さて、今回の物語は………。
「―――走れ走れ走れ!!!」
「くっそう……どうすりゃいいんだよ!!」
「とにかく、逃げないと!!!」
男二名に女一名、計三名の神機使いが瓦礫の道を駆けていく。
そんな彼等を、アラガミ達が一斉に追いかけていた。
ヤクシャにヤクシャ・ラージャ、コンゴウにヴァジュラ……およそ二十数体のアラガミ達が確認できる。
「調査隊は何をしているんだ! 情報とまるで違うじゃないか!!」
「今はそんな事言ってる場合じゃないって! このままじゃ喰われちまう!!」
「や、やだあ……そんなのやだあ!!」
「嫌なら今は走れ!!」
いくらアラガミを倒す力を持っている神機使いでも、あれだけのアラガミの群れと対峙するには……彼等の実力や経験では不可能であった。
しかしこの逃走もいつまで続くのか、だんだんと互いの距離は狭まっており、このままでは彼等はアラガミによって無惨にも食い荒らされてしまうであろう。
――だが、彼等三名の未来は第三者の登場により変わる事になる。
『………えっ?』
銃撃音、それと同時に聞こえてくるアラガミの悲鳴。
3人は逃げるのも忘れ後ろを振り向くと……自分達を追いかけていたアラガミであるヴァジュラの一体が、地に倒れ伏していた。
倒れたヴァジュラの頭部に風穴が空いており、既に息はない。
突然の事態に他のアラガミ達も彼等を追いかけるのを止め、周囲を見渡すが………。
――突如として現れた第三者が、アラガミの一体の首を跳ね飛ばした。
鮮血を噴き出しながら、地面へと倒れるアラガミ――ヤクシャ。
彼等もアラガミも、目の前の光景によって完全に動きを止めてしまい、第三者はその絶対的な隙を逃さぬように動く。
風切り音を響かせながら振るわれるのは、神機による横薙ぎの斬撃。
隙を突いたその一撃はまさしく必殺、迷う事無く近くに居た別のヤクシャの胴を半分近くまで切り裂いた。
更に返す刀で胴から胸、頭部までバッサリと切り裂かれ、ヤクシャは悲鳴を上げる間もなく絶命する。
「離れるなら、すぐに離れる! 戦えるのなら援護をお願い!!」
「っ、あ、え………」
第三者の声で、彼等はようやく思考を取り戻す。
そして、ようやく自分達を救ってくれたのが、同じ神機使いである抗神カズキである事に気がついた。
その間にもカズキは動きを見せ、地を蹴りながら他のアラガミへと狙いを定める。
アラガミ達もここに来てカズキに襲いかかろうとするが……別方向から放たれた銃撃の雨を受け、再び動きを封じられてしまった。
(コウタ、ナイス援護………!)
近くの廃ビルの屋上にて、銃撃による援護をしてくれた親友の藤木コウタに心の中で感謝の言葉を述べつつ、カズキはヤクシャ・ラージャに向かって大きく跳躍した。
神機を上段に構え、身体が重力に従って落ちていくと同時に、カズキは構えていた神機を勢いよく振り下ろす。
ぶんっという音と共に放たれた斬撃は、ヤクシャ・ラージャの頭部を左右2つに切り裂き鮮血を撒き散らした。
しかしそれでもヤクシャ・ラージャは死なない、さすがヤクシャの上位種と言うべきか……頭が2つに分かれているというのに、カズキに向かって右腕の銃口を向けようとしている。
だが遅い、その前にカズキは左腕をスサノオの尾剣に変化させ、ヤクシャ・ラージャの右腕を銃口ごと斬り飛ばす。
すかさず頭部に刺さったままの神機を抜き取り、ヤクシャ・ラージャの身体を蹴りながら再び跳躍。
「たああああああっ!!!」
裂帛の気合を込め、カズキは再びヤクシャ・ラージャの身体に神機の一撃を叩き込んだ!!
先程よりも更に強力な斬撃は、アラガミの固い皮膚を易々と切り裂きながら……ヤクシャ・ラージャの巨体を、真っ二つに斬ってしまった。
凄まじい一撃と光景を目にしたせいか、捕喰欲求に従うだけのアラガミ達の瞳に、カズキに対する恐怖心が現れ始める。
それには構わず、カズキは再び地を蹴りアラガミ達を全滅させようと神機を振るい続けた………。
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「――あ、ありがとうございましたカズキさん、コウタ隊長!!」
「いいっていいって、それよりあんまり無理すんなよ?」
「は、はい!!!」
程なくして、アラガミ達はカズキとコウタにより全滅した。
三名の神機使い達に感謝の言葉を告げられ、カズキとコウタは笑みを浮かべながらそれに応える。
――その後、彼等を回収しに来たヘリを見送ってから、2人は安堵の溜め息を零した。
「ふー……なんとか間に合ってよかったな、カズキ?」
「うん。ごめんねコウタ、助かったよ」
「何言ってんだよ。こっちだって救援に向かうつもりだったんだから気にすんなって!」
それじゃあ戻ろうぜ、そう言いながらコウタは近くに停めていた移動用のジープに向かう。
彼もそれに続き、運転はコウタに任せ助手席に腰を降ろした。
瓦礫の道をやや強引に走りながら、コウタは前方から視線を逸らす事無く……隣に座るカズキに声を掛けた。
「……お前、疲れが溜まってんじゃないか?」
「えっ? ………そう、見える?」
「クレイドルの業務に感応種の討伐、それに今みたいな救援……そんな事続けてたら、ホントに倒れるぞ?」
最強の神機使い、そう謳われるが故に彼は常にオーバーワークを強いられている。
しかも元来の優しさもあってか、救難信号を感知すれば何度も現場に出向いてしまうのだから、疲労が蓄積されないはずは無いのだ。
今だって珍しく助手席に座りながらウトウトしているのだから、コウタでなくてもわかる。
今回の救援だって、カズキはコウタよりも離れた場所に居たというのに、アラガミ能力を駆使してコウタよりも速く救援に来ているのだ。
「大丈夫大丈夫。そりゃあちょっとは疲れてるけど、ちゃんと休むから」
「じゃあお前、この後の予定を話してみろよ?」
「……………」
「………はぁ」
押し黙るカズキに、コウタは呆れたような大きな溜め息を吐き出した。
大方アナグラに戻ってからも書類仕事をするつもりだったのだろう、わかりやすい親友を見れば溜め息だって出てしまう。
しかし、こんな彼を見てしまえばこのまま黙ってアナグラに帰る事はできない、数年間共に戦い続けているコウタはカズキが存外に頑固だという事は知っているのだ。
幸いにも自分の今日の仕事は終わった、たまには実家に帰ろうと思っていたので……コウタは口元に笑みを浮かべつつ、アナグラのヒバリへと通信を入れた。
「あ、もしもしヒバリちゃん? オレ達救援が終わって帰る所なんだけどさ……オレ、このまま家に戻るから」
『わかりました。それでは神機の持ち出し許可証を申請しておきますね?」
「助かるよ。オレとカズキの2人分お願い」
「えっ?」
『カズキさんのもですね? 了解しました』
それじゃあ宜しくー、そう言ってコウタは通信を切った。
そして、何か言いたげなカズキの視線を受けたコウタは。
「――オレんちに行くぞ、因みに拒否権はないからな?」
満面の笑みを浮かべ、カズキに告げたのだった―――
…………。
「――ただいまー」
「………ど、どうも」
「あら、カズキくんじゃない。コウタ……もしかして」
「今日はカズキも一緒にメシを食うからさ、母さんよろしくー」
「もぅ……そういう事は帰ってくる前に言いなさい。ごめんなさいねカズキくん?」
「あ、いえ……でも、突然お邪魔するのは……」
迷惑になるだろうと考えたカズキであったが、コウタは逃がさないようにカズキの肩に腕を回す。
「アナグラに帰っても書類仕事でまた仕事すんだろ? マジで倒れるから今日の業務は終わりにしろって」
「いや、けどさ……」
「その仕事だって、今日明日でやらなきゃいけないわけじゃないだろ?」
「そうだけど……」
「アリサだって今日は帰ってこないって聞いたし、もうお前も仕事すんのは止めといた方がいいって。
それにさ、母さんもノゾミもお前がウチに来るのを楽しみにしてたし」
「……………」
尚も困り顔を浮かべるカズキであったが、コウタは決して逃がさない。
強引な方法ではあるが、こうまでしないと目の前の親友は決して休まないとわかっているから手加減などできないのだ。
葛藤を暫し続けるカズキであったが……やがて観念したように溜め息を吐き。
「――じゃあ、お邪魔させてもらうよ」
「そうこなくっちゃ、話の分かる親友で助かるよ」
「強引だなあ……もう」
苦言を漏らすものの、カズキは口元に笑みを浮かべる。
……彼の優しさが、十二分に伝わってきたからだ。
――やがて買い物から帰ってきたコウタの妹であるノゾミとも挨拶を交わし、夕食となった。
『いただきまーす!!』
「はい召し上がれ、カズキくんも遠慮しないでね?」
「はい、ありがとうございます」
「くー……やっぱ仕事の後の母さんのメシは格別だなー!」
「お兄ちゃんおじさんくさいよー、カズキさんもお仕事お疲れ様でした!!」
「ありがとうノゾミちゃん」
談笑を交わしながら、4人は夕食を楽しんだ。
今日は何があった、このアラガミを倒した、そんな会話を交えながら楽しい夕食の時間は過ぎていく。
「そういえばカズキくん、アリサちゃんは元気?」
「ええ、元気ですよ」
「それならいいけど、あまり無理をしないように言っておいてくれる?
前に買い物をしていた時に会ったんだけど、少し……疲れているように見えたから」
「……はい、妻にもそう言っておきます」
「お願いね? それにしても……カズキくんはあんなにもしっかり者で可愛い奥さんを貰ったのに、コウタはまだ彼女も見つけられないのかしら?」
「うぐっ……母さん、カズキの前で言うなよ」
「お兄ちゃん、モテないの?」
「ぐはっ、ノゾミ……違うんだ、お兄ちゃんはモテないわけじゃないぞ?」
頬をぴくぴくと引き攣らせるコウタ、どうやらノゾミの何気ない一言が効いたようだ。
可哀想に……同じ妹を持つ立場であるカズキには、今のコウタの心中がよく理解できた。
「あまり無理をしたらダメよ?」
「わかってるよ母さん。……ごめんなカズキ、こんな会話を聞かせちまって」
「ううん、気にしないで。それに……コウタ達を見ていると、暖かな気持ちになれるから」
お互いを思い合い、支え合っている。
カズキにとってコウタ達は理想の家族だ、いつかは自分もアリサ達と一緒にこのような家庭を築いていけたらと思っているから。
一方、カズキの言葉を聞いて、コウタは気恥ずかしそうに顔を赤らめながら、けれど口元には隠しきれない嬉しそうな笑みを浮かべていたのだった。
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「――なあ、そのシャツきつくないか?」
「うん……まあしょうがないよ。僕としては貸してくれるだけでありがたいし」
夜。
夕食を終え、ノゾミと遊び、彼女がうたた寝を始めたのでカズキとコウタも休む事にした。
代えの服を持っていなかったため、現在カズキはコウタの衣服を借りている状態なのだが……彼には小さいようだ。
「そういえばお前……また背伸びた?」
「ああ、うん……今は186ぐらいあるかな?」
「デカッ!? くそー……ようやく170台を突破したオレに対する当て付けかよ」
「そんなわけないだろ? それに僕としてはこれ以上大きくなりたくないよ、アリサが「キスするのが少し大変」って言ってたし」
「あーそーですかー」
さりげなく惚気そうになったので、コウタは極力無機質な返答を返す。
爆発しろと心の中で言いながら、コウタは自分のベットに寝転がった。
「あー……疲れた」
「今日はもう早く休もうか? コウタだって明日は早めにアナグラに戻らないといけないんでしょ?」
「まあなー、けどお前だって明日早いんだろ?」
「うん、でも今日はコウタのお陰でゆっくり休めたから、問題ないよ」
仕事は当然残っているものの、今日は強引に連れてこられて良かったとカズキは思っている。
暖かなコウタの家族を見て元気を分けて貰えたし、幸せそうな笑顔を見て守りたいという想いがまた強くなった。
その想いはまた少しカズキを強くさせ、明日への原動力へと繋がっていく。
「そういえばさカズキ、あのマリーって子とブラッド……仲、あんまり良くないよな?」
「……そうだね。少しずつ改善していけばいいんだけど」
「ったく……みんなで仲良くできないのかねえ」
「みんながコウタみたいに単純なら、色々な問題が解決するんだけどね」
「なんだよそれ、オレはそこまで単純じゃないっての」
ジト目で睨んでくるコウタに、苦笑しながらごめんごめんと返すカズキ。
……だが心配でもあった、今はまだ大丈夫だとしても、このまま険悪な状態が続くのは好ましくない。
自分達の敵はあくまでアラガミだ、共に戦う仲間との連携を果たせなければ、待っているのは破滅への道だ。
「大丈夫だよコウタ、きっと大丈夫だ」
「楽観的だなー、でもまあ……オレもあんまり危機感抱いてないけど」
「コウタの場合、物事を難しく考えられないだけじゃない?」
「ひでえ……強く否定できないけどさ」
しかし、皆が居るならきっと確執も無くなってくれる筈だと、カズキは根拠のない確信を抱く。
ここはアナグラ、誰もが傷をその身に抱えているけれど……それを癒してくれる者達が居てくれる場所だ。
自分とて変わることができた、人として生きる事を許され歩みを進んでいる。
……フィアもマリーも、きっと自分のようになってくれると信じている。
「コウタ、もう寝ようか?」
「そうだな。おやすみカズキ」
「おやすみコウタ。……今日はありがとう」
「よせやい照れくさい、さっさと寝ようぜ?」
布団を被り、それからコウタから反応が返ってくることはなかった。
そんな彼に苦笑を送ってから、カズキも布団を被り目を閉じる。
すると、すぐさま眠気が彼の中で大きくなっていき、程なくして彼は眠りの世界へと旅立った。
――暖かな思いを、その身に宿しながら。
To.Be.Continued...
あと二話ほどちょっとした日常話を考えていますが、そろそろ物語を動かそうと思います。
いよいよ私の中では一番の危機話が近づいてきました、シリアスが続くと思いますがご了承ください。