さて、今回の物語は………。
「――着きましたよ、皆さん」
そう言いながら、フィア達ブラッドへと視線を向けながら前方に指差すサツキ。
その先には大きな門があり、周りには高い壁が囲むように広がっている。
「ここが……」
「ええ、ここがサテライト居住区――アナグラに篭れない人々が暮らす、最後の砦です」
「……俺、テレビとかでしか見た事なかったけど…こんな場所なのか」
中に入り、歩きながら周りを見てそう呟くロミオ。
他の者も初めて自分の目で見るサテライト居住区に、彼と同様の感想を抱いていた。
何故ブラッド達がこのサテライト居住区に来ているのか、それは少し前に遡る。
「――あなた達、サテライト居住区を見た事ないですよね? いい機会だから見てみませんか?」
というサツキの提案に、半ば強引に付き合わされる事になってしまったフィア達。
しかし極東に居る以上いい機会であるのは確かなので、おとなしくついてきたのだが……。
「……生活レベルは、外部居住区よりも低いみたいだね」
「ええ。まあ対アラガミ障壁があるので安全面では高い水準ですが、まだまだ建設されてから日も浅いですし物資も少ないですから」
「どうにか生きてるんだ……みんな」
周りの家屋は、廃材を用いて建てられている。
決して住み心地が良いという訳ではない、むしろ悪いくらいだ。
しかしそれでも周囲はアラガミ装甲で覆われている、それにクレイドルの調査では周囲にアラガミが寄り付く頻度も少ないそうだ。
「フェンリルのお陰で減少していた人口もある程度増えました、神機使いや対アラガミ装甲……フェンリルが居たからこそ人類は絶滅しなかった、それは誰の目で見ても明らかです。
でも、必要のない人間…役に立たない人間は切り捨てると言わんばかりに放置しているのも、またフェンリルなんですよね」
「しかし、ここにある物資は全てフェンリルが用意しているのではないのですか?」
「……………」
ジュリウスの問いに、サツキは進めていた足を止め……大きなため息をついた。
それには確かな呆れと、ほんの少しの怒りが混ざっている。
「ブラッドの隊長さん、あなた何もわかっていないんですね?」
「……と、いうと?」
「ここにある物資は全て、ユノのお父さんと極東支部の人達が用意してくれたものなんです。
元々本部からの支援の少ない極東支部が、自分達の身を削ってまで力なき人達の為に血を流している。それなのに本部は知らん顔を決め込むばかりか、フライアとかいう玩具の機関車もどきを作る始末。
あれを作るコストがあれば、サテライト居住区が幾つ作れると思っているんですか?」
「……………」
「フェンリルって組織はいつもそう、自分達さえよければ平気で人を切り捨てる」
「っ、ちょっと待ってくれよ! いくらなんでもそれは……」
「ロミオ、落ち着いて」
「フィア!? けどさ………!」
「そう思われても仕方ないよ。実際に極東支部の現状を見ればよくわかるんじゃないか?」
「……それは、そうかもしれないけどさ」
「こんな話は知ってますか? 私、前に本部の諜報部に居たんですけどね……ゴッドイーターが待遇改善を求めてクーデターを起こしているってニュース、聞き覚えがありませんか?」
「ああ、そういえばそんなニュース流れてたな。最近はあまり見なくなったが……」
「あれ、デマなんですよ」
「えっ………」
「これが本部の現状です、今の意味……言わなくてもわかりますよね?」
『……………』
全員が何も言えず、無言を貫く。
「……ここは一番最初に建設されたサテライト居住区、ユノのお父さんの見立てでは完成までに一年かかると言われていたけど……僅か半年足らずで完成しました。
それもこれも、クレイドルの人達が協力してくれた結果です。それによって沢山の人が命を救われました」
「……………」
「あなた達は、今の話を聞いて何を思い何を願いましたか?」
「……貴重な意見をありがとう。可能な限り善処する事を誓います」
「………すみませんねー。つい感情的になってしまいました、あなた達が本部の部隊だからって…大人げありませんでした」
本当にすみません、そう言ってサツキはフィア達に深々と頭を下げる。
それに対しジュリウスは気にしないでくださいと返し、サツキは頭を上げた。
「でもあなた達には期待しているんですよ、あなた達は本部の部隊ですけど……極東の人達とよく似ていますから」
「似てる?」
「ええ、誰かの為に何かをしようとしてくれる……そんな心を持っていると私は思います。
なので期待に応えてくれると、嬉しいですね」
さあ行きましょうか、そう言ってサツキは再び歩を進める。
「……嫌な言い方だよな」
「違うよロミオ、サツキは……嫌いな人を好きになろうとしてるだけだ」
「嫌いって……なんで俺達が嫌われなきゃいけないんだよ?」
「フェンリルの人間である以上、それ以外の人間には嫌われる覚悟が居るって事だよ」
「………そうだな。フィアの言う通りだ」
「ギルまで……なんだよ、それ」
悪態を吐くロミオだが、それ以上は何も言わなかった。
……彼も、心の中では何となく理解していたから。
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「――――ジュリウス!!」
「………ユノ?」
サテライト居住区を一通り見てから、ブラッドの面々は自由行動になった。
皆と別れ、一人となったジュリウスに声を掛けたのは……歌姫ユノ。
笑顔を浮かべつつジュリウスに駆け寄ってくる彼女を見て、ジュリウスは僅かに驚きの表情を見せた。
「ユノ、何故お前がここに?」
「サテライト居住区を廻りながら活動してるって、前に言わなかったっけ?」
「そうだったか……?」
「もぅ、相変わらずなんだから……」
素っ気ないジュリウスの態度に、ユノは僅かに顔をしかめジト目で彼を睨みつける。
しかしそれも数秒の事、すぐに笑みを浮かべ口を開いた。
「凄いよね、ここって予定よりずっと早く完成して。今じゃ一番大きなサテライト居住区になったんだよ」
「ユノの父親が、建設に貢献したと聞いたが……」
「お父さん技術者だからね、おじいちゃん譲りの天才なの!
でもお父さんだけじゃなくて、クレイドルの皆さんが協力してくれたお陰かな」
「クレイドル……カズキさんやアリサさんが所属している支援部隊か」
「カズキさん達には会えた?」
「ああ、前に極東に戻ってきた時に挨拶をした。……なんというか、少し想像と違ったよ」
最強と謳われる神機使い、抗神カズキ。
しかし現実の彼はそんな強者の風貌など感じさせない温和な人物であった。
どこまでも優しく、どこまでも穏やか。
……だが、内なる強さというものをひしひしと感じられた。
「ジュリウスはどう? 極東で上手くやっていけてる?」
「ああ、おそらくはな」
「本当かなー? ジュリウスって無愛想だから、結構孤立してるんじゃない?」
「そんな事は……ない」
はっきりと断言する事ができず、少しだけ悲しくなったジュリウスであった。
「ふふっ、冗談だよ。少し前ならともかく、今のジュリウスにそんな心配なんて無用だって知ってるもん」
「? それは、どういう意味だ?」
「相変わらずどこか素っ気ないけど、前と比べて…ううん、前よりずっと優しくなってるよ」
「………そうだろうか?」
「見ればわかるよ。ジュリウス、とっても優しくなってる」
ユノに断言されたが、ジュリウスとしてはあまり実感はなかった。
確かに変わったかもしれないが、自分は優しくなったのであろうか……?
「ねえジュリウス、このサテライト居住区を見て…どう思った?」
「……そうだな。まず第一に……俺は、何もわかっていなかったと己の無知を自覚できたよ」
「えっ?」
「先程サツキさんに指摘されてな。本当に……俺は何もわかっていなかったようだ」
最前線と呼ばれる極東、そしてフェンリルの加護を受けられない人々。
その現状を、自分は話でしか理解できなかったと先程のサツキとの会話で思い知らされた。
あまりにも情けなく、そして愚かだとジュリウスは己を責め立てる。
「ジュリウス……」
「だからこそ、俺は俺のできる限りの事をしたいと思った。
俺に何ができるのかはわからないが、持てる力を最大限用いて……戦えない人達の為に戦わなければな」
「……………」
新たな決意を抱くジュリウスを、ユノは無言で見つめる。
……彼は変わったが、やはり根本にある優しさは変わらないようだ。
少し不器用な彼ではあるけれど、本当は誰よりも優しいとユノは知っている。
「ありがとうジュリウス、でも……無理だけはしないでね?」
「わかっている、ユノも精力的に活動するのはわかるが……無理はするな?」
「あら、心配してくれるの?」
「からかうな。……俺だって、他人の心配ぐらいするさ」
「ふふふっ、冗談だからそんなに怒らないで?」
優しく微笑み、あやすようにジュリウスの頭に手を伸ばし撫でるユノ。
それに対し若干の居心地の悪さを感じつつも、ジュリウスは何もせずされるがままであった。
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「―――そーれ、どうだあ!!」
「わーっ、すごいすごい!!」
「ラウエルー、次はおれの番だからなー!!」
「おー、わかってるよー!!」
「……ラウエルちゃん、人気だねー」
「空を飛べるから、乗せてもらって飛んでもらうのは楽しいかもね」
サテライト居住区の広場、そこに赴いたフィア達はある光景を目にした。
それは沢山の子供達と共に遊ぶラウエルの姿、全員が満面の笑顔を浮かべ元気一杯にはしゃぎ回っていた。
その中心にいるラウエルは、子供の1人をおぶりながらふわふわと空中遊泳を楽しんでいる。
小柄な彼女であるがそこはアラガミ、子供をおぶる事など造作もない。
「………大丈夫でしょうか?」
「もー、シエルちゃんってばまだ警戒してるの?」
「そりゃあ警戒ぐらいするだろうよ……」
「ギルまでそんな事言うー、ラウエルちゃんはいい子だよ?」
「いや、そりゃあ悪い子じゃないっていうのはわかるけどさ……」
そこまで言って、ロミオは言葉を切る。
「――アラガミだから、いつ襲われるのかわからない?」
「うっ……」
「サカキ博士だって言ってたじゃん、ラウエルちゃんは大丈夫だって」
「それはそうですが……」
とはいえ、そう簡単に納得できる話でもなかった。
サカキ博士からラウエルの話は聞いている、もちろん危険性など皆無だという事も。
しかしだ、彼女がアラガミである以上警戒しない道理には繋がらない。
シエル達の反応は至極当然のものであり、けれどナナにはどうにも納得できなかった。
「おーい、みんなー!!」
「あ、ラウエル……」
フィア達の姿を発見したのか、ラウエルが子供を降ろしこちらへと飛んできた。
「ラウエルちゃん、人気者だねー」
「えへへー、一緒に遊ぶの凄く楽しいんだー!」
そう言って笑うラウエルの表情は、普通の人間の少女と何も変わらない。
だがどうしても、フィアとナナ以外の面々は警戒心を解く事ができないでいた。
頭ではわかっている、だがどうしても身構えてしまうのだ。
……そんなシエル達の反応に気づいたラウエルは、僅かに表情を曇らせた。
「……やっぱり、まだラウエルの事恐いかー」
「えっ、あ、いえ、それは……」
「別に嘘つかなくてもいいよー、ラウエルはアラガミだからそういうのは慣れてるもん」
「あ………」
慣れてる、そう言ったラウエルの顔は……正反対のものであった。
「でも少しずつでいいから仲良くしてほしいなー。……ここの子供達とね、仲良くなるの最初は大変だったんだー。
恐がるのは当然だし、中には石を投げてくるような子も居た。でも少しずつ仲良くなって今じゃよく遊ぶの、だからブラッド達もちょっとずつでいいからラウエルに慣れてくれると…嬉しいな?」
「ラウエルさん………」
「……お前、俺らみたいなお前をアラガミにしか見れないヤツとも仲良くする気か?」
「みんな仲良く! カズキとアリサがよく言ってるんだー、たとえ最初は傷つけ会う存在だとしても……時間と心がきっと絆を結んでくれるって」
だから、ラウエルは人間と仲良くなろうとする事に躊躇いはなかった。
勿論そう簡単な話ではない、自分を化物と罵り神機使いに退治させようとした人間だって沢山いた。
今だってこのサテライト居住区で自分を嫌う人間もいる、しかしそれは仕方のない事だとラウエルは割り切っていた。
その上で彼女は絆を大切にし、その結果こうして子供達と一緒に仲良く遊べるほどの絆と関係を得る事ができたのだ。
「……ラウエルは、強いね」
「そんな事ないよー、ラウエルが強く見えるなら…それはきっとラウエルを好きでいてくれるみんなが居るからかな?」
「自分を好きでいてくれるみんなが居るから、か……」
「ラウエルー、何してるのー?」
「今行くよー! じゃあ、またね?」
再び子供達の元へと戻っていくラウエル。
その光景を見ながら、シエル達は彼女の言葉を心の中で反復させていた。
「……頑な過ぎかも、しれませんね」
「そう、かも……」
「まあ……悪いヤツじゃねえって事は、確かだよな」
少しだけ、ラウエルに対する印象を変える事ができた3人。
それに気づいたフィアとナナは、互いに顔を見合わせ嬉しそうに笑みを浮かべ合うのであった。
To.Be.Continued...
ムービーを勝手に補完してみたの巻。
ユノさんのキャラが原作とだいぶ違うのは気にしない方向でお願いします。