何年後という未来から、数えきれない思い出を遡ってきたことをキミに伝えたい。そうすればキミはきっとわかってくれる。キミの探しているアタシはアタシなんだと…。
でもそれは駄目なんだよね。たしか、キミから借りた漫画で、タイムリープをした主人公が未来のことを教えてしまって、それを知ってしまった友達は酷い目に遭うんだっけ。タイムパラドックスとかいったかな? とにかくキミには酷い目に遭ってほしくない。だから──。
「あの……」
いきなり声をかけられて、我に返ると、目の前には不安そうな表情をしたキミが立っていた。
「なに?」
膝を曲げてキミと視線の高さをそろえると、これ以上不安にさせないよう、笑顔で返事をする。
「どうかしたの?」
心の片隅に僅かな期待があった。今のキミからすればアタシは年上の女性だ。どんな言葉が紡がれるのかと。
そして、アタシは無意識にそんな気持ちを抱いている自分に嫌悪した。こんな状況になにを思っているのかと……。
「あなたに似た人を探しているんですけど、何か知りませんか?」
口を開く。決して笑顔を崩さないように。そして、言葉を紡ぐ。震える手を後ろに隠して。
「ごめんね、何も知らないよ。本当にごめんね」
「そうですか……」
キミはその場から立ち去って行った。
次の日、アタシは再びキミと出会った。軽く会釈だけして通り過ぎていく。
そして、また次の日。キミはまだアタシを探していた。それを遠くから見守ることしかできない。アタシはこれで罪滅ぼしでもしているつもりなのだろうか。
キミは毎日毎日アタシを探し続けた。身体的にも精神的にもボロボロになりながら…。バラバラになった二人を繋ごうとした。
「やめて、アタシ、ここにいるよ」
言いたかった。この一言でキミは楽になれる。救われるのだから。でも、キミが酷い目に遭うかもしれないと思うと、言えなかった。
◆ ◇ ◆ ◇
夏、秋と時は移ろいでいく。どんな天候だろうとキミはアタシを探し続けていた。
アタシが未来から来たばっかりに、キミにもの凄い苦労をかけた。もう、苦労なんて言葉じゃ表現できないくらいに。
冬の終わり頃、ある噂を聞いた。風の噂と言ったところだろうか。その内容はアタシのいた未来とは異なっていること。
──キミが引越すということ。
時期は春頃らしい……。
とりかえしのつかない状況になりつつある。そう自覚した事で、アタシは大罪を犯してしまった事を知る。過去の改変という大罪。
なんて事をしてしまったんだ。キミを悲しませるだけでなく、過去を塗り替えてしまった。アタシのただの恋心のせいで、ただの好奇心のせいで──。
今になって思う。あの時の言葉に付け加えられるなら、こう付け加えたいと。
「やめて、アタシ、ここにいるよ。──だからどこにもいかないで」