「IV号の奴も人使いが荒い…」
「あはは…」
会話をしているのは1輌と1人。八九式中戦車チイとかつてはバレーボール部キャプテンであり今は八九式の車長を務める磯部典子だ。
「それにしてもそんな所では危なくないかのぅ…わしはちと心配なんじゃが…」
「大丈夫だって、こっちの方が話しやすいし」
「そりゃまあ…そうなんじゃが…」
「はっきゅんは心配性なんだから」
磯部嬢はこうは言ってはいるが、磯部嬢がいるのは砲塔横…装甲で覆われた車体の外で生身がむき出しの状態では今砲撃を受ければ無事では済まないだろうし…乗せてる側は気が気じゃないのだ
「そこの坂道を登ったら一度停止するよ、河西聞こえた?」
「大丈夫です、キャプテン!」
そうして坂を登りきり生垣を倒しながら停止した時だった。
「…へ…?」
「あ…」
オリーブグリーンの丸っこい車体に76mm砲、側面に輝くSandersの文字。そして高々と掲げられた青い旗…M4シャーマン、しかもサンダース大附属のフラッグ車だ。そして次の瞬間…
「右に転換、急いでっ!」
わしの車体が動くのとシャーマンの砲塔が旋回、発砲したのはほぼ同じタイミングだった。
つい先程までわしの車体があった空間を砲弾が突き抜けはるか彼方に着弾する。
「こちらアヒルチーム!敵フラッグ車を見つけましたがこちらも発見されました!」
送信してすぐに来た返事は…
「敵を目標地点まで誘導してこい、か…」
「どうします、キャプテン?」
「このまま付いては来るだろうけど…待ち伏せしてるのが見つかったら面倒ですね…」
磯部嬢の呟きに砲手の佐々木嬢と通信手の近藤嬢が応える。
「見つからない様に…か。そうだ…!」
そう言うと磯部嬢は発煙筒を一つ取り出しキューポラから上半身を乗り出す。そして次の瞬間…
「発煙筒をサーブ…じゃと?」
わしが驚くのも無理はあるまい。上半身を乗り出した磯部はそのまま発煙筒をサーブ、見事シャーマン戦車に固定させ相手の視界を奪うのに成功したのだ。流石はバレーボール部キャプテンである。
「よしっ!発煙筒もう少しこっちに渡して!」
「はい、キャプテン!」
その間にも次々と発煙筒をサーブし…遂にシャーマンの視界を奪うことに成功した。
「流石は東洋の魔女と同じ苗字なだけはあるのぅ…」
かつての東京オリンピックでの日本代表を思い出しているうちに八九式とシャーマンの2両は待ち伏せ地点に着実に近づいているのであった…
side III突
「お、来た来た…」
横に停車しているリーさんがそっと呟く。
「こっちの主砲じゃ怪しいからお二人さんよろしくね〜」
「聖グロの時みたいに同士討ちしないでくださいよ?」
「それはこっちの砲手次第だからねぇ」
三八さんはいつも通り呑気なものである。今自分を含めた3両の眼の前を2両の戦車が走行している。1両は友軍の長老でありもう1両は敵…しかも大将であるフラッグ車である。あの1両さえ撃破すればこの試合は大洗女子学園の勝利となる。出来れば一撃で仕留めたい。そして各車が照準を合わせ発砲するその時だった。
「まずい、煙幕が晴れたぞ!」
自分達の反対側に陣取るIV号さんの声である。
「そっそんな…!」
敵フラッグ車の停止と発砲は僅かにズレてしまい外してしまったのだ。
「おい、IV号どうするんだ⁉︎」
「追撃らしい、こっちの通信手が今送ってるはずだ!」
「了解っ!」
リーさんとIV号さんの会話を聞いているとこちらの通信機にも通信が入る。
「通信入った。おりょうPantzer vor!」
「合点承知!」
瞬間エンジンが唸りを上げ前進を開始する。三八さんやリーさんも同様だ。
「追撃戦か…まるでザマの戦いのローマ騎兵隊の様だ」
「いや、関ヶ原の戦いでの東軍だろう」
「追撃と言えばライン演習作戦だろう」
「「「それだっ‼︎」」」
車内はいつも通りの様だ。そうして数分の追撃の後だった。
「何だ?今の砲撃音は?」
「何か聞こえたんですか、長老?」
「ああ…⁉︎」
至近距離への着弾。しかもただの76mm砲ではない。
「こりゃあ17ポンド砲みたいだね〜」
「ってことは…」
その時背後の丘から姿を見せたのは…サンダース大附属にて最大火力を誇るシャーマン・ファイアフライ。獰猛な蛍の登場だった…
どうだったでしょうか?恐らく次回でサンダース編は終わると思います。そしたら次はアンツィオ、その前に一度日常回を入れるかもしれません。首を長くして待っていただけると幸いです。それではまた次回