神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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――大切な仲間は絶対に死なせない

フィアが建てた誓いは、いつだって彼の中に存在している。

そしてその誓いは……彼に力を与えているのだ。


第3部捕喰92 ~命令よりも大切なもの~

「――お前達には、“無人型”の神機兵を護衛してもらう」

 

フライアの局長室。

そこに呼ばれたブラッド隊長のジュリウス、副隊長のフィア、そしてその補佐であるシエルはグレム局長から上記の任務を言い渡された。

 

「護衛任務……?」

「詳しい話は…クジョウ博士、頼む」

「は、はい。えー……神機兵の実戦データを得たいので、君達には神機兵の護衛とアラガミとの一対一の状況を作り出してほしいので、周囲のアラガミを掃討してもらいたいのです」

「………露払いをしろ、と?」

「そういう事だ。今回の主役はあくまで神機兵なのでな」

「……………」

(? ジュリウス……?)

 

グレム局長の言葉に、ジュリウスの表情が僅かに変わった事にフィアは気づく。

しかし今は余計な口を開く事はできない、個人的に嫌いなグレムから何を言われるかわからないからだ。

 

「詳しい話は現場同士で行え。下がっていいぞ」

「………了解致しました。ではクジョウ博士、後程」

 

グレムとクジョウに一礼をしてから、ジュリウスは踵を返す。

シエルも同様に一礼をしてから彼の後を追い、フィアは特に何もせず2人の後に続いた。

局長室を出て、ロビーに向かうエレベーターに乗ってから……フィアは口を開く。

 

「ジュリウス、不満?」

「どうしてそう思ったんだ?」

「グレムの言葉を聞いた時、一瞬だけど顔が苦々しいものに変わったから」

「副隊長、グレム局長ですよ?」

「………副隊長?」

「あっ………ふやっ!?」

 

しまった、そう思ったシエルであったがもう遅い。

気がついた時には、フィアの両手が彼女の頬を摘んでいた。

 

「また副隊長って呼んだね? 呼んだらこうするって言わなかった?」

「す、すみまへん……きをふけますのれふぁなしてください!」

 

顔を赤らめ許しを請うシエル。

けれどフィアは楽しそうな表情のままやめたりはしない、その光景を見ていたジュリウスはおもわず苦笑する。

シエルの慌てる姿など初めて見たからだ、それに雰囲気も明るいものに変わっている。

やはりフィアの傍に居させたのは正解だったと思いながら、ジュリウスは2人のやりとりを優しい表情で見つめていた。

 

「………うぅ、フィアさんっていじわるです」

「だってシエルの反応が面白いんだもの」

「わ、私は少しも面白くありません! そ、それに女性の身体をこんなにも軽々しく触れるのはいけない事なんですよ!?」

「はーい、気をつけまーす」

「……絶対ですよ?」

「シエルがボクを副隊長って呼ばなければいいだけじゃないか」

「それはそうかもしれませんが……」

「お前達、リラックスするのはいいが今の内に準備を整えておけ。あくまで神機兵の運用データを得るためとその護衛とはいえアラガミと戦う事に変わりはないのだからな」

「了解しました」

「わかったよジュリウス、じゃあまた後で」

 

ちょうどエレベーターがロビーに着いたので、フィアはそのままその場を後にした。

やれやれと肩を竦めるジュリウスに、シエルは少し躊躇いがちに言葉を発する。

 

「あの……ジュリウス」

「どうした?」

「ふくたい……フィアさんなんですけど、少し緊張感が足りないというか……」

「……あいつは自然体でいるのが一番良いんだ。俺はそう思っている」

「ですが、誰に対しても普段通りの口調や態度で……これでは規律が乱れてしまいますよ?」

「確かにそうかもしれん。……シエルにも近い内にわかるさ、あいつはあのままで良いと言った意味が」

「……………」

 

そう言われたものの、シエルにはわからなかった。

特殊な軍事教育を施された彼女には、隊の規律を乱しかねないフィアの態度には少し疑問が残る。

もちろん彼はブラッドの副隊長として隊長であるジュリウスや隊員である皆を支えていると思っているし、悪い人ではないともわかってはいる。

しかしそれでも、シエルには彼の態度を全面的に認める事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――終わり、かな」

「そうみたいだな」

 

神機兵が手に持つ巨大な剣をアラガミに突き立て、絶命させる。

周囲にアラガミの気配はなく、どうやら今回の神機兵護衛任務は無事終了したようだ。

楽な任務だったと、フィアは神機兵に視線を向けつつそう思った。

 

――新たに開発された対アラガミ兵器である神機兵は、想像以上のものであった

 

中型アラガミに匹敵する大きさに、第二世代型と同様の銃と剣を自由に扱える武器。

更に強固な装甲に単純な大きさによる攻撃力は、たとえ大型アラガミと戦っても互角以上の成果を上げられるだろう。

しかもこの神機兵は無人、即ち万が一やられたとしても犠牲者が出るわけではない。

まさしく画期的で夢のような兵器だ、これが量産されれば間違いなく犠牲者は激減する。

 

「神機兵って凄いんだねー、吃驚しちゃったよ」

「普通の神機使い以上の強さかもな、しかも無人ときたもんだ」

「でもさ、これが量産されたら神機使いなんか必要なくなるんじゃないか?」

「………犠牲者が増えるより、ずっといいさ」

 

ロミオの言葉に、フィアはぽつりと言葉を返す。

「まあそれはそうなんだけどさー」と言いながらも、ロミオは少し不満げだ。

……彼の気持ちも理解できる、神機兵が当たり前のようになったら自分達神機使いはまさしくお払い箱になるだろう。

そうなればそうなったで発生する問題がある、ロミオはそれを危惧しているようだ。

 

だが、それでも―――

 

「………誰も死ななくて済むなら、そっちの方がいいに決まってる」

 

フィアは、この場に居る誰よりも神機兵の一刻も早い実用化を願っていた。

それは神機使いである彼自身を否定するかのような考えではあるが……彼の願いは純粋なものであった。

 

「とにかく戻ろう。先に戻ってるジュリウスに連絡を―――」

「おい。あれを見てみろ!!」

 

突然大声を上げるギルに、全員の視線が空に向けられる。

そこに広がるのは――“赤黒い色をした雲”。

それを見て全員の表情が固まり、その正体が如何に危険かを瞬時に思い出した。

 

「あれって……“赤乱雲”か!?」

「あれが……初めて見た」

「………ジュリウス、聞こえる?」

 

通信機を用いて、フライアに帰還したジュリウスに繋げる。

だが彼の声は返ってはこず……代わりに聞こえたのは、怒鳴り散らすグレムの声。

 

『俺がここの最高責任者だ。いいから神機兵を守れ!!』

『人命軽視も甚だしい!! あの雨の恐ろしさは、あなたとて知っているはずだ!!』

「ジュリウス、どうしたの!?」

『っ、フィアか……。拙い事になった、シエルが護衛していた神機兵βが大きなダメージを受けたらしい』

「シエルは!?」

『あいつは大丈夫だ。だが……そちらでも確認できていると思うが、赤い雨が………』

「……わかった。シエルの救援に向かうよ」

『貴様、勝手な行動をとるんじゃない!!』

 

一瞬だけ入るノイズと、その後に響くグレムの怒声。

どうやらグレムが強引にジュリウスの通信機を奪い、フィアを止めようとしているらしい。

 

『貴様等は神機兵γを護衛しつつフライアに戻れ!!』

「………シエルは?」

『無論、神機兵の護衛をさせる。それが貴様等に課せられた任務だからな』

「シエルが居るエリアは既に赤い雨が降っている筈だ、そんな中で護衛なんかできるわけが無い。

 赤い雨を受ければ“黒蛛病”を発症する、そうなれば……シエルが死ぬんだぞ!!」

 

――黒蛛病

極東近辺で降るようになった“赤い雨”を浴びる事によって発症する、重い病。

発症すれば100%の確率で死に至る、治療法が確立されていない病気の事である。

それはもはや一般人すら知っている常識であり、それがわかっていてグレムはシエルに神機兵を守れと命令した。

 

それは即ち――彼女に死ねと言っていると同意。

 

『貴様等は何だ? 神機兵を守る任務に就いているんだぞ? だったら自分のやるべき事を果たさんか!!』

「お前は……シエルに死ねというのか!?」

『お前だと!? 戦う事しか能の無いガキが、俺に対してなんて口の聞き方だ!!

 神機兵に幾らかかっていると思っている!? いいから貴様等は神機兵を守ればいいんだ!!』

「―――――」

 

グレムの言葉に、フィアは思考を停止させる。

人間の命よりも神機兵を優先する、それは…彼にとって到底理解できないものであった。

 

(どうして……こんな………)

 

わからない、理解できない。

人の命を軽視するあの男の言い分が通されるなど、絶対に認められない。

当たり前だ、何故なら……フィアにとって他者の命とは、仲間の命とは―――

 

―――自分なんかより、大切なものなのだから

 

『聞いているのか貴様!! とにかく神機兵γを護衛―――』

「―――煩い」

『な、何だとおっ!!!?』

「……命は1つしかないんだ。失っちゃいけない大切なものなんだ、それを……それを簡単に見捨てるのは、酷い事なんだ。

 お前は自分がどれだけ許されない言葉を放っているのかまるで理解していない、命を大切にしない者なんかの言葉なんかに…ボクは従う事なんかできない」

『貴様ぁ……自分が何をほざいているのかわかっているのか!?』

「……お前は同じだ。ボクの父親だったやつと」

 

吐き捨てるように言ってから、フィアは無理矢理通信を切った。

そして全員に視線を向けると、先程のやりとりを聞いていたのか全員が怒りの表情を浮かべている。

それを見て、フィアはブラッド達の優しい心を感じ取り笑みを零す。

 

――だからこそ、守りたいのだ

 

――命を懸けて、仲間と認めた皆を守りたいと切に願うのだ

 

「みんなは先にフライアに戻ってて」

「戻っててって……お前、まさか1人で行くつもりか!?」

「危険だって! 防護服だって神機兵の装甲に比べて心許ないし……」

「フィア、行くなら私も一緒に行くよ!!」

「ううん。ボクだけで行くよ、みんなを危険な目に遭わせる訳にはいかない」

「それはこっちの台詞だ!! お前だけに―――」

「大丈夫。“コイツ”を使えば赤い雨の中でも平気だろうから」

 

そう言ってフィアは――待機状態になっている神機兵へと視線を向ける。

一瞬彼の言葉を理解できない面々をよそに、彼は……神機兵の中へと乗り込み始めた。

 

「っ、フィア、お前何を―――」

「大丈夫だよ。必ずシエルを連れて戻るから」

 

ハッチを閉じ、神機兵に搭乗したフィアはすぐさまその場を離脱。

後から聞こえる仲間達の言葉を無視し、全力で戦場を駆け抜けていく。

赤い雨が降っている区域まで来たが、神機兵の特殊装甲によってフィアの身に危険は及ばない。

 

「……神機兵、今だけでいいからボクに力を貸してね?」

 

優しく、神機兵へと語り掛けるフィア。

すると――その言葉に応えるかのように、神機兵のスピードが上がった。

凄まじい速さで地面を駆け抜け、シユウ種の滑空攻撃よりも更に速い速度で走る。

 

「………君は優しいね。ありがとう」

 

前方へと視線を向ける、もうすぐシエルが居るであろうエリアに着くだろう。

そしてフィアがシエルと神機兵βを視界に捉えた瞬間―ー彼女の前に、シユウが降り立った。

 

「っ、やめろおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

咆哮と同時に、フィアは神機兵を操作。

右手に持つ剣を振り上げ、シエルに襲い掛かろうとしたシユウへと振り下ろした。

見事刀身はシユウを切り裂き…はせず、地面を破壊するだけに終わる。

回避したシユウが飛び立ち離脱するが、フィアは逃がさぬとばかりに神機兵をその場で跳躍させた。

人工筋肉と機械の駆動系を十二分に発揮させた神機兵の跳躍は、優に五メートルは飛んだであろうシユウの更に上空まで跳んだ。

 

「――――わあああああああああああああああああっ!!!」

 

絶対に逃がさない、次で決めるという気概を込めた全力の剣戟。

それは今度こそシユウを捉え刀身が易々とアラガミの身体を貫いた。

シユウから放たれる断末魔の叫び、そのままバランスを崩し両者は地面に落下していく。

だがフィアはその場から動かない、そして――落下スピードを利用して、更に刀身をシユウの身体にめり込ませた。

無慈悲で強力なその一撃は、シユウを絶命させるのに充分過ぎる破壊力を秘めており……刀身を抜き終えた時には、既にシユウは二度と動かぬ骸へとその姿を変えていた。

 

「…………どうして」

「……………」

 

シユウの骸には目もくれず、フィアは神機兵の巨体を利用してシエルを守り始めた。

驚愕に満ち溢れた表情で自分を見つめるシエル、どうやら赤い雨の被害は受けていないらしい。

彼女の無事な姿に、フィアはほっと胸を撫で下ろし……輸送部隊が到着するまで、神機兵を使ってシエルを守り続けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――理解できません」

「………?」

 

シエルの声が、懲罰房がある廊下に響く。

懲罰房の中には今回の件で入れられているフィアの姿があり、上記のシエルの言葉を聞いて首を傾げていた。

 

「神機兵に搭乗するには入念な検査が必要なんです。それを怠れば最悪の場合、死に至る危険性があったのですよ?

 それだけじゃありません、命令違反をしてまで…命の危機に瀕してまで、どうして私を助けようと思ったんですか?」

「…………シエル」

「私達に課せられた任務は神機兵の護衛だというのに、無断で神機兵に搭乗してまで…どうして………」

 

彼女には、フィアの行動が理解できなかった。

確かに彼の行動によってシエルは助かり、今こうして生きる事ができる。

神機兵もアラガミから受けた損傷箇所以外の被害はなかった、だがそれはたまたま運が良かっただけ。

何故フィアはそこまでして自分を助けようとしたのか、シエルにはわからない。

 

「……シエル、こっちに来て?」

「…………?」

 

フィアに呼ばれ、シエルは扉越しに彼と視線を合わせる。

暫しじっとシエルを見つめた後……フィアは安心したように笑った。

 

「……よかった。君が生きていて本当によかった」

「………副隊長、私の質問に答えてください」

「また副隊長って言ったね? でも今は君のほっぺを摘めないから…ここから出たら覚えててよ?」

「っ、質問に答えてください!!!」

 

シエルの怒声が場に響く、だが彼女の表情は…悲痛なものであった。

それを見てフィアは「ごめんね」と呟いてから、彼女の問いに答えを返す。

 

「君の代わりなんかどこにもいない。君は…シエル・アランソンはここにしか居ないんだ」

「でも、だからってそんな……」

「守りたいと願った、助けたいと願った。それしか考えられなかったら…ボクは神機兵に乗ったんだ」

「………命令に、背いてでもですか?」

「ボクにとってシエルの命より神機兵を優先するなんて命令なんか願い下げだ。だからちっとも後悔なんかしてないよ」

 

そう告げるフィアの瞳には、彼の言葉通り一片の後悔も見られなかった。

優しく真っ直ぐな瞳、全てを包み込むような慈愛に溢れた瞳に…シエルの心に変化が訪れる。

 

「命令よりも大切なもの……それがあなたにはあるという事ですか?」

「ボクはブラッドのみんなが大好きだ。大切な仲間だと心からそう思ってる、だからこそ……どんな事があってもみんなを守ると誓っているんだ」

「……………」

 

単純であり、けれど強い想いが秘められた誓い。

……前のシエルなら、そんな言葉を並べられても理解できなかったかもしれない。

今だって完全に理解できるわけではない、わけではないが……少しだけ、少しだけだけどわかった気がした。

暖かな心、理屈だけでは説明できない感情。

 

「もう誰も死なせたくないんだ。これ以上……ボクはボクの目の前で人が死ぬのを見たくない。

 やっとまた手に入れた大切な仲間なんだ、それを失いたくない」

「………フィアさん」

 

そこでシエルは、ある事に気づく。

いつだって冷静で、13歳とは思えないフィアだったが……今の彼は歳相応、いやそれ以上に幼く映った。

まるで泣くのを必死に我慢している小さな子供のように弱々しく映り、シエルは自然と右手を彼に向かって伸ばしていた。

だが小さな窓しか無い懲罰房の扉の先にいるフィアには届かない、それでもシエルは手を伸ばそうとして……同じく伸ばしてきた彼の手と触れ合った。

 

「……暖かい。フィアさんの手…暖かいです」

「シエルの手もあったかいよ。本当に……あったかい」

 

やがて2人の手は互いを握りしめ合う。

お互いの存在と熱を感じ合うかのように、優しくけれど力強く。

 

(これが“仲間”……規律だけでは得られない、大切な絆)

 

密かに憧れていたその感情が自分の心に宿った事を自覚し、シエルの口元に確かな笑みが浮かんだ。

……今ならわかる、フィアの行動原理が。

大切な仲間を守ろうとする気概が、シエルには理解できた。

 

 

 

――それと同時に、シエルの中で生まれる新たな力

 

 

 

それは“血の力”、フィアの喚起によって彼女に新しい力が芽生えた。

けれど今の彼女はその事実を喜ぶ素振りを見せる事は無かった。

 

 

 

 

今はただ、フィアが生きているという証になる彼の体温を感じていたいと、そう思ったから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




ここら辺はほぼ原作どおりでオリジナルはありませんでしたね。

ここでオリジナルを出すのは難しい故でした。
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