果たして、その戦いから彼等は生き残る事ができるのか……。
――炎に囲まれた廃墟を、一台のトレーラーが走っていく
それを運転するのは1人の少女、名は――香月ナナ。
瞳に焦りと強迫観念に似た使命感を宿し、彼女はトレーラーを操作しながら秒単位で極東支部から離れていた。
そんな彼女を、次々とアラガミが追いかけていく。
(………よし、これなら)
サイドミラーで自分を追いかけてくるアラガミを確認しつつ、ナナは自分の行動の意味を確信できた。
後はひたすら逃げ続け、極東支部から離れれば良いだけだ。
――そうすれば、自分のせいで大変な事になっているアナグラを守ることができる
自らの血の力の暴走により、数多くのアラガミを呼び寄せてしまったという罪悪感が、ナナに無謀な選択を強いた。
はっきり言って今の彼女の行動は自殺行為以外の何物でもない、仲間であるブラッドや極東支部の神機使い達に黙って今の行動を行っているのだから。
だがそれでもナナは止まれなかった、止まるわけにはいかなかった。
今の現状を作ったのは自分自身のせい、そして……かつて自分がこの力を制御できなかったのが原因で失われたもののために、彼女は動く。
(お母さん………)
亡き母は、自分を守って死んだ。
全ては自分が居たからだ、そのせいで母は死んだとナナは自らを責め続ける。
もうあんな思いはしたくない、だからナナはこうしてアナグラから1人離れアラガミを引き寄せるという無謀な行動に出ていた。
――アラガミの数が、数え切れないほど多くなってきた
小型、中型、大型、多種多様なアラガミ達が一斉にナナの乗っているトレーラーを追いかけている。
それを見て彼女は恐怖から身体を震わせるが、負けるなと自らを鼓舞しながらアクセルと踏み続け逃走を続けていく。
……その後のことなど考えていない、けれど今はアナグラを守りたい一心で逃げていた。
「っ、きゃあああっ!!?」
突然の衝撃、それと同時にトレーラーが横倒しに倒れてしまう。
すぐさま神機を持って外に出るナナ、逃げ続けた結果廃寺エリアまで来てしまったようだ。
そんな彼女に、オウガテイルの一体が襲い掛かる―――!
「くっ―――!」
すぐさま身体を臨戦態勢へ、両手に力を込め飛び掛ってきたオウガテイルの顔面に重い一撃を叩き込む。
メギッという鈍い音を響かせながら、吹き飛ばされ近くの壁にめり込むオウガテイル。
そのまま動く事はなく生命活動を停止させたが、当然彼女に襲い掛かるアラガミはそれだけではない。
「ガアアアアアアアッ!!!」
「ヴァジュラ―――!」
ナナの言葉通り、今度は一体のヴァジュラが雄叫びを上げながら襲い掛かってきた。
逆に踏み込み先制攻撃を仕掛けるナナだが、真横から迫る殺気を感知し攻撃を中断させながらその場で跳躍。
その一瞬後に先程までナナが居た場所にヴァジュラテイルの大きく開いた口が迫り、ヴァジュラが邪魔だとばかりにそのヴァジュラテイルを前脚で殴り飛ばした。
(数が多い………!)
ナナが視覚できるだけでも、既に数十というアラガミが存在している。
それら全てを相手にする事など……ナナにはできなかった。
けれど逃げ道は無い、そもそも逃げた所で自分が居られる場所などあるわけが……。
「ヴォオオオオオオオオオッ!!!」
「えっ―――きゃああっ!!?」
一瞬隙を見せたナナの身体に、シユウの放った火炎弾が直撃し、彼女は壁に叩きつけられてしまう。
背中を強打し息が詰まる、更に火炎弾による熱が彼女に激痛を与えていた。
ズルズルと壁に寄り掛かりながら座り込んでしまうナナであったが、痛みに耐えつつどうにか立ち上がる。
そんな彼女に、今度はヴァジュラとサリエルの雷球とレーザーが襲い掛かった。
「っ、くぅ………!」
横に転がりながら攻撃を回避、慌てて立ち上がりつつ急ぎその場から離れようとして。
「―――――!!?」
ラーヴァナから放たれた炎の砲弾をまともに受け、声にならない悲鳴を上げ吹き飛ばされてしまった。
力なく地面に倒れ、起き上がろうとするナナであったが……身体に走る燃えるような熱と激痛が動く事を放棄する。
迫るアラガミの群れ、彼女の脳裏に“死”という概念が浮かび上がった。
(私……死んじゃうのかな………?)
死にたくないと願っても、既に彼女の身体は動いてはくれなかった。
あまりにもダメージが大きく、更に精神が磨耗してしまっている今の彼女に戦う意志は存在していない。
――自分はここで死ぬと、当たり前のように理解する
逃げ道は無く、更に身体はとうの昔にストライキを起こした。
ならばここから生きる術など存在するはずもなく、彼女は虚ろな目で少しずつ近づいてくるアラガミ達を見つめる事しかできない。
……けれど、ナナの中に死に対する恐怖心は無かった。
否、彼女は自らに迫る死を受け入れてしまっていた。
(私が死ねば、みんなに迷惑を懸ける事も無くなるかな……?)
血の力の暴走で、喪われてしまった者があった。
自分を愛し育ててくれた母、助けようとしてくれた名も知らぬ神機使い達。
そして――アナグラに住む罪無き人々。
全ては自分が居たから、存在してしまったから……この世から消え去ってしまった。
だから自分も消える、消えなくてはならない。
――ボルグ・カムランが、尻尾をナナに向けて突き立てる
一秒後に迫る死を自覚しても、ナナはそれを黙って見つめるのみ。
そして、無慈悲な一撃が彼女の物語を終わらせようと放たれて。
しかし、まだ彼女の物語は終わらなかった―――
「え――――?」
銃撃音、それとほぼ同時にボルグ・カムランの身体がブレた。
ナナがそう思った時には、神機による斬撃がボルグ・カムランの身体を切り裂きその命を奪った後で。
「ナナ、無事か!?」
「ナナさん、大丈夫ですか!?」
同じブラッドの仲間であるジュリウスとシエルが、自分に向かって声を掛けていた。
……状況が整理できず、痛みも忘れて呆然としてしまうナナ。
どうして、何故、浮かぶ疑問はただそれだけであるがしかし。
「ど、どうして………?」
口から出た疑問は、どうしてこんな所に来たかという内容であった。
ありえない、ブラッドの皆は自分の今の状況がわからないわけがないのだ。
自分の近くに居ればアラガミに襲われる、それがわかっていながらどうして自分を追いかけてきたのか……ナナには理解できなかった。
そんな彼女に駆け寄り、ジュリウスはバックパックからアンプル状の「回復錠・改」を取り出し、彼女に手渡す。
「ナナ、よくアナグラを守ってくれたな。それを飲んで回復するんだ!」
「隊長………」
「急げ、さすがに俺達だけでは抑えきれん。全員で戦うんだ!!!」
「ナナさん、単独行動は……よくない事です。ですから後でみんなに怒られてくださいね?」
「シエルちゃん………」
優しい視線、このような事態を引き起こした自分に対して、ジュリウスもシエルも今まで変わらぬ態度を見せていた。
未だに混乱しつつも、回復錠・改を飲み干し回復に勤しむナナ。
「ナナ!!!」
「無事みたいだな……心配させんな!!」
「ロミオ先輩、ギル………」
「ロミオ、ギル、すまないが指示を出せる余裕は無い!!」
「わかってるぜジュリウス。おいロミオ、遅れんなよ?」
「誰に向かって言ってんだよギル!!」
「………みんな」
自分を守るために、仲間達が死地へと赴いてきた。
それを嬉しいと思う反面、大きな罪悪感が再び彼女の中に生まれていく。
自分のせいで、またみんなを危険な目に遭わせてしまっていると、ナナは自らを責めた。
そんな無防備な彼女に、ウコンバサラが大きく口を開きながら迫る―――!
「っ、させません!!」
それに気づいたシエルが近くの高台に跳躍。
神機を銃形態に可変させ、ナナに迫るウコンバサラへと照準を合わせ。
「――――っ!!」
必殺の銃弾を、迷う事無くウコンバサラの頭部へと直撃させた。
シエルの新たなブラッドバレット――貫通力と威力を重視させたその名も“アルテミス”。
その一撃は容易くウコンバサラの頭部を貫き、そのまま後ろへと貫通。
更に後ろに居た別のアラガミを数体まとめて撃ち貫き――ただの一撃で四体ものアラガミを沈黙させた。
凄まじい破壊力、しかし一撃に消費されるOPの量もまた凄まじく、シエルは素早くバックパックから「Oアンプル」を取り出し口に含み飲み込んだ。
「ナナさん、大丈夫ですか!?」
「……みんな、どうして来たの?」
「ナナさん……?」
「だって、私が居たらみんな……」
「ナナさんそれは――」
「おわあああっ!!?」
シエルが何か言いかけた瞬間、ロミオが悲鳴を上げながら2人の前まで転がってきた。
すぐさま立ち上がり神機を構えるロミオに、ナナが叫ぶ。
「ロミオ先輩、逃げて!!」
「何言ってんだよナナ! 仲間を置いて逃げられるか!!」
「で、でも私は……」
「どうして1人で抱え込むんだよ!? そんなに仲間を信頼できないのか!?」
「ロミオ先輩……」
「そりゃあ、俺はジュリウスやギルと違って頼りにならないかもしれないけどさ……仲間を守りたいって気持ちは、誰にも負けないつもりだ!!
ナナが…仲間が1人でなんでもかんでも抱えようとしてるのを、黙って見てる事なんかできるわけないだろ!?」
「……ロミオの言う通りですよ、ナナさん。私達は大切な仲間なんです、誰一人として欠ける事なんか許されない」
「ナナ、お前は俺達の事を仲間だと思ってくれていないのか!?」
アラガミを切り伏せながら、ジュリウスがナナに問う。
「そんな事ない、みんな大切だから……死なせたくないの!!」
「俺達だってそれは同じ気持ちだ、お前を死なせたくないから……喪いたくないからここに来たんだ」
「隊長………」
「仲間を信じろナナ、そして……自分自身を信じるんだ。お前の力は決してあってはならないものなんかじゃない。お前の血の力は……お前自身や皆を守るために存在する力なんだ、それを他ならぬお前自身が信じなくてどうするんだ?」
「………自分の力を、信じる」
「おいロミオ、サボってんじゃねえぞ!!」
「なんで俺だけ名指しなんだよギル!!」
「………ナナさん、フィアさんも待っています。ですから……必ず生き残って帰りましょう?」
「フィア………」
彼の名を聞き、ナナはゆっくりと立ち上がった。
……彼もまた、自分のせいで傷ついてしまった。
まだ謝れてない、ちゃんと目が醒めた彼に謝らなければ。
ここでようやくナナは、「死んでたまるか」と己の生存本能を呼び覚ます。
自分を助けに来てくれたみんなのために、自分を守ってくれたフィアのためにも。
「――こんな所で、負けられないよ!!!」
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【フィアside】
――沈んでいく
意識が、精神が、世界から薄れていく。
……死んでしまうのかと、ボクはそう思いながらも何もできないでいた。
身体を委ね、ただただ落ちていく自分自身に特に何も思う事はない。
このままゆっくり消えてしまっても、所詮はその程度だったという事なのだろうか。
――でも、まだ死にたくないとも思っていた
死ぬわけにはいかない、まだボクにはやるべき事があるのだ。
この力でみんなを守って守って守り続けて……その果てに死ななければならない。
それがボクの全て、ボクの生きるべき意味なのだから。
こんな事で死ぬ事など許されない、あの地獄で生き長らえてしまったボクはまだ生きていなければならないのだ。
――沢山のモノを踏み躙ってきた
――沢山のヒトを犠牲にしてきた
その果てに、ボクという存在があるのならば、死ぬわけにはいかない。
そう思っているのに――身体は、動いてはくれなかった
まだみんなが戦っている、ボクを仲間だと思ってくれるみんなが。
守らなければ、助けなければ、そうしなければ……ボクに一体何の価値があるというのか。
価値など無い、戦って誰かを守る以外に価値なんか―――
―――違うよ。
声が、聞こえた。
誰の声かはわからない、どこかで聞いた事があるような気がするけど……磨耗した記憶ではわからなかった。
―――無価値なんかじゃない、無価値なんかじゃないよ。
また、聞こえた。
一体誰なのか、懐かしく……幼い記憶の中で、その声を聞いたような……。
―――幸せになって。生きているなら……幸せにならないと、駄目だよ。
暗闇の中で、声だけが響き渡る。
手を伸ばす、声の主がどこに居るのかわからなかったけど、手を伸ばした。
君は誰?どうしてそんな事を言うの?
放たれた疑問は答えられぬままに消えていき、それでもボクは手を伸ばし続けて―――
―――フィアには、幸せになってほしいから
そんな優しい声が、聞こえたと思ったと同時に。
世界に光が溢れ、僕の意識は現実へと戻された―――
To.Be.Continued...
原作のナナエピソードは次回くらいで終わると思います。
BB【アルテミス】
スナイパータイプのブラッドバレット、フルーグルと同じく貫通力に特化したバレットだがこちらの方がより貫通力と威力に優れており、反面距離を犠牲にしてしまっている中距離バレット。
しかしその貫通能力は凄まじく、劇中でも放った通りターゲットとしたアラガミだけでなくその背後にいたアラガミすらも容易く貫通するほどの破壊力を持っている。