神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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少年は、傷を癒す。
だが肉体の傷は癒せても……心の傷は決して癒せない。

いつか――彼の傷が癒える日は、来るのだろうか。


第3部捕喰114 ~平穏なアナグラの一時~

ある日のアナグラ。

今日はどのミッションを受けようかと、エリナはエントランスロビーへと足を運び……視界に1人の少年を捉えた。

 

「………フィア?」

「? えっと…エリナ、だっけ?」

「そうよ。というか何してるの?」

「何って……これからミッションを受けようとしてるだけだよ?」

「ミッションって……その身体で?」

 

フィアが重傷を負ったという話は、エリナも聞いていた。

暫く絶対安静と言われているはずだというのに、フィアはこれからアラガミと戦おうとしている。

服で中は見えないものの、腕全体を覆うような包帯を見れば、まだ完治していないとエリナでもわかった。

 

「大丈夫だよ。傷の治りは早いから」

「そういう問題じゃないでしょ、まだ怪我が治ってないなら……」

「もう大分楽になったから大丈夫、いつまでも休んでたら…戦えないよ」

「…………はぁ」

 

大きなため息を吐き出し、エリナは心底呆れ返った。

そしてやや強引に彼の手を掴み、そのまま引っ張るようにエレベーターへと連れて行く。

 

「エリナ……?」

「いいから、黙ってついてきなさい!」

 

顔も見ずにそう告げ、エレベーターを動かすエリナ。

向かう先は……医務室のあるラボラトリ区画。

エレベーターが停まり、エリナはフィアを引っ張りながら真っ直ぐ医務室へと足を運ぶ。

そして空いたベットを見るや、無理矢理彼をそこに寝かせた。

 

「……眠くないよ?」

「はぁ……まだ怪我が治ってないのに、ミッションに行ったら危ないでしょ?」

「大丈夫だよ。痛みは殆ど無くなったし……」

「っ、いいから、怪我が治るまで無茶しないで!!!」

 

エリナの怒声が、医務室全体に響き渡る。

幸いにも2人以外誰も居なかったが、エリナは自分の行動を恥じながらも…フィアに対し口を開く。

 

「いくらブラッドだからって、なんでもかんでもできるわけじゃない。

 ましてや今のフィアは怪我してるんだから、戦いに行くなんて自殺行為でしょ?」

 

幸いにも前のアラガミの集結騒動後、アラガミの個体数は減少している。

一時的なものではあるが、今の所急ぎのミッションなどは存在していない以上、フィアが戦わなくても現存の戦力で充分賄えるのだ。

つまり、今のフィアにできる事はここでおとなしく怪我を治す事だけである。

……だというのに、彼は。

 

「――戦わないと、みんなを守れない。だから僕は…何があっても戦わないと」

「……………」

 

あっけらかんと、まるでそれが世界の常識だと言わんばかりに、フィアは言い放つ。

その言葉がどれだけ異常だと、目の前の少年はまるで気づいておらず…エリナはおもわず息を呑んだ。

 

「………あのさ、なんでそんなに戦おうとするの?」

「………?」

「わたしもね、ゴッドイーターになったのは戦えない人を守りたいって理由があるからなんだけど……フィアは、なんかそれだけじゃないような気がする」

「それだけじゃないって……どういうこと?」

「うーん……わたしも上手く説明できないけど、どこかフィアって……」

 

エリナがそこまで言いかけた時、医務室の扉が開いた。

視線をそちらに向ける2人、そこには……林檎を乗せた皿を持ったシエルの姿が。

 

「フィアさん、ちゃんと眠っていましたか?」

「………うん」

「嘘つきなさい。さっきミッションに行こうとしたくせに」

「あっ、ちょっとエリナ……」

「…………エリナさん、それは本当ですか?」

「ええ、本当……ひっ!?」

 

おもわず小さな悲鳴を上げてしまうエリナ。

だがそれはそうだろう、何故なら……シエルの目がとんでもなく冷たい色を宿しているのだから。

その目を自分に向けられてなくても、見ただけで身体が震えてしまう。

 

「シ、シエルさん……?」

「……フィアさん、怪我が完治するまで絶対安静に…そう言いましたよね?」

「でもシエル……?」

「言いましたよね?」

「だけど……」

「言・い・ま・し・た・よ・ね?」

「…………うん」

 

にっこりと微笑みつつも、凄まじい圧力でフィアの反論を許さないシエル。

これにはさすがのフィアも何も言えず、彼女から視線を逸らした。

 

「決して無理をしないように、そう約束した筈ですよ?」

「そうだけど……」

「フィアさん………?」

「わ、わかったよ……怪我が治るまでおとなしくしてるから……」

「それでいいんです。それでは……はい、あーんしてください」

 

プレッシャーが消え、いつもの様子に戻ったシエルがフィアの眼前に持ってきた林檎を差し出す。

一口大に切られたそれを見て、フィアは抵抗する事無く口を開き咀嚼した。

ちゃんと食べてくれた事が嬉しいのか、シエルの表情が僅かに綻ぶ。

一方、それを見たエリナは僅かに頬を紅潮させた。

 

(えっ、何これ……2人って付き合ってるの?)

 

そんな事を考えているエリナをよそに、黙々と林檎を消化していくフィア。

結局全てシエルに食べさせてもらい、フィアはごちそうさまと手を合わせた。

 

「ではまた様子を見に来ますので、ちゃんとおとなしく寝ててくださいね?」

「わかってるよ……信用ないなあ」

「……何か?」

「な、なんでもない………」

 

小さくなったフィアに苦笑しつつ、シエルは医務室を後にする。

エリナもまた、一息遅れて医務室を飛び出しシエルに追いついた。

そのまま2人はエレベーターに乗り込み、エントランスロビーへと足を運ぶ。

 

「……あの、ちょっといいですか?」

「はい、何ですか?」

「その……シエルさんとフィアさんって、えっと…付き合ってるんですか?」

「………………はい?」

 

エリナの問いに、シエルはポカンとした表情を浮かべてしまう。

付き合っている?自分と、フィアが?

問いの意味を理解するのに数秒要し、更に自分とフィアが付き合っている…即ち、恋人同士のように見られたという事を理解するのに更に数秒。

そして、エレベーターがエントランスロビーに着き、扉が開いた瞬間。

 

「―――な、何を言うんですかエリナさん!!?」

 

普段の冷静沈着な彼女とは思えない、素っ頓狂で大きな声がロビーに響き渡った。

近くにいた一部の神機使いは何事かと視線を彼女達へと向ける、それに気づいたシエルがエリナを連れて急ぎその場を離れた。

近くのソファーまで急ぎ足で向かい、シエルは呼吸を整えてから改めてエリナへと口を開く。

 

「な、何を言っているのですかエリナさん!」

「えっ、いや、だってさっき……」

「わ、私とフィアさんは別にそのような関係ではありません!」

「わ、わかりました…わかりましたからもう少し声のボリュームを下げてください……」

「…………すみません」

 

しょんぼりとしつつ、紅潮した頬を押さえるシエル。

よほど驚き羞恥を受けたのだろう、彼女の反応にエリナは失言だったと少し反省した。

……だが、予想とは違った反応に少しだけ面白かったのは内緒だ。

 

「と、ところで……何故そう見えたのですか?」

「えっ?」

「で、ですから…その、私とフィアさんが…あの………」

「お、落ち着いてくださいシエルさん!」

 

まるで沸騰したかのように顔を赤くしていくシエルに、エリナまで慌て出してしまった。

……どうやら彼女はそういった話題に対して耐性は無いようだ、少なくとも自分よりもとエリナは思った。

暫し深呼吸を繰り返しながら、シエルはどうにか落ち着きを取り戻していく。

それを確認してから、エリナは改めて口を開いた。

 

「……さっき、シエルさんがフィアに対して、その…“あーん”とかしてたから…そうなのかなって思って」

「そ、そうだったんですか……た、確かにあれは…あれは………」

「わあっ!? シエルさん、大丈夫ですか!?」

 

今更ながらに自分のやった事を思い出したのか、再び顔を紅潮させていくシエル。

いや、それだけではなくなんだかプルプルと身体まで奮わせ始めてしまった。

 

(あの行為が恥ずかしいって思ってるのに、何でやったんだろう……)

 

素朴な疑問を浮かべるエリナであったが、その理由はシエルにもよくわかっていないのだから仕方ない。

真っ赤になったシエルを落ち着かせようと試みるエリナ、だがしかし彼女は俯いたまま謎の痙攣を続けるのみ。

傍から見てカオスな状況になってしまったが、1人の青年が場に現れた事で事なきを得る事になる。

 

「シエル、少し……………どうかしたのか?」

「あ、ジュリウス……さん」

「………ジュリウス?」

「どうかしたのか? 顔が尋常じゃなく赤くなっているが……」

「い、いえ……なんでもありません。それで何か用ですか?」

「ああ、少し……いいか?」

 

真剣な表情を浮かべるジュリウス、それを見てシエルはすぐさま表情を引き締めた。

なにやら場の空気が緊迫したものに変わっていくのをエリナは感じ取り、ここに居てはいけないと場を離れる事にした。

 

「じゃあ、わたしはこの辺で……」

「……すまない、助かるよ」

 

気を遣ってくれたエリナに感謝の言葉を告げてから、ジュリウスはソファーへと座り込む。

シエルもそれに続いて座り、数秒経ってから……ジュリウスは口を開いた。

 

「実はなシエル、本部から研究員が極東に来るそうなんだ。おそらく神機兵開発のためだろう」

「神機兵の……ですが、それを何故私に?」

「……レア博士の話では、フィアの父…グリード・エグフィードとは同期だったそうだ」

「―――――」

「だからといって何か警戒するような事ではないかもしれん、だが念の為お前には言っておこうと思ってな……」

「…………わかりました」

 

どうにか返事を返すシエルであったが、頭の中は上手く働かなくなっていた。

フィアの父であるグリード・エグフィード、シエルはもちろん会った事も話した事も無い。

だが……感応現象を通して、シエルはグリードという人間がどういった存在か、少しだけわかってしまっている。

そんなグリードと同期だったエンジニア、それを聞いてシエルはいいようのない不安に苛まれてしまった。

 

「……シエル、お前はフィアを支えようと思ってくれている。だから……アイツの事は頼んだぞ?」

「ジュリウス………」

「無論俺も、俺達もできる限りフィアを支えようと思っている。だがお前は俺達よりもフィアの事をわかっているような…そんな気がしたんだ」

「……………」

「話は以上だ、フィアもそうだがお前も非番ならばしっかりと休め。いいな?」

「はい、了解しました」

 

ではな、そう言ってジュリウスは立ち上がりその場を後にした。

残されたシエルは暫しその場から動かなかったが、やがて立ち上がり再び医務室へと足を運ぶ。

医務室には誰もおらず、ベッドへと視線を向けるとフィアが静かな寝息を立てて眠っていた。

どうやら約束はちゃんと守ってくれているようだ、それに対しほっとしながらシエルはフィアのベッドの近くにある椅子に座り込んだ。

 

「…………フィアさん」

 

こうして2人だけで居ると、シエルはあの時の事を思い出す。

感応現象を引き起こし、彼の過去を一部とはいえ垣間見た。

その過去はおぞましいという言葉では決して片付けられないほど悲惨であり、今でも思い出そうとすると吐き気すら催してしまう。

 

 

―――生きてないんだよこいつは、肉体じゃなくて心が死んでいるんだ。

 

―――お前、そこまで壊れてたのか。

 

―――こいつが如何に壊れてるか全然理解できてないよ

 

 

アンノウンは、フィアに対しこう言っていた。

壊れていると、生きてはいないと吐き捨てた。

そんなはずはない、あの時は確かにシエルはそう否定した。

……けれど、あの地獄を見てしまったからか、前のように否定する事ができなくなっていた。

 

――彼の身に一体何があったのか、あの光景は一体何だというのか

 

訊きたい事は沢山ある、だが容易に訊く事などできる筈が無かった。

だからいつか――いつか彼の事をしっかりと理解できるまでは、ただひたすらに彼を支えていこうと心に決めたのだ。

たとえ彼が何者であったとしても関係ない、彼は自分達の大切な仲間であり……友達、だ。

 

「………フィアさん、今は戦いを忘れて…ゆっくり休んでください」

 

そう言って、シエルは優しく眠っているフィアの髪を掬うように撫でる。

いつもは固い表情を浮かべているシエルだが、この時の彼女の表情はとても柔らかいものであり。

 

 

――彼女の優しさを何となく感じ取ったのか、眠ったままフィアは口元に小さな笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




さて、次回はレベルアップ話を予定しようと思います。
要するにフィアの武器集めの話ですね、もちろんまだ予定の段階ですのでもしかしたら全然違う内容になるかもしれませんが……ご了承ください。
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