しかし調整は難航しており、特にまだまだ未熟なエリナのスピアは神機に振り回されてしまっていた。
それを心配するローザ達であったが………。
「――えっ、エリナちゃんまた訓練してるの?」
「そうなんです。あまり根を詰めない方がいいとは言ったんですけど……」
アナグラのエントランスロビー。
任務から帰ってきたローザは、ヒバリから聞いた話の内容に驚きの表情を浮かべていた。
というのも、最近エリナが訓練漬けになっているというのだ。
まだチャージスピアの調整が上手くいかないとはいえ、ヒバリの言う通り根を詰め過ぎている。
「うーん……エリナちゃんの神機、エミールさんのと比べてまだ機嫌が良くないからなあ……」
「機嫌が良くない、ですか?」
「あ、これはあくまでローザがわかりやすいように表現してるだけだから。
要するに、まだエリナちゃんと神機が上手くかみ合ってないって意味なの」
「リッカさんの話だと、チャージスピアの調整はほぼ完了してるって話なんですけどね」
「後はエリナちゃん次第だよ、神機はただ振り回せばいいってわけじゃない。
一緒に戦う仲間なんだから、エリナちゃんもそこに気づかないといつまでも振り回されたままだと思う」
そう言ってから、ローザはヒバリにエリナが訓練している場所を問い、そこへと足を運んだ。
中ではホログラムのアラガミと戦っているエリナの姿と…それを見守るコウタとエミール、そしてエリックの姿が。
「お、ローザも心配になったのか?」
最初にローザの姿に気がついたコウタが、声を掛けてきた。
「うん。……前よりは動きがマシになってるけど、まだダメだね」
「うへえ、厳しいお言葉……」
「ローザはチャージスピアに関してはこの極東支部で一番使えるって自信と自負があるからね。
お世辞を言って調子付かせて、それで未完成のまま戦場に行かせるよりはずっといいよ」
「確かにな……でもエリナのヤツ、なんか焦ってるんだよなあ……」
焦っても仕方がないというのに、今のエリナは見ていて危ういとコウタは思った。
そしてそれはこの場に居る全員の意見でもあり、妹を見るエリックの目は不安の色を覗かせている。
そんな彼の肩を、ローザはポンポンと叩いて安心させるように笑みを見せた。
「大丈夫だよエリックお兄ちゃん、エリナちゃんならきっと」
「……そうだね。ありがとうローザ」
「フッ……さすが我がライバルであるエリックの妹、あの諦めない心は本当に素晴らしく…また美しい」
「……………」
「……前のエリックお兄ちゃんみたい」
「えっ……僕ってあんなんだったの?」
何となく、軽いショックを受けるエリックであった。
「きゃああっ!?」
と、訓練室の壁から轟音が響くと同時に、エリナの悲鳴が聞こえてきた。
見るとスピアの切っ先が壁に突き刺さっており、その近くではエリナがうつ伏せで倒れている。
「エリナ!?」
すぐさま駆け寄るエリック、他の者も後に続いた。
「大丈夫かい!?」
「……大丈夫。こんな事ぐらいじゃ…休んでなんかいられないよ……」
「おいエリナ、上手くいかないならブレード型神機を使えばいいじゃねえか」
「………だって、そんな事したらいつまで経っても実戦に出られないじゃないですか!!」
「や、まあ……それはそうだけどさ」
とはいえ、一向に改善が見られないのならそれも仕方ないではないか。
そんな言葉が喉元まで上がってきたが、コウタはそれ以上何も言わず頭を掻いた。
「――エリナちゃん、焦った所で余計に実戦から遠ざかるだけだよ?」
「それは…わかってます」
「わかってないよ。だって全然駄目だもん」
「っ」
はっきりしたローザの物言いに、エリナは下唇を噛んで俯いてしまった。
ローザの冷たい言葉で場の温度が数度下がり、男性陣の顔に冷や汗が伝う。
「神機は道具じゃない、一緒に戦う仲間で自分のパートナーなんだよ?
それなのにエリナちゃんは自分の神機をただ振り回そうとしてるだけ、そんなんじゃ神機だって応えてくれない」
「……そんな事言われても、私はローザ先輩みたいに神機の感情なんかわかりません」
「そんなの当たり前だよ。だってエリナちゃんはローザみたいなアラガミじゃないんだから」
「ぁ、………」
しまった、エリナは自分の軽率な発言に気づき後悔する。
ローザはアラガミ、普通の人間ではない…それを強調するような物言いをしてしまった。
しかしローザはまるで気にした様子もなく、優しくエリナに語りかけた。
「肩の力を抜いて、少しずつ自分の神機の事をわかっていかないと駄目なの。
エリナちゃんは優しいから、早く自分が戦わないとアラガミが戦えない人達を食べていく…そう思ってるんだよね?」
「……………」
無言のまま、エリナはこくりと頷きを返す。
「そう思っているなら、尚更焦りなんか捨てて自分の神機と向き合っていかなきゃ駄目だよ。
大丈夫。エリナちゃんの神機はエリナちゃんの事好きだから、後はエリナちゃんが自分の神機と分かり合えば上手く行くよ」
「………分かり、合う」
「ローザと一緒に頑張ろう? それにエリナちゃんが無理をすれば心配する人達だっていっぱい居るんだから」
「あ………」
そこでようやく、エリナは自分を見てくれている人達へと視線を向ける事ができた。
……焦った所で結果に繋がるわけではない、そんな当たり前の事すら考える余裕すら無かったのか。
自分の視野の狭さに恥ずかしさすら覚え、エリナの顔が朱色に染まっていく。
「――明日からは一緒に訓練しよう? ローザが傍で戦いながら改善点を言っていくから」
「ほ、本当ですか!?」
「もちろん。だから今日はゆっくり休む事、いいよね?」
「は、はい!!」
「…………」
「エリックさん、どうかしました?」
「いや……もうエリナは僕が助けなくても頼もしい先輩が居るなと思ってね、おかしな話だけど…それが少し寂しいと思ったんだ」
「……その気持ち、わかります。俺にも妹が居るから」
「案ずるな友よ、エリナの中にはいつでも君の存在が居る。常日頃から君のような華麗なゴッドイーターになると言っているのが何よりの証拠!」
「はは、ありがとうエミール」
――それから、ローザとエリナの特訓が始まった
「エリナちゃん、スピアの間合いが一定になってないよ!」
「はい!!」
「それとチャージするなら相手の動きをよく見て! 間合いを離してから発動!!」
「了解です!!」
「……すげえなローザちゃん、教官に向いてるんじゃね?」
「エリナちゃんの動き、今までとはまるで違うぞ」
「それだけじゃないよ、スピアの運用が前よりずっと安定してきてる。
エリナちゃんが今まで以上に頑張ってるのは当然として、ようやく神機と向き合うようになったのかな……」
そう告げるリッカの口元には、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
長い間神機の整備をしている影響か、なんとなくだが彼女にはわかるのだ。
――エリナの神機が、どことなく嬉しそうなのだと
「――チャージ!!」
「そう、そのタイミングを忘れないで!!」
「は、はい!!」
こうして、ローザは付きっきりでエリナの特訓に付き合った。
そして数日後……。
「――大分チャージも安定してきたし、そろそろいいかな?」
「えっ?」
「ローザとコウタお兄ちゃんと一緒に、実戦訓練だよ!」
■
「……………」
ごくりと、無意識のうちにエリナは喉を鳴らす。
だが仕方ない、今彼女は…本物の戦場へと足を踏み入れているからだ。
スピアとの相性関係も改善され、サカキ博士からも許可を貰ったので、いよいよエリナの実戦訓練が始まった。
……のだが、エリナの顔には緊張の他に…不満の色も覗かせている。
「エリナちゃん、緊張しないで頑張っていこうね?」
「……それはもちろんそうですし、ローザ先輩が居るのは心強いですけど」
「あれ? エリナ、俺は?」
「それなのに……なんでエミールまで一緒に居るのよ!!」
「フッ……大船に乗ったつもりでいるがいい!」
「~~~~~~~~~~っ!!!」
拳を震わせるエリナ、明らかに怒っているその姿にローザもコウタも顔を見合わせため息を吐いた。
この2人はいつもそうなのだ、本当に仲が悪いというわけではないのだが…いかんせん口喧嘩が絶えない。
同じアラガミと戦う仲間なのだから仲良くしてほしいと思うのだが、どうやらそうなるのにはもう少し時間が必要なようだ。
「エリナちゃん、とにかく今は討伐対象のアラガミにだけ集中すること」
「あ、はい……」
「対象のアラガミは“オウガテイル”が三体、ローザとコウタお兄ちゃんは後方で援護するから、2人は前衛で戦ってみて。
恐がる必要なんかどこにもないよ、エリナちゃんもエミールさんもすっごく強いし自分の神機に好かれてるんだから」
「はい!!」
一度大きく深呼吸をして、エリナは精神を集中させる。
オウガテイルとの戦い方はちゃんと頭の中に入っている、シミュレーションだって行った。
自分を鼓舞しながら、エリナは神機を強く握りしめ………目視できるオウガテイルの一体に向けて吶喊した。
(正面からじゃ駄目だ、側面から……突く!!)
オウガテイルとの間合いを詰めながら、エリナは相手の側面に回り込むように移動。
横腹に狙いを定め、両手から繰り出す大振りの突きを放ち…その一撃は見事オウガテイルの身体を貫いた。
すかさず間合いを離すために後ろへと跳躍するエリナ、手ごたえがあったと思ったのか口元には確かな笑みが浮かんでいる。
「闇の眷属共よ、騎士の一撃を受けよ!!」
続いて踏み込んでいったのはエミール、相変わらずの口上を述べながら上段からハンマーの一撃を叩き込んだ。
ズドンッ、という鈍く重い音を響かせながら、ハンマーの一撃はオウガテイルの肉体を磨り潰しながら地面に叩きつける。
すかさず横からの追撃を叩き込み、勢いよく壁に叩きつけられたオウガテイルはぐしゃりと潰れその命を終えた。
「ふっ……まあ、こんなものだな」
「ちょっとエミール、私の邪魔しないで!!」
「何を言っているんだエリナ、君が隙を作って僕がトドメを刺す…そういう筋書きだっただろう?」
「それはアンタの妄想でしょうが!!!」
「おい喧嘩すんなよ、次来るぞ!!」
「っ」
コウタの怒声を耳に入れ、エリナは瞬時に思考を切り替え次の標的を定める。
エミールもまた残りのオウガテイルへと向かっていき、コウタはそれを見ながら実戦でも相変わらずな2人に大きなため息を吐き出した。
「ったく……エリナもエミールもしょうがねえな」
「悪いコンビじゃないとは思うんだけど……あんな事を繰り返してたら、近いうちにやられちゃうよ」
「だよなあ……はぁ、カズキだったらもっと上手くやれるんだろうけど」
「コウタお兄ちゃん、そうやって1人でなんでも背負ったってしょうがないよ?
ローザだっているしエリックお兄ちゃんだって居るんだから、あの2人は3人で一人前にしていけばいいでしょ?」
「………サンキュー、ローザ」
まったくもってたいしたものだと、コウタは思う。
ローザはまだまだコウタ達に比べれば子供と言ってもおかしくはないというのに、こうして自分と肩を並べる程の力と心を身につけている。
さすがカズキの妹だと思う反面、もう少し頑張らなければと思ってしまうのであった。
「それにね。あの2人…なんだかんだ言いながらも互いを支えあってるよ」
「へっ?」
2人を指差すローザ、コウタも視線をそちらへと向ける。
「ああ、もうっ! 邪魔しないでってば!!」
「邪魔などしていないさ、騎士としての責務を果たしているだけであって……」
「そういうのが邪魔だって言ってんの!!」
相変わらずの口喧嘩を行いつつも…無意識なのか、互いに互いの死角を守りあっている。
これにはコウタも驚き、ローザは苦笑を浮かべてしまう。
「あれ、多分本人達も気づいてないんだろうなあ……」
「……うん、俺もそう思う」
だがなんだかんだでいいコンビだ、これから先の成長が楽しみだと言える。
そんな事を考えていると、もうすぐ三体のオウガテイル全ての討伐が終わりそうだという事に気がついた。
こちらの援護など必要せずにここまでの戦績を初陣で出す、どうやら自分との特訓も無駄に終わる事は無かったとローザは自然と笑みを作り。
――ぞわりと、全身が総毛立った
「―――――――!!?」
「ローザ、どうかしたのか?」
突然辺りに注意を払うローザに問うコウタだが、今のローザに応える余裕はなかった。
表情は驚愕に包まれ、頬には冷や汗が伝っている。
(そんな……でも間違いない、けどどうして………!?)
「? ローザ先輩、どうかしたんですか?」
オウガテイルを倒し終え、コアの摘出を終えたエリナ達が戻ってきても、ローザは反応を返さない。
普段と様子の違う彼女を見て、コウタは何か得体の知れないものがここに近づいている事を、今までの経験から直感しエリナ達へと指示を出した。
「2人とも、何が起こってもいいようにしっかり身構えておいてくれ」
「はい? あの、コウタ先輩まで一体……」
「いいから身構えてろ! 何かが……こっちに来るかもしれないんだ!!」
「何かって………」
なんですか、そうエリナが問いかけようとした瞬間。
そのナニカが、全員の前に姿を現してしまった。
「な―――」
「―――に!?」
「えっ………?」
「むっ………?」
ソレを見て、驚愕の声を上げたのはローザとコウタ。
しかしエリナとエミールは、ソレを見てもすぐさま警戒心を抱く事はできなかった。
――人間の女性程度の背丈
――けれど全身が青い鎧のようなもので覆われ、右手にはハルバートタイプの槍が握られている
「なんで、コイツが……!?」
2人が驚愕を浮かべるのは、ある意味当然と言えた。
何故なら、全員の前に姿を現した存在の正体は………。
「―――――ヴァルキリー!?」
To.Be.Continued...
まあヴァルキリーもアラガミなんですから、いつか霧散したオラクル細胞が集まってこうなるわけでして。(ハンニバル侵喰種がいい例です)
これはとある方が前にリクエストをしてくれたものをベースに作成したものだったりします、ありがとうございました!!