総統である葦原那智の父である八雲の家にて、厄介になる事になったのだが……。
3人はまだ、このネモス・ディアナに近づく存在に気づいてはいなかった。
「――ソーマ、そっちの掃除終わった?」
「ああ。……そっちはどうだ?」
「僕の方も終わるよ、アリサと八雲さんももう少しで帰ってきそうだね」
一時的に厄介になっている八雲邸の掃除を行っているカズキとソーマ、アリサと八雲は食料の買出しに出掛けている。
「今日はアリサが作ってくれるみたいだから、安心だね」
「アイツ、ちゃんと料理できるのか……?」
「できるよ。もしかしてまだ疑ってるの?」
「当たり前だろうが。お前……俺達が今までどれだけ毒味を強要されたのか、忘れたとは言わせねえぞ?」
キッとカズキを睨むソーマ、そこには割と本気の殺意が込められておりカズキは引き攣った笑みを浮かべてしまう。
まあ……アリサは今まで数え切れない程料理を失敗してはソーマ達は被害を被っていたのだから、彼の言い分はよくわかる。
しかし今のアリサは違う、無論プロ顔負けの腕前というわけではないが、家庭で作るような料理は一通り作ることができるようになっている。
カズキはそう説明するのだが、いかんせんソーマは信用する事ができない。
「大丈夫だよソーマ、信用してよ」
「だといいがな……」
「そういえば、シオちゃんは料理の腕……上がった?」
「…………察しろ」
どこか哀愁漂うソーマの呟きに、カズキは察してしまった。
同乗するような視線を彼に向けながら、カズキはポンポンとソーマの肩を軽く叩く。
「でも、ソーマは何気に料理ができるからシオちゃんができなくてもさほど問題ないよね?」
「何がどう問題ないんだ?」
「いずれ、2人が一緒になる時だよ」
「……何言ってんだ、別に俺とシオはそんなんじゃ」
「別に夫婦になるとか、そういうわけじゃないさ。
でも……ソーマはこれからもシオちゃんを支えていくだろう?」
「…………」
ソーマは何も言わない、だが否定しなかったのでカズキは言葉を続けた。
「共に生きていくなら、やっぱりそういうスキルがあると色々と助かるでしょ?」
「……俺は、アイツの事が嫌いなわけじゃない」
「えっ?」
「ガキで、オナカスイタオナカスイタ煩い、すぐに突進してきて鬱陶しい事もある。
だが……アイツのおかげで俺は救われたと思う。
でもな……俺にはよくわからねえんだ、その……誰かを好きになるって感情が、な」
幼い頃から化物と呼ばれ続け、両親から明確な愛情を注がれる事なく戦い続けてきたソーマ。
仲間を失いたくなくて、たとえどんなに陰口を叩かれようとも人と距離を離し続け孤高を維持してきた。
だからこそソーマにはわからなかった、誰かを想うという感情が、だからソーマはシオの事をどう思っているのかわからない。
知識として理解していても、自分の心を理解するには……彼は独りで居過ぎてしまった。
「……別に今すぐわからなくても、きっと遠くない未来でわかるようになるよ」
「……どうだかな」
「焦らなくてもいいと思うよ? シオちゃんだってソーマの事をそういう対象で見てるとは思えないし、それにね……ソーマがシオちゃんを、シオちゃんがソーマをこの先どういう対象で想うのか誰にもわからないんだから」
ずっとこのままなのか、それとも自分とアリサのような関係になるのか。
どういう未来になるのか……今の段階では誰にもわからない未来だ。
だから焦る必要はないとカズキは言った、今すぐにわからなくとも……きっとわかると優しく告げるカズキの言葉を聞いて、ソーマは口元に笑みを浮かべた。
「そう、だな……難しく考える必要はねえか。それにアイツの事でいちいち悩むのも馬鹿らしいな」
「酷い言いようだね。……ソーマ、前よりもっと優しくなったよ」
「……そうか?」
「うん。前から優しかったけど……今はもっと優しいよ、みんなが慕うのも良くわかる」
「よく言うぜ。お前の方がよっぽど………」
そこまで言いかけ、ソーマは言葉を止めた。
随分とらしくない事を言いかけてしまった、カズキのが移っちまったなとソーマは苦笑を浮かべる。
「何を言いかけたの?」
「なんでもねえよ、それより…戻ってきたみたいだぞ」
「――ただいま戻りました」
玄関から少女の声が聞こえ、程なくして買い物に行っていたアリサと八雲が戻ってきた。
「おお、綺麗に片付いてんな。やるじゃねえか」
「カズキは掃除が得意なんですよ、部屋の掃除もいつもやってもらってまして」
「まあ、アリサに掃除をしろって言う方が無理な話だ」
「むっ……ソーマ、そういう事を言うと夕ごはん抜きにしますよ?」
――そんな会話をしつつも、アリサはすぐさま料理を始めた。
作った料理は焼き魚に味噌汁と、和食だけの構成だ。
しかし八雲は「へえ……」と口から感嘆の声を零す。
「あまり食材が買えなくて凝った物は作れませんが、味は保障しますよ!」
「若いのにたいしたもんだ、随分良い嫁さんをゲットしたなカズキくん?」
「はは……ええ、僕には勿体ないくらいです」
「何を言っているんですか。カズキだって私には勿体ないくらいの旦那様です!」
「……あの2人、いつもあんなんなのか?」
「ああなったら、無視するのが賢い選択だ」
2人だけの世界に入ったカズキとアリサは放っておく事にして、ソーマと八雲はさっさと食事をする事にした。
と、来訪を告げるブザーが部屋に鳴り響く。
「っと、飯時に無粋なヤツだな」
「私が出てきますので、皆さんは先に食べちゃってください」
そう言って、アリサは玄関へと向かう。
ならお言葉に甘えてと、3人は今度こそ食事を始めようとして――アリサの小さな悲鳴とドカドカという乱暴な足音が聞こえてきた。
「――これはこれは、随分とこちらに馴染まれたようですな」
「…………」
強引に入ってきたのは……那智と彼の部下数名。
おもわずカズキの表情が険しくなり、八雲はため息をつきつつ頬をポリポリと掻いた。
「あまり問題を増やしてほしくないものだな。もう少し頭の良い青年だと思ったのだが……」
「……あなたにそこまで言われる筋合いはない。僕もおとなしくしておこうと思ったけど、あんな小さな女の子を拘束しているような人達の所には居られない」
「小さな……? ああ、あの怪物か」
「っ」
「それに対しても余計な事をしてくれたものだ。――捕まえるのに苦労した」
「…………」
その言葉を聞いて、カズキは内心驚きを見せていた。
あの少女の身体能力、それは並みの神機使いでは太刀打ちできないほどのものだ。
だというのに、神機使いでもない普通の人間が複数人とはいえ捕らえる事ができたというのか?
それは絶対にありえない筈だ、何故なら彼女は……。
「とにかく我々と来てもらおうか。八雲さん、あなたもですよ?」
「…………しょうがねえな。アリサちゃんの作ってくれたメシを食えないのは勿体ないが、代わりに塔で食わせてもらうとするか」
面倒そうに立ち上がる八雲。
……とりあえず、ここはおとなしくついていった方がいいようだ。
カズキ達はそう判断し、八雲と共に那智についていこうとして。
――3人は同時に、このネモス・ディアナを蹂躙する存在を感じ取った。
「っ、2人とも!!」
「はい!!」
「わかってる!!」
声を荒げると同時にカズキは走り、2人もそれに続く。
アリサとソーマは那智達が乗ってきた車へと乗り込むが、カズキはそのまま駆け抜け居住区へと向かった。
「待て! ここの問題はこちらで解決する。フェンリルのお手を煩わせるまでもない!!」
「ふざけた事を言わないでください! この状況下でそんな事を言っている場合じゃないでしょう!?」
背中越しにそんな声を聞きながら、カズキは神機を持つ手に力を込めながら更に走るスピードを速める。
……アラガミがこのネモス・ディアナに侵入してしまった。
一刻も早く戦いに赴かなければ犠牲者が出てしまう、それがわかっているからカズキは全力で現場へと向かっているが……。
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
「――――っっっ」
少しばかり、遅かったようだ。
悲鳴と轟音、それが彼の耳に入りそれがそのままアラガミへの怒りへと変わっていく。
「――お前らああああああああああっ!!!!」
アラガミの群れを視界に入れた瞬間、カズキは吼えた。
正確な数は不明、オウガテイルにザイゴート、更にはヴァジュラなど様々な種類のアラガミが人間や建物を喰らっている。
その中に吶喊し――カズキは怒りの一撃を繰り出した。
――まずは一体、下段からの振り上げでザイゴートの身体を左右二つに分ける。
続いて二撃目でオウガテイルの尾を粉砕、返す刀で胴体を真っ二つに斬り裂いた。
すぐさまアラガミ達の標的がカズキへと変わり、近くにいたヴァジュラテイルが電撃を浴びせようと動作に入り。
「遅い」
それを許すはずもなく、カズキの神機がヴァジュラテイルの頭部を粉砕した。
事切れたアラガミには目もくれず、カズキは次の標的へと狙いを定めようとして……ヴァジュラが自分に攻撃を繰り出そうとしている事に気づく。
すぐさま追撃に移ろうとしたが、その前に真横から撃ち込まれた銃弾がヴァジュラの頭部と右脚に襲い掛かった。
「ヴァジュラは私が!!」
そう答えながら車から飛び出したのは、先程銃撃をヴァジュラに浴びせたアリサ。
神機を剣形態へと可変させながら大きく跳躍し、落下の衝撃を加えた上段からの一撃をヴァジュラへと叩き込んだ。
続いて動きを見せたのはソーマ、巨大なバスタータイプの刀身を軽々と振り回しつつ、一撃の元にアラガミの命を文字通り刈り取っていった。
このまま押し切る、カズキも他の2人と同様にアラガミを駆逐しようとして……動きを止める。
「君は……!?」
「…………きゅ」
カズキの視線の先、そこに居たのはあの時牢屋で出会った少女。
人間のものではない耳と尻尾を生やし、華奢な右手には古ぼけた神機が握られていた。
本当に古いタイプの神機だ、まともに整備もされていないし旧型の中でもかなりの年代物だとすぐにわかる。
だがカズキにとってそんな事はどうでもよかった、すぐさま少女へと駆け寄り彼女を庇うように身構えつつ声を掛けた。
「君は戦わなくていい、僕達に任せて退がって!!」
「きゅ、きゅー……」
(……本当に腕輪がなくても神機を扱えてる、やっぱりこの子は普通の人間じゃない……)
神機とは元をただせばアラガミである。
故に腕輪が無ければたちまち神機によって捕喰されてしまう、それはこの世界における常識に等しい事実だ。
一部の例外はあるものの、今の少女を見る限りその例外には当てはまらない。
「――――っ!?」
別の気配を察知し、カズキの視線が近くの壁の上へと向けられる。
そこにはまるで下の戦いを観戦するかのように見渡している、一体のアラガミの姿が。
だが――そのアラガミは見た事のない新種であった。
姿はシユウ種によく似た人型だが、両手翼と呼ばれる部位には青緑色の体毛に覆われている。
妖艶な美女のような容姿を持っているそのアラガミは、シユウ種の新種である可能性が高い。
とにかく放ってはおけない、カズキはすぐさま跳躍し壁を蹴りつつアラガミの元へと向かった。
しかしその新種はカズキが自分に向かってきても何もせず、まるで待っているかのように不動であった。
「高みの見物だなんて……余裕だな!!」
駆ける。
一息で相手との間合いを詰め、まずは上段からの一撃。
風を切り裂き、カズキ自身文句のつけようのない一撃であったが…それは虚しく空を切るのみ。
避けられた、頭で理解するよりも早く…カズキの左腕が動いた。
「!!?」
攻撃を避け、反撃しようとしたアラガミから声にならない悲鳴が放たれる。
それも無理からぬ事だ、何故ならアラガミの両手翼にスサノオの剣のような尾が突き刺さっているのだから。
無論それはカズキのアラガミ能力によって変形させた左腕による一撃である、彼は神機による一撃が避けられた瞬間に次の手を放っていたのだ。
すかさず彼はそのまま翼を破壊しようと左腕を力任せに振るおうとして、その前にアラガミが動き自力で彼の左腕を抜き取り距離を離してしまう。
だがそれは明らかに逃げの行動、カズキが相手を追い詰めた事に変わりはない。
右側のみとはいえ翼に深手を負わせた、これではシユウ種の機動力は大きく落ちるだろう。
だからといって油断するつもりは毛頭ない、一気に勝負を決めようとカズキは再び相手との間合いを詰めようとして。
「―――――――!!!」
「きゅ、きゅおーーーーーん!!!」
少女の悲鳴のような鳴き声と、新種アラガミの声にならない声を、同時に拾った瞬間。
カズキは、自らの身体から力が抜けていくのを感じていた――
To.Be.Continued...
久しぶりの投稿だ……パソコンが無くて辛かった。
このアラガミの正体、2を持っている人なら多分わかるはず……。
次はあの兵器の登場ですね。