神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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最後のブラッド候補生、シエル・アランソンが合流しブラッドが全員出揃ったのだが……フィア達はある問題に直面していた。


第3部捕喰91 ~フィアとシエル~

「――では、今日はここまでにしましょう」

 

ここはフライアにある1つの会議室。

そこでブラッド隊員に教鞭を振るっていたシエルがそう告げ、部屋から出て行った。

残されたジュリウスを除くメンバーは、数秒間沈黙したままであったが……。

 

「――フィアー、もう限界だよーーーーーっ!!」

「わっ………」

 

泣き出しそうなナナの声が聞こえ、フィアの顔が彼女の胸の中に沈んだ。

柔らかい感触がフィアの顔を包み込むが、彼はその美味しい出来事でも「息苦しい」といった感想しか浮かばせなかった。

 

「あ、ずりいぞフィア!!」

「お前………」

 

美味しいイベントを消化しているフィアに羨望の眼差しを送りながら立ち上がるロミオ、そんな彼を見てギルは目を細め冷たい視線を彼に向けた。

 

「シエルちゃんが一生懸命なのはわかるけど……勉強やだーーーっ!!」

「……とりあえず、離れてくれない?」

 

ぎゅうぎゅうと自分に抱きつくナナを放し、とりあえず落ち着かせようと試みるフィア。

……確かに、彼女の気持ちもわかる…というか、正直フィアも同じ気持ちであった。

 

――シエルが新たに作成した訓練プログラムは、正直ガチガチとしか言い様がなかった

 

効率的な訓練に、それが終われば座学の時間。

無論自由時間は存在する、しかしその時間は今までより圧倒的に少ない。

そんな状況の中でも、今まで通り…というより今まで以上に訓練に励まなくてはならない。

ある理由からアラガミの激戦区である“極東支部”に近づいているからだろう、アラガミと戦う機会が前よりも増えていた。

これではナナが文句を言うのは当然と言えた、しかもこれは皆には話してはいないが……最初に作成したものよりもまだマシなのだ。

ロミオも同じように不満を口にしているし、ギルはさすがにキャリアが長いからかシエルの考えを否定する事はなかったが……やはり不満が無いというわけではない。

 

「……ジュリウスに話してみるよ。それとシエルにも」

「頼むぜー、こうガチガチに過ごしてるとやる気が無くなりそうだ……」

「お前みたいな未熟には、ちょうどいいと思うがな」

「なんだとー!?」

「事実だろうが!」

『また始まったよ……』

 

もはや恒例となったロミオとギルの睨み合いが始まり、フィアとナナは同時に呟いた。

 

「フィア、なんとかしようとしてくれるのはありがたいけど……シエルちゃんを怒ったりしないでね?」

「? そんな事するわけないじゃないか、シエルはただ一生懸命なだけなんだから」

 

ただ不器用なだけだ、彼女は彼女なりにブラッドに馴染もうとしてくれているのはブラッドの誰もが理解している事であった。

しかし彼女はその馴染み方がわからない、だから自分の知識を活かそうとして…少々ズレているだけなのだ。

それに……フィアにはシエルがどうして人間関係の築き方が不器用なのか知っている。

 

――彼女は、“マグノリア・コンパス”の出身の中でも少し特殊なケースだ

 

元々は裕福な軍閥の生まれらしいのだが、両親が亡くなってからラケルに引き取られた…だけなら良かった。

しかし彼女はその中で過酷な軍事教育を施されていたらしい、それも…少しばかり異常な。

およそ普通の少女が入るには過酷な環境、少しのミスでも厳しく罰せられ懲罰房に送られ…虐待としか思えない罰を受けたという。

それを話してくれたのはラケルの姉であり“神機兵”というアラガミ用の人造兵器を開発している“レア博士”であり……その訓練を施された時のシエルを見た時、彼女は“まるで命令に従うだけの猟犬、もしくはロボット”のように感じたらしい。

だから彼女はわからないのだ、人間関係の築き方が。

だから今彼女はブラッドの中で浮いている、このままでは…彼女は同じ隊に居ながら孤立してしまうかもしれない。

ジュリウスもそれを危惧して彼女と話してはいるのだが、そう簡単に変えられるほど簡単なものではないのだ。

 

――人は一度変わってしまえば、そう簡単に別のものに変わる事はできない

 

そんなに賢い生き物ではないし、むしろ人間という生物は同じ過ちを繰り返す愚かしい存在だ。

歴史がそれを証明している、そうでなかったらどうして自分達はあんな……。

 

「―――フィア、どうしたの?」

「………なんでもないよ」

「……ねえ、フィア。副隊長だからってなんでもかんでも頑張らなくていいからね?

 私、頭があんまり良くないから力になれないかもしれないけど……いつだって力になるからね?」

「うん……ありがとう、ナナ」

 

ナナの優しさに感謝しながら、フィアは笑顔を彼女に返す。

……それがどこか悲しそうに見えたから、気がつくとナナは彼を抱きしめていた。

壊れ物を扱うかのように優しく、彼がどこかへと行かないように…少しだけ強く抱きしめる。

 

「………いいなあ、フィアのヤツ」

「お前、そればっかりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あの、副隊長?」

「何?」

「質問なのですが……どうして私達は2人っきりなのですか?」

 

シエルにとって至極当然の問いかけ、しかしフィアは「当たり前でしょ」と返すだけ。

……勘違いしないように追記しておくが、別に2人は今ロマンチックな空気に包まれているわけではない。

2人っきりと言っても……周りに広がるのはアラガミに捕喰された廃ビル群のみ。

そして2人の手には神機が握られており、今は2人だけでミッションを行っているという事が理解できるだろう。

しかしシエルの疑問はそこではなく、何故フィアは自分とだけでアラガミ討伐に来たのかわからなかった。

 

「2人では効率的な任務は行えません。なのに何故副隊長は私とだけで討伐ミッションを受注したのですか?」

「色々と話すことがあったから、ここならゆっくり話せるでしょ?」

「……会話でしたらフライアで行える筈です。このような場所で悠長に会話などしていれば危険性が増します」

「……………」

 

シエルのいつも通りな態度に、フィアは苦笑する。

わかってはいる、わかってはいたが……やはり相変わらず彼女の話し方は固い。

シエルにとっては普通に会話をしているのだろうが、他人からすれば壁を作ろうとしているようにしか聞こえない。

彼女は不器用だ、それはわかっているがこのままではいけない。

 

「ねえ、シエル」

「なんでしょうか?」

「シエルは……僕が嫌い?」

「…………えっ?」

 

立ち止まり、おもわずシエルは警戒を解きながらフィアに視線を向けた。

質問の意味が分からないわけではない、どうして彼がいきなりそんな事を言ったのか理解できなかった。

 

「ブラッドのみんなの事、嫌い?」

「えっと…副隊長、何を仰っているのかよく……」

「だってシエル、みんなと話す時…壁を作ってるよ?」

「…………そんな事ありません。皆さんとは共にアラガミと戦う仲間として」

「だったら、もっと軽々しく話した方がいいよ。同じ仲間なんだから」

「……………」

 

困り顔を浮かべてしまうシエル。

怒られているように思えたのか、気まずそうにフィアから視線を逸らした。

 

「レア博士からシエルの話は聞いたよ、でも……ここはシエルが居た場所とは違う。

 規律正しい行動だって必要だ、それはボクだってみんなだってわかってる。だけどそれだけを求めてしまったら…隊の連携が悪くなるだけだ。それはシエルだって薄々そう思ってるんじゃない?」

「…………それ、は」

 

言いよどむシエル、だがその態度は肯定の意を示していた。

 

「もちろん最初からみんなと同じようになれなんて思ってない、でももう少し肩の力を抜いた方がいいと思う」

「………でも、どうすればいいのか」

「……………」

 

顔を俯かせ、シエルの表情が曇った。

フィアの言いたい事はわかっている、それに自分だって本当は……。

だけどわからない、どうすればいいかなどシエルは訓練時代に習ってはいないのだ。

命令以外の事はわからない、わからなくていいと教え込まれた彼女には答えを見つける事ができない。

だから自分だけでは今のままで居るしかない、だってそれ以外の方法がわからないのだから……。

 

「えいっ」

「ふぇ………? ふひゃ!?」

 

普段の彼女からは考えられない、間抜けな声が漏れた。

だがそれも仕方ないかもしれない、何故ならフィアがいきなり彼女の頬を両手で引っ張り始めたからだ。

無論力を込めてはいないので痛みは感じない、しかし数秒経って我に返ったシエルは羞恥心を覚える。

 

「ひゅ、ひゅくらいひょう……?」

「ぷっ、シエル変な声ー」

「にゃ、にゃにをひゅるんでしゅか!?」

「あはは、余計に変な声になってるよ?」

「っ」

 

どんっと、シエルは両手でフィアを突き飛ばした。

フィアの手がシエルの頬から放れ……シエルはキッと彼を睨む。

 

「副隊長、いくら上官といえどもこんな事をされては黙ってなどいられません! 一体何の意図があってこのような事をしたのですか!?」

「……………」

 

初めて見せる、シエルの激情が込められた声。

顔は羞恥と怒りからか赤く染まり、普段の表情が薄い彼女とは思えない姿だ。

それを見てフィアは意外そうな表情を浮かべてから……口元に笑みを浮かべた。

 

「……怒った顔、初めて見た。そんな顔もできるんだね」

「質問の答えになっていません! 副隊長、何故このような―――」

「――君の色々な顔を、見たかったから」

「………………えっ?」

 

怒りの色が、シエルの顔から消えた。

代わりに現れたのは困惑の色、彼の言葉が理解できなかったからだ。

 

「シエルは気づいてないかもしれないけど、フライアに来てからずっと張り詰めた顔しか見せてない。

 それじゃあ肩の力だって抜けないし息苦しくなるだけだ、だから……もっと色々な顔を見せてくれないかな?」

「色々な顔、ですか……?」

「うん、シエルの怒った顔は見れてから…そうだな、やっぱり笑った顔も見てみたい」

「と、言われましても……ふにゅっ」

 

変な声がシエルから放たれる。

またしてもフィアが両手でシエルの頬を摘んだからだ。

再び現れる羞恥心、しかしフィアはシエルから離れようとしない。

 

「ほらほら、無理矢理笑わせちゃうよ?」

「ひゅ、ひゅくらいちょう!!」

「あ、それとその“副隊長”っていうのもやめること」

「ふぇ……?」

「だってボクだけ名前で呼ばれないなんで嫌だもん、隊長のジュリウスは名前で呼んでるのにさ。だから今からボクを名前で呼ぶこと、じゃあ早速やってみよう!」

「え、えっと……」

 

シエルの頬を放し、「名前で呼んでみて?」と告げるフィア。

しかし副隊長…すなわち上官である彼を名前で呼ぶなど…そんな考えがシエルの頭に浮かぶ。

何も言えなくなったシエルを見て、フィアは再び彼女の頬を摘み出した。

 

「ひゃあ!?」

「もしこれからも副隊長って呼んだら、その度にこうやってほっぺを掴むからそのつもりで」

「しょ、しょんなこりょしらいれくだしゃい!」

「ならちゃんと名前で呼べばいいだけだよ。わかった?」

「…………うぅ」

「シエルのほっぺた柔らかいね、ナナもそうだけど女の子だからかな?」

「わ、わひゃりましゅた! れすからはなしれくららい!!」

 

真っ赤な顔で懇願され、言われた通りシエルの頬を放すフィア。

更に大きくなった羞恥から先程よりも顔を赤らめつつ、恨めしそうにフィアを睨むシエル。

しかし彼には通じず、そればかりか内心彼はシエルの新しい表情を見て喜ぶ始末。

 

「じゃあ、言ってみて?」

「は、はい……すー…はー………」

「名前で呼ぶくらいで大袈裟な……」

「い、いいじゃないですか……」

「はいはい。じゃあほらほら」

「……………フィア、副隊長?」

「摘まれたいの?」

「そ、そんな事ありません! ……フィア、さん」

「さんはいらないよ?」

「こ、これくらいは譲歩してください。フィアさんで…お願いします」

「うーん。まあ今はそれでいいや」

 

明らかに不満そうだが、フィアは納得したような表情を浮かべる。

というより今は納得するしかないのだ、何故なら……“仕事”を先に終わらせなければいけなくなったから。

 

「シエル、後方で銃撃よろしく。スナイパータイプだからその方がいいでしょ?」

「えっ―――っ、了解!!」

 

一瞬意味が分からず、けれどすぐに彼の言葉を理解してシエルは急ぎその場から離れる。

瞬間――ビル群から現れたのは、ボルグ・カムランと呼ばれる大型アラガミだった。

高台に移動し狙撃に集中してもらうため、フィアは自ら囮と前衛を買って出たのだ。

 

「……今のボクは機嫌が良いんだ。だから…あまり苦しませないようにしてあげる」

「ギィィィィィィィィアアァァァァァァッ!!!」

 

けたたましい鳴き声を上げるボルグ・カムランに、フィアは笑いかける。

それはまるで子供のように純粋で、けれど決して慈悲の欠片もない微笑みであった………。

 

 

………。

 

 

………………。

 

 

「―――副隊長、少し戦術面でお話したい事が」

「副隊長………?」

「あっ、いえ…フィアさん」

「まださん付けしてるの?」

「そ、それくらいは譲歩してくださいと言ったじゃありませんか! それよりですね……」

 

「………なんだか最近、シエルちゃんの雰囲気が変わったね」

「そういえばそうだなー。それに座学の勉強時間もずいぶん減ってくれたし……」

「お前の場合は前の時間の方が良かっただろ。まだまだアラガミに対する知識量が足りねえよ」

「うるさいな! お前にだけは言われたくないっての!!」

「なんだと!?」

「なんだよ!!」

「また始まった………」

 

この2人は放っておこう、その場から離れるナナ。

と、そこでジュリウスを見つけたので近寄って声を掛ける事に。

 

「隊長ー、シエルちゃんの様子…変わったと思わない?」

「ああ。それも良い方向に変わったな、これもフィアのお陰か……」

 

自分にはできなかった、それを成し遂げてくれたフィアにジュリウスは感謝の言葉を送る。

……やはり彼を副隊長にしたのは間違いではなかったと、今なら確信を持ってそう思えた。

そう思いつつ……ジュリウスは何故か微妙そうな表情を浮かべる。

 

「どうかしたのー?」

「いや、ただ……なんだか最近、2人だけで会話をする事が多くなったと思ってな」

「そういえばそうだねー。なんだか急激に仲良くなってるような……」

「……………俺も隊長として、ブラッドの運用をしっかりと考えなくてはな」

 

どこか自分や周りに言い聞かせるように呟きながら、ジュリウスはフィア達に近寄っていく。

なんだかおかしな彼の様子に首を傾げつつ、ナナも彼と同様にフィア達へと向かっていった。

……なんだか、自分だけ蚊帳の外なのがなんとなく嫌だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




ジュリウスさんがおかしな方向に(笑)

軽くセクハラなフィアですが、まあ子供なので許してください。
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