Revival of Chavarier 作:Tiffler
アンジェ、それが私の名前だった。
人は私を鴉殺しと呼んでいた。
こんな呼ばれ方になったのは国家解体戦争の時、数多くのレイブンを落としたからなのだがそれは、鴉殺しという名は最早何の意味も持たなかった。
なぜなら私は、リンクスのアンジェはかつて自分が数多く落とした鴉たちの最後の一羽によって今まさに落とされるところなのだから。
ここは戦場、無論覚悟はできていた。
レーザーブレードの白刃が迫り、そして私の意識は消えた。
ただ最後に、
「誇ってくれ。それが手向けだ。」
と私を斬ろうとするラストレイブンに言い残して。
ならば何故今私が語ることができているのか、それは誰にも答えられない質問だろう。
あの時確かに私は死んだ。
だが、今ここに生きて存在している。
何故生きているのか私にもわからない。
ただ今一つだけ言えるのは、私はつまらない世界を生きるはめになってしまったということさ。
改めて名乗ろう。
今の私はアンジェ、アンジェ・オルレアン、リンクスとしての記憶を持つしがない一般人だ。
もっとも今のこの世にリンクスが居たところでなにもできはしない。
戦場があったとしても圧倒的個の兵器ではなく群対群での戦いだし、なによりネクストがない。
せめて四百年くらい昔に生まれてれば死合を楽しめただろうに今出来るのはルールに則った命を賭けないスポーツとしての戦いしか出来やしない。
それでも私は剣を握る。
私はアンジェ、戦いに身を置くことでしか生きられない、いわゆるバトルジャンキーなのだから。
「ああ、退屈だ。いくら試合をしようと満たされやしない。」
この世に生まれ直しかれこれ十五年、私が振っているのは竹刀と木刀だけ。
そう、私は剣道というものをやっているのだ。
本来二刀を駆使するのが私の戦い方なのだが剣道では基本的に一刀のみ、二刀は使えないことを知って一時は落ち込んだものだが、幾度も銃弾飛び交う鉄火場をブレード二振りで潜ってきた私だ、ルールを学んでしまえばそうそう負けやしない。
そもそも向こうでだって生身での剣の修練を怠ったことはない程度に剣を磨いていたのだからそうそう負けるわけにはいかなかったのだが。
もっともっと強い人と戦いたい、そんな思いが募っていったある日母が声をかけてきた。
「アンジェ、貴女が生まれてくる時代を間違えたと言われるほどに剣才に恵まれているというのは分かっています。だからこそ、更に上を目指しなさい。」
そう言って母は私に日本行きを提案してきた。
今の私が生まれたのはフランスの片田舎、剣道を習うのも一苦労で何度フェンシングにしろと言われたことか。
それはさておき更に強い相手と戦いたかった私としてはこの日本行きは歓迎すべきことだった。
日本、それはリンクスとしての私の後輩にして盟友、真改の故郷であり、SAMURAIの国と聞いている。
例え真剣での勝負は出来ないにしろ今までよりは楽しい生活が出来るだろう。
そう思った私は微塵も躊躇わず日本行きを決めていた。
でも、そうしたはいつのことだったか、少なくとも今ではない。
なぜなら今、私がいるのはそんな生温い世界ではなく己が剣に命を預ける当時の私が望んだ通りの鉄火場なのだから。
「ああ、懐かしい。随分とまた昔の夢を見たものだ。」
近くから聞こえる剣戟の音、そしてそれに続くガラスを割ったかのような聞きなれた音を聞きながら私は意識を覚醒させる。
「真改!私の休憩は終わりだ。探索を進めよう。」
そう言って傍らに立てかけてあった愛刀、ムーンライトを手に取り、”安全地帯”などと言われる場所を出た。
私たちが今いるのは現実の世界ではない。
世界初のVRMMOであるソードアート・オンライン、その中なのだ。
現在私たちがいるのはその層状の構造をした舞台、全部で百の層を持つアインクラッドの下から数えて74番目の層の迷宮区とやらだ。
73層が突破され、迷宮区までの道も開かれてからすぐにまだ見ぬ敵を求めて来たものの、結局大した敵には出会えず暇つぶしに辺りの敵モンスターを駆逐するといういつものパターンにはまって今に至るというわけだ。
これならまだ他のプレイヤーとデュエルってやつをやった方が楽しいんだが、前に大した腕でもない白地に赤い十字が描かれた服を着た三流剣士を一度デュエルで下した時スカウトを名乗る連中が煩く纏わりついてきて面倒だったからデュエルは早々できない。
全く、折角このゲームなら死合が試合になると期待してプレイヤーになったというのにつまらない。
だがそれも仕方のないことかもしれない。
茅場晶彦、やつがこのゲームでの死を真の死としてしまったのだから。
だから私はとっととここを去ると決めた。
これならまだリアルでの試合のほうが楽しいから。
いくらポリゴンで出来た意思のない敵を斬ろうと私は満たされない。
最近は少しは骨のあるモンスターも居る気がしないでもないが、私が戦いを楽しめるほどの強さではない。
ただまあ、少しくらいは楽しみがないことはない。
こうやって最前線とやらで戦い続けているとたまに出くわす私と同じ類の香りがするソロの少年とのデュエル、あれは中々に楽しい。
なにせこちらが手加減なしの剣を振るってもきっちり受けられる相手はほとんどいないというのに、彼はある程度は受け流してくる。
前回は二刀流という本来の私の戦い方と同じ戦い方で一振りしか剣を持たぬとはいえこの私に土をつける一歩手前まで追い詰めてきた。
もうしばらく研鑽を積んでくれればきっと私も本気で戦える相手となってくれるだろう。
私と戦いたくなったらいつでも呼べと一応フレンド登録はしたものの結局一度も連絡してこない。
今度こちらからコールしてみるかと思いながらモンスターに愛刀を振るいつつ進んでいるうちに、いつのまにか観音開きの大きな扉の前に辿り着いていた。
「真改、これはボス部屋だろう。この先は他の連中に任せるとしよう。」
無言で首肯した真改に転移結晶を投げ渡し、私たちは転移によりその場を後にするのであった。
ソードアート・オンラインといういわゆるデスゲームなるものが開始されかれこれ二年近く、生存者は六千強、されど私と刄を交えることが出来るほど腕の立つ剣士はあまり残されていない。
否、そもそも剣士と言えるものはどれ程いるのだろうか。
ソードアート・オンラインというゲームに設定されたソードスキル、これを巧みに操る者は確かに数多く存在する。
なれど身体を己で動かさず、一定の動きを強いるシステムに身を任せるだけのソードスキル、それは果たして真の剣技と言えるのだろうか?
私にはそうは思えない。
ソードスキル頼りの戦いをするプレーヤーとのデュエルはプログラムされたモンスター相手のワンパターンな戦いと全く変わらず実につまらない、勝利を約束された戦いなのだ。
二年近くも剣を振るっているから一部の者はこの事に気付き、己が剣を見つけようとしているだろう。
なれどたかが二年で己が剣を見つけ、磨きあげることは不可能に近い。
私や真改のように元々剣の道を進んでいた者は絶対的に少なく、居たとしても剣道という決められたルールの中の剣しか知らぬものが多い。
それ故想定外の攻撃に弱く、本来の私のような長刀による二刀というイレギュラーを相手にすると弱くなってしまう。
本気で剣を振るうことのできる相手が少なく、大抵の時間を弱者相手の戦いというつまらないもので浪費することになった原因、茅場とやらに後で恨み言の一つでも言わずにはいられまい、そう思いながら私は第一層の僻地に建てた私と真改のホームである武家屋敷へと帰還するのであった。
……つまらないものを読ませてしまったかな?だとしたら申し訳ないm(__)m
改善すべきと思われる点があれば遠慮なくどうぞ(・ω・)ゞ