彼の物語は、まだ始まったばかり……。
「―――おーい、フィア!」
「? あっ、お疲れ様、ナナ」
「おつかれー!」
フライアのロビーにて、パンッとハイタッチを交わすフィアとナナ。
訓練と小型アラガミとの実戦の繰り返しをしながら、ブラッド隊員となって10日あまりの時が過ぎていた。
2人もフライアの環境に慣れ始め、また知り合いも増えていた。
「おーい!」
「あ、ロミオ先輩!」
2人に手を振りながら近寄っていく1人の少年。
彼の名前は“ロミオ・レオーニ”、フィア達と同じくブラッドの一員であり、彼等にとっては先輩である。
……のだが、少々先輩風を吹かせる傾向にあるため、あまり尊敬されていないのはここだけの話。
「お前ら、ミッション行って来たのか?」
「うん。フィアと一緒にね!」
「オウガテイルを六体、ナイトホロウを四体、それと……ザイゴートを五体。
あと途中で乱入してきたコンゴウを二体……だったかな?」
「………お前ら2人で倒したの?」
「そりゃあそうだよー。隊長もロミオ先輩も同行してないでしょ?」
あっけらかんと言い放つナナ、隣で彼女特製のおでんパンを食べつつこくこくと頷くフィア。
一方、ロミオは2人の強さに内心ビビリつつも驚愕していた。
当たり前だ、この短時間で中型アラガミを倒せるなど思ってもみなかった。
油断しているとあっさり抜かれるぞと言っていたジュリウスの言葉を思い出し、ロミオは内心焦る。
「でもフィアってば人のフォローが上手いよね。安心して攻撃できるよ!」
「ナナは少し銃形態の練習をした方がいいよ。前衛だけじゃいけない場面だって出てくるし」
「うっ……わかってはいるんだけど、苦手なんだもん……」
「今度一緒に練習頑張ろう?」
「うー……うん、フィアがそこまで言うなら……」
「……………」
ヤバイ、実にヤバイとロミオは思う。
ジュリウスが手放しで褒めていたので、凄いとは思っていたが……想像以上だ。
面倒だが訓練をしっかりやろうと彼が心に決めていると……そこに第三者が近寄ってくる。
「戻っていたのか」
「あ、隊長ー!」
「ジュリウス、ただいま」
「任務ご苦労だった。既に中型アラガミを倒せるほどになったか……さすがだな」
「えへへー、こりゃロミオ先輩を抜かす日も近いかなー?」
「ばっ、何言ってんだよナナ! 先輩である俺がそうそう簡単に抜かされてたまるかっての!」
「意気込みは結構だが努々油断するな? どんな事があっても、まずは生き残る事を考えるんだ。
ナナ、フィアも確かに才能溢れる神機使いだが、決して驕らずどんな相手でも油断せずに戦う事を忘れるな」
「はーい」
「わかってるよ、ジュリウス」
「ならいい。……では、そろそろお前達にも同行してもらう事にするか」
『…………?』
ジュリウスの呟きを耳に入れ、フィアとナナは顔を見合わせ首を傾げた。
一体何を言っているのかわからないのだろう、そんな彼等の様子を見て…ジュリウスは口を開く。
「大型アラガミとの実戦を行ってもらう。対象アラガミは……“ガルム”だ」
「ガルム……?」
「狼みたいなアラガミで、前脚がガントレットと呼ばれる程に発達してるアラガミだよ。
巨体に似合わず素早くて、しかも炎を操る厄介なアラガミのこと」
「へえ……フィアは物知りだね。ロミオ先輩はわかってた?」
「あ、当たり前だろ!」
「そのガルムがフライアの進行方向に存在していると報告を受けた、フィアもナナも実戦を積んできたようだからな。今回はロミオだけでなくお前達2人も同行してもらうぞ?」
「りょーかいです!!」
ビシッと敬礼するナナ、フィアも頷きを返しながら残りのおでんパンを一気に咀嚼した。
では十分後に出撃するぞ、そう言い残しジュリウスはその場を離れる。
「大型アラガミかあ……ちょっと緊張してきたかも」
「大丈夫だよナナ、ジュリウスもロミオも居るから問題ないよ」
「そうそう、このロミオ先輩に任せなさいって!」
「……隊長やフィアは頼りになるけどなー」
「おまっ、ジュリウスはともかくフィアより下なのかよ!?」
「冗談ですってば!」
(冗談に聞こえなかったけど……)
そう思ったフィアであったが、口に出すのはやめておく事にした。
……だが大型アラガミの討伐は確かに初めてだ、小型や中型と比べて強敵なのは間違いない。
特にガルムは最近出現するようになった比較的真新しいアラガミだ、注意するに越した事はない。
出撃準備を整えておこうと立ち上がり、フィアは2人に「またあとで」と告げてからターミナルへと向かった………。
■
「―――あれが“ガルム”だ」
「うわー……大きい」
高台から双眼鏡でガルムの姿を見たナナは、ポカンと口を開けてしまう。
巨大な狼を思わせるガルムの容姿は、遠くから見ても威圧感を覚える。
しかもガルムの近くにはオウガテイルなどの小型アラガミの姿も見えた、あれら全てを相手にしなければならないのかと思うと少しだけ気が滅入る。
「ジュリウス、どう動くの?」
「今回は俺とロミオで前衛、ナナ……お前は後方で援護だ」
「えっ……」
「お前は銃形態の運用がまだまだ及第点とは言えない、だから今回のミッションで立ち回りを覚えるんだ。そしてフィア、お前は遊撃を頼む」
「遊撃?」
「状況に応じて前衛と後衛を担当してくれ。お前ならば臨機応変に戦える筈だ」
「うん、わかった」
「………うわー、遠距離は苦手なんだけどなぁ」
「ナナ、頑張ろう?」
「うー……うん」
「―――――時間だな」
静かにそう告げ、ジュリウスは神機を持つ手に力を込める。
他の3人もそれに続き、臨戦態勢に入った。
「決して無理はするな、危ないと思ったら即座に後退しろ。いいな?」
『了解!』
「よし、では―――作戦開始!」
ジュリウスの声と共に、4人は一斉に高台から飛び降りる。
着地と同時に地を蹴り駆け抜け、4人は真っ直ぐガルム達の元へと向かった。
足音を感知したのか、ガルムが4人に気づき身体を彼等へと向け―――大きく咆哮した。
どうやら向こうも臨戦態勢に入ったようだ、だがまずはとジュリウスが近くのオウガテイルへと狙いを定める。
上段からの振り下ろし、ロングブレードの刃が深々とオウガテイルの身体に食い込み鮮血が舞う。
引くように神機を振るい、一撃の元にアラガミの命をこの世から消滅させた。
ジュリウスがオウガテイルの命を奪うのとほぼ同時に、ロミオがガルムとの間合いを詰める。
先手はガルムから、大木すら上回る右の巨腕でロミオを砕こうと横薙ぎに振るわれた。
それを跳躍して回避しつつ、ロミオはバスターブレードを振り上げガルムの顔目掛けて力任せに振り下ろした―――!
ガルムの顔面に縦一文字の裂傷が刻まれ、痛みからか僅かに相手の動きが鈍る。
すかさず第二撃をお見舞いしようと、ロミオは着地と同時に追撃を仕掛けようとして。
「ぐぇ―――!」
そうはさせまいと、ガルムが振るった左の巨腕による一撃を受け横に吹き飛ばされてしまった。
ゴロゴロと転がりながら吹き飛ばされるロミオ、そのまま喰らおうと大きく口を開きガルムが跳躍しようと脚に力を込める。
しかしその前にフィアがガルムとの間合いを詰め、下から掬い上げるかのような一撃を相手の顎に叩き込んだ。
更に返す刀でガルムの右の前脚を切り裂くフィア、雄叫びを上げ苦しむガルムをよそに彼は吹き飛ばされまだ立ち上がれないロミオの元へ。
「大丈夫?」
「いててて……だ、大丈夫……」
右の脇腹を押さえながら返事をするロミオ、その表情は苦悶に満ちている。
どうやらダメージは思いのほか大きいようだ、それを認識すると同時に…彼は片手で神機を背後目掛けて横薙ぎに振るった。
刹那、肉を切る嫌な音を響かせながら――彼等に襲い掛かろうとしていたザイゴートの身体が上下二つに分かれる。
血が飛びフィアの顔が赤く汚れるが、それには構わず彼はロミオを庇うように立ち神機を両手に構えた。
「――ああもう、当たんないよお!!」
一方、ナナは苛立ちを含んだ声を上げながらアラガミ達と戦っていた。
彼女の神機は現在銃形態になっており、ジュリウスの指示通り後方からの支援を行っているのだが……自分の放った銃撃が思うように当たらず、苛立っていた。
「落ち着けナナ、よく相手を見ろ!!」
「わかってるけど………!」
味方に誤射しないようにしながら、縦横無尽に動き回るアラガミに当てる。
口で言うのは簡単だが、それが簡単にできれば苦労はしない。
いつものブーストハンマーで接近戦を行えば、こんな苦労はないのにと言ってやりたい。
苛立ちが増す中――ナナの元にフィアがやってくる。
「ナナ、もっとゆっくり狙うんだ」
「でもそんな悠長なことできないよ!」
「大丈夫。沢山攻撃するより確実に当てるように心がけた方がダメージソースはあるんだ。
相手の動きの一手先を読みながら、ゆっくり確実に照準を合わせる。やってみて!!」
「…………う、うん」
一度撃つのを止め、ナナはフィアの言われた通り照準を合わせる事に集中する。
焦りがナナの中で生まれるが、それを懸命に無視しつつナナは一体のザイゴートに狙いを定めた。
「―――――今!」
「っ」
フィアの声とほぼ同時に、ナナは銃撃を放つ。
すると彼女の放った弾丸は、見事ザイゴートの身体に風穴を開け地面に落とさせた。
「や、やったあ!!」
「最初はそうやって慣らしていって、だんだんと撃つ感覚を狭めていけばいいんだ。焦らず確実に、ね?」
「うん。ありがとうフィア!」
(………たいしたやつだ)
戦いの最中、あっという間にナナの命中精度を上げてしまったフィアの手腕に、ジュリウスは驚く。
やはり彼はどこかで高度な訓練を受けてきたのだろう、そうでなくては説明が付かないほどの経験値だ。
しかし彼には秘密が多い、あれだけの経験値を得るのに一体どんな方法を用いたのか……。
「ウオォォォォォォォォン!!!」
「っ」
ガルムの雄叫びを耳に入れ、今は戦いに集中しろと思考を切り替えるジュリウス。
既に小型アラガミはおらず敵はガルム一体のみ、ジュリウスは神機を両手で持ちながら地を蹴った。
ガルムも同時に動き――前脚のガントレットが赤く染まっていく。
「ジュリウス!!」
あの攻撃は拙い、炎を生み出し周囲を焼き尽くすガルムの必殺の一撃だ。
それに気づいたロミオがジュリウスの名を呼ぶが、彼はそれにも構わず吶喊していく。
赤い巨腕が臨界に達し、ガルムが必殺の一撃を繰り出そうとした瞬間――複数の銃撃が襲い掛かった。
繰り出したのはフィアとナナの2人、先程ロミオが刻んだ顔の裂傷目掛けて連続して銃撃を当てていく。
傷口に攻撃を当てられ、たまらずガルムが怯んだ。
「うおおっ!!!」
その隙を逃さず、ジュリウスは「血の力」のもう一つの能力――「ブラッドアーツ」を発動。
刀身が蒼い光に包まれ、彼はそのままガルムの右前脚にそれを叩き込む。
破壊力が増したその一撃は、ガルムの右前脚を結合崩壊させ、すかさず彼は左前脚も同様に切り裂いた。
「フィア!!」
「うん!!」
ジュリウスが呼ぶ前にフィアは動き、大きく跳躍する。
反対にジュリウスはその場から大きく後方に跳びながらガルムから離れ。
「―――終わり」
無慈悲にそう告げながら、フィアは神機の刀身をガルムの脳天に深々と突き刺した。
断末魔の叫びを上げ、のた打ち回るガルム。
やがて大きく痙攣しながら動きを鈍らせていき……そして、その巨体を地面へと沈ませ動かなくなった。
…………。
「―――終わったな」
「ふぅぅぅぅ~……」
ジュリウスのその一言で、場の緊張が解かれた。
ロミオはその場で座り込み、ナナは大きく息を吐いて安堵の表情を浮かべる。
初めての大型アラガミとの戦いは、どうやら無事勝利できたようだ。
一方、フィアは神機をガルムの亡骸から抜き取り、そのままコアを摘出していた。
「よくやったなフィア、ナナ。いい動きだった」
「えへへ~」
「ロミオは、大丈夫だった?」
「だ、大丈夫だって……いててて」
「無理をするなロミオ、とにかく帰還するぞ」
そう言いながら、帰りのヘリを呼ぼうと通信機へと手を伸ばすジュリウス。
その間に、フィア達は残りの小型アラガミ達のコアを摘出しようとして。
「…………?」
「フィア、どうか―――」
――突如として、何の前触れもなく
――彼等の前に、見た事のないアラガミが降り立った
『―――――』
突然の事態に、全員が反応できない。
その為、誰もが正体不明のアラガミの初撃を許してしまい――近くに居たナナが狙われた。
To.Be.Continued...
ネタバレになりますが、最後に出てきたアラガミはオリジナルではないです。
では何なのか?それは次回のお楽しみにという事で……。