見事追い詰めた……ように思えたのだが、新種アラガミが放った謎の力によってカズキ達は危機に陥っていた……。
――“それ”は、突然起こった。
「な、に……!?」
驚愕の声が、ソーマの口から放たれた。
あの新種アラガミが放った声にならない声、それが場に響いた瞬間――異常が起こった。
「くそ、どうなってやがる……!?」
彼が向ける視線の先は、己が握っている神機。
神機使いにとって、己の神機は手足と同じ。
だというのに、何故今は……まるで他人の身体を使っているかのように、制御ができないのか。
(あのアラガミ、何をした……!?)
軽々と振るえる筈の神機が、鉛のように重くなっている。
混乱するソーマであったが……現状は、更に悪化していった。
「う、ああ……!?」
「っ、アリサ!?」
突如として、アリサがくぐもった悲鳴を上げながらその場で倒れこんでしまう。
すぐさま彼女に駆け寄ろうとして……ソーマは更なる異常をその視界に捉えた。
「なんだと……!?」
周りのアラガミはほぼ喰らい尽くした、残りは僅か数体しか居ない。
その筈だというのに……まるで手品のように突然新たなアラガミが現れるのは、一体どういう事なのか。
しかもまたしても新種、姿形はオウガテイルによく似ているのだが、先程現れたあの新種アラガミと同じように、身体に青緑色の体毛が生え揃っていた。
数は五体、それら全てが倒れているアリサへと向かっていく。
「クソ……!」
攻撃を仕掛けようにも、いまだ神機は思うように制御ができない。
このままではアリサの命が……ソーマの脳裏に最悪の未来が浮かんだ瞬間。
「――きゅううううううっ!!!」
不思議な鳴き声が聞こえたと同時に、アラガミの一体が鮮血を噴いた。
見ると、あの時牢屋で見た謎の少女が新種のアラガミ達の前に立ち塞がっていた。
(アイツ、神機を使えるのか!?)
「きゅ、きゅう……」
アリサを守るように身構える少女であったが、誰が見ても明らかなほどその様子は弱々しい。
立っているのも辛そうなその小さな姿は、儚く今にも消えてしまいそうに見え……ソーマは、その姿とかつて特異点に成り掛けた時のシオを重ねてしまう。
瞬間、彼は瞳に怒りの色を宿し神機を持つ両手に力を込める。
「この……! ソイツに……手を出すんじゃねえ!!!」
激昂し、吶喊するソーマ。
無論まだ神機の制御は利かない、それでもソーマは少女を守るために咆哮を上げた。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
力任せに神機を振り上げ、強引に振り下ろす。
刀身がアラガミの頭部へと深々と突き刺さり……現れた時と同じように、倒れる前に霧散してしまった。
(っ、ただのアラガミじゃねえ……一体何がどうなってやがる!?)
目まぐるしく思考を巡らすソーマであったが、今はそれどころではないと己に言い聞かす。
いまだに神機は上手く動かせない、だがアリサとこの少女はなんとしても守らなければ。
「う、ぐ……」
「アリサ、どうした!?」
「……これは、二年前の時と同じ?」
「何……?」
一方――不可思議な現象を引き起こしているアラガミと戦っているカズキも、命の危機に瀕していた。
「うああ……っ!?」
翼によって殴られた後、新種アラガミが放った弾丸のような羽の乱舞を浴び、カズキは勢いよく壁に叩きつけられる。
強い衝撃と激痛が全身を襲い、彼は口から多量の血を吐き出した。
それだけではない、まるで全身が鉛のように重くなってしまったのは一体どういう事なのか。
朦朧とする意識の中で、カズキは今自分に襲い掛かっている現象を思い出していた。
(間違いない、これは二年前のロシア遠征の際に起こった現象と同じだ……!)
あの現象、戦う力全てを奪われるかのような敵の能力に何もできなかった。
ローザが居なければ、きっと自分だけでなくアリサの命も終わっていたであろう相手の力。
そして今も二年前と同じく、自分の力全てを奪われ命を奪われようとしている。
「……勝ったつもりでいるんじゃないだろうな?」
立ち上がり、乱暴に口内に残った血を吐き出すカズキ。
しかしアラガミは獲物が立ち上がった事に対して何も驚かない、自身の勝利を疑わないから。
立ち上がろうが目の前の獲物はもう戦えない、そう思っているから不動を保っている。
――だが。
――それが間違いだと、このアラガミはまだ気づいていない。
「いつまでもやられっぱなしだと思うな。この二年……僕だって何もしなかったわけじゃない!!」
叫び、カズキはある行動に出た。
それは咆哮、だがその叫びは声として発しておらずしかし。
「っ!!?」
「う、あ……!?」
カズキの行動によって、アリサは起き上がりソーマは神機の制御が通常通り行えるようになった事に気がついた。
すかさず2人は動き、瞬く間に現れたアラガミ達を一体残らず刈り取っていく。
「決めさせてもらうぞ!!」
カズキが動く、そのスピードは先程と変わらず俊敏なもの。
新種アラガミはすぐさま回避行動に移ったが、それに気づかないカズキではない。
左腕を巨大なピターの腕へと変形、逃がさぬように右の翼を掴み強引に引き寄せつつ彼は下の地面に向かって跳んだ。
「――落ちろおおおおおおおおおおおっ!!!」
そして、右手で持つ神機を渾身の力を込めてアラガミの頭部へと突き刺した――!
そのまま落ちていく両者、爆音を響かせながら地面に降りその衝撃を利用して更に深く神機の刀身を突き刺す。
「はー……はー……はー……」
荒い息を繰り返しながら、倦怠な動きでカズキはアラガミから神機を抜き取り、そのまま地面に座り込んだ。
「は、あ、あ……」
「カズキ!!」
「……2人とも、大丈夫?」
安心させようと、駆け寄ってきたアリサ達へと笑みを浮かべるカズキ。
しかしそれは明らかに無理をしているとわかり、アリサは瞳に涙を溜めながら彼の身体を支える。
――刹那。
「っ、ごぶ……!」
「えっ――」
アリサの思考が凍りつく。
何故、彼は突如として口から大量の血を吐き出したのか……理解ができない。
その後も彼は激しく咳き込み、その度に口から血を吐き出し衣服や地面を赤く染め上げていく。
「ぅ、ぐ……ちょっと、無理、し過ぎ、た……かな……」
「え、えっ……?」
「おい、一体どうしたんだ!?」
「はぁ、はぁ……あのアラガミの、能力を無効化、するのに……オラクル細胞と偏食因子に、無理な進化を、させちゃったんだ……」
「無理な、進化?」
「……あのアラガミは、特別な『偏食場』を形成していた。それは僕達神機使いの、オラクル細胞や……はぁ、偏食因子に干渉できるぐらい……強力、なんだ。
原理としては、『感応現象』と同じようなものだろうね……難しい話はこの際、置いておくけど……このアラガミが広範囲の『感応現象』を引き起こして……げほっ、僕達の神機を使えなくさせたんだと、思う」
その干渉によって、神機の制御が利かなくなったのだろう。
更にカズキとアリサは既にアラガミ化を果たしている、その『偏食場』に影響されて身体に異常を来したのだ。
これは前にサカキ博士が二年前の現象を調べた結果に基づいて組み立てられた予測だったのだが、どうやら当たりらしい。
だからカズキは体内のオラクル細胞と偏食因子をその場で強制進化、相手の『偏食場』の特性と真逆の『偏食場』を作り出し相殺させた。
無論そんなものを即興で作り上げる事は、自殺行為に等しく彼もそれはわかっていた。
しかしこの二年間、今回のような特殊な能力を持つアラガミに出会う事はできず充分なデータが得られなかったのだ。
だからカズキはこの場で賭けに出て……結果、幸運にも生き残れたらしい。
(でも負担が大きいな……少しずつ慣れてくるとは思うけど……)
「…………きゅー」
「……大丈夫だよ。だから心配しないで?」
自分を見て今にも泣きそうになっている少女に、カズキは優しくそう言った。
とにかく戦いはこれで終わりだ、後はコアを回収して引き上げよう……3人がそう思った瞬間。
「ギ、ギギ……!」
「あっ……!?」
カズキの渾身の一撃を受けたというのに、新種のアラガミはまだ生きていた。
翼を羽ばたかせ大きく跳躍、カズキ達から離れたがダメージは大きく深手を負っている事は明白であった。
「逃がすか……!」
「カズキは休んでいてください、後は私達が――――っ!!?」
そこで、アリサの言葉が突然響き渡った爆音により中断された。
全員の視線が音の聞こえた場所へと向けられる。
家屋と壁の一部が破壊されており、そこに――正体不明の存在が佇んでいた。
「な、何なの……?」
「……新種の、いや、あれはアラガミじゃねえ……」
現れた存在、それはまるでロボットのような全身を金属で覆った人型の物体であった。
人型といってもその姿は巨大であり、中型のアラガミと比較しても決してひけをとらない。
右手には無骨な剣状の獲物を握りしめ、どこかアニメに出てくる人型機動兵器を髣髴とさせた。
「ギ……!」
「アラガミが逃げます!!」
「――――」
一瞬の隙を突き逃亡を始める新種アラガミ。
すぐさまアリサとソーマはそれを追おうとして、その前に人型が動きを見せた。
アレも新種アラガミを標的にしているのか、そう思った2人であったが……次に人型が見せた行動は、理解できないものであった。
「――――えっ」
呆けた声は、カズキの口から。
意識をあの新種アラガミに向けていたからか、まったく反応を見せる事ができず。
――自分と少女に向かって、獲物を振り上げている人型を、間の抜けた表情で見る事しかできなかった。
「っ、くっ……!?」
「きゅう!?」
全神経を総動員させ、カズキは少女を抱きしめると同時にその場から全力で離脱した。
刹那――先程まで彼等が居た場所に、人型の獲物が叩き込まれ地面が大きく陥没する。
「なんだと……!?」
「カズキ!!」
人型の行動に、アリサもソーマもアラガミを追う事すら忘れ驚愕する。
一方、どうにか回避に成功し命を繋ぎ止める事ができたカズキであったが、飛び散った破片が身体に刺さり先程とは違う激痛に襲われていた。
「う、ぐ……!」
「きゅ、きゅう……」
痛みで顔をしかめるカズキを見て、少女は悲痛な鳴き声を上げる。
そんな少女にも、カズキは無理矢理笑みを作り安心させるように少女の頭を撫でた。
「大、丈夫……それより、今度こそ……逃げるんだ」
「きゅー、きゅー!!」
いやいやをするように、少女は頭を振る。
いいから早く逃げるんだ、カズキが先程より強い口調でそう告げようと思った時には。
既に、人型はカズキ達を今度こそ逃がさぬように攻撃の態勢に入ってしまっていた。
「くっ……!」
「やめてええええええええっ!!!」
「この……クソ野郎がああああっ!!!」
瞳に凄まじい怒りを宿し、人型に向かっていくアリサとソーマ。
先に向かってくる2人を片付けるか、人型はそう判断したのか身体をアリサ達へと向け。
『――――零号機、停まれ!!!』
そんな声が、突然場に現れたフェンリルのトレーラーから聞こえてきた。
To.Be.Continued...
先にネタバレ…というか、ここらで説明しないといけない気がするので説明です。
あの神機兵には誰も入っていません、ようするに「無人型の神機兵」という事ですね。
セカンドブレイクでは「搭乗型」のようでしたが、漫画のキャラが出ていないのでこちらでは「無人型」に変更しました。
原作でもまだ実戦投入をされてはいませんが、テストぐらいはやってんじゃね?と思ったので出しても違和感はない…はず。
しかし制御は見ての通り不完全だったので、とんでもない行動に移ってしまいました。
……まあ、理由はそれだけじゃないんですけど。