神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ヴァルキリーが現れ、カズキ、フィア、ナナ、そしてシエルの4人で迎撃する事に。

そしてこの戦いで、フィアに誰も気づかぬほどの僅かな変化が訪れた……。


第3部捕喰119 ~光の剣~

――駆ける

 

七メートルという距離を一息で踏み込み、フィアはショートタイプの刀身を上段から振り下ろした。

片手での剣戟だが、意識全てを用いて放たれたそれは強力無比。

並みのアラガミならば致命傷、彼が放てる最大級の攻撃だ。

 

――弾かれる

 

それと同時にフィアの喉を貫こうと打ち込まれる槍。

返す刀でどうにか弾き、フィアは再びヴァルキリーに神機を振り下ろす。

 

「ぐっ………!?」

 

腹部に衝撃。

顔をしかめ、フィアは地面を滑りながら吹き飛んでいく。

蹴られた、彼がそれを理解するよりも早くヴァルキリーが動きを見せた。

体勢を立て直す隙など与えないと、ヴァルキリーはフィアが立ち上がる前に間合いを詰め、無防備な身体を貫こうと槍の一撃を放とうとして――後ろに跳んだ。

 

「っ、この―――っ!!」

 

刹那、ヴァルキリーが居た場所にナナの一撃が叩き込まれた。

当然不発に終わる一撃に唇を噛み締めつつ、ナナは後退したヴァルキリーへと間合いを詰める。

続いて放ったのは横殴りの一撃、パワーだけならば先程のフィアの一撃を大きく上回る一撃だ。

しかしそんなものに当たるヴァルキリーではない、身体をひねりナナのハンマーを回避すると同時に反撃に移った。

 

「っ、――――!」

 

迫る槍、まともに受ければ簡単にこの身に風穴を開けられてしまう。

右足に大きく力を込めながら、ナナはその場で真横へと小さく跳躍、槍による反撃をどうにか回避―――

――回避しようとして、左脇腹に裂傷が刻まれた。

 

(やっぱり強い………でも!!)

 

あの時とは違う、自分だって成長しているのだ。

裂傷からくる痛みを無視しながら、ナナはハンマーを横薙ぎに振るう。

風を切り裂きながら放たれたそれを、ヴァルキリーはその場で跳躍して回避しながらナナの頭蓋を砕こうと槍を叩き込み――その前に、爆撃めいた音が場に響いた。

 

音の発生源は――ヴァルキリーの肉体から。

 

回避した、そう思っていたヴァルキリーの身体にナナのハンマーが叩き込まれていた。

その衝撃はただ凄まじく、ヴァルキリーは人間と同じ口からゴポリと大量の血を吐き出す。

一秒後、ヴァルキリーの身体は矢のように吹き飛び地面を削りながら尚止まらない。

 

――あの時回避された一撃、それはナナにとって“フェイク”だった

 

そもそも彼女はあんな大振りの一撃が当たるとは微塵も思っていない、相手は中型種よりも小さい上にどのアラガミよりも素早い動きでこちらを翻弄してくる。

ブーストハンマーという一撃一撃の破壊力は高いがその分スピードが心許ない武装では、まともな一撃など単純な一手で入る筈がないのは自明の理。

だからナナはわざと相手に回避させた、ヴァルキリーは他のアラガミとは違い知能が高く回避と同時に反撃する事は先程の攻防で理解している。

その戦闘スタイルを利用し、ヴァルキリーが跳躍してナナの一撃を回避した瞬間――彼女はブーストハンマーのブースターを起動。

推進力を乗せた次の一手は、通常時のものとは比べものにならぬ程に速く、跳躍したヴァルキリーでは回避できなかった。

ブーストハンマーという武装の利点を十二分に発揮した彼女の攻撃は、見事ヴァルキリーへと命中し前回の雪辱を晴らしたと言えよう。

 

――だが、それでもヴァルキリーは倒れない

 

ナナの強力な一撃を受けても、ヴァルキリーはすぐさま体勢を立て直し跳躍、槍を上段に構えナナに向かって襲い掛かった。

身構えるナナ、しかしその前にカズキが動きヴァルキリーに向かって跳躍する。

カズキを見てヴァルキリーは構えていた槍を振り下ろし、カズキもまた下段に構えていた神機を振り上げる。

甲高い音が空中で響き渡り、互いの一撃はそれぞれ弾かれ仕切り直しに―――

 

「っっっ!!?」

「悪いが、出し惜しみは無しだ!!!」

 

襲い掛かる衝撃に、ヴァルキリーの表情が驚愕に包まれる。

攻撃を弾き合い、そのまま離れながら地面に落ちていくヴァルキリーに襲い掛かったのは――異形の腕。

それはハンニバルの腕、高熱を孕んだその腕は容易くヴァルキリーの身体を握り締めた。

 

「うおおっ!!!」

 

左腕をハンニバルの腕へと変化させ、カズキはヴァルキリーの身体を拘束した。

そして相手が反撃する前に、彼は左腕を振り上げ掴んでいるヴァルキリーごと地面に叩きつける………!

爆音と地面の破片とヴァルキリーが放った吐血が周囲に舞い散った。

 

――絶対的な隙が生まれる

 

――そして、ここで“彼女”が最初で最後の一手を繰り出す

 

現在の戦場から離れた場所、アナグラのゲートの最上にて彼女――シエルは居た。

彼女は繰り広げられている戦いには参加せず、ただひたすらに己の役目を果たそうと耐え続けていた。

そして今、カズキ達によってようやくその役目を果たすチャンスがやってくる。

 

――超長距離からの一撃必殺、それが彼女に課せられた役目

 

ブラッドバレッド“フルーグル”による狙撃の為、彼女はここでずっと待っていたのだ。

既に準備は終わっている、スコープ越しにシエルはヴァルキリーを見やる。

カズキの一撃によってヴァルキリーの動きは止まった、だがアラガミに対して今の衝撃はダメージには程遠い、すぐに起き上がり再び動き出してしまうだろう。

だからそれより速く――シエルは渾身の一手を放つ引き金を引いた。

 

「――――発射」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

――――命中した

 

一キロ以上の射程と、通常のバレットとは比べものにならない破壊力を秘めたその一撃は、まさしく反則。

その特権を惜しみなく使い、見事シエルの“フルーグル”はヴァルキリーの身体を貫いた。

………それで終わり。

“フルーグル”の一撃を受けて、今まで生き残れたアラガミなど存在しない、この戦いはこれで終わりだ。

 

――――そう、その筈だというのに

 

――――ヴァルキリーは、“フルーグル”の一撃を受けて尚、倒れなかった

 

未来予知じみた危険感知能力と、化物のような身体能力と動体視力で、ヴァルキリーは迫る神速の銃撃を最小限の被害で抑えてしまった。

頭蓋を貫かんと放たれたシエルの一撃は、結局ヴァルキリーの左腕を貫通させ壊死させただけに留めてしまう。

なんという怪物なのだろう、ヴァルキリーというアラガミは既にアラガミという存在すら超越したまさに“神”であった。

 

「―――――!!!!!」

 

地を蹴り、ヴァルキリーに向かうフィア。

仕留められなかった、その事実を最初に気づいた彼はすぐに動き出す。

目の前の存在はここで確実に消滅させなくてはならない、そうしなければ間違いなく沢山の罪なき人間が殺されるとわかったからだ。

並みの神機使いでは到底太刀打ちできない力を持つヴァルキリーを、今倒しておかなければならないという彼の判断は正しく、神機を持つ手に全身全霊の力を込めてヴァルキリーへと向かって振り下ろし―――

 

「あ」

 

その前に、彼は自らの死を唐突に自覚してしまった。

 

 

――死んだ

 

 

追撃を仕掛けようとした自分よりも、ヴァルキリーが放った一撃の方が速い。

フルーグルを受け左腕を壊されたというのに、ヴァルキリーの放つ一撃は微塵も衰えを見せなかった。

むしろ先程よりも更に速く、槍という武器の性質を考えたとしても、目視できない程の速さを誇っている。

まさしく閃光、相手に攻撃されたという事すら気づかれずに貫く事ができる必殺の一撃。

それを理解する事ができて、どうして殺されるという自覚ができないというのか。

 

“――――――死、ぬ?”

 

こんな所で?

まだ自分には果たさなければならない責務がある、なのにこんな所で終わるなど許されない。

沢山の人の命を踏み躙り、見捨て、そしてここまで生きてきたのは何の為か。

この身の全ては名も知らぬ誰かの為にならなければならないのに、こんなにも呆気ない幕切れになるというのか?

 

“ボクは、まだ………”

 

死ねない、まだ自分は――()()()()()()

そこまで考え、フィアは自分自身の感情に戸惑いが生まれた。

死ぬわけにはいかない、そう思っているのは確かだ。

でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

答えは出ず、たとえ出たとしても一秒後の死は免れない。

 

「…………!?」

 

しかし。

確定していた筈の未来は訪れず、代わりに金属がぶつかり合うような甲高い音がフィアの耳に入った。

 

「カズキ………!?」

「フィア、下がれ!!」

 

言って、カズキは後退したヴァルキリーへと向かって踏み込んだ。

放たれる斬撃、下段から掬い上げるような一撃が風を切り裂きながらヴァルキリーへと向かう。

 

「チッ………!」

「―――――」

 

弾かれ、後退するカズキ。

そこでようやく、フィアはカズキのお陰で頭蓋を砕かれずに済んだ事を自覚する。

そんな彼をよそに、再びヴァルキリーへと向かっていくカズキ。

ヴァルキリーもまた、右手だけでカズキを迎え撃ち――閃光の一撃を放った。

やはりその一撃はフィアには目視できない、だが。

 

「っ、は―――!」

 

カズキは、裂帛の気合を以ってその一撃を弾き飛ばしてしまった。

 

「――――、なんて」

 

知らず、フィアの口から声が零れる。

もはやヴァルキリーとカズキの戦いは、自分達が介入できるレベルではない。

ヴァルキリーの一撃は変わらず目視できず、しかしカズキは既にその攻撃を二十手防ぎきった。

 

「――――凄い」

 

ヴァルキリーが怪物ならば、カズキもまた怪物であった。

ナナもフィアに駆け寄ったものの、両者の戦いを傍観する事しかできない。

彼女も理解したのだ、介入すればそこで自分の命は終わってしまうと。

 

――だが、永遠に続くと思える死闘も、すぐさま終わりを迎える事になる

 

「っ、こいつ………!」

 

カズキの斬撃が虚空を切り裂き、しかしヴァルキリーは反撃に移らない。

何故なら、カズキの攻撃を避けると同時にヴァルキリーは撤退しようと後ろへ跳んだからだ。

今の状態では敵わないと悟ったのか、アラガミには無い知能でヴァルキリーは最善の策を選ぶ。

 

――――しかし、ヴァルキリーは気づかない

 

――――今のカズキから離れるという事は

 

――――彼の()()()()()を受けなければならないという事に繋がる

 

「―――終わりにする」

 

呟く言葉は、ただ一言。

絶殺を望む彼は、神機を右上段に構えつつ――力を解放する。

 

――極光が、彼の握る剣に収束されていく

 

至高にして究極、次に放たれる一撃は抗神カズキが誇る最強剣。

かつてアンノウンすら撤退に追い込んだ光の剣、それを彼は解き放とうとしていた。

光の剣は秒を待たずに臨界に達し、天を貫かん勢いで伸びていく。

もはやそれは剣ではなく一種のレーザー、それに触れた者を等しく消滅させるそれを。

 

「消えろ―――!」

 

逃げるヴァルキリーへと向けて、右上段から振り下ろす―――!

瞬間、世界が真白に染まりフィア達はおもわず腕で顔を覆いながら目を逸らした。

一方――完全に逃げに徹していたヴァルキリーは、迫る光の剣を見て己の消滅を自覚する。

あれからは逃げられない、既に相手からは十メートル以上離れているが、それでも光の剣から逃れる事は不可能であった。

 

そして、極光がヴァルキリーを完全に呑み込み。

 

暫し極光に包まれていた世界が、元に戻った時には。

 

全てが終わり、辛うじて残ったヴァルキリーのコアが、僅かに鈍い光を放っていた―――

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「――フィア、君が勝手な事をすれば周りがそのツケ払わなければならなくなるんだ」

「……………」

 

ヴァルキリーのコアを回収し、ヒバリに帰還する事を告げてから……カズキは厳しい口調でそう言い放った。

睨むような視線を受け、フィアはカズキから視線を逸らし顔を俯かせる。

ナナとこちらへとやってきたシエルは、何も言わず事の成り行きを見つめている。

 

「誰かを守る事は大切な事だ、僕達はその為に戦っている。

 でも……だからって自分自身を蔑ろにしている者が、一体何を守れるっていうんだ?」

 

容赦のない言葉。

かつての自分に言い聞かせてやりたいなと思いつつ、カズキは更に言い放つ。

 

「自分の事を考えないヤツが誰かを守ろうとするなんて傲慢でしかない、自分を大切にできない存在が誰かを大切にする事なんてできるわけがないんだ。

 フィア、このまま君が自分自身を投げ打ってまで戦おうとするなら……いずれ、自分だけじゃなく他人すら巻き込む事になる。そうなれば……何も守れないまま君は死ぬぞ?」

「……………」

 

反論、できなかった。

それは違う、ボクだって誰かを守れる、そう返したかったが……フィアは何も言えなかった。

アラガミと戦う事、それだけが自分の存在意義だとわかっているし、それを疑った事はない。

だというのに―――フィアは反論する事ができなかった。

 

「君が傷つけば悲しむ存在が居る、君が無茶をすれば心配する人が居る。

 それはとても尊く大切なものなんだ、それを蔑ろにして目を逸らし続けて……何が残る?」

「………ボクが、間違ってるって言いたいの?」

「間違っているなんて言うつもりはない、でも……正しいと思っているわけでもない。

 ただ君の生き方には“意味”が見当たらない。君はアラガミと戦う兵器でも機械でもない、それをわかってほしい」

「……………」

 

だって、仕方がないではないか。

上記の言葉が喉元まで出掛って、けれどフィアはそれを呑み込んだ。

 

――言ってしまえばいいじゃないか

 

自分がこうなったのは、仕方がない事だと。

こういう生き方をしなければ、償いにならないと。

言ってしまえばいいのに……どうしてか、フィアは言えなくなっていた。

以前の自分なら簡単に言葉に出来たのというのに、一体何故………。

 

「――フィア、君は1人じゃない。君を支え守ろうとしてくれる仲間が居てくれる。

 どうかそれだけは忘れないでほしい、それを忘れないで居てくれさえすれば……僕はこれ以上何も言わないよ」

「……………」

 

カズキと視線を合わせないまま、フィアは先程から自分を見つめるナナとシエルを見た。

……自分を心配してくれている、目を見ればすぐにわかった。

だって、彼女達が自分に向けている瞳は、幼い頃自分を守ってくれたあの少女に―――

 

「――――、っ」

 

吐き気が、押し寄せる。

それを懸命に抑えながら、フィアは平静を装って顔を上げた。

 

「………ごめんなさい」

 

3人に頭を下げる。

心配を掛けてしまった事、勝手な行動をしてしまった事に対し、彼は本心から謝罪する。

それがちゃんと伝わったのか、3人は何も言わずフィアに優しい笑みを返してあげた。

 

「さあ、戻ろう?」

「はい、シエルちゃんもフィアもお疲れ様!」

「ナナさんもお疲れ様です、フィアさんも……」

「……うん、お疲れ様」

 

精一杯の笑みを浮かべ、フィアは足を動かしアナグラへと帰っていく。

 

――――少しだけ、心が軽くなった気がした

 

それは小さな小さな変化、けれど……彼の未来を変えるかもしれない決定的な変化。

果たして、彼の道の先に待つのは破滅か……それとも救いか。

 

――それはまだ、誰にもわからない

 

 

 

 

 

 

 

To.Be.Continued...




ちょっとした補足。

カズキの光の剣は剣戟というより特性で言えばバレットに近い攻撃です。
まあわかりやすく言えば作中でも言っているように「レーザーが砲撃のように放たれた」と思ってください。ガンダムを知っているならライザーソードを想像すると一番良いかもしれません。(知らない方々、申し訳ありません……)
あれがカズキにとってのブラッドアーツという位置づけです、そもそもこの作品ではブラッド以外でブラッドアーツやブラッドバレットを使える神機使いはいない…という設定ですので。

ですがフィアの「喚起」能力によって、普通の神機使いでも感応種と戦えるようにはなります、だってそうしないと今後ブラッド(あと一部の特殊な人達)抜きで感応種と戦う展開になった時に困りますから。
何故ブラッドアーツがブラッド専用にしたのかというと、せっかく第三世代の神機使いという扱いなので、“特別感”を出したかったというのが最大の理由です。
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