「ハハハハハハ!無様だな!」
実に愉快そうな嘲笑が響く。
ザエルアポロは目の前に俯せで倒れている少年の破面を見下しながら手に持った人形を小突いたりしている。
「僕を嘗めてかかって来るからこう言う事になるのさ!フフフ、どうせ十刃になる為に戦闘能力が低いと言われている僕を殺そうとしたのだろうけど、残念だったね!」
「…確かに、残念だね」
「何?………なっ!?」
ザエルアポロの視界から地面に伏していた筈のディークの姿が消えた。それと同時に手に持っていた人形も消えていた。
「ほれほれ、こっちだよ~っと」
ザエルアポロが後ろを振り向くとニヤニヤと笑みを浮かべたディークが人形を持って立っていた。
「な、何故だ!手足の腱は潰した筈だ!」
「ああ、潰されたよ。その後『超速再生』で治したけどね。」
「超速再生だと!?」
超速再生は虚が持っている能力で、欠損した体の部位を再生させる事が出来る。だが、破面になると大半の者はその能力を失う筈なのだが……
「え……?いや、何そんな驚いてるのさ、虚なら普通出来るだろ?」
「ふざけるな!破面は超速再生の能力は失われる筈だ!」
「あ、そうなの?とは言え……再生出来たし」
ディークはどうやらその能力が失われなかった様だ。
「それにさぁ…こんな人形遊びで俺を倒そうとしている事の方がよっぽど嘗めてない?こうして奪っちゃえば何の意味も無いのに」
「くっ……糞がッ!!」
ザエルアポロは手を突き出すと霊圧を収束させる。黒い霊光が掌に集まり、ディークに向け放たれる。
それに対し、ディークは人形を袴のポケットに突っ込み右足を上げ片足で立つ。上げた右足が赤い霊光を纏うと、左足を軸にして回し蹴りを放った。
巨大な赤い霊圧の塊が黒い霊圧とぶつかり爆発を起こす。その光景に目を見開いたのはザエルアポロだ。
「ば、馬鹿な…黒虚閃が……
「ほらほら、驚いてる暇無いぞ。
もう一発だ!!」
ディークは赤い霊光を纏う足で更に回し蹴りを放ち、巨大な霊圧の塊を撃った。それは凄まじいスピードで無防備だったザエルアポロに直撃し大爆発を起こした。
爆発による砂煙が晴れると、中からボロボロの状態のザエルアポロが現れる。背中の羽で防御したのか4本の内2本が完全に焼き切れている。
「な、何なんだ……その技は…虚弾じゃ無いのか!?」
「虚弾だよ。まあ、ちょいとアレンジは加えてるけどね。一応俺は
ギリギリと奥歯を噛み締めるザエルアポロ。彼は手を振り上げて回りに待機させていたクローン達に指示を送った。
「奴を殺せッ!!徹底的にだ!!」
一斉にディークへ飛び掛かるクローン達。だが、それにもディークはただヘラヘラと笑っているだけだ。
「懲りないねぇ…もう面倒臭いし、終わりにしよっか?」
ディークは足に力を込め、真っ直ぐザエルアポロに向かって突進した。クローン達の作り出す壁があるが、ただ体当たりをして蹴散らし、ザエルアポロの目の前まで突き進む。
そして、ディークは左手で相手の肩を掴み左足で足の甲を踏みつける。後ろに逃げようとしていたザエルアポロは完全に拘束された。
そして、ディークは残った右腕を後ろに引き、鳩尾に向かって正拳突きを打ち込む。
「
「ゴバァァ……!?」
ディークの呟きと共にザエルアポロは口から血を吹き出して倒れた。膝を付く事も、腕で受け身をとる事もしなかった。いや、出来なかったと言う方が正しいか。
「……なに、を…したァ!」
「これも俺のアレンジ技、
拳を伝って相手の体内に虚閃を放つ技さ。相手がどんなに堅くてもこれなら関係無しに効くから、結構重宝してるよ。」
「ぐッ……がアァッ!!」
「さあ、どうする?このままだと君は死ぬぜ?」
「く…ふ、フフフ…僕が…死ぬ?笑わせ、るね」
ディークの足元からまた触手が伸びた。
ザエルアポロは相手の体内に卵を産み付け、相手の霊圧を喰らい復活する
卵を産み付ける為にディークの体を絡めとろうと触手を向かわせるが……
「…男に触手プレイとか、ないわ~」
居合い斬りで切られ、触手が地に落ちる。
「何かさ、十刃って聞いたからどんなものかと思ったけど……『失望』したよ。生かそうかとも思ったけど、襲われたし…」
「な……ま、まて…」
「それじゃ、サヨナラ」
軽い一振りだけで命は刈り取られた。完璧な生物を目指していた科学者の最後にしては、何とも呆気ない物であった。
◇
後ろから円い刃が飛んで来る。
無理矢理横に倒れる事で何とか避けた。堅い床がいとも簡単に切り裂かれる。良く比喩で使われるバターみたいに、と言うのが一番合う切れ味を持っている。
急いで立ち上がって走り出す。人間だった頃より段違いに速く走れているのが分かるけど、後ろから追い掛けて来る女の人は、何か瞬間移動みたいなのを使って直ぐに追い付いてくる。
「ホラ!喋る気になった!?」
「─────!!」
『だから喋れないんですって!!』
必死に逃げているが、段々と息が上がってきた。それに刀も今の所服に掠るだけだが、何時当たってしまうか分からない。
「悲鳴すら上げないなんて、強情過ぎでしょ!さっさと喋りなさい!」
また円い刃が飛んで来る。横に避けようとしたけど、足を滑らせて転んでしまった。体を打ち付けた痛みを我慢して、起き上がろうとしたら足首に激痛が走った。どうやら捻挫した様だ、とてもじゃないけど動かせない。
「やっと止まったわね。全くちょこまかと……なっ!?」
「───!?」
『何、コレ…!?』
体が重くなる。恐らく大きな霊圧がかかっているせいだと思うけど……
藍染さんと会った時と同じ位、異質さに関してはこちらの方が上と言った感じの霊圧。それが急に
「おやおや、随分と、手荒くエフィちゃんの相手をしてくれたみたいだね?」
「な……ぁ…ぁ……」
何時の間にかディークが居た。この霊圧もディークが放っているみたいだ。きっと、私が襲われてるのを見て怒っているのだろう。
凄く怖い、けど私を護ってくれるディークに恐怖はいらない。だから……
「─────!!」
『待ってぇー!!』
「え?エフィちゃ……ってあだぁ!?」
足を痛めてるから飛び掛かる様な形になってしまって、ディークを押し倒してしまった。少し……かなり恥ずかしい。
『その女の人は勘違いしてるだけだから!だから、こ……のは待って!』
「あわわわわ!?わわ、わ、分かったから落ち着いて!頼むから落ち着いてくれ!!」
ディークの霊圧も収まったのでそそくさとディークの上から退いた。顔が熱い、仕方がないとは言えディークを押し倒して……
「い、命拾いしたな!こ、今回だ、だけは見逃して、や、やるよ……」
「え……な、何なのよ……」
ディークも動揺しちゃってるみたい。何だか言ってる言葉が負けた人の捨てゼリフみたいになってる。
「おーいチルッチ!大丈夫か!?」
先程、女の人──チルッチと言うのだろうか?──と一緒だったアフロの人とドルドーニさんが瞬間移動で現れた。
「おお、お嬢さんよ!無事であったか!」
「あっ、ドン・パニーニさん!何でしっかりエフィちゃんの事護衛してないのさ!!」
「だからドルドーニだと何度言わせるのだッ!!
……お嬢さん護衛の件に関してはすまないと思っている。言い訳するなら背後から奇襲を受けてだな……」
「………」
奇襲って…私の蹴りなんだけど……
「奇襲?そこの女にか?」
「私じゃ無いわよ!私達が来た時にはドルドーニはもう倒れてたのよ。てか、私の名前はチルッチ!チルッチ・サンダーウィッチよ!」
「チルッチちゃんね……じゃあ後ろのアフロが奇襲を?」
「俺でもねぇよ。それと、俺はガンテンバイン・モスケーダだ」
「……ガンダラバイン?」
「ガンテンバインだ……」
ディークは男の人の名前を覚えるのが苦手な様だ。
「ドルドーニを奇襲したのってアンタじゃ無い訳?あんな馬鹿みたいな霊圧放ってたから私はてっきりアンタかと思ってたんだけど」
「いやいや、俺がやったのは俺達を襲って来た破面とザエルアポロだけだよ。ドルドーニさんにはエフィちゃんの護衛を頼んでたし……あ、因みに俺はディーク・ラフディオスだ、よろしく」
「ディークか…ディークもやってねぇってんなら、一体誰が……?」
どうしよう、何だか話が拗れてきた気がする。余計に言い出しにくくなっちゃった…
「ふむ……ここで一度整理しようではないか。先ず、吾輩がお嬢さんの護衛をしていた所に何者かの奇襲を受け倒れてしまった。そこへ我が同胞達がやって来て、お嬢さんを犯人と勘違いして襲ってしまった、と」
「そう言う事になるな。けどよ、やっぱ疑問なんだが……」
ガンテンバインさんが私を見ながら口を開く。
「お前は何で襲われなかったんだ?それに、犯人見て無いのか?」
痛い所を突かれた。確かに私が起きてるのは不自然過ぎる。
焦りを表情に出さない様に必死に無表情を作る。推理ドラマの犯人の気持ちが分かった気がする。このまま自白した方が良いのかな?
「……エフィちゃん?」
「─────……」
『ご免なさい、ドルドーニさんをやったのは私なんです……』
「ええっ!?な、何で!?」
かくかくしかじか……要約すればドルドーニさんが変態だったとディークに伝えた。
「結局テメェのせいじゃないか!!」
「ぶごぉッ!!?」
ドルドーニさんの顔面にディークの膝蹴りが綺麗に入った。勢い良く吹っ飛んだドルドーニさんは地面に大の字になってピクピク痙攣している。
ディークが二人に事情を説明するとチルッチさんはゴミを見る様な蔑みの目でドルドーニさんを見下ろし、ガンテンバインさんは十字を切って祈りを捧げた。多分まだ死んで無いと思うけど……
「まあ、一応何事も無く目的である第8宮及び従属官達を奪えたし、結果オーライって事で」
「ちょっと待ちなさい!第8宮奪った!?どういう事よ!!」
ディークが二人にその事についても説明する。二人共驚愕の表情になってる。
「じ、じゃあ、アンタ…今は第8十刃って事?」
「そうなるの…かな?まあ、まだ正式にではないけどね」
軽い調子でディークは言ってるけど…『十刃』ってここで一番強い人達の集まりだってドルドーニさんから聞いた。ディークが強いのは知ってるけど、この軽さは私も少し呆れてしまう程だ。
私も含めて呆れて物も言えない状態になっていると、通路から誰か来た。
「おお、おったおった。探したで、新人君」
糸目が特徴的な人、ギンさんがこちらに歩いて来た。
「ああ、市丸様。自分めに何かご用でしょうか?」
ディークが急にへりくだった喋り方になる。藍染さんがこの『虚夜宮』の主だから、副官のギンさんも偉い人だと聞いてる。ディークの反応も当たり前と言えば当たり前だ。
「そんな畏まらんでええよ。僕、そう言うの苦手やから。
それより、見てたでアレ。凄いなぁ、あくまで十刃の彼が手も足も出ないなんてなぁ。」
「いやいや、奴が油断していただけ、ですよ」
「謙虚やなぁ、まあええけど。
それより、君達に正式に数字与える準備が出来たんや。ディーク君の場合は変更でNo.8を貰う事になるけどなぁ」
「そうですか、タイミングが良くて助かりますよ。態々そんな事を伝えにありがとうございます」
「ええってええって。それと、数字貰ったらそのまま藍染隊長の所行っとき。十刃集まっての顔合わせする言うとったからな。ほな、またな~」
そのままギンさんは行ってしまった。何か凄い探り合ってる様な会話だった。
「ほ、本当に十刃になるんだ…こんなガキが……」
「おーい、チルッチちゃん。結構失礼な事言ってるの気付いてる?」
「吾輩は分かっていたぞ。こうなる事を!」
何時の間にかドルドーニさんが復活していた。
「改めて坊や、いや第8十刃、ディークよ!この集会が終わった後に吾輩と手合わせ願おうか!!」
「え、もうなの?気が早いなぁ……もうちょっと落ち着いてからにしようよ。ちゃんと手合わせ自体はするからさ」
「なら、俺も何時か手合わせを願いたい。俺だってまだ、十刃への道を諦めた訳じゃ無いからな」
「お!良いね、燃えてくるね!全力でかかって来いよ!!」
皆熱いなぁ……男の人のこう言うノリって本当に良く分からない……
「さあて、先ずは数字とか貰って来なきゃな。さ、エフィちゃん、行こうか!」
ディークは私の手を掴んで走り出した。
男の人とかこう言うので青春とか叫んじゃうのかな?確かに青春ドラマとかでこう言うシーンがあった気がするけど……だったら私は一生青春の良さが分からないかもしれない。
だって、急に引っ張られて走り出したせいで足を捻挫している私は盛大に転んでしまった。慌てて謝ってきたディークに本気のビンタをしておいた。ディークの吹っ飛んだ先の壁が陥没してるけど、見なかった事にしておく。
第5話、どうでしたでしょうか?
ザエルアポロ様はご退場しました。きっと今頃は地獄で元気にしているでしょう。ザエルアポロファンの皆様すいません。
ザエルアポロをターゲットにした理由ですが、今後裏で手回しされそうだからと言う物です。頭脳明晰な彼が頑張っちゃうとディーク君が大変なんですよ。
やっと、これで日常系が書ける!やっぱり皆でまったりしてた方が良いもんね?
次回もお楽しみに!
(今回のまとめ、関西弁は難しい)