今回は、その平穏の一部を紹介しよう……。
《とある三馬鹿の話》
「――はい、ではこれからロミオ君を断罪します」
「どんどんぱふぱふー!」
「ちょっと待ってください!!」
極東支部のとある休憩室。
ラウンジとは違い数席の椅子しかない狭い休憩室の中に、男3人が対峙していた。
否、正確には1人の少年――ロミオがコウタとハルオミによって壁際に追い込まれていると言った方が正しい。
そして上記の言葉を放ったコウタは額に青筋を浮かべロミオを射抜くように睨んでおり、ハルオミはそんなコウタを見て楽しんでいる。
――どうしてこうなったと、ロミオは言えるなら言いたかった
そもそもどうしてこんな事になったのか、話は数分前に遡る。
さあ今日は何をしようか、足取り軽くロミオは今日の予定を組もうとして……いきなり、コウタとハルオミに捕まった。
それからは反論する余裕もなく現在に至り、当然ながらロミオは何故自分がコウタに敵意を持って睨まれているのか理解できない。
「あの……オレ、何かしました?」
「ロミオ君、キミに発言権なんてありません」
「ちょ、酷すぎません!?」
「それと黙秘権も認められません、オレ達の質問に答えない場合……これからじわっとした嫌がらせを一生します」
「脅しのレベルが地味に恐い!!」
しかもコウタの目を見る限り、本気である事がわかる。
ここはおとなしくしているしかない、そう思ったロミオは黙ってコウタの話を聞く事にした。
するとコウタは本題に入るために――ロミオにある問いを投げかかる。
「ロミオ君、キミは最近……マリーちゃんと仲が良いそうじゃないか?」
「……………はい?」
キョトンとしてしまうロミオ。
質問の意味がわからなかったわけではないが、マリーと仲が良いというのはよくわからなかった。
「……オレ、マリーと仲良くないですよ? むしろよく口喧嘩してますし」
マリーは口が悪いし物言いも厳しい、だからロミオもつい売り言葉に買い言葉で彼女と口論になるのは一度や二度ではなかった。
とはいえ口論と言っても激しいものではなく、傍から見れば微笑ましいレベルなのだが……ロミオはそれに気づいていない。
所謂喧嘩するほど仲が良い状態というわけである、しかしそれがコウタの怒りを買った。
「あんな可愛い子と毎日楽しそうに会話しやがってーーーーっ!!」
「えー………」
「コウタには、お前さんとマリーの会話がそう見えるみたいだぜ?」
「コウタさん……女の子に飢えすぎですよ……」
どういう脳内フィルターを施しているというのか、ロミオはおもわず溜め息を吐いてしまった。
成る程、自分が尋問もどきのような事をされているのはこういう事なのか。
「どこまでいったんだ!? Aか!? Bか!?」
「んなわけないじゃないですか、オレとマリーはそんな関係じゃ………」
「――ロミオ、ここに居たのか」
休憩室に現れる、一人の少女。
その少女は話題に昇っていたマリーであった。
彼女は休憩室に居るロミオを見つけ、呆れたように溜め息を吐いてから真っ直ぐ彼の元へと歩み寄る。
「何をやっているんだ、鍛錬の時間じゃないのか?」
「あ、そういえばもうそんな時間か……」
「まったく、お前はただでさえブラッドの中で劣っているのに、鍛錬を怠ればまた離されるぞ?」
「うっさいな、お前は一々物言いがムカつくんだよ!!」
「事実を言っているだけだ。――最近のお前は努力を続けている、それを他ならぬお前自身が無碍にするな」
「わ、わかってるっての……」
努力を続けていると言われ気恥ずかしいのか、ロミオの頬が僅かに紅潮する。
それを見て、マリーは厳しい表情を僅かに緩め笑みを浮かべた。
「………………」
(おおう、コウタ君が真っ白に……)
確かに口喧嘩のようなやりとりだ、しかし言葉の端々には刺々しいものはなく仲睦まじい雰囲気を感じ取れる。
それと同時に、前は少々近寄りがたい雰囲気を出していたマリーが、柔らかい物腰である事にも気がついた。
……別に仲が良くないとロミオは言ったが、そう思っているのは彼だけかもしれない。
「ではいくぞ? 今日はわたしも付き合ってやる」
「えー……だってお前、加減しないからなあ」
「鍛錬に加減をしてどうするんだ。お前のその甘ったれた根性は男らしくないな」
「ぐっ……うるさいっての!!」
そんなやりとりを行うロミオとマリー、完全にハルオミ達は蚊帳の外状態になっていた。
「それじゃあハルオミさん、コウタさん、オレ達はこれで……」
「ロミオが失礼をしました」
「どういう意味だよ、それ」
「そのままの意味だ」
憎まれ口を叩きあいながら、休憩室を後にするロミオとマリー。
残されたハルオミは、未だに真っ白になってショックを受けているコウタを見て、苦笑しながら口を開く。
「――確かに今はまだ友達レベルだが……イイ線いくかもな?」
「ロ――ロミオの裏切りものおおおおおおおおおおっ!!!」
コウタの心からの叫びが、休憩室に響き渡る。
どうして自分には女っ気がないのだろうか、そう思わずにはいられない。
――藤木コウタ18歳、まだまだ彼に春が訪れるのは先の話のようだ。
《とある三馬鹿の話》おしまい。
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《タマモのちょっとした成長》
「――タマモの尻尾が増えた?」
「もふもふ………」
「きゅー……」
ある日のアナグラ。
カズキはサカキから報告したい事があると言われ、彼の研究室へと赴くと……そこにはタマモの尻尾に埋まっているアリサの姿があった。
まあそれはいい、いつもの事だから。
それよりもカズキは、何故タマモの尻尾が
「やあカズキ君、忙しいのに悪いねえ」
「いえ、それで博士……タマモの尻尾が増えているんですけど」
「きゅ、きゅぅぅぅ……」
カズキに気づいたのか、タマモが困ったような弱々しい鳴き声を漏らす。
その表情は明らかに困り顔であり、アリサによって散々尻尾を弄られたのだろうと容易に想像できた。
助けを求められたカズキであったが、今のアリサを引き剥がすには苦労するので両手を合わせ「ゴメン」という言葉を送るだけしかできなかった。
「博士、これは?」
「ふむ、まあ見ての通りタマモの尻尾が増えたようだね。
調べてみたところ……どうやら彼女の中にあるレトロオラクル細胞が増大していてね、増えすぎた結果あのように尻尾が増えてしまったのだろう」
「はあ……。まあこの際尻尾が増えたのはいいんですけど……レトロオラクル細胞って、僕達が使う神機や通常のアラガミと違って限りなく混じり気のないオラクル細胞なんですよね?
でもタマモってアナグラに来てから定期的にアラガミを食していますけど、どうして通常のオラクル細胞に変質しないんですか?」
レトロオラクル細胞を持つタマモにとって、通常のアラガミは不純物の塊と言ってもいいだろう。
そんなアラガミ達を摂取しているというのに、サカキはタマモのオラクル細胞をレトロオラクル細胞と言っている。
その理由がわからず問いかけるカズキに、サカキは眼鏡をキラリと光らせながら自分の理論を口にした。
「タマモの中のレトロオラクル細胞は、通常私達が認識しているオラクル細胞を摂取したとしても、決して混ざり合う事はないんだ。何故ならレトロタマモの体内にあるレトロオラクル細胞が摂取したオラクル細胞を捕喰し同じレトロオラクル細胞に変化させてしまうからね」
「えっ……?」
「オラクル細胞は性質を取り込み進化する。だけどタマモのレトロオラクル細胞は既に進化を終えているようなんだよ。
故に通常のアラガミのオラクル細胞では摂取されてもタマモのレトロオラクル細胞によって捕喰され、元々の性質は一切残らずタマモのとまったく同じレトロオラクル細胞に変化するだけなんだ。全てのレトロオラクル細胞がそのような性質を持っているのかは不明だけど、少なくともタマモは特別な進化を果たしたアラガミだからね、このような現象を引き起こしたとしても不思議じゃない」
タマモの身体には謎が多すぎる、ただでさえレトロオラクル細胞の研究を始めたばかりなのだ。
しかし今のサカキの話は全て事実である、前にタマモの内部を検査した所……彼女が食べたオウガテイルのオラクル細胞がレトロオラクル細胞によって“捕喰”されている光景が映ったのだから。
「つまり、タマモの中のレトロオラクル細胞はこれからもアラガミを捕食しても変化する事が無く、進化もしないって事ですか?」
「残念ながら断定は出来ない、彼女は“特異点”とはまた違った究極の進化をしたアラガミと言えるからね。もしかしたら彼女の謎は一生解けないかもしれないが……まあこれからも研究を続けていくよ」
「……まあ、僕は別にこの子がのんびりと生きていければそれで――ぐふぅっ!!?」
カズキの脇腹に鈍痛が走る。
突然の事態に反応が遅れてしまい、カズキはそのまま地面に倒れこみ更に2人分の重みが彼に襲い掛かった。
「きゅー、きゅー………!」
「もふもふ…もふもふ………」
「ちょ……アリサ」
自分に圧し掛かってきたのは、涙目のタマモとそんな彼女の尻尾を恍惚の表情でもふり倒しているアリサであった。
よほど気持ちいいのか、幸せ一杯といった顔のアリサであるが、同時にその笑顔は少々不気味に映る。
いい加減やめてほしいタマモは、先程からきゅーきゅーと弱々しい悲鳴を上げており、カズキは大きく溜め息を吐き出してから、アリサを現実に引き戻すために口を開いた。
「アリサ、ちょっと落ち着いて」
「もふもふもふもふ………」
「……タマモ、ちょっとどいてくれる?」
「きゅー……」
涙目のままカズキから降りるタマモ、その間も彼女の尻尾を愛で続けるアリサ。
起き上がり、カズキはアリサを見てもう一度溜め息をついてから。
「こらっ」
「あいたっ!?」
彼女の額に、デコピンを叩き込んだ。
バチッという音を響かせ、アリサは額を両手で押さえながらタマモから離れる。
相当痛かったのだろう、彼女の瞳には涙が浮かんでいるが、そんな彼女に向けるカズキの視線は冷たかった。
「まったくもう……アリサ、タマモが嫌がってるじゃないか」
「うぅ……ひどいですよお、カズキ」
「アリサが悪い。タマモに謝って」
「うぐう……タマモ、ごめんなさい」
痛みで冷静になったのか、申し訳なさそうにタマモに頭を下げ謝罪の言葉を口にするアリサ。
まだ怒ってますといった様子だが、気にしてないと伝えるようにタマモは一声鳴いた。
「やれやれ……」
「まあまあ、人は今ある欲には耐えられないものさ」
「きゅー!!」
「そ、そこまで怒らないでくれタマモ……」
「……それにしても、気持ちよかったです」
まだ両手にタマモの尻尾の感覚が残っている。
それを確かめながら、アリサはほにゃっと締まりのない顔になっていた。
(……そんなに、気持ちよかったのかな?)
アリサの様子を見ると、ついつい自分も触りたい衝動に駆られてしまうカズキ。
「………きゅー」
「うっ……ぼ、僕は触らないよ?」
そんな彼の心中を察したのか、タマモはジト目でカズキを睨んだ。
慌てて弁明して事なきを得たカズキであったが……。
(………ちょっと、もふもふしたかったかも)
タマモの尻尾を愛でたい衝動に駆られてしまうのであったとさ。
《タマモのちょっとした成長》おしまい。
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《3人寄れば……》
「―――わあ、美味しい!!」
「本当ですね。とても美味しいです!」
「えへへー、そうでしょー?」
今日は非番のシエル、ナナ、そしてローザ。
ローザの提案で現在3人は彼女の自室へと赴き、紅茶を飲みながら楽しい時間を過ごしていた。
シエルとナナはローザの淹れた紅茶の美味しさに驚き、そんな2人を見てローザは嬉しそうに微笑みを浮かべる。
――確かな安らぎを、3人は改めて認識していた。
「ところでさ」
「? なーに?」
「なんでしょうか?」
「ちょっと2人に、訊きたい事があったんだー」
言いながら、ローザはくふふとあまり純粋とは思えない笑みを見せる。
そんな彼女に首を傾げながらも質問を待つ2人に、ローザは。
「―――2人って、好きな人とか居るの?」
と。
遠慮も躊躇いも見せないまま、楽しそうに質問した。
キョトンとするシエルとナナであったが、やがてローザの質問の意味を理解して。
「ええっ!?」
「沢山いるよー、ブラッドのみんなは勿論だけど極東のみんなも大好き!」
シエルは顔を真っ赤に染め、ナナはにこっと笑顔を見せながら即答で質問の問いを答えた。
「……うーん、ナナお姉ちゃんの答えには半ば予想できてたというか……そういう意味じゃないんだけど」
「えっ、じゃあどういう意味?」
「異性としてって意味だよ、つまりナナお姉ちゃんは男の人で好きな人は居ないのかってこと」
「あー、そういうことかー。それならそうと言ってよローザちゃん」
(むしろ、そういう意味で捉えられるとは思ってなかったよ……)
通常ナナぐらいの年頃ならば、そういった恋愛面に興味を抱いてもなんら不思議ではない筈だ。
だというのにこれである、純粋というか…彼女の場合、色気より食気なのかもしれない。
と―――ローザは、先程からシエルが一言も発していない事に気がつき、視線を彼女へと向けた。
「……………」
「……シエルお姉ちゃん?」
なんだかシエルの様子がおかしい。
顔は赤く染まり、視線はキョロキョロと忙しなく動き、落ち着きがない。
ローザとしてはてっきり。
「――そういった事には、特に興味がありませんので。ところでバレッドエディットの事でローザさんの意見を訊きたい所があるのですが」
なんて返しが来ると思っていた、いや割と本気でだ。
そして自分が苦笑して―――という未来を想像していたローザにとって、シエルの反応は完全に予想外である。
「シエルちゃん、顔が赤いけど…大丈夫?」
「えっ、あ、はい……大丈夫です」
「……………」
ローザの口角が釣り上がる。
まるで愉しい玩具を見つけたような、純粋でありながら困った笑みを浮かべるローザ。
そしてナナも初めはキョトンとしていたのだが、やがてローザと同じような笑みを浮かべ始めた。
「あ、あの……その笑みは?」
シエルの本能が訴えている、ここから逃げろと。
しかしローザもナナも逃がさないようにさりげなく移動しつつ、シエルを追い詰める。
完全に逃げ場を失うシエル、そして2人はシエル弄りを開始した―――
「もしかしてシエルちゃん――好きな人が居るの!?」
「ひぇっ!? い、いえそんな……ち、違います!!」
「じゃあどうしてそんなに顔を赤らめているのかなー? 怪しいなー♪」
「怪しいなー♪」
「ちょ、ちょっとローザさん…ナナさんまで……わ、私は別に……」
「さあさあ、ローザ達に白状しちゃいなさいって!!」
「そーだそーだ!!」
「あ、ぅ……ち、違います…そ、そういうわけじゃ…うぅ……」
2人に詰め寄られ、どんどん小さくなっていくシエル。
モジモジと羞恥に耐えるその姿は可愛らしく、2人はますます笑みを深めていく。
――こりゃ弄り甲斐がありそうだ、笑みの中にそんなゲスい感情を見せながら。
「それで相手は? 年上? 年下?」
「いえ、ですから………」
「ナナお姉ちゃんは、誰だと思う?」
「あの………」
「そうだなあ、やっぱりブラッドの誰かである可能性が否めないかなー♪」
「……………」
シエルの言葉を完全に無視し、盛り上がっていくローザとナナ。
恋愛に関する話でテンションが上がっているようだが……それ故に彼女達は気づかない。
先程まで顔を赤らめていたシエルの表情が、無機質なものになっている事に。
「ブラッドの中だとしたら……やっぱりあの子かな?」
「あの子って?」
「わかるでしょ? やっぱり―――」
「―――お2人とも、いい加減にしてくれませんか?」
それは、地の底から響くような声だった。
あまり声に抑揚を付けないシエルだが、今の声はあまりにも無機質で機械を思わせる。
それを聞いて2人はようやく彼女を弄りすぎた事を自覚するが……もう手遅れのようだ。
自分達をジト目のまま睨むシエルを見て、2人は引き攣った笑みを浮かべながら。
『―――ごめんなさい!!』
謝ると同時に、席を立ち部屋から逃げ出した。
「待ちなさい! ナナさんまで一緒になって私をからかって………!」
「わー、ごめんってばシエルちゃーーーーん!!」
すぐさま2人を追い掛けるシエル、部屋の鍵は開いたままだが今の3人は気づかない。
「でもさー、シエルお姉ちゃんやっぱり好きな人居るんでしょー?」
「……ローザさん、お灸を据えてあげます!!」
(あ、ちょっと調子に乗りすぎたかも)
すれ違う者達がなんだなんだと視線を向けている事にも気づかず、3人は暫し極東支部内を走り回る。
そして、後にカズキとジュリウスによって揃って怒られる事になるのだが……それはまた別の話。
「それでシエルちゃん、質問の答えは……」
「ノ、ノーコメントです!! そういうナナさんはどうなんですか!?」
「えっ………ひ、秘密」
《3人寄れば……》おしまい。
To.Be.Continued...
さて……平和はここまでです。
次回からはいよいよあのイベントを開始していきます。