めにも似た苦笑を湛えていた。

 何故だろう。

 何故、アタシがやらなければならなかったのだろう。

 喜ぶべき点は、先述の通りサーヴァントの召喚をこの手で行えた事、そのサーヴァントを手に入れたこと。相馬祐一と同じステージに立てたこと。

 悲しむべき点は、マスターになってしまったこと。相馬祐一と同じステージに立ってしまったこと。

 それは相馬祐一と敵対することに同義なのだ。

 令呪を宿したその瞬間、聖杯に選定されたその瞬間、彼女は喜びより先に絶望を得た。

 否、喜んだことに絶望した。

 彼と敵対することになることは明白だったのに。

 聖杯戦争への参加権に、喜びを覚えてしまった。

 魔術師としては至極まっとうな反応。

 だが、西連寺志乃としてはどれほど辛かったことか。

 相馬祐一との同盟関係がせめてもの救いだろうか。

 現状は敵対しなくても良い、その事実が何より彼女の辛さを軽減させていた。

 ――問題の先送りに過ぎないことくらいわかってはいるけれど。

 それほどまでに、彼女は祐一との敵対を忌避していた。

 同盟関係など――祖父に知られたら何を言われるかわからないのに。

 なんで、どうして、なんのために。

 アタシは好きな人を倒さなければならないのだろう。

 

 

 今日は志乃の召喚したサーヴァントを加えた上での作戦会議の日だった。

 はずなのだが。

「ねえねえ、ここってどうなってるの?」

「うんうんここはね、この回路がここに接続されてて――」

「なるほど、これで効率が……でもここって、こうした方がパワー出るんじゃないかな?」

「それも考えたんだけどね、そうしちゃうとバランスに支障が出ちゃうの。そこだけなんとかなればいいんだけど……」

 ところで、志乃の家は住宅街の中でもなかなかの大きさを誇る。

 元は親戚の家で、昨年までは同居していた。だが、今年に入って家主が海外赴任、残された母とその息子は一時実家へ帰宅。

 結果、このだだっ広い家は志乃が1人で占拠していることになる。

 その庭に、大きなガレージがあった。

 高さ20mというのだから、一体家主は何を思ってこれを作ったのだろうと考えずにはいられない。日曜大工の為に、と聞いてはいるが、日曜大工でモビルスーツでも作っていたのだろうか。

 しかし召喚場所としては必要以上の広さを誇り、立地的にも合格。召喚はそこで行われた。

 だからこのサーヴァントが召喚されたというのなら、あるいは幸運だったのかもしれない。

 ガレージ隅の小さなイスに背もたれを抱え込むようにして座った祐一は、眼前にそびえるソレを見てただため息をついていた。

 そのため息が意味する感情は祐一自身わからない。けれど、恐らくは驚嘆の類だろう。

 ガレージの壁にかけられた大きな古時計に目をやる。耳を澄ませばカコンカコンと時を刻む音が空気を震わせているのがわかる。

 見た目は仰々しいものだが、志乃曰く、あの時計は有名なモデルのレプリカ――つまり偽物なのかもしれないらしい。

 ティーセットにテーブルにイス、そして本物か偽物かすらわからない不思議な古時計。20mの巨大ガレージ。

 色々と間違いなのではないかと気が気ではなかった。

 志乃と彼女が召喚したサーヴァントは、先ほどからそこに聳える18mロボットについて熱心に議論を交わしている。

 興奮も興奮。

 一時的に苦悩全てを脳の片隅へおいやるくらい造作も無いほど、その興奮は例年に久しいものであった。

 自律稼動する巨人の宝具だなんて。

 なんて――なんて、ロマンが溢れているのだろう!

 久しぶりに心が揺れた。震度12くらい揺れた。

 もはや志乃には作戦会議よりも目の前にそびえ立つソレの仕組みに興味が注がれてしかたが無かった。

 幸か不幸か、彼女の召喚したサーヴァントもまた似たような気質の持ち主らしい。

 というのも、サーヴァント自身この宝具を何よりも気に入っているのだとか。ロマンがある、とは本人の談である。図らざるもマスターとの相性は抜群のようである。

 志乃が召喚したサーヴァントは美女だった。流れるような金髪を背中で1つに纏め、この世のものとは思えないほどの美貌が何より輝かしく存在を強調する。いやまあ、確かにこの世ならざる存在なのだろうけれど。

 シンプルではあるが綺麗でどことなくエロティックな貫頭衣に身を包み、見た目に反して声音と語調は快活。

 どこまでも完成された女性だった。

 美女と共に宝具を語る。

 彼女が夢にまで見た光景。

 ただ今は、その幸せ以外に目が向けられなかった。

 ――否。

 その幸せにだけ、目を向けていたかったのかもしれない。

 

 

「18mの巨人って……この類の宝具、見られたら真名は一発で看破だろうなあ」

 隣に立った彼のサーヴァントは無言で首肯した。

「触媒無しでの召喚は、マスターに似たサーヴァントが呼ばれるって話だが……まあ、確かに似てるっちゃあ似てるのかもしれないな」

「そうなの?」

「ああ、安易だけどな。あのロボットじみた宝具はまあ間違いなく志乃の心を揺さぶるさ。震度12くらい」

「震度って7までじゃないの?」

「いや、そこマジレスされてもな……それにあいつの言うロマンってああいう類のものだろうからな。昔からあいつロボットとか好きだったし……俺も何度ガ○ダムを初めとしたロボットアニメを勧められたかわからん」

「部屋にあったグレ○ラガンっていうのも、そういうものなの?」

「あれもついこの間押し付けられたやつでな……まああいつがオススメしてんだからそういう類のものだろう」

 嫌いじゃないから、まあいいけど。

「ふーん……」

 アサシンは何か考えるようにそう呟き、イスに座ったまま脚をぶらぶらと遊ばせる。

 その様子はどうみても普通の女の子なのだが、これでサーヴァントというのだから世の中何が起こるかわからない。

「マスターと志乃さん、ホント仲いいんだね」

「まあ言うて幼馴染だからな」

 苦笑と共に祐一はそう口にする。

 だが、対するアサシンは語調を暗くして言った。

「……マスターは、いいの?」

 硬直。

 祐一の思考が塗りつぶされる。

 押し殺していた苦悩はあるべき場所へと返ってきてしまう。

 先送りにできない問題。

「な、何がだよ?」

 我ながら何を言っているのだろう。

 わかってはいるけれど。

「その、仲のいい志乃さんを……マスターにして」

 しかしアサシンは言葉にする。

 何より苦悩したその問題を。

 祐一の顔から感情が消失したのも当然の反応である。

 お面のような無表情。

 これは祐一の何より動揺している証拠なのだ。

「……俺はあいつの足りない部分を補える。あいつの足りない部分は俺が補える。1人より2人、作戦の幅も広がる。悪い話じゃない」

「でも、最後に残るのは一組だけ、なんだよ?」

「…………」

「今は同盟で戦わなくても済むかもしれない。でも、他の5組のサーヴァントを倒した後、否が応でも私たちは志乃さんと、あの巨人と戦わなくちゃいけない」

「……ああ」

「そして私はアサシンのサーヴァント。アサシンのクラスは、対サーヴァント戦闘には特化していない」

「……そうだ」

「つまり私はあれに勝てない。勝つには――マスターを攻撃するしか、ないよ」

「…………」

 アサシンの視線が祐一を貫く。

 アサシンの言葉が祐一を壊す。

 どうしようもなく悩んでいた。

 考えて、考えて、考えて。

 結論がでる前に、日を迎えてしまった。

 ――志乃に令呪が宿ったと聞いた瞬間、祐一は彼女にマスター権を放棄させようとした。

 当たり前だ。祐一は志乃と戦いたくは無かった。

 自分が降りればいい話でもあったが、その時既に彼はサーヴァントを召喚し終えている。

 それに、これは好奇心で参加するようなゲームではない。

 情け容赦の無い殺し合い。

 相応の覚悟を持ち得ない魔術師が安易に参加していいものでは、断じてない。

 聖杯戦争の定義云々ではなく、覚悟の欠如は死に直結するからだ。

 だから、やめさせようとした。

 けれど出来なかった。

 ――語る彼女の表情が、あまりにも楽しそうで嬉しそうで。

 彼にはそれをやめさせるだけの勇気も自信も、なかったのだ。

 結局祐一は、アサシンの問いに答えられぬまま。

 俯いたまま。

 口を開くことは無かった。

 心的な部分で少なからず繋がっているからだろう、アサシンは己がマスターの苦悩を汲み、それ以上の追求をしなかった。

 ありがたいと同時に辛くて、そしてなにより。

「みっともねえ……」

 いつまでも決断を下せない自分が、マスターとして情けない。

 そんな自責の念が何より彼を追い詰める。

「大丈夫だよ、マスター」

 知らず知らずのうちに握りこんでいた拳を、傍に来てたアサシンの手がそっと包み込む。

 はっとして首を向けると、アサシンは一見無表情のままそこに立っていた。

 けれど祐一にはわかるのだ。彼女の表情は無表情に見えても、その実彼女が無表情であることなど一度も無いのだと。

 ただ、表現が少し苦手というだけ。若しくは意図的に押さえ込んでいるものが溢れ出しているのかも知れない。或いは両方か。

 確かなことは、その時のアサシンの表情は優しいものだったということだ。

 触れた手の感触を祐一はそっと確かめる。

 冷たいけれど、その手は確かに温かかった。

「メリー……」

「悩むことは、悪いことじゃない。けど、悩みすぎてもダメだから。みっともなくないよ、マスターはマスター。マスターがどんな結論を出しても、私はそれが最善なんだと思う」

 紡がれた言葉は、慰めの言葉。

 メリーの表情はただ優しく。

 伝えたかったのは、サーヴァントとしての信頼。

 メリーの眼は、無の中に少しの微笑。

 恐怖の都市伝説の体現者というわりに、マスター思いのサーヴァントだ。

 まあ、マスターを蔑ろにするサーヴァントというのもいはしないのだろうが。

 しかし自分のサーヴァントに慰められるってどうよ。

 そんなことを思いながら苦笑しつつも、祐一の脳裏には最後の一言がちらついて止まない。

 彼女が口にした文章。その最後の台詞の本意は、もっと違うところにあるのだろう。

 すなわち、

『マスターが命ずるならば、私はあの西連寺志乃を殺すことも厭わない』

 と。

 彼女はそう言っているのだ。

 あとは自分の選択と決断のみ。

 今日だって言ったばかりではないか。

 絶対勝つ、と。

 しかし勝者となるには、志乃を切り捨てなければならない。

 果たして、いつまで。

 いつまで、このままで。

 このままで、俺は。

 俺は、一体どうすればいいんだろう。

 

 

 結局、また答えなど出ぬまま。

 偽物の時計は深夜0時の鐘(かいまく)を告げた。

 始まりの早鐘さえ、2人の耳には届かない。

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