……彼等はまだ気づかない。
出会ってはならない存在が、いよいよこのネモス・ディアナへと侵食してくる事に……。
「―――神機兵?」
「フェンリルが新しく開発してる対アラガミ用の人型機動兵器の事だよ」
八雲の家のベッドで休んでいるカズキは、アリサに先の戦いで現れた謎のロボットのような存在の正体を明かす。
――戦いが終わり、朝を迎えた
ネモス・ディアナはアラガミによって悲しみに包まれており、復旧作業に追われている。
カズキ達は今も八雲の家に厄介になっているのだが……問題は山積みだ。
まずアナグラからの迎えは未だに来ていない、あの時戦った変異種を何とかしなければヘリは出せないとサカキ博士から連絡があったからだ。
なのであのシユウに似たアラガミを捜さなければならないのだが……ここで更に問題が一つ。
「………カズキ、具合は大丈夫ですか?」
「うん。大分良くなったかな」
「そうですか。でもだからって無茶な事をしたらダメですよ?
あの時の戦いでかなり無茶な事をしたんですから、暫く何があっても絶対安静です!」
「はい、わかりました……」
少し強い口調で咎められ、しゅんとうなだれるカズキ。
……彼はあの変異種の戦いの際に、強引に己のオラクル細胞と偏食因子を進化させた。
それによって彼の身体には大きなダメージが残り、ベッドから降りる事ができないほどに消耗してしまっている。
「………きゅー」
「大丈夫だよ、心配かけてごめんね?」
自分を心配そうに見つめる少女、獣の耳と尻尾を持つ少女にカズキは優しく微笑みかける。
あの戦いが終わってから、那智達はもうこの少女を連れ戻そうとはしなかった。
フェンリルの人間と神機兵の配備について話し合っていたから、おそらく彼等にとってこの少女はもう必要ないという事なのだろう。
現にカズキ達も解放された、それに何より……カズキは外へと視線を向ける。
聞こえてくるのは那智の演説、その内容は……神機兵の搭乗希望者を募るものであった。
神機兵は神機使いと違って適性が無い普通の人間でも使用できアラガミに対抗できる兵器だ。
もうゴッドイーターはいらない、これからは自分の力で守りたいものを守る事ができる。
それは人類が追い求めたまさしく夢のような力、神機兵はその夢を現実にする可能性を秘めた兵器なのだ。
――だが、夢というのはどこか綻びが存在するのが常
「おい」
「あ、ソーマ」
「とりあえず俺とアリサであの変異種を捜してくる、お前はゆっくり休んでろ」
「………ごめんね、2人とも」
「何言ってるんですか。いつも休んでいないんですから良い機会です」
「そうだな。だが………」
「きゅ?」
ソーマの鋭い視線が、獣少女に向けられる。
得体の知れないヤツをカズキの傍には置いておけない、ソーマの視線がそう訴えていた。
「大丈夫だよソーマ、この子は悪い子じゃない」
「……どうだかな。普通の人間じゃねえ以上は警戒するに越したことはねえだろ」
「それでも大丈夫だよ、この子なら」
「………………はぁ」
呆れたようなため息に、カズキは苦笑する。
だが本当に大丈夫な筈だ、根拠などないが……カズキにはそう思えた。
「じゃあカズキ、行ってきますね?」
「うん。くれぐれも無理しないでね?」
わかってます、そう言ってからアリサはカズキに近づき…触れるだけの口付けを交わした。
2人が部屋から出て行くまで見送り……姿が見えなくなった瞬間、カズキは倦怠な動きでベッドへと横になる。
「きゅー……」
「……大丈夫、大丈夫だよ」
獣少女にそう告げるカズキであったが、先程とは違いその声に覇気が無い。
……アリサ達の前ではやせ我慢していただけで、カズキの消耗は本人が思っている以上に大きかったようだ。
(こうまで負担が大きかったなんて……完全に誤算だった)
これでは再びあの変異種が来た時に、満足な対応ができなくなる。
あの能力を無効化できる術を身につけたとはいえ、現在の状態ではその一手も満足に扱えないだろう。
なんとかしなければ……自分にそう言い聞かせるカズキであったが、やがて疲労感からか…眠りの世界へと旅立っていった……。
■
「……………?」
外から大きな声が聞こえ、カズキは目を醒ます。
起き上がると大分身体の調子が戻ってきた事を自覚し、同時に夜まで眠っていた事に気づいた。
部屋の中には誰もおらず、とりあえずカズキはベッドから出て声が聞こえた外へと赴く。
「あ、カズキ……」
「……………」
外にはアリサとソーマ、そしてサツキに…那智と見慣れぬ少女が居た。
栗色の長い髪、白いワンピースに身を包んだ美しい少女。
初めて見る顔だ、しかしその少女は那智に腕を掴まれているのは何故なのか。
「――ところでおじさん、ユノの歌…素晴らしいと思いません?」
カズキの登場によって中断させられた会話が、サツキの声で再開される。
一体何の話をしているのかカズキにはわからなかったので、ここはおとなしくしておこうと口を閉ざした。
「私、ジャーナリストの血が騒いじゃいましてね……暫くユノを私に預けてはくれませんか?」
「………アリサ、一体何の話をしてるの? それとあの子は?」
「彼女はユノさんといって、どうやら総統さんの娘さんみたいです……」
「……似てないね」
「話にならない内容だな、失礼する。……貴君らもさっさとアナグラへお帰りになられたらどうだ?」
相変わらずこちらに対する敵意を隠そうともせず、那智は言う。
カズキもアリサも何も言い返そうとはしなかったが、サツキのトレーラーの中に居たソーマが反論を返す。
「俺達が居ないと困るのはあんた等の方じゃないのか? 昨日のアラガミは生きてやがる、たぶんここにまた来るぜ?」
「では貴君らがあのアラガミを倒すと? あんなに手こずっていたではないか、それにそんな心配など不要だよ。
もしここがアラガミに襲われるようになればあの神機兵が手配されるようになっている、ゴッドイーターはもうこの街には必要ないんだよ」
「……………」
神機兵、昨日の兵器を思い出しカズキの表情が強張る。
確かにあれは素晴らしい発明であり人類の希望になり得る存在だと彼とて思っている。
神機使いではない一般の人間でも扱える対アラガミ用兵器、それは本当に夢のような代物であり………。
「―――本当に、手配されるんでしょうか?」
しかしカズキにとって、同時に信用できない代物だと思えてならなかった。
「何だと……?」
「まだテスト段階なのでしょう? それなのに、本当に手配されるんでしょうか……僕にはそう思えません」
「……フン。自分達がお払い箱になるから焦っているのかな? とにかくこれ以上余計な事をそれば即刻出て行ってもらうぞ?」
そう言い残し、那智は去っていく。
彼の態度にソーマはあからさまな舌打ちをして、アリサは露骨に嫌そうな表情を浮かべる中で。
カズキだけが、あの神機兵に対して不信感を抱いていた。
『よう、そっちも大変みたいだな』
「えっ?」
トレーラーの通信機から、聞き慣れた男性の声が聞こえてきた。
通信機を手に取り、カズキは声の主の名を呼ぶ。
「久しぶりですねリンドウさん、元気ですか?」
『おう元気だ元気、姉上もサクヤもレンも元気だぞー』
通信機越しに聞こえるのは、自分達の上官であり現在は支部長直轄の遊撃部隊に所属している雨宮リンドウの声であった。
共に戦ってきた仲間の無事な声を聞き、自然とカズキの表情が綻ぶ。
「そっちの調査はどうですか?」
『おう。順調とは言えねえが前へは確実に進んでるぜ、それに……面白いアラガミも見つかりやがったしな』
「面白いアラガミ?」
『ああ、詳しい話は調査データと一緒にアナグラに送るから確認してくれ。……大変かもしれねえがそっちは任せたぜカズキ?』
「わかってます。リンドウさんもあまり無茶をしてサクヤさん達を心配させたらダメですよ?」
『それに関してはお前にだけは言われたくないがわかったよ。とにかくちゃんと生き延びろ、いいな?』
「はい、了解しました」
『じゃあな。ソーマ達も無理すんなよ』
リンドウからの通信が切れる、と―――再び通信機から声が聞こえ始めた。
『おーい、今いいかー?』
「コウタ? どうしたの?」
『ああ、さっきな……部隊名が決まったんだよ。それの連絡!』
「本当ですか?」
『ああ、それで新しい部隊名の名前は―――』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――さーてと、そろそろワタシも動きますか」
ネモス・ディアナの近くにある森の中で、ナニカがそう呟く。
「今度は逃がさないよカズキ、君は……我が喰らってやるんだから」
ナニカが動く、全ては己の欲求を満たすために。
「邪魔するヤツはみーんなみーんな…消してしまえばいい」
――悪魔の接近は、すぐそこまで迫っている
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―――翌日
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だよ。ソーマは心配性だね」
「お前の場合の大丈夫は大丈夫じゃない事が殆どだからな、心配性じゃなくて当たり前の反応だ」
「これはまた手厳しい……」
そんな事を話しつつ、カズキとソーマは八雲の家から出る。
遅れる事数十秒、同じく準備を終えたアリサが合流し……八雲も家から出てきた。
「おはようさん。早いな」
「おはようございます八雲さん、ちょっと…塔に行く予定ができましたから」
「………そうかい。気をつけてな」
「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます!」
「……悪かったな。色々と巻き込んじまってよ」
「八雲さんが謝る必要なんかないですよ。それに……僕達はこのネモス・ディアナに来て良かったと思ってますから」
「………ありがとな。カズキくん」
八雲の礼に優しい笑みで返し、カズキ達は塔を目指して歩き始めた。
「さて、と……それじゃあこの辺で別行動だ」
「ああ」
「2人とも、あの厭味ったらしい総統さんのお相手は任せてください。なので2人はもしもの時のために……」
「わかってる。でも本当にアリサ1人で大丈夫?」
「大丈夫です。……この街を守りたいというこの想いは、決して弱くもその場凌ぎの偽善でもない本物の気持ちですから」
「………わかった。じゃあお願い」
「はい!」
元気よく返事を返してから、アリサは1人で塔へと向かっていく。
そしてカズキとソーマは彼女とは反対方向へと歩き――ネモス・ディアナの入口付近へと赴く。
先日アラガミに突破された装甲壁はまだ改修されておらず、ぽっかりと大きな出入り口ができてしまっていた。
「……ソーマ、新しい部隊名……良い名前だよね?」
「………まあ、悪くはねえんじゃねえか?」
「フェンリル極東支部独立支援部隊“クレイドル”――ゆりかごの意味を持つこの部隊で、僕達は力なき人々を守っていかないと」
新しく発足された部隊、その名も“クレイドル”。
見知らぬ土地に足を踏み入れ、その土地の人々と新たな絆と関係を築いていく。
まさしく新たな命を育むゆりかごのような存在になるように、サカキ博士が考えてくれた名前だ。
そして今、こうしてカズキ達はこのネモス・ディアナと新たな繋がりが生まれようとしている。
「くだらない奇麗事だと、一蹴されるかもしれないね?」
「あの総統なら言いそうだな」
「確かに僕達のやろうとしている事は奇麗事かもしれない、たとえどんなに力があっても……守れない人達だって出てくる。
でも、そんな奇麗事でも諦めなければいつかは現実に変わると僕は信じてる。だから……どんなに馬鹿にされようとも嘲笑されようとも、僕はこのクレイドルで自分にできる事…望む事をしていきたいと思ってる」
「………気負うなよ?」
言いながら、ソーマは優しくカズキの肩を叩く。
お前は1人じゃない、そう言い聞かせるようなソーマにカズキは「ありがとう」と感謝の言葉を告げた。
新たな決意を胸に秘め、カズキはアリサの対話が上手く行くように願いながら………………静かに、神機を強く握りしめた。
「―――――来る」
「ああ、わかってる」
ソーマも神機を構え、2人は外を睨む。
視界の先に映るのは――複数の空飛ぶ影達。
言うまでもなくアラガミであり、真っ直ぐ塔へと向かっているのがわかった。
その中には例の変異種の姿もあり、まるで群れを率いるリーダーのように先頭を飛んでいた。
「あの変異種はここで必ず俺が仕留める。カズキは塔に向かっていく他のアラガミをぶっ殺してくれ」
「了解。――ソーマ、わかってるとは思うけど」
「必ず生きて帰る。約束するさ」
「………うん、お願い!!」
言って、カズキは大きく跳躍しながら民家の屋根伝いから塔へと向かっていく。
一方、ソーマはもう一度強く神機を握りしめ…鉄塔を登っていった。
――アラガミ達がネモス・ディアナに侵入する
瞬間、ソーマは鉄塔の頂上から飛び降り――変異種アラガミに神機の刃を深々と突き刺し地面に叩き落す!!
周囲の地面と家屋を破壊しながら地面に激突する変異種アラガミ、ソーマは突き刺した神機を素早く抜き取り一度相手との間合いを離した。
「――今度は逃がさねえぞ。テメエは……ここで必ずぶっ殺してやる」
一方――塔に向かいながらカズキは同じく塔に向かっているアラガミ達を殲滅しようと動く。
(シユウが四……サリエルにその堕天種が合計で五……それにザイゴートが十六か!!)
いかんせん数が多い、しかしここはネモス・ディアナの内部のためアラガミ化の能力は使えない。
とにかく一体ずつ確実に一撃で仕留めなくては、作戦を考えると同時にカズキは近くに居たサリエルへと跳んだ。
「はっ―――!」
裂帛の気合を込め、上段から神機を振り下ろしサリエルの頭部へと食い込ませる。
悶絶と断末魔の叫びを搾り出すサリエル、それには構わずカズキは両腕に力を込め強引に刃を滑らせ裂傷を刻ませた。
すかさずカズキはサリエルの身体に乗ったまま神機を銃形態へ、飛んでいるザイゴートにホーミングレーザーを連射していく。
アサルトタイプの利点である連射力を最大限に利用し、次々と小型アラガミの身体に大穴を開けその命を奪っていく中で。
――シユウの一体が、サリエルごとカズキの命を奪おうと火球を撃ち放った
だがその時には既にカズキはサリエルから離れており、シユウの火球が皮肉にもトドメとなってしまいサリエルはその命を散らしながら地面に落ちていく。
難を逃れたカズキは一度家屋の屋根に着地、もう一度跳躍しシユウに向かって左手を翳した。
刹那、カズキは掌のみハンニバルの手へと変形させ、シユウの身体に密着させた状態で高熱を生み出し無理矢理身体を抉り取る。
断末魔を放ちながら落ちていくシユウ、カズキも落下しながら銃撃でトドメを刺した。
(残りのシユウは三、サリエル種は四、ザイゴートは……まだ十一も残ってるか)
もう塔までは目と鼻の先だ、異常とも言える視力で見る限り既に避難は開始しているしアリサも向かってくるアラガミに身構えている姿が見える。
できる限り数を減らし、残りは塔の中で倒すしかないと、カズキは再び近くのアラガミへと狙いを定めようとして。
「―――見つけたよ、カーズキ♪」
場に似つかわしくない陽気な声が聞こえたと思った時には。
カズキは全身がバラバラになったかのような衝撃を受けながら、塔に向かって文字通り吹き飛んでしまっていた―――
「メインディッシュ、イッタダッキマース♪」
To.Be.Continued...
次回……あと二話くらいかな?
戦いはもう少し続きます、そして遂にアレが再びカズキ達の前に……。