「――――見つけた!!」
廃墟となったビル群を、縫うように走る神機使いの少女。
名はローザ、右手に新武装であるチャージスピアを持ち彼女はあるアラガミを追いかけていた。
そのアラガミは空を飛ぶアラガミ、名を“イェン・ツィー”といい……新たに見つかった“感応種”と呼ばれるアラガミだ。
このアラガミが用いる特殊能力によって、通常の神機使いは神機を操る事ができない。
現状としてこのアラガミに対処できるのは、異なる偏食因子を持ったソーマと、アラガミとなったカズキとローザのみ。
アリサはまだ偏食因子を強制的に進化させる術を持たないため、現在このアラガミと戦えるのは上記の3人だけだ。
「―――――――!」
「っ」
形容し難い鳴き声を上げるイェン・ツィー、瞬間――ローザの前に突如として三体のアラガミが姿を現した。
このアラガミは“チョウワン”、オウガテイルによく似たアラガミであり、イェン・ツィーが生み出せる小型アラガミだ。
状況は1対3になったものの、ローザは慌てる事無くスピアを構え――近場の一体に狙いを定め突きを放つ。
強固なアラガミの装甲を易々と貫き、すぐさま対象を貫いたまま薙ぎ払いもう一体の皮膚を深々と切り裂いた。
「チャージ!!」
地を蹴り、迎え撃とうと着地したイェン・ツィーとの間合いを詰めるローザ。
対するイェン・ツィーは、右の翼で拳を作りローザの身体を叩き潰そうとするが…その前にローザの一撃が繰り出される。
チャージされたスピアの切っ先をしっかりとイェン・ツィーに向け、ローザは一気に力を解放する!!
「撃ち貫いて―――!」
風を切り裂きながら放たれたその一撃は迷う事無く直撃し、イェン・ツィーの胸部に風穴を空けた。
断末魔の雄叫びを上げながら倒れるイェン・ツィー、残っていたチョウワンも霧散し…辺りに静寂が訪れる。
「ふぅ………終わったあ」
大きく息を吐き出してから、ローザはイェン・ツィーのコアを摘出。
これで任務は終わりだ、さてアナグラに戻ろうと思った矢先――通信が入った。
露骨に嫌そうな表情を浮かべつつ、ローザは通信機を取る。
「………もしかして、救援ですか?」
『はい、実は第002建設予定地に感応種が現れたらしく……今アリサさんが単独で向かってしまったんです』
「お姉ちゃんが? もう……本当に似た者夫婦なんだから。
ヒバリお姉ちゃん、ローザがすぐに向かうからこっちは心配しなくていいですよ?」
『わかりました。お願いします!!』
ヒバリとの通信を切り、ローザはもう一度大きくため息をついた。
いずれアリサも感応種の能力を無効化させる事ができるようになるかもしれない。
しかし今の彼女はまだそこまで達していないのだ、だというのに無茶はしてほしくないものである。
(まあしょうがないか、あのお兄ちゃんの奥さんだもんね……)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
こんにちは、ローザです。
お兄ちゃん達がネモス・ディアナで繰り広げた戦いから、既に一ヶ月。
お兄ちゃん達は“クレイドル”の仕事で極東支部に居る時が前より少なくなりました。
でもみんなが頑張ってるおかげで、サテライト居住区の候補地は十箇所以上見つかったし、その内の二つは既に建設を開始してます。
ローザは現在、第一部隊の隊員としてアラガミ――特に感応種の討伐を中心に頑張ってるんだけど……ちょっとキツイ。
お兄ちゃんとソーマお兄ちゃん、そしてローザしか感応種の相手が出来ないからさっきみたいに一度出撃すれば必ず複数回の救援を頼まれてしまう。
まあ仕方ないんだけどね、でも四回も救援を頼まれたのはさすがに参った。
「おかえりー、ローザ」
「ただいまリッカお姉ちゃん、早速だけどメンテナンスよろしく」
「任せて。でも各パーツもだいぶガタが来てるよね……特にスピアの刀身パーツが」
「しょうがないよ。まだまだ完全に運用できるわけじゃないし、新武装だから予備パーツだって少ないんでしょ?」
「欧州辺りは行き渡ってるらしいんだけど、まだこのアナグラには充分なパーツが無いのが現状かな。
けどそこら辺は私達技術班でカバーするから心配しないで」
「心配なんか初めからしてないよ、リッカお姉ちゃんはみんなの神機に好かれてるんだから」
「あはは、ありがと」
そう、リッカお姉ちゃんは神機に好かれてる。
丹精込めてメンテナンスをしてくれるし、神機を『アラガミを殺す道具』として見てないから。
神機だって生きるんだ、尤もそれはアラガミになってるローザ達にしかわからないんだけど。
「そういえばローザ、やっとこっちにも来るみたいだよ」
「来るって……他の“チャージスピア”と“ブーストハンマー”が!?」
そうだよ、と言ったリッカお姉ちゃんはどこか嬉しそうだ。
やっと新武装がアナグラに来るのかー、ローザの運用データが役に立ったのかな?なんてね。
でもローザ達と一緒に戦う新しい仲間が来るというニュースは、自然と任務の疲れを癒してくれた。
………だけど、その新武装は誰が使うのかな?
安全面を考えるとお兄ちゃんかアリサお姉ちゃん辺りだけど……あの2人、ロングタイプの神機しか使わないからなあ。
―――それから、二日後
「――失礼しまーす」
サカキ博士に呼ばれ、ローザは訓練室へと赴いた。
そこには複数の新人神機使いと、サカキ博士にリッカお姉ちゃん、更にはコウタお兄ちゃんに…エリナちゃんの姿もあった。
そして……みんなの中央には、待望の新武装であるチャージスピアとブーストハンマーのパーツが置かれている。
「やあローザ君、すまないね忙しいのに」
「いいえ。それより……もしかして運用試験ですか?」
「うん。じゃあ博士、お願いします」
「うむ。さて……みんなはもう模擬パーツで訓練を受けているとは思うけど、この新武装であるチャージスピアにブーストハンマー……いずれもこれまでの神機に匹敵する性能を誇る。
なんだけど……正直従来の武装に比べて癖が強いし扱いが個性的なんだ。欧州では不具合や死傷事故もあるようなんだけど……」
「現場の神機使いからの要望も強かったからね、どうにか博士と調整を重ねたからここにあるパーツは安全だよ」
「しかし先程も言ったように癖が強い、より多くの運用データが欲しいというのが正直な話だ。
そこで君達にそのテスターをしてもらいたい、実戦経験が浅い君達なら新しい武装にも順応しやすいんじゃないかと思っているのだが……どうだろうか?」
「――では、この僕がブーストハンマーを授かるとしよう」
そう言いながら一歩前に出てきたのは、高そうな服を着た貴族みたいな男の人。
えっと、確か名前はエミール…だったかな?エリックお兄ちゃんの知り合いらしいけど…なんだか変なオーラが見える。
「ありがとう、えっと…君は」
「僕はエミール。“エミール・フォン・シュトラスブルグ”。
皆の先頭に立ち道を示す、それこそが騎士道精神。僕に任せておいてくれ!」
「……………」
エリックお兄ちゃんって、変わった知り合いがいるんだなあ。
そういえばエリックお兄ちゃんも「ちょっと変わったヤツ」だって言ってたっけ。
「それじゃあ、チャージスピアを使ってみたいって人は?」
博士がみんなにそう呼びかけるけど、誰も挙手せず周りの反応を窺ってる。
でも仕方ないか、死傷事故が起こった事のある武装を使うにはやっぱり抵抗があるもんね。
そんな中――意外な子が挙手をした。
「―――――はい!」
「………エリナちゃん?」
なんと、挙手したのはエリナちゃん。
でも……エリナちゃんってこの間適合試験をパスしたばかりじゃなかったっけ?
「エリナ、お前この間適合試験通ったばかりだろ?」
「模擬パーツでの小型アラガミ掃討訓練は全コース修了してます。
わたしもできるだけ早く戦いたいんです、お願いします!!」
「私はまだ早いと思うよ、神機にだってやっと慣れてきた所でしょ?」
「うっ……」
「ローザのおかげでブーストハンマーより安全面は上とはいえ、それでも新武装である事に変わりはないんだから」
「でもリッカお姉ちゃん、他に候補者が居ないならエリナちゃんにやらせたらどうかな?」
「ローザ先輩……?」
気がついたら、助け舟を出してしまっていた。
おもわぬ口出しに驚くリッカお姉ちゃんだけど、その表情は明らかに不服そうだ。
わかってる、技術班であるリッカお姉ちゃんだからこそ、まだ新人のエリナちゃんに新武装を使わせたくない事ぐらい。
でも……エリナちゃんがどうして神機使いになったのか、その理由を知ってるローザとしては助けてあげたいと思ってしまうのだ。
「訓練自体の成績は悪くないよ、それにアラガミや神機の特徴もよく勉強してるし。コウタお兄ちゃんよりね」
「ぐっ……そこで俺を出すなよ」
「無茶さえしなければ、ローザは大丈夫だと思うよ」
「……………うーん」
「まあまあリッカ君、とりあえず他に候補者が居ないのなら一先ずやってもらおうじゃないか」
「……じゃあ絶対に無茶な事をしないように、ね?」
「は、はい!!」
エリナちゃん、嬉しそうだな。
でも……多分一筋縄じゃいかないよ?エリナちゃん。
だってあの神機……なんだか機嫌が悪そうだもん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「―――で、上手くいってるのかい?」
「うーん、エリナちゃんには悪いけど芳しくない」
「はは……まあ、エリナの沈んだ表情を見る限り、予想はできてたけど」
言いながら苦笑するエリックお兄ちゃん、でも車の運転中だから前見てね。
初めての運用試験からもう4日が経ったけど、まだまだ新武装は実戦に出せるレベルには達していなかった。
元々新しい武装パーツを運用に持っていくのは時間が掛かるってリッカお姉ちゃんも言ってたけど、技術班も結構苦戦してるみたい。
従来のブレード型と違って運用方法やギミックの数が違うから、その分調整が難しいんだろうなあ。
あ、ちなみにローザはエリックお兄ちゃんと一緒にアラガミ討伐任務の帰りです。
お兄ちゃん達がクレイドルの仕事で忙しいから、ローザとエリックお兄ちゃんの2人だけで動く事が多くなったのだ。
「まだ神機と上手くかみ合ってないんだよね、こればかりは慣れの問題だけど」
「でもローザの時はそんな事は無かったと思ったのだけど……」
「ローザは神機の声が聞こえるから、どうやって扱って欲しいかすぐにわかるの。
でも普通の神機使いはそうはいかないでしょ? だからもう少し時間が必要だよ。ちなみにエリックお兄ちゃんはちゃんと自分の神機に好かれてるよ?」
「ははは、ありがとう。神機も元を辿ればアラガミで生物だからね、どうしてもそういった弊害が出てしまうか……。
でも、ローザの能力は本当に素晴らしいものだね。こう言ってはなんだけど……時折少し羨ましいと思ってしまうことがあるよ」
「……こんな化物みたいな力、普通はあっちゃいけないんだけどね」
そう呟くと、エリックお兄ちゃんに軽く叩かれてしまった。
「ローザのその力があるから感応種の脅威が一般の人達に及ばないし、他のみんなを守っているんだ。
それはとても尊く素晴らしい力だよ、だから自分の力を化物だなんて言わないでくれ」
「………うん、ごめんなさい」
ああ、嬉しいな。
アラガミで、化物のローザをここの人達は当たり前のように受け入れてくれる。
ローザは人間だと、迷う事無く言ってくれる。
……だからローザは、自分がアラガミになったとしてもこうして生きていられるんだ。
「エリックお兄ちゃんって良い人だよね。時々キザになるけど」
「そ、そうかい……?」
「うん。だってこの間だって『ふっ……今日も華麗にアラガミを倒せたな』ってカッコつけてたでしょ?」
「……すまない。あまりその点に関しては深くツッコミを入れないでくれ」
あ、軽く凹んでる。
エリックお兄ちゃんにとってあれは触れてはいけないものだったらしい。
うーん、二年前と違ってああいう事を言うのに抵抗感があるみたい、だったら言わなきゃいいのに……。
「と、ところでエミールの方はどうなんだい?」
「露骨に話題逸らしたね」
「ま、まあいいじゃないか……それで、どうだい?」
「んー……エリナちゃんほどじゃないけど、まだまだぎこちないしハンマーの推進力に持っていかれてる感じかな。
チャージスピアもブーストハンマーも一撃の破壊力を向上させるギミックが搭載されてるから、そこら辺の調整に苦戦してるみたい」
「……よく知ってるね。ローザ、整備士に向いてるんじゃないか?」
「ローザはチャージスピアの運用データを提供してる時があるから、新武装の事が自然とわかっちゃって。
でもエミールさんはもう少しで実戦に行けるんじゃないかな?」
「へえ……ところでローザ、エミールの事はさん付けなんだね」
「うーんと……なんていうか、エミールさんの場合なんとなくエミールお兄ちゃんって呼ぶのに躊躇いがあるというか……」
「………ああ、なんとなくだけどそれはわかる気がするよ………」
結構酷い事を言ってるなローザ達、それがなんだか可笑しくてエリックお兄ちゃんと顔を見合わせて笑ってしまった。
でも、エリナちゃん頑張り屋だしリッカお姉ちゃん達みたいな整備士さん達が居るから、きっと大丈夫だろう。
さてと、帰ったら訓練してるエリナちゃんに差し入れでも持っていこうかな。
――と、ここでヒバリお姉ちゃんから通信が入った
「―――もしかしなくても、救援?」
『はい。鉄塔の森Cエリアで他のチームから救援が入りました』
「わかりました。すぐに2人で向かいます」
「………しょうがないね。いこっか、エリックお兄ちゃん?」
「そうだね。さっさと済ませてエリナとエミールに差し入れでも持っていくとしよう」
「よーし、じゃあさっさとアラガミを華麗に倒しちゃおー!!」
「……そ、そうだね」
To.Be.Continued...
なんだかローザとエリックのコンビが良いと思ってる自分が居る……。