蒼の彼方のフォーリズム 速さより技でしょ! 作:rockless
試合後、沙希とイリーナは更衣室に戻っても一言も発せなかった
試合終了直後こそ、沙希は満足感を覚えていたが、やはり時間が経つにつれ、じわじわと悔しさが湧き上がってきた
「悔しいですが、認めるしかありません。明石晃、あの選手は私たちの技を打ち破りました」
「・・・強かった。間違いなく、イギリスでもあれほどの選手はそういない・・・」
やっと感情に折り合いがついたイリーナが、1つため息をついてから話し出す
「えぇ、そしてあれは、私たちと同じ側の人間・・・既存のFCではない者・・・私たちのFCか、明石晃のFCか、どちらが本当のFCなのか。フフッ・・・」
晃との試合を思い出し、愉快に笑うイリーナ
そんな彼女をシャワーを浴び終わった沙希がジーっと見ている
「・・・イリーナが壊れた」
「失礼ね」
コホンっとイリーナが小さく咳払いをして、沙希の髪をいつものように拭き始めた
「でも、どうしましょうか・・・?負けたことを父に知られると、怒られてしまいます。最悪、生活費の仕送りが・・・」
「・・・ゴメン、イリーナ」
割と切実な問題が2人の前に立ち塞がりそうだった
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着替えを終えた沙希は、1人になりたくて会場内を人気のないほうへと歩いていた
やがて、人気のない水場にたどり着き、そこで見覚えのあるサングラスが置かれているのを見つけた
(あれは・・・)
吸い寄せられるようにそのサングラスに近付いていく沙希
しかし・・・
「オエエエ・・・ゴホッゲホ・・・」
水道で隠れていた持ち主の吐瀉音にピタリと足が止まった。普段無表情な自分でも今、表情が引き攣っているとわかる。このまま気付かれないうちに、ここから去ろうかとも一瞬考えた
だが、吐瀉音が二度三度と続き、心配になった沙希は、再び足を動かして彼に近付いた
「・・・大丈夫?」
「え?うっ・・・」
声をかけて優しく背中を擦る。吐くことに集中していた晃は、沙希が近付いていたことに全く気付かなかったので驚いたが、再びの吐き気に流し台に顔を向けた。複数回の嘔吐により、彼の口から出てくるのは胃液だけになっていた
「・・・誰か呼んで来る。セコンドの子か同じ学校の人」
そう言って晃から離れようとする沙希を、晃は腕を掴んで止めた
振り返った沙希に、首を横に振って誰も呼ぶなと伝える
「決勝に出られなくなる・・・大丈夫ですから・・・」
「・・・どうして?」
必死の表情で訴えてくる晃に、沙希が質問する。たかが高校生レベルの大会である・・・プロでもない彼がいったいどのような理由を持っているのだろうか、と・・・
ようやく吐き気の落ち着いた晃は水で口を濯ぎ、流しの吐瀉物を水で流すと、立ち上がってサングラスを着け直して近くのベンチまでヨロヨロと移動して座った。ダルそうに背もたれに深く体を預けて座る晃の隣に沙希も座る
「この大会の結果には、俺の将来がかかっているんです・・・」
晃は真白に対して説明したように沙希に説明した
試合直後の短いやり取りを除くと、今初めてまともに話した相手に話すことではないと晃は思いつつも、どこか沙希なら話しても大丈夫だと感じていた
「軽蔑しますよね。他の人が真っ当にFCに取り組んでいるのに、俺はお金だなんだって・・・」
「・・・私もそう」
沙希の言葉に、晃は少し驚いた。相変わらず体がダルいので、頭だけ動かして沙希のほうを向いた
「・・・私は、イリーナの父親が経営しているアヴァロン社と、実質的なプロ契約をしている。プロ用のグラシュを含めたFCの機材や金銭面の支援、日本での生活費も・・・」
「えっと・・・」
「・・・今回の負けたのは痛かった・・・たぶん資金援助が減ることは確実」
なんと言っていいのかわからない・・・晃の本音だった
勝ってすいませんでした・・・なんて嫌味にしかならないし、晃だって負けられない理由があるのだ
「・・・どうして世の中お金が必要なんだろう?」
「ずいぶん哲学的な問いをしますね・・・バイトでもしたらどうですか?」
沙希の呟きに、ダルいながらも突っ込みを入れる晃だった
「・・・バイト?学校が終わったらFCの練習があるから時間がない」
「いや、朝の新聞配達とか牛乳配達とか・・・俺もやってますよ?」
「なるほど・・・」
「そういえば・・・聞いた話ですが、四島市は大小複数の島で構成されているから、中には新聞販売所のない島もあって、そういう過疎島には近くの島からグラシュで飛んで配達に行くって・・・もちろん普通の配達員より給料がよくて・・・おまけに海上では誰も見てないわけで、飛行の練習もできて一石二鳥だって話が・・・」
「・・・私とイリーナは本土に住んでる」
「うっ・・・それは・・・」
つい晃は今住んでいる四島市を基準に話してしまい、沙希に突っ込まれた。っと同時に、今語った話を初めて聞いたときのことを思い出していた
父親が死に、母親だけでは土地的、金銭的に自分を育てられないと、山の中の田舎から母親の実家のある、この四島市にやってきた。やがて、自分が配達の仕事を手伝うようになり、母親の兄に当たる伯父からこの話を聞いたのだった
『まもなく、決勝戦を行います。選手ならびにセコンドは試合コートに集まってください』
「もうそんな時間か・・・」
決勝戦を知らせるアナウンスに、晃はため息をつく
晃たちの準決勝が終わってから1時間のインターバルがあったのだが、晃の体調は最悪だった
「すいません、自分はこれで・・・」
「・・・うん、その・・・」
ベンチから立ち上がった晃に、沙希は少し迷ってから口を開く
「・・・頑張って」
「はい、では失礼します」
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「沙希、やっと見つけた・・・もうすぐ決勝戦よ?観戦するのでしょう?」
「・・・イリーナ、どうだった?」
「うーん、やはり負けたことを話すと、怒ってました・・・」
イリーナは晃が座っていた沙希の隣に座ると、眉間に手を当て、ため息をつく
そんなイリーナに沙希は少し寄りかかるように体を横に倒す
「秋の大会で結果を出すまでは緊縮財政です・・・」
どうしましょう・・・?っとイリーナは沙希の頭を撫でる
「・・・海凌学園じゃなくて四島水産に入ればよかった・・・」
「・・・クス、そうですね」
イリーナは冗談で沙希の言葉に頷きつつ、これからの練習プランを練っていた
ともかく、減らされた生活費のために、イリーナと沙希のリベンジの炎は熱く燃えていくのだった
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『さぁこの全日本フライングサーカス選手権、仇州西部地区予選もいよいよ最後の試合、決勝戦になりました。決勝戦のカードはなんと同校対決!Aブロックより勝ち上がりました高藤学園の1年生、明石晃選手。準決勝は試合時間、計35分もの激闘を制しての決勝進出です。一方、Bブロックを勝ち上がりました同じく高藤学園3年生、真藤一成選手。前年度、前々年度の全国チャンプです』
「よろしくお願いします」
「よろしく」
試合コートに上がり、スタート位置で晃と一成
「やっと君と戦える。君をFC部に入れるためとはいえ、本気を出さずに負けたことは悔いとして僕の中に残っていた・・・だから、今回は最初から本気でいかせてもらう」
「わかりました・・・こちらも、準決勝のような長期戦は嫌なんで・・・」
―全力でいきます
猛獣かのように威圧をした一成だったが、体調が悪い晃の、まるで手負いの獣のような殺気染みた気迫を受けて、思わず後ずさった
2人がスタート位置に着く
「それでは試合を始める!セット!」
開始のブザーが鳴り、2人が飛び出していく。晃は今までの試合と違い、ショートカットをせずに2番ブイ狙いで、ローヨーヨーによる加速していた。一成もショートカットをせず、ローヨーヨーで加速をしていた。グラシュの性能特性で、晃のほうが先にスピードの乗っていき、一成の前に出た。そのまま海面まで降下していって、晃が動く
「くっ!」
下降から上昇に切り替わるポイントで、晃が軌道を変えるために片足エアキックを使って海面ごと蹴ったのだ。後ろに向かって蹴り出された海水は、晃と同じ軌道でローヨーヨーをしていた一成に思いっきり叩きつけられた
相対的にかなりの速度で体に海水が叩きつけられ、メンブレンの衝撃吸収があるのに一成は本能的にスピードを緩めてしまう
「やってくれる」
「部長、今のは反則では?」
「スタート直後のファーストラインで禁止されているのは、ドッグファイトと背中へのタッチを含めた接触行為だけ、相手に海水をかけてはいけないというルールはない」
スピードを緩めてしまったことで、2番ブイは間に合わないと判断した一成はすぐにショートカットをしてセカンドラインに向かう。セコンドの麗子が晃の行為は反則だと言うが、一成の言うとおりルールがないので反則の取りようがないのだった
一成がセカンドラインに入り、晃が2番ブイにタッチする
「ポイント明石!1-0」
晃もセカンドラインに入り、自分に向かってくる一成に対して、自身も真っ直ぐ向かっていく。まるで度胸試しかなにかのように凄まじい勢いで両者の距離が迫っていく
「危ない!」
「避けて!」
それぞれのセコンドが悲鳴のようにインカムを通してに2人に向かって叫ぶ
間一髪なのか、それとも試合中の阿吽の呼吸なのか、2人はギリギリでお互いを回避して、ドッグファイトに入る。シザーズにハイヨーヨー、ループと様々なマニューバを織り交ぜたドッグファイト、時間が刻々と過ぎていく中ポイントで不利な一成は、晃に触れることすらできずに焦る
残り時間1分を切り、先行している晃が180度のエアキックターンに入った。一成も離されまいとそれに追従し、2人ほぼ同時にエアキックターンに入った。晃は一成もエアキックターンに入ったことを確認すると、エアキックのために集中させていたメンブレンを蹴り抜いた。足場がスコンっと抜けるようにキックが失敗し、蹴り抜かれたことでメンブレンのバランスが崩れて晃の体が落下を始める
「しまっ・・・」
一方でエアキックターンを成功させた、否、成功させてしまった一成は、晃から引き剥がされたことを焦った。そして今の晃のキックの失敗はわざとだと直感する
事実、晃は落下からリカバリーしてローヨーヨーに入り、一成から逃げて3番ブイに向かっていった
「やられた!」
まさか使うだけでも難しいエアキックターンを、わざと失敗してそれを利用する・・・一成には考えも付かない発想であった
急いで反転したが、阻止に間に合うわけもなく、3番ブイをタッチする晃を見ていることしかできなかった
「ポイント明石!2-0」
ポイントが入った数秒後に試合終了のブザーが鳴り、試合が終わった
『試合終了!勝ったのは高藤学園1年生、明石晃選手!前年チャンプに得点を許さない完封勝利!』
呆然としていた会場中に、実況の言葉だけが流れる
晃は3番ブイから真っ直ぐ莉佳のいるセコンドのブースに戻ってきて砂浜に降りた
そして、莉佳に向かって1歩目を出した瞬間、膝から崩れ落ちた
「晃?!」
莉佳が駆け寄って抱き起こす。意識を失っている晃は呼びかけても反応がなかった
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晃が意識を取り戻したのは、決勝戦から3時間後だった
「うぅ・・・」
「晃?」
「ここは・・・?」
「病院だよ」
晃は少し周りを見た。自分の腕に繋がっている点滴が目に入り、自分が決勝戦のあと、どうなったかを察した
「熱中症と脱水症状、それに試合での疲労が原因だろうって」
「そっか・・・ごめん」
「ホントだよ。心配したんだから・・・本当に、本当に・・・」
謝る晃を気遣って、明るく振舞おうとした莉佳、しかし目には次から次へと涙が溢れてくる
言葉が出なくなり、莉佳の泣いている音だけが病室に小さく響く
「乾さんから聞いた・・・決勝戦が始まる前から体調が悪かったって・・・隠さないでよ!私、セコンドなんだから・・・サポートするのが役目なんだから頼ってよ!」
涙を流しながらも、キッと晃に怒りの表情を見せて 莉佳が怒る
「試合になったら、私はなんにもできないんだから・・・自分で状況を確認できて、戦術も考えられて・・・私にできることは話し相手くらい・・・それでも私のためにも、地区大会を優勝して全国大会に行くって言ってくれて嬉しかった・・・だから私も一緒に試合に臨めたらって思ったのに・・・なのにそうやって1人で我慢されたら、私はいったい何のためにセコンドでいるのだろうって・・・」
「ごめん・・・」
泣いてる莉佳に、晃は謝るしかなかった
自分のせいで泣かせてしまったことに、晃の精神はピンチだった
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「っで?乾さんとはどんなことを話したの?『話ができてよかった』って言ってたけど?」
「泣き止んだと思ったらそれかい?!また目のハイライト消えてるよ!」
「隠すんだ・・・へぇー・・・」
「あ、ちょ、待った!点滴の管折らないで!言う!言いますから!」
その後、晃は身体的にもピンチになった
短編集だから飛ばそうと思えば飛ばせるけど、一応決勝戦を・・・
イリーナは苦労人お嬢様に、沙希は素直クール系で、1人でもちゃんと他人とコミュニケーションがとれるやればできる子に・・・どうしてこうなった?
ちなみに2人は同棲しながら学校に通っていると勝手に設定。沙希の両親はヨーロッパのどこか、イリーナの両親は普通にロシア?
沙希のアヴァロン社との契約は勝手な設定
沙希×イリーナも以下同文
どうやら前の話で開きかけた沙希ルートの扉は、イリーナが通ったあとで莉佳に閉じられてしまったようです
海凌学園とイリーナたちの住居の位置は8話の登場の仕方から勝手に予想
同じ四島市ならヘリは使わないでしょう。というかあのヘリはアヴァロン日本支社とかのものだのだろうか・・・?勝手に校庭に着陸していいのか?砂が巻き上がらないように水を撒いたりとか準備が要るだろうに・・・
海凌学園がスポーツで有名でありながらもFCでは無名校である点(とウィキにあった)から、グラシュの使用が制限されている本土なのではないか?というのも・・・ただそうなると、アニメ4話で沙希がなぜ四島市にいたのか・・・
仮にゲームのサイトに名前が出ている学校が全て四島市にあるとするならば、人口に対して学校が多すぎる気がするし・・・離島の学校だから市外(本土)から入学してくる生徒なんてFC目当てくらいで(?)ほとんでいないはずだろうに・・・ってか四島水産とか堂ヶ浦工業とかっていくつかの専門のクラスがあるだろうに、定員集まってるのだろうか?寮とかがあって本土からの受け入れのサポートとかしてるのかな?
以上の勝手な設定はあくまで勝手な設定である。原作と違ってもキニスンナ
後半はまた莉佳と2人だけのやりとり
真白の出番がなくて、書き手の自分はさびしい・・・
続きはないかもしれないが、続くとしても全国大会はカット
そろそろ毎話試合をさせるのはつらい・・・(2話を除く)
でも一応短編集だから試合シーンは入れたい・・・