今日はそんな2人のある一幕を紹介しよう……。
「えっと……これと、これ、あとこれもください」
「まいどあり! アリサちゃん、相変わらず綺麗だねえ」
「ありがとうございます!」
「旦那さんとは上手くやれてるかい? 夜とか、なあ?」
「セクハラですよー? それに、カズキってば激しいから次の日はいつも大変なんです」
「おおぅ……思わぬ反撃だな」
「ふふっ、それじゃあこれが代金です」
そんなやりとりをしながら、アリサは外部居住区での買い物を進めていく。
買っているものは食材を中心に日用品の類だ、最近はクレイドルの活動で忙しかったので買い揃える暇がなかった。
でも今日は久しぶりの非番、それに……カズキも同じく非番であった。
つまり今日は夫婦水入らずで過ごせるという事であり、そのせいかアリサの機嫌はすこぶる良くなっているのは言うまでもない。
「アリサさん、こんにちは!」
「こんにちはロミオさん、ギルさんも」
「こんにちは。買い物ですか?」
「ええ、久しぶりに非番なので足りなくなった日用品や食材を買い揃えている所です。まともな料理も最近できなかったので、今日はちゃんと作ろうかなって」
「アリサさん料理もできるのかあ……いいなあ、アリサさんみたいな人が奥さんならカズキさんはすっげえ幸せだろうなあ」
「ありがとうございますロミオさん、でもきっとロミオさんにも素敵な女性と出会えますよ」
「マジですか!?」
「あ、でもその食い気味の態度を改めないと無理でしょうけどね」
「……………」
アリサのどこか棘のある一言を貰い、ロミオ撃沈。
隣ではギルが笑いを堪えているのか口元に手を置いて少し震えていた。
そんな彼等に「それでは、また」と告げアリサはアナグラへと向かう。
(久しぶりにカズキと2人きり……楽しみだなあ♪)
口元に隠し切れない笑みを浮かべつつ、アリサは上機嫌のまま歩を進めていく。
……今日は、精の付くものを作るとしよう、色々な意味で。
アナグラに到着、エレベーターに乗り込みエントランスロビーへと一度足を運ぶ。
「…………あ」
エレベーターを降りたアリサの視界に、あるものが映る。
それは彼女の愛しい夫であるカズキと……そんな彼と楽しげに話す、リッカとシエルとナナであった。
会話の内容はアラガミ化による発達した聴力で聞き取った結果戦術や神機の事であるとわかり、アリサはほっと胸を撫で下ろす。
それと同時に、未だに嫉妬深い自分の子供っぽい面に軽く自己嫌悪に陥った。
彼と結婚してもう二年以上、深い愛情はあの時と変わらず色褪せる事なく存在しているというのに、自分は一体何を考えているのか。
「あっ、アリサさーん!」
「…………こ、こんにちは」
ナナがアリサに気づき声を掛けてきたので、アリサはすぐさま心を落ち着かせて笑みを浮かべながら4人の元へと歩み寄る。
「アリサ、買い物してきたの? 僕も荷物持ちぐらいしたのに……」
「これくらい私だけで充分ですよ。でもありがとうございますカズキ」
優しい主人に、アリサは今度こそ自然な笑みを浮かべる事ができた。
「相変わらず、仲が良いよね2人とも。さすが極東の最強夫婦」
「はは……リッカ、その呼び名はやめてよ」
「だって本当の事じゃない。結婚して二年は経つのに変わらずベタベタしてるし」
「あう……」
そこまで言われるほど自分達はスキンシップをしているのだろうか、そう思うとなんだか少し恥ずかしいとアリサは頬を赤らめる。
「ラブラブなんですねー、カズキさんとアリサさんって」
「もう本当にね。時折鬱陶しいくらいくっ付いちゃってさ、流石に妬けるよ」
「ううう………」
「あ、あの……アリサさんも困ってますし、その辺にしておいた方がいいと思うんですけど……」
「そういえばさ。シエルとナナは誰か好きな人とか居ないの?」
「えっ?」
「はいい!?」
突然のリッカの問いに、シエルは驚きナナはキョトンとしてしまう。
そして、その問いを聞いたアリサは天の助けとばかりに同調する。
「そ、そういえばそういった話は聞いた事がないですねー。どうなんですか?」
(アリサ……矛先が2人に向いたからって、ここぞとばかりに……)
「好きな人ですか? いないですよー」
「……………」
あっけらかんと答えるナナとは対照的に、シエルは俯いたまま無言を貫いていた。
「シエルー? どうしたの?」
「あ、えっと…その……」
「もしかしてシエルちゃん……好きな人でもできた?」
「ち、違いますよナナさん! た、ただ吃驚して何も言えなくなったというか……」
「えー、本当かなー?」
「ナ、ナナさん!!」
普段の冷静沈着さが消え、まるで普通の少女のような反応を返すシエル。
それを見て……アリサとリッカは口元に嫌な笑みを浮かべ、それに気づいたカズキがそっとシエルに同情を送る。
「シエルさん、そこの所をもう少し詳しくお願いします」
「ア、アリサさん……?」
「私も詳しく訊きたいなー」
「リ、リッカさん……?」
「私もー!」
「ナナさんまで!? いえ、別に私は特定の殿方を好いているとかそういうわけでは……」
ごにょごにょとどんどん小さくなっていくシエルの声。
よっぽど恥ずかしいのか顔は林檎のように真っ赤に染まり、なんだか今にも泣きそうだ。
どことなくいけない事をしている気分になるアリサ達であったが、彼女の可愛らしい反応をもっと見たいとも思ってしまう。
「そんな事言って、実は気になってる人が…とか?」
「で、ですからそういった事実は無くてですね……」
「本当にないの?」
「………な、無いです」
「シエルちゃん、今の間は何?」
「っ、ほ、本当に無いので勘繰らないでください!」
「はいはい。3人ともそこら辺でやめてあげなさい」
さすがに可哀想だと思い、カズキが割って入る。
「ごめんねシエル、悪気があるわけじゃないから」
「い、いえ……私は大丈夫ですから」
「カズキ君、もう少し空気読んでくれないかなあ?」
「空気読んだからこそ止めたんだよ、というよりリッカはそろそろ行かないと拙いんじゃない?」
「あっ、いけない。神機の調整があるんだった。それじゃあみんな、またね?」
そう言って、リッカはそそくさと神機保管庫へと走っていった。
「じゃあ、僕達もそろそろ行くから」
「はーい、また一緒にお話しましょうね?」
「うん。……シエル、今日は悪かったね」
「い、いえ……」
まだ顔の赤いシエルにもう一度謝ってから、カズキはアリサを連れてエレベーターへと乗り込む。
そしてそのまま自分達の部屋がある区画へと移動している最中…カズキはポカリと軽くアリサの頭を小突いた。
「アリサ、ちょっとからかい過ぎだよ?」
「あはは……すみません」
「シエルって幼い頃から軍人みたいな訓練を受けてきたから、普通の生活にまだ慣れてないみたいなんだ」
「………よく、知ってますね」
「ジュリウスから聞いたんだ。ああいう子には…早く普通の女の子みたいになってほしいって思うよ」
「……………」
「アリサ、どうかした?」
「………なんでもないです」
嘘だ、なんでもないわけがなかった。
ではどうしたというのか、答えは簡単…また嫉妬しているだけ。
カズキが誰に対しても優しいのはわかっているが、やはり可愛らしい女の子に優しくするのは…相変わらず許容できないでいた。
またも自己嫌悪に陥るアリサであったが……急に、カズキが後ろから自分を抱きしめてきたので変な声を出してしまう。
「ひゃい!? あ、あのカズキ……?」
「相変わらず、僕の嫁さんはヤキモチ妬きさんだねー」
「うぐ………」
あっさりと見破られていたようだ、アリサの顔が赤く染まる。
「でもやっぱり嬉しいかな、嫉妬してくれるって事は僕の事を好きだって事だし」
「当たり前じゃないですか。私はどんな事があってもカズキを愛し続けます!!」
「……うん、ありがとう」
真っ直ぐ過ぎる愛の言葉に、今度はカズキの顔が赤く染まった。
そのまま2人は見つめ合い……とちらからともかく口付けを交わす。
瞬間、エレベーターが開いてしまい………。
「うおっ!?」
「な、なんと……」
「………うわあ」
『……………』
ちょうどキスした体勢のままの姿を、エレベーターに乗ろうとしていたであろうコウタとエリックとエリナに見られてしまった。
固まるカズキとアリサ、コウタ達も同様に固まり暫し場に沈黙が流れる。
たっぷり数十秒という時間が流れ……いち早く正気に戻ったカズキが、何事もなかったようにアリサを連れてエレベーターを降りた。
「………ごめん」
そしてすれ違い様、カズキはコウタ達に謝罪して自分達の部屋に戻っていった。
それから更に十数秒後、ようやく正気に戻ったコウタ達は……。
「………あーいーつーらー!!」
「ま、まあまあ……夫婦なんだし、仕方ないと思うけど」
(す、凄い……あれが、大人のキスってやつなのかしら!?)
コウタはバカップルに怒りと羨望を向け、エリックはそんな彼を苦笑しながら宥め。
そしてエリナは、2人の濃厚なキスシーンを思い出し、1人ドキドキしていたとさ。
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「うー……恥ずかしい……」
「ははは……ごめんねアリサ」
「いえ、カズキが悪いわけじゃないので気にしないでください」
夕食の時間、アリサ特製の料理に舌鼓を打っていると……先程の事を思い出しアリサは頭を抱えてしまった。
人目を憚らずにいちゃついてるくせに、ああやってマジマジと見られる事には抵抗があるようだ。
……正直どっちも変わんないだろというツッコミは、この際無しの方向で。
「ほら元気出して? せっかくアリサが作ってくれた美味しい料理が冷めちゃうよ?」
「……ありがとうございますカズキ、いただきます」
今日も彼は自分の作った料理を美味しいと言ってくれた、それも世辞ではない「美味しい」の言葉だ。
それに感謝しつつ、アリサも夕食を食べ始める。
「ブラッドが来てから、極東も前以上に賑やかになったよね」
「そうですね。それに皆さん良い人達ばかりで……頼もしい仲間が増えてくれました」
「うん。特にフィアとジュリウスの強さは本当に凄いよ、血の力やブラッドアーツを抜きにしても強い」
あの2人は群を抜いている、特にフィアは……もしかしたら全開の自分よりも強いかもしれない。
「………カズキ、気づいていますか? フィアさんの事」
「うん……アリサも、気づいてるよね?」
「はい。でもフィアさんは一体どういう経緯で……」
「さてね、でもたとえどんな経緯があったとしても……彼は人間であり、僕達の大切な仲間である事には変わりないよ」
「……そうですね」
「ただ、彼の在り方は少し危険だ。あの子は少し前の僕よりも危険な生き方をしてる」
「……………」
「まだ13の子供なのに、一体何があったらあんな生き方をするようになるんだろうか……」
「もしかしたら、その秘密もフィアさんの身体の秘密に繋がっているのかもしれませんね」
「かもしれないね……」
とにかく、なるべくみんなでフィアの事を見てやらねばならないと2人は思った。
まだ子供と言える彼の年齢で、あのような生き方になるなど普通では決してありえない事だ。
それは同時に、彼の過去も普通ではないという事に繋がる。
……若い世代を、この理不尽な世界の犠牲にするわけにはいかない。
「でもブラッドのみんながいるから、きっと大丈夫ですよ」
「そうだね。僕達は僕達のできる事をしてればいいか」
「そ、それにですね……」
「………?」
「だ、誰かに優しくするカズキも好きですけど……も、もう少しだけ、私だけに優しくしてくれると……嬉しいというか、その……」
「……………」
「私の事もですね、もっと考えてほしいというか……見てほしい、です」
言ってから、アリサは自分の放った言葉に羞恥心を覚える。
しかし、その言葉はカズキにとってどんなアラガミの攻撃よりも効く一撃であったのは言うまでもなく。
「アリサ」
「は、はい?」
「ごめん、もう無理」
「えっ―――わああっ!?」
突然立ち上がったと思ったら、カズキはアリサをお姫様抱っこで持ち上げてそのままベットへと向かった。
「あ、あの……カズキ? なんだか顔が恐いです……」
「アリサが悪い、あんな言い方されたら…もう我慢なんかできない」
「あっ! 待ってください、せめてお風呂に入ってから―――ひゃああああああっ!!!」
………。
その後、シーツで身体を隠し顔を真っ赤に染めたアリサに「どん引きです……」と言われたカズキであったが。
彼女の扇情的なその姿を見て、再び襲い掛かったのはまったくの余談である。
To.Be.Continued...
……後悔はしていない。
だって最近カズキとアリサの話を書いてなかったから、たまにはいいかなあと……はい、すみませんでした。
もう少し小話は続きます、そしてそれが終われば次は……。