神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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感応種との戦いで、危機に陥るアリサ達。
しかし、そんな状況の中――ある少女が戦場に降り立つ。

そしてその少女は人間ではなく、更にかつてアリサが出会った人ならざる少女であった………。


第3部捕喰121 ~タマモ~

「……また、会いましたね」

 

おもわず、アリサはそんな呟きを零す。

かつてネモス・ディアナで出会った謎の少女、それが今目の前に立っている。

生きていた事を嬉しく思うし、自分達を助けてくれた事には感謝している。

……だが、詳細は目の前の脅威を全て駆逐してからだ。

 

「………うぅぅぅぅぅぅ」

 

唸り声が、獣少女の口から放たれる。

それは明確な敵意、向けている相手は…当然アラガミ達だ。

しかし、その迫力にアリサ達はおもわずたじろいでしまう。

そしてその間に――獣少女は一気に勝負を決めてしまった。

 

「―――じゃう!!」

 

一瞬、刹那よりも速い動きで獣少女の姿が消える。

その動きはアリサですら辛うじて目で追える程速く、当然手負いのアラガミ達が反応できるわけが無かった。

 

――まず一手、尾の一本が槍のように動きコンゴウの身体を貫き絶命させた

 

――続いて二手、反応する事もできずに獣少女の右手一本でチョウワンの一体の頭蓋が砕かれる

 

――三手、獣少女の左の爪によってイェン・ツィーの身体に三条の傷が刻まれた

 

“――――速い!?”

 

僅か二秒にも満たない時間、たったそれだけで獣少女は三手の攻撃を繰り出した。

ネモス・ディアナで出会った時とは比べものにならない戦闘能力だ、少なくとも自分より遥かに強いとアリサは認めざるおえない。

 

――その間にも、獣少女は攻撃を続けていく

 

倒しきれなかったイェン・ツィーへと向かっていく獣少女。

対するイェン・ツィーもただではやられぬと後ろへ後退しながら大きく跳躍。

そのまま獣少女へと急降下攻撃を仕掛けようとして――衝撃が全身に襲い掛かる。

……イェン・ツィーは失念していた、敵は目の前の獣少女だけではない。捕喰しようとしていたアリサ達も居るという事に。

獣少女の戦闘能力の高さに驚愕したせいか、それとも別の理由か……どちらにしろ、シエルが放った“グラビトロン・ブレイク”の一撃をまともに受けてしまえば、そこまでだ。

 

「ガァ―――!」

 

裂帛の気合を込めた獣少女の左腕が、イェン・ツィーの肉体を易々と貫く。

舞い散る鮮血、断末魔の叫びを上げながら頭から落ちていくイェン・ツィー。

しかし獣少女はすぐさま左腕をイェン・ツィーの身体から抜き取り、右足で相手の身体を蹴りながら離脱。

そして、落ちてきた所を――ジュリウス渾身の斬撃がアラガミの命を完全に断ち切った。

イェン・ツィーの死亡により、チョウワンも霧のように消え去り――残るは死に体のコンゴウと新種の感応種のみ。

 

「―――きゅおおおおおおおおおん!!!!」

 

天に向かって遠吠えを上げる獣少女。

刹那、彼女の三尾の尾が光り輝き――先程の雨のようなレーザーが一斉に発射された。

その数およそ五十、それら全てが残りのアラガミへと降り注いだ!!!

 

「…………なんて、デタラメな」

「―――――」

 

凄まじい、などという表現では済まされない破壊力。

人間では、否、ゴッドイーターですらも太刀打ちできない戦闘力を、目の前の獣少女は有している。

 

「っ―――まだだよ!!」

「えっ!?」

 

ラウエルの声で、アリサ達は気づく。

死に体であったコンゴウは既に息絶えていた、しかし……新種のアラガミはあの凄まじい攻撃の中、まだ生きている―――!

 

「きゅぐ………」

 

追撃しようとする獣少女であったが、先程の攻撃で疲労したのか大きく息が乱れていた。

それを確認したアリサが、すぐさま地を蹴り新種の感応種へと向かって斬撃を繰り出す。

 

「っ、な……!?」

 

しかし、アリサの渾身の一撃は鈍い音と共に感応種の身体に弾かれてしまった。

そんなバカな、如何に目の前のアラガミの肉体が強固だとしても今の斬撃が弾かれるとは思えない。

驚愕は隙を生み、その隙を逃さず感応種はアリサに向かってレーザーで釣瓶打ちにしようと―――

 

「ダメーーーーーーーーっ!!!」

「ラウエルさん!?」

 

感応種がアリサに攻撃を繰り出す前に、ラウエルが感応種の身体に張り付いた。

そしてラウエルは大きく口を開き……なんと、感応種の身体に噛み付いてしまった。

それはまさしく捕喰、事実ラウエルは感応種を生きたまま捕喰してしまっている。

 

“あ…………オイシイ”

 

感応種の肉を噛み千切り、喰らい、飲み込んだ瞬間――ラウエルは言いようのない幸福感に包まれた。

久しぶりに本気で思えた()()()()という感情。

それはラウエルから呆気なく自制というものを消し飛ばし、彼女は貪るように感応種を()()()()()()()

 

「………ラウエル」

 

こんな彼女は初めて見ると、アリサは思った。

彼女はアラガミであり捕喰欲求に従い他のアラガミを喰らう事は何度もあった。

だが、このようにまさしく獣のように喰らう姿を見るのは初めてだ。

醜悪ともとれるその光景に、シエルはおもわず視線を逸らしジュリウスは表情にこそ出さないもののラウエルに対する驚愕を心の内に見せていた。

 

――感応種の悲鳴が、徐々に小さくなっていく

 

先程まで抵抗を続けていた感応種であったが、獣少女の攻撃のせいかその抵抗は小さいものだ。

そのおかげもあってかラウエルは捕喰を邪魔される事なく……遂に、感応種は力なく地面に落ちる。

 

「―――ラウエル、もう充分でしょう?」

「――――――」

 

アリサの静かでありながらよく響く声が、ラウエルの動作を止めた。

ごくり、口の中に残っていた肉を飲み込んでからラウエルはアリサへと視線を向け、ぺこりと頭を下げる。

 

「ごめんなさい……」

「……大丈夫よ。コアは無事みたいだから」

 

この感応種のコアは持ち帰らなければならない、それが理解できたからラウエルは食べ尽くしてしまいそうになった事に対して謝ったのだろう。

しょんぼりしてしまったラウエルの頭を優しく撫でながら、アリサは感応種のコアを摘出する。

……これで戦いは終わり、後は報告をして帰還するだけ…だが。

 

「…………きゅー」

「……一緒に、来てくれますね?」

 

すっかりおとなしくなっている獣少女を、保護しなければ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「―――きゅー、きゅー♪」

「ちょ…やめ…うぶぶ………」

「うーん……話には聞いていたけど、実に興味深いねこの子は!!」

 

――極東支部、サカキ博士の研究室

 

現在ここにはカズキとアリサ、ブラッド隊にラウエル、そして何故かコウタの姿があった。

当然、その中には先程アリサ達が保護した獣少女の姿もあり……現在彼女は、カズキに抱きつきその顔をペロペロと容赦なく嘗め回していた。

まるで小動物のような行為だが、見た目が少女なためその光景は少々危ないものとなっており、それとは別に……アリサの表情も別の意味で危なくなっている。

額には青筋が浮かび、身体はプルプルと奮え、ちょっとでも刺激をすれば爆発してしまう程の怒りを溜め込んでいるのは誰の目にも明らかなのは言うまでもない。

 

「あ、あの……アリサさん? お気持ちはわかりますが、少し落ち着いて――ひぃっ!?」

「……だいじょうぶですよシエルさん、私……落ち着いてますから」

 

勇気を出して声を掛けたシエルであったが、アリサの鬼も裸足で逃げ出すような笑みを見て、完全に震え上がってしまった。

哀れシエル、涙目になっている彼女に気づいたナナが、そっと彼女をあやしている光景はどこか哀愁を漂わせている。

 

「………それで、コイツは一体何者なんだ?」

「この子は前にネモス・ディアナで会った…………あのさ、もうペロペロはやめてくれない?」

「きゅー……?」

「…………………」

 

アリサの表情がますます険しくなる。

それを近くで感じ取ったブラッド隊は、さり気なく彼女から離れた。

そんなアリサの殺気を感じ取ったのか、獣少女は不満げな表情を浮かべながらもカズキから離れ地面に座り込む。

 

「……この子はネモス・ディアナで出会った子で、その時からこの耳と尻尾が生えていたんだけど……尻尾の数が増えてるね」

「アラガミ…なのでしょうか?」

「それは間違いないと思うよ、人間には無い耳や尻尾がいい証拠だけど……普通のアラガミではない事も確かだろうね」

「まあ……人の姿ですもんね」

「それもあるけど、僕もアリサもラウエルもこの子に対してどこか違和感があるんだ。普通のアラガミではないんだけど……」

 

そこまで言って、カズキは黙ってしまった。

要領を得ない彼の言葉に首を傾げるブラッド隊、そんな中サカキがモニターから目を離し口を開く。

 

「とりあえずこの子はここで保護する事にしよう。調査は私がするから君達は引き続き自分達の仕事を果たしてくれたまえ」

「……そうですね。この少女が何者であるかがわからない以上、俺達がこれ以上気にしても仕方ないな」

 

ジュリウスのこの言葉に、全員が同意するように頷きを返す。

謎は残ったが一先ずこの話は終わりだ、全員がそう判断する中で……フィアが、ある疑問を口にした。

 

「そういえば……この子、名前あるの?」

「名前……」

「名前っていっても……この子は喋れないし」

「きゅー?」

「じゃあ私達がこの子の名前を付けてあげましょうよ!」

「…………フッ、どうやらオレの出番が来たわけだな」

 

名前を付けてあげよう、アリサが提案した瞬間…上記の言葉を放つ男が居た。

彼の名はコウタ、その表情は無駄に自信に満ち溢れており…それを見たアリサとカズキは、胸騒ぎを覚える。

 

「オレ、ネーミングセンスには自信があるんだよね~」

“あれ? なんだかデジャヴ……”

“嫌な予感しかしないんですけど………”

 

夫婦の脳裏に、3年前のとある記憶が蘇る。

いやまさかそんな…などと思いつつ、胸に宿る不安は消えない。

そして、コウタは相変わらず無駄に自信満々な表情を崩さずに。

 

「そうだな……ノラミとかどうだ?」

 

と、大真面目にふざけた事をぬかしやがりました。

……周囲の空気が凍りつく。

ブラッド隊はロミオを除く全員の表情が固まり、獣少女とラウエルは揃ってポカンとしている。

そして、コウタの酷いネーミングセンスによって、シオの悲劇を思い出した夫婦はというと……。

 

『………どん引きだよ』

 

殺意すら込めた口調で、そんな呟きを零した。

 

「ええっ、何でだよ!?」

「むしろ何でって訊くのが何でですよ! あなた3年前からまったく進歩してないじゃないですか!」

「そこまで言う!? ノラミいいじゃねえか!!」

「そうですよ!! ノラミ、いいじゃないですか!!」

『えっ!?』

 

まさかの同意の声に、全員が驚愕する。

コウタが提案した名前に同意したのは……やはりロミオ。

 

「さすがロミオはわかってるな!!」

「ええ、わかりますとも!!」

「………ロミオ先輩、正気ですか?」

「どういう意味だよ、ナナ!!」

「いや、だって……ねえ?」

「ねえな」

「ああ、ないな」

「……すみませんコウタさん、ロミオさん、その名前は……正直殺意が湧きました」

『殺意!?』

“シエルちゃん……結構言うなあ”

 

シエルの一言で、心に大きなダメージを負ったコウタとロミオ。

しかし彼等に同情する者は居ない、まあ居るわけがないのだが。

 

「じ、じゃあお前らはなんかいい名前あるのかよ!?」

「えっ? あー……ギル、お願い」

「オレかよ!? あー……ジュリウス、頼む」

「……こちらにパスをしないでくれ」

「あ、じゃあ私が……」

「ごめんシエルちゃん、シエルちゃんは考えないで」

「何故ですか!?」

 

当然と言えば当然なシエルの反応ではあるが、致し方ないと思っていただきたい。

何せ彼女はカピバラに「カルビ」と名付けたのだ、そのネーミングセンスはあまり期待できない。

あーでもないこーでもない、度重なる意見を交わしていくカズキ達。

因みに話題の中心に居るはずの獣少女は構ってくれないからか、欠伸をしながら地面に丸まっていた。

 

「なんだよー、誰もいい名前の候補ないじゃんかー」

「でもノラミだけは認めません。もし認めたら私は自分自身が許せなくなります」

「お前どんだけノラミに恨みあるんだよ!!」

「あなたはどれだけノラミに執着があるんですか!!」

 

「……カズキ、まだ終わらないのかな?」

「うーん……フィアは何か案はない?」

「ない。そういうカズキは?」

「………そうだね。あの名前ならどうだろうか」

 

フィアの問いにそう呟きつつ、カズキは立ち上がった。

そしてそのままぎゃーすか言い争いを続けているアリサとコウタの間に割って入る。

 

「2人とも、とりあえず落ち着いて」

「ですがカズキ、ノラミはないですよね!?」

「カズキならノラミって名前の良さをわかってくれるよな!?」

「……コウタ、ごめん。無理」

「グハァッ!!」

 

容赦なく、カズキはコウタの案を切り捨てる。

しかしこのまま否定したままでは何なので、彼もまた獣少女の名前候補の案を上げた。

 

「――――タマモ、タマモっていうのはどうだろう?」

『タマモ?』

 

カズキの案を、全員が反復する。

聞き慣れない名前だ、名前の由来は何だろうと全員の視線がカズキに集まる。

その光景に、カズキは苦笑しつつ名前の由来を口にした。

 

「かつて、ここが日本という名前で呼ばれていた頃、ある昔話で“玉藻御前”という九尾の狐の伝説があったんだ。九尾じゃないけど……狐に似た耳と尻尾を持っているし、尻尾の数も一尾以上……いいと思わないかな?」

「さすがカズキですね!」

「でも、あの子が気に入らないと………」

「じゃあ訊いてみましょう!」

 

言うやいなや、アリサは寝入っている獣少女を起こしてしまう。

 

「きゅー……」

「あなたの名前が決まりました!」

「決まってない、まだノラミって候補があるだろ!!」

「アラガミの中に放り出されたくなかったら黙っててください。それでですね……カズキがあなたの名前を考えたんです」

「……きゅ?」

「タマモというのですが……どうでしょう?」

「きゅー………」

 

思案しているのか、獣少女は暫し考えるような素振りを続け……。

 

「――――きゅ、きゅー!!!」

 

満面の笑みを浮かべ、獣少女――タマモはカズキの考えてくれた名前を受け入れた。

瞬間、コウタとロミオはショックを受けたような表情で崩れ落ちたが、それを気にする者は居ない。

 

「きゅー!!」

「あはは、すっごい喜んでる!」

「可愛らしいですね」

「……ノラミの方がいいって、絶対」

「ですよねー……」

“まだ言ってる………”

 

もう放っておこう、カズキはそう判断してぴょんぴょん跳ねながら喜んでいるタマモへと視線を向ける。

アラガミではあるが、彼女は純粋な少女にしか見えない。

……守りたいと、カズキは強く思った。

 

「きゅー!!」

「おっ―――わあっ!?」

 

タマモがいきなり抱きついたと思った瞬間、彼女は再び彼の顔をペロペロと舐め始めた。

おそらく自分の名前を考えてくれた事に対して感謝しているのだろう、しかし……この感謝の仕方はなかなかに困る。

 

「ダメッ! カズキにペロペロしていいのは私だけなんです!!」

「ちょ、アリサ!?」

 

危ない発言をしながら、カズキとタマモの間に割って入るアリサ。

また始まったよ……こうなっては暫くは収まらないだろうと、ブラッド隊とコウタは揃って研究室を後にした。

 

「……アリサさんって、カズキさんの前だと凄いよね。色々と」

「ねえシエル、女の人が男の人の顔を舐めるのって……愛情表現の1つなの?」

「えっ!? え、えっと……どうなんでしょう?」

「………ノラミが良かったなあ」

「ですよねー……」

「どんだけだよ……」

 

――こうして、極東支部にタマモという謎の少女が保護された

 

彼女は一体何者なのか?

謎は明かされぬままであるが、彼女の登場により――物語に変化が訪れる。

その変化が、彼等に何を齎すのか。

 

 

――それはまだ、誰にもわからない

 

 

 

 

To.Be.Continued...




タマモが仲間に加わった!!!
名前は考えていなかったのですが、過去の感想欄にてこの子の事を「タマモ」と呼んでいた方がいらっしゃので、その案をいただきました。
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