新たな任務を胸に、彼等は新たな運命に翻弄されていく……。
――極東支部を出発し、ヘリでの移動を続けるカズキとアリサとソーマ。
「――おい、アリサ」
「なんですか?」
「この荷物、一体なんだ?」
ソーマの視線が地面に向けられる。
そこにあるのは八個もの大型バッグ、その全てがアリサのものだ。
「着替えですよ?」
「…………チ」
「あ、なんですかその態度! 言いたい事があるならはっきり言えばいいじゃないですか!」
「言わねえとわかんねえのか? ……カズキ、あんまりアリサを甘やかすな」
「なんですかそれ! そりゃあちょっとは多いかもしれませんけど……別に言うほど多くはないですよね!?」
「……ノーコメントで」
「ええっ!?」
騒がしくも楽しい雰囲気に包まれる飛行機の中。
彼等のやりとりに、パイロット達もおもわず苦笑をしてしまう。
賑やかな旅路になりそうだ……そんな中、カズキはふと視線を外へと向けた。
「……?」
「カズキ、どうし…………っ」
「おい、どうした?」
「……パイロットさん、南東からアラガミが近づいてきます。念のため進路を変更した方がいいかと」
「了解。少し回り道になりますが進路変更します」
カズキのアラガミ探知能力は最新のレーダーよりも優れている。
パイロットもそれがわかっているからこそ彼の声に従い、すぐさまヘリの進路を変更した。
これならばアラガミに発見される事はないだろう、少しだけ緊張していた心をいつも通りに戻した瞬間――アラームが鳴り響いた。
「えっ……」
「何これ、感じた事のない偏食場……新種のアラガミなの?」
それと同時に、カズキとアリサの中にあるアラガミが警鐘を鳴らした。
猛スピードでこちらへと近づいてくるアラガミが居る、それも新種のだ。
「緊急回避を!!」
「り、了解――」
そこで、パイロットの声が途切れた。
次に聞こえたのは爆音、更にはヘリ全体を激しく揺らす衝撃。
攻撃された、それを理解しながらカズキ達はヘリごと地面に向かって落ちていき……。
■
「…………」
ヘリの残骸の中で事切れているパイロット達に、カズキは目を閉じ黙祷を送った。
ゴッドイーターの強靭な肉体があったが故にカズキ達3人は無事であったが……パイロット二名の命はここで消えてしまっていた。
守れなかった自分に不甲斐なさを感じつつ、カズキはただ黙祷を続けた。
「カズキ」
「……大丈夫、大丈夫だよ」
自分を心配そうに見つめるアリサに、カズキは優しい笑みを向けた。
それで一応の納得を見せたのか、アリサは現状を説明する。
「通信機はダメですね、極東には連絡できそうにありません」
「そうか……」
「それにしても……ここ、どこなんでしょうか……?」
どうやら朽ち果てた森の中に落ちてしまったようだ、周りには枯れ木だけが広がっている。
……極東への方角はわかるが、徒歩で行くには一日では足りない。
「ソーマ、とりあえずさっきのアラガミと鉢合わせになるのは避けたいから、移動するけどいいかな?」
「ああ、それがいいだろ」
「待ってください、今何か聞こえませんでした?」
「えっ?」
アリサの言葉を聞き、カズキとソーマは立ち止まり耳を済ませる。
静寂に包まれる森の中、だが――僅かに銃声の音が聞こえた。
「っ」
「今の……銃声!?」
「アリサ、ソーマ、神機を開放して音のあった場所に向かうよ!!」
言うやいなや、カズキはケースから神機を開放しながら一気に駆け抜ける。
一歩遅れてそれに続くアリサとソーマ、暫し森の中を走り……彼の瞳が、ある光景を捉えた。
それは中型トレーラーを囲むように展開している、小型アラガミの群れ。
姿形からしてオウガテイルのようだ、数は……八体。
「アリサは左、ソーマは右、僕は正面から攻める。お願い!!」
「了解!!」
「ああ、わかった」
カズキの指示に従い、2人はほぼ同時に左右へと散った。
カズキはそのまま正面に向かって駆け抜け、自分に一番近いオウガテイルへと狙いを定めた。
上段からの一撃、風切り音を響かせながら振るわれた斬撃はオウガテイルの首を一撃の元に斬り飛ばす。
続いて後ろ回し蹴りを首を跳ね飛ばしたオウガテイルへと叩き込み吹き飛ばして、別の固体へとぶつけ動きを止めつつ地を蹴った。
次に放つのは横薙ぎの一撃、先程動きを止めたオウガテイルを横一文字に斬り裂き、事切れた死体を右足で蹴りつつ大きく跳躍した。
重力に逆らう事なく地面に落ちながら、カズキは勢いを加えた上段斬りで三体目のオウガテイルをこの世から抹消させる。
着地と同時に神機を銃形態へと変形させ、ソーマが同時に相手をしている三体のオウガテイルの一体へと銃弾を叩き込んだ。
真横からの奇襲をまともに受け、オウガテイルの動きが止まる。
その隙を逃さずソーマは神機を振るい、一撃で相手の顔面を粉砕、返す刀で二体目の身体を二つに分けた。
残り三体、2人はすかさず次の標的へと視線を向け……その時には既にアリサが残りのオウガテイルの命を奪った後であった。
「終わり、ですね」
「コアの摘出をするよ、2人とも手伝って」
「ああ」
オウガテイルの死骸からコアを摘出する、すると全てのアラガミの身体が塵へと消えた。
戦いの終わりを告げるように息を吐いてから、カズキはトレーラーへと視線を向ける。
「これ、フェンリルのトレーラーみたいだけど……」
「……マークが消されてますね」
「――これはこれは神機使いさん、助けてくださってありがとうございました」
トレーラーのドアが開き、中からお礼の言葉と共に現れたのは……1人の女性。
眼鏡を掛け胸元が開いている服を着たなかなかの美人だ、アリサは現れたのが女性だと知るやさりげなくカズキの隣へと移動する。
「こんな森の中でどうされたんです?」
「あ、実は……」
「まさか、人類最後の砦であるフェンリルの神機使い“様”が、よもや迷子……だなんて、あるわけないですよねー?」
「…………」
わかりやすいまでの挑発、様をわざわざ強調して言っている辺りこちらに対してあからさまな嫌悪感を抱いているのは明白であった。
女性の態度にアリサはおもわず驚き、ソーマは眉を潜める。
「――僕はフェンリル極東支部所属の抗神カズキといいます、あなたのお名前は何というのですか?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は“高峰サツキ”、真実を追い求めるフリーのジャーナリストです」
「よろしくサツキさん、ところで申し訳ないのですが通信機がありましたら貸していただけませんか? 実はですね――」
カズキは先程自分達に降り掛かった出来事を、サツキへと説明する。
「成る程……まああなた達は一応助けてくださったわけですし、私としても神機使いに借りを作るだなんてしたくありませんからそちらの要望にはお答えしましょう。
それと、私はこれからある場所へと向かうのですが……護衛をお願いできますでしょうか? もし応じてくれるなら同乗を許可してあげなくもないですよ」
「助かります、お願いできますか?」
「ええ、いいですとも。じゃあさっさと乗ってください」
棘のある物言いのまま、サツキはトレーラーの中へと戻っていく。
「幸運だね」
「……どこかですか。あの人…初対面なのに失礼過ぎません?」
「仕方ないさ。僕達が神機使いならああいう態度になる人だって居るよ」
「…………?」
それはどういう意味なのだろう、アリサはおもわずそう問いかけようとしたのだがカズキがトレーラーへと乗り込んでしまったので、慌ててその後を追ったのだった。
――その後、カズキ達はサツキのトレーラーにて彼女の目的地へと向かい始めた。
トレーラーの中には様々な機材が所狭しと並べられており、他にも護身用であろう銃や洗濯された下着が干されて……。
そこでカズキは慌てて視線を逸らす、顔はほんのりと赤く染まっていた。
――後ろでガツンという音が聞こえた。
振り向くとソーマが頭を押さえており、そんな彼の足元には機材が落ちている。
どうやら上から落ちてきた機材が彼の頭に直撃したらしい、さすがに痛かったのか彼の身体は僅かに震えていた。
「ソーマ、大丈夫?」
「…………ああ。クソが」
「すいませんねー、散らかってまして」
まったく悪びれない様子のサツキ、やはり彼女の態度は良いとは言えない。
「ところでサツキさん、護衛はどうしたんですか?」
「みーんな食べられちゃいましたよ、みんなね」
「そうですか…………ところで、これから何処に?」
「この辺じゃ一番大きい居住区に向かってます、さしずめミニエイジスといったところですか」
「居住区!? この辺りに人の住める場所があるなんて……」
「――人が生きていけるのが、極東支部の中だけだと思っているんですか?」
怒気を孕んだサツキの声が、トレーラーの中で響き渡る。
アリサは視線を逸らし、そんな彼女の頭をカズキは慰めるように優しく撫でた。
「随分と仲がいいんですねー、もしかして恋人同士とか?」
「いえ、彼女は僕の奥さんです」
「………………は?」
何言ってんだこいつ、サツキの表情がそう物語っている。
それに苦笑を返しつつ、カズキは言葉を続けた。
「二年前に結婚しまして、だから仲が良いように見えるのは自然な事ですよ」
「…………それは、冗談ですよね?」
「いいえ。まあ僕はまだ22で彼女に至っては18なので、早い結婚かもしれませんけど」
「えっ18って……じゃあ結婚した時は16歳って事ですか!?」
ありえない、なんなのだこの2人は。
サツキは彼等に向けていた嫌悪感すら消し去り、驚愕の表情を浮かべてしまう。
「極東では女性は16から結婚できるはずですけど……何かおかしいですか?」
「……いや、そういう事じゃなくて」
いくらなんでも早すぎでしょ、そう言いかけて…サツキは口を閉じた。
なんだかアホらしくなったからだ、あっけらかんとこんな事を言ってくる目の前の青年には、どんな皮肉も通用しないと悟ったのかもしれない。
話を無理矢理切って運転に集中する事にしたサツキ、ふと視線を外に向けて……ぽつりと呟きを零す。
「……“赤乱雲”のようですね、急ぎましょう」
「あの雲がどうかしたんですか?」
「………………はあ」
「アリサ、あれはただの雲じゃないよ」
「えっ?」
「あら……あなたは知っているんですか?」
「見るのは初めてですけどね。……あれが、“赤い雨”を降らせる赤乱雲か」
「赤い、雨?」
「詳しい話は落ち着いたら話すよ。……それより、見えたみたいだ」
窓の外を指差すカズキ、アリサの視線が自然と外に向けられ…彼女の表情が驚きのそれに変わった。
彼女の視線の先――そこには鬱蒼と生い茂った森の中心に存在する、ドーム状の建物。
「あれは……!?」
「あれが“ネモス・ディアナです。着いたら手続きをするんでちょっと待っててくださいよ?」
「…………」
ドーム状の建物、ネモス・ディアナとサツキが呼んだ場所をじっと見つめるカズキ。
(あれだけの大きな建物……もしかして、あの建物に使われている材料は……)
「――――みーつけた♪」
To.Be.Continued...
意外と進まないものです。
区切りがよかったのでここらで一話としました。
さーて、次はネモス・ディアナ内部での話になりますね。