楽しんでいただければ幸いです。
「―――会いたいなあ」
荒野に少女の呟きが響く。
「もう3年近いのかあ……会いたいなあ」
少女は呟きを続ける、その声色に…確かな狂気を抱きながら。
「君はボクの……ううん、我のものだよ……カズキ」
少女は静かに、異形の姿へと変わった――
――フェンリル極東支部、通称『アナグラ』
「~~~~~~♪」
シャワールームのある一室にて、1人の少女が自らの身体を清めていた。
暖かいシャワーを全身に浴びながら、少女は至福の時を過ごしている。
やがて蛇口を捻りシャワーを止めた後、少女は腰辺りまで伸びた長い白銀の髪を掛けてあったバスタオルで拭きながら、濡れた身体も拭いていった。
「――おい、まだか?」
「もう少し待っててください、今行きますから」
外から聞こえた男性の声に返しつつ、少女は急ぎ足で着替えがあるロッカーへと向かう。
昇級した際に支給された新しい制服、それを一度眺めてから少女は早速身につけようとして……。
「…………あれ?」
一方、シャワールームの外では1人の青年が新しく支給された制服を見ながら舌打ちを零す。
「……アイツと同じ白、か」
「いいじゃんいいじゃん、俺ほどじゃないけどソーマも似合ってるぜ!」
「フン……言ってろ」
そう言って、青年――ソーマ・シックザールは口元に笑みを浮かべつつ同じ部隊の仲間である藤木コウタへと視線を向ける。
「あれ? アリサはまだ?」
「もう来るだろ、さっき返事があったぞ」
「――お、お待たせしました」
ガスが抜けたような音と共にシャワールームの扉が開き、1人の少女が2人の前に現れる。
彼女の名前はアリサ、ソーマとコウタと同じ部隊――極東支部第一部隊所属の“抗神アリサ”だ。
しかし今の彼女はどこかもじもじしている、というのも……上着のファスナーが閉まらず上部三分の一程度しかファスナーが降りていないからである。
激しく動いたら彼女の豊かな胸が見えてしまうかもしれない、そう思っているからこそアリサはどこか胸元を隠すように手を添えていた。
「じゃあいくぞー」
「あれ!?」
しかし2人は特にツッコミを入れる事なくエントランスホールへと向かい始めた。
それに対し驚くアリサであったが、2人にとって今の彼女の格好は前のとあまり変わらないので特にツッコミを入れる必要がないだけであったりする。
「新しい任務ってなんでしょうね?」
「さあな」
「そんな事よりさ、妹が『この仕官服かっこいいね!』って言ってくれてさ」
「コウタ、その話三回目なんでやめてくれません? やめないと簀巻きにして外に放り出しますよ?」
「恐っ!? お前の場合本気でやりそうだから冗談かどうかわからないんだよ!!」
「本気に決まっているじゃありませんか」
「おっそろしいわ!!」
などと話しているうちに、3人はアナグラのエントランスロビーへと辿り着く。
「それにしても、私がこの極東支部に配属になってだいだい3年も経つんですよね……」
「そういえばそうだな、俺はますますカッコよくなっちまったから困っちまうよ」
「はいはい、よかったですね」
コウタの戯言を軽く流しつつ、アリサ達はオペレーターの武田ヒバリの元へと赴こうとして……数人の男性神機使い達に声を掛けられた。
「先輩!」
「はい?」
「おお……よかった、着替えたけどいつも通りだ!!」
「ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「アリサ先輩、今日もまぶしいッス!!」
「は、はあ……」
いきなりわけのわからない事を言われお辞儀までされてしまった、これにはアリサも困惑せざるおえない。
「おーいお前ら、あんまりアリサを見てっとそいつの旦那様にぶっ飛ばされるぞー」
「げげっ、それは勘弁!!」
コウタの言葉を聞いて、男性神機使い達は一斉にアリサから離れていく。
やはりこの言葉は効果覿面のようだ、改めて3人はヒバリの元へ。
「昇級、おめでとうございます」
「ありがとうございますヒバリさん。……あの、ところでカズキは一体」
「カズキさんでしたらローザさんと一緒に、先にサカキ博士の所に行っていますよ」
「そうですか……」
「ふふっ、きっと似合ってるって言ってくれると思いますよ。カズキさんなら」
「……私、期待するような顔になってます」
「はい、とっても!」
ニコニコと微笑むヒバリに、アリサは恥ずかしくなって視線を逸らした。
そろそろ行くぞ、ソーマが顔を赤らめているアリサにそう告げようとした瞬間……彼は背中から重い衝撃を受ける事になってしまった。
強い衝撃であったが、反射的に両足に力を込める事によって倒れるのを阻止、そしてギロリと背後を睨みながら犯人の名を告げる。
「おい“シオ”、それはやめろって言っただろうが」
「ソーマ、新しい制服になったな、よく似合ってるぞ!!」
男でも萎縮してしまうほどの眼力を持つソーマの睨みを受けても、彼の背中に飛びついた少女――シオは笑顔を崩さない。
ドレスのような衣服に身を包んだこの少女の名はシオ、見た目は少し肌の色が白すぎる人間の少女のようにしか見えないが…実は彼女は人間に進化を果たしたアラガミである。
3年前、とある事件が起きる前に発見されたこの少女は、第一部隊の者達の活躍によって人間として生きる事を許され、今ではゴッドイーターとして人々を守るために戦っていた。
「シオな、今日は自分で髪の毛を結えたんだぞー。凄いだろー?」
言いながら、肩辺りまで伸びた白い髪をポニーテールにした姿をソーマに見せびらかすシオ。
3年経っても彼女のこういう子供っぽい所は抜け切っていない、だが微笑ましいその姿は自然と笑みを作ってしまう。
「こらー、もういかないと怒られるぞー!!」
尚もソーマに抱きついているシオを、頭部に金色に輝く第三の目を付けている小柄な少女が無理矢理引き剥がした。
彼女の名はラウエル、彼女もシオと同じくアラガミであり…元は通常より小さなサリエルだったのだが、数回の進化を遂げて第三の目以外は人間の少女と変わらない容姿となっている。
彼女もまたアナグラを守るために日夜アラガミと戦っている、とはいえ彼女はシオと違い神機を持たないため(シオも厳密には腕を神機のように変形させているので、彼女も神機を持ってはいない)、サリエル種と同じようにレーザーや衝撃波、果てには毒粉などを用いて戦っている。
「わかってるよー!」
「わかってるならさっさと行こうよー。ごめんねアリサー、それとついでにソーマとコウタ!」
「俺らはついでかよ」
「ソーマ、また後でなー!!」
腕を掴まれ、そのまま宙に浮いたまま引っ張られるシオに、ソーマは小さく手を振って応えてあげた。
そして今度こそ、3人はエレベーターに乗り込みある場所へと向かう。
その場所とは、この極東支部の支部長でありアラガミ研究の権威と謳われる“ペイラー・榊”博士が居る支部長室だ。
役員区画で降り、3人はそのまま支部長室へと入った瞬間、おもわず間の抜けた表情を浮かべてしまう。
支部長室に入って3人が初めに見た光景、それは……支部長の机の上にこれでもかと積まれた書類に押し潰されている榊の姿であった。
そんな彼を救出するため、一組の男女が苦笑しながら雪崩のようになっている書類を集めている。
「ん? あ、お姉ちゃん達ちょうどいい所に来てくれた!」
「悪いけど、この散らばった書類を拾うの手伝ってくれる?」
書類を集めている男女――抗神カズキとその義妹である抗神ローザが入ってきた3人に気づき、声を掛けた。
呆れながらも散らばった書類を整理していき、全て集め整理するのに五分の時間を要してしまった。
「いやあ、すまないね。気がついたらあんな事になってしまってたんだ」
ずれてしまった眼鏡を直しつつ、椅子に座りなおすサカキ。
それを見て苦笑しながらアリサは拾った書類へと視線を向け、ある事に気づく。
「博士、これ……居住区の書類ですね」
「うげっ、苦情ばっかじゃん……」
「……実はね、今回君達にはこれ絡みの任務を行ってもらいたいんだ」
「と、いうと?」
「君達も知っての通り、この極東支部にはおよそ十五万人もの人間が住んでいるんだ。アラガミによって減少した人口も上昇傾向にあるんだけど……人が増えればその分物資が必要となる。
けれどアナグラの地下工場では限界があるんだ、この苦情だって殆どがその足りない物資に対するものだからね」
「だから僕達第一部隊で、住む場所となる新しいサテライト居住区の候補地を捜そうって事になったんだ」
「ええっ!?」
「でもさカズキ、俺ら戦うのは得意だけど住みやすい場所とかわかんねえよ!」
「僕達がやるのはその下準備だよ」
「下準備?」
「新しい居住区を建設する、でもそれにあたってはアラガミの存在を無視するわけにはいかない。なんだけど……サカキ博士によると、最近アラガミの行動には規則性があることがわかったらしいんだ」
ですよね、博士?カズキが視線を向けながら問いかけると、今度はサカキが説明をし始めた。
「たとえば君達が朝起きて顔を洗って歯を磨いて……そんな生活のリズムのようなものがアラガミにも見られるんだ」
「……成る程、つまりそのリズムがわかればアラガミが近づかない場所がわかる、と」
「正解だよアリサ、だから僕達は極東付近でアラガミの行動パターンを観測して比較的安全な地域の割り出しを行う。極東各地を廻る長期の遠征になるけど……頑張っていこうね?」
何か他に質問はある?カズキが3人に問いかけるが、特にないと3人は無言の返答を返す。
「長期かあ…じゃあお土産たくさん買って帰らないと!」
「あ、コウタはローザと一緒に留守番だよ」
「はあ!?」
「バックアップしてくれる人員が必要だからね、それと……コウタにはローザと一緒に新人育成をしてもらわないといけないし」
「新人育成……?」
「お兄ちゃん、来たみたいだよ」
ローザがそう言うと、支部長室に誰かが入ってきた。
その内の一名は第一部隊所属となったエリック・デア=フォーゲルヴァイデ、彼はカズキと視線を合わせるとにこやかな笑みを浮かべた。
「はじめまして、“エリナ・デア=フォーゲルヴァイデです」
「僕の名はエミール。“エミール・フォン=シュトラスブルク”………よろしく」
「キモッ……」
「…………」
えっ、こいつらを新人育成すんの、俺が?
そんな視線を向けてくるコウタに、カズキは無慈悲にもにっこりと微笑んで頷きを返す。
「大丈夫だよコウタお兄ちゃん、ローザも居るしエリックお兄ちゃんだって手伝うから一緒に頑張ろう?」
「微力ながら僕も力を貸すから、共に頑張っていこうじゃないか」
「……助かるよ、2人とも」
ローザとエリックの暖かい言葉に、コウタは少しだけ不安を拭う事ができた。
自分1人だけではこの濃い2人を対処しきれない、まあ濃いのはエミールだけだがこの殺伐とした空気を対処するのは酷というものである。
「それじゃあ一時間後にヘリポートに集合、いいね?」
「了解しました!」
「ああ」
■
「――なんだか新しいタイプの新人さんが来たね」
「確かに……コウタが育成だなんて、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。コウタはなんだかんだでしっかりしてるし、ローザとエリックさんも居るんだから」
自室に戻り、出発の準備を進めるカズキとアリサ、ローザはそれを手伝っていた。
「ローザ、エリックさんと一緒に頑張ってね? けど無理はしちゃ駄目だよ?」
「お兄ちゃんには言われたくないよ、お兄ちゃんこそ無茶したら駄目だからね?」
「わかってるさ」
「それはそうと……ローザ、その服なんですけど私が前に着ていた服とそっくりですね」
というより、まったく同じデザインだとアリサは思った。
だが自分のお古を渡した覚えはない、そう思っているとローザはよくぞ訊いてくれましたとばかりに笑みを浮かべ、アリサの問いに答えを返す。
「お姉ちゃんの服を貰えばいいかなーって思ったんだけど、胸のサイズが合わないからオーダーメイドにしてみたの。
前からお姉ちゃんの服って動きやすそうでいいなって思ってたから、でもおかげで貯金を結構使っちゃってたり……」
「あらら……」
「そういえばお兄ちゃん、確かリンドウさん達と別の任務で遠征するんじゃなかったっけ?」
「最初はそうだったんだけど、サクヤさんが代わりに行く事になったんだ」
「あれ? でも2人の子供はどうしたの?」
――今からおよそ一年半ほど前、サクヤはリンドウとの子供を産んだのだ。
だから彼女は一度戦線を離れたのだが、一体その子供はどうしたのだろうか。
ローザの問いにカズキは答えを返すのだが……その内容はとんでもないものであった。
「実はね……子供も一緒に連れて行ったみたい」
「ええっ!?」
「危険だって言ったんだけどね、サクヤさんだけじゃなくリンドウさんまで遠征に連れて行くって言ったものだから……まあもちろん向こうではサクヤさんは安全な場所に居るだろうけど」
「それは当たり前だよ……大丈夫なのかな?」
「2人でよく話し合って決めた事だからね、僕達もそれ以上強くは言えなかったんだ。それにリンドウさん達ならきっと大丈夫だよ、ツバキ教官だって居るんだし。……だからアリサ、僕は遠征に行かないからそんな絶望したような顔にならないでよ」
「……危うく心臓が止まる所でした」
「そんなに!?」
「あはは、相変わらずお兄ちゃんとお姉ちゃんはラブラブだね!」
「当たり前じゃないですか!」
「……とりあえず、準備を進めようか?」
このままでは予定時間に間に合わなくなってしまう。
そうなってしまえば、ソーマに一体何を言われるかわからない、そう思ったカズキは黙々と準備に取り掛かるのであった。
――再び、物語が幕を開ける。
だが今回の物語はカズキだけのものではなく……もう1人。
2人の物語が交差する時、世界は動き出す。
その時まで……あともう少し。
To.Be.Continued...
暫くはセカンドブレイクの世界をベースに物語を書いていく予定です。
ただ先にネタバレをしてしまいますが、セカンドブレイクで出てきたアーサーソールの2人は出しません。
理由は2本編で現れなかったのと、私自身が動かす自信が無いからです、ご了承ください。