また、あの時のと同じような春がきた。桜が満開で花びらは桃色で彩られていて、寒過ぎず、暑過ぎない過ごしやすい季節。──だが、過去が変わったことによって唯一変わった未来があった。それが、今だ。キミがここを発つと決める未来。
春は出会いと別れの季節なんだ。改めてそう自覚した時、こんな四字熟語が頭に思い浮かぶ。
一期一会。
キミはアタシにとって大切な存在だった。小学生からランドセルを取ったら何も残らないのと一緒で、アタシからキミを取ったら何も残らない。言わば──いや、言わずともキミはそれくらい大切な存在。
けれど、これ以上アタシの都合で未来は変えられない。そんな神様のような事は本来するべきではないのだ。
せめて、キミを見送ろう。家に行くとトラックが停まっていて、荷台と家を業者の人が行き来していた。そこにたまたまキミのお父さんがすれ違ったので、咄嗟に声をかける。
「あの──」
百段近くある階段を上がった所には桜並木があった。そこはこの時期、たくさんの桜の花が舞い散り、それを一目見ようと、観光しにくる客達がいる。はずなのだが、偶然か必然かどちらにせよ、私とキミの二人きりの状況だった。
全力疾走で百段近くある階段を上ってきただけあって、まだ息は整ってなかったものの、言葉は自然に口からこぼれ出た。
「ここにいたんだね…」
キミはアタシに背を向けたまま、懐かしむような声で呟いた。
「はい。友人とここでよく遊んでたんです」
その友人は訊かずともわかった。きっとアタシの事なんだと……。
口を開く。しかし声は出ない。
ここで遊んでいた友人はアタシだと伝えたい。キミのことが好きで、キミのタイプに合わせようとして未来から来たことを伝えたい。もうなにもかも全てを、真実を伝えたい。でも、どうしても声が出ない……。
キミは深呼吸をすると急に振り返る。幼いキミの目に映るのは高校生のアタシ。年齢が違うという異常な状況だけど、それはもう今更のこと。そして、アタシが見るキミは紛れもないキミだ。アタシがいつも一緒にいたキミだ。キミ以外の何者でもない。
もう、なんて言葉をかければいいのかわからない。もし、かけるような言葉があったとしても、きっと、声にはならないだろう。そんな自分の弱さが悔しかった。
そして、ゆるやかに流れていた時間は急に加速する。
キミが口を開き──。
「もしあなたがあの人だったらよかったのに」
そう言い残し、キミが歩き出した瞬間に。