仲間達に見守られ支えられ、フィアの心は変わっていく。
そして仲間達もまた、そんなフィアに支えられ見守られ変わっていく。
生きていくのが辛い世界であっても、彼等は決して悲観しない。
……たとえその先に、何が待っていたとしても。
―――アナグラ、ラウンジ内
「――みんな、久しぶり!」
「あれ、ユノさん!?」
「ユノさんだーっ!!」
ジュリウスを除くブラッドのメンバーで談笑を楽しんでいた所、突如としてユノが現れ全員が驚きを見せた。
しかしすぐさま嬉しそうに笑みを浮かべ、ユノを受け入れるブラッド達。
「どうしたんですか?」
「暫く極東支部周辺でライブを行う事になったから、こっちに来たの」
「って事は……暫くはここに居るって事ですか!?」
そう問いかけるロミオ、その表情は期待と喜びに満ち溢れていた事は言うまでもない。
いつも通りの彼にブラッド達は苦笑を浮かべ、ユノもまた苦笑を見せる。
「……フィア、久しぶりだね?」
「うん、久しぶりユノ」
「……………」
「? どうかしたの?」
少し驚いたように自分を見るユノに、フィアは首を傾げつつ問いかける。
「あ、ううん、ただ……なんだかフィア、ちょっと変わった?」
「えっ?」
「とても良い方に変わったように見えるんだ、何か……良い事でもあった?」
「…………かも、ね」
そう言って、フィアは穏やかな笑みをユノに見せた。
……前とは違う、どこか陰りを見せるようなものではない、歳相応の純粋で……優しい笑みだ。
彼の良き変化を察し、ユノは自分のように喜び華のような笑みを浮かべた。
と、ユノは急に周りをキョロキョロと見回し始める。
どうやら誰かを捜しているようだが……。
「……隊長なら、今はフライアに行ってますよ?」
「えっ? あ……そう、なの」
ナナに言われ、ユノは僅かにトーンの落ちた声で反応を示す。
その態度は明らかに落胆の色を覗かせており……それに気づいたナナが、口元にニヤリという厭らしい笑みを浮かべた。
「ユノさーん? 隊長に会えなくて残念なんですかー?」
「えっ……そ、そういうわけじゃ……」
「でもでも、明らかに残念そうでしたよねー? シエルちゃんもそう思わなかった?」
「えっと……た、確かにそう見えましたけど……」
「ち、違うってば。別に久しぶりに声だけじゃなくてちゃんと顔が見えるとか、元気にしてるかなーとか、会ったら何を話そうかなーとか、そんな事考えてないから!」
『……………』
誰もそこまで言っていないのに、ユノは勝手に自爆していく。
その後も勝手に自爆をしていくユノであったが、空気を読んだブラッド達は無粋なツッコミをしようとはしない。
「……男はやっぱ、顔なのかなあ?」
一方、ユノの姿を見て悔しそうにショックを受けるロミオの姿があったが、そちらにもツッコミは入らなかった。
ツッコミを入れるだけ無駄だからである、時間は有限なのだ。
「――ユノ、来ていたのか」
「あ……ジュリウス……」
噂をすればなんとやら、ブラッド達の前にジュリウスが現れた。
突然の登場にユノはビクッと身体を震わせ、頬を紅潮させていく。
しかし……彼の隣に立つマリーを見て、ユノはその表情を怪訝なものに変えていった。
「………彼女は?」
「ああ、そういえばユノは初めて会うな。彼女はマリー・ドレイク、有人型神機兵のテストパイロットだ。
マリー、彼女は葦原ユノ。名前は知っているだろう?」
「知っている。……マリーだ、よろしく」
「え、ええ………」
右手を差し出されたので、少し躊躇いつつもマリーと握手を交わすユノ。
だが彼女の心中は決して穏やかなものではなく、モヤモヤとしたものが広がっていた。
「……シエルちゃん、もしかしてこれ……修羅場かな?」
「修羅場……?」
「ユノさん、隊長とマリーちゃんの関係をどこか勘違いしてるね。ヤキモチ妬いちゃってる」
「ヤキモチ……つまり、嫉妬?」
「そーそー、シエルちゃんがよくやってるやつ」
「は? いえ、私はそんな嫉妬なんて……」
そんなやり取りを小声で繰り広げるナナとシエル。
場が緩やかな空気に包まれていくが……ジュリウスの一声で、瞬時に変化を遂げた。
「ちょうどいい。お前達に伝えたい事があったんだ」
「なに? ジュリウス」
「――約一週間後、今までにない大規模な“赤い雨”が降る可能性が出てきた」
「赤い雨……」
ジュリウスの言葉を聞き、全員が表情を引き締める。
赤い雨――黒蛛病の原因となる死の雨が降る、それを聞けば自然と表情も変わるのは当然だ。
それも、今までにない規模のものが降ると言われれば尚更である。
「俺達フライアも極東支部と連携してサテライト拠点を守る任に就く事になる、無論……神機兵もだ」
「じゃあ、マリーも?」
「……………」
「? マリー、どうしたんだよ?」
マリーの表情が険しい、その顔には明らかな怒りと不満が溢れ出しており、全員が首を傾げる。
すると、ジュリウスの口から驚くべき事が告げられた。
「実はな……今回のその作戦で、有人型の神機兵は導入されないそうなんだ」
「えっ、なんで?」
「神機兵の実績が明確に挙げられていない点で、本部から疑問視する声が多くなっているらしい。
なので今回無人型の神機兵を導入して結果を出さなければ、最悪の場合計画自体が凍結される恐れがあるそうだ」
それだけではなく、人間を用いらなければならない有人型は本部にあまり受け入れられていない。
なので今回の作戦では、無人型の神機兵のみを導入する意向に変わったらしい。
ジュリウスの説明を受け、全員がマリーの不満を理解する。
「……マリー」
「―――仕方が無い事だ、わたしが不満を抱いた所で何かが変わるわけではないし。そうやって気を遣われる方が困る」
そう言い放ち、マリーはラウンジを足早に去っていく。
……仕方がない、彼女はそう言ったがやはり納得はしていないのだろう。
しかし誰もが彼女に対して何か言える事もなく、黙って見送る事しかできなかった。
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「――けどさ、マリーのヤツ……やっぱ納得してないだろうなあ」
「しょうがないよ。資金が無ければ研究を続ける事はできないし、有人型は疎遠されているんだから」
ラウンジで解散し、フィアはロミオと共にアラガミ討伐へと赴いていた。
アラガミの死骸はコアを抜き取っている為既に無く、後は回収班を待つだけとなり……ロミオが思い出したかのように、先程の話題を口にし出した。
「そうだけどさ、あいつだって頑張ってるのに……」
「……………」
まるで自分の事のように、ロミオは悔しそうにしている。
それを見て、フィアは自分が思った事を口にしたのだが……それはロミオにとって驚愕するものであった。
「……ロミオって、マリーのこと大事なんだね」
「はあっ!?」
おもわず裏声が出てしまうほどに、ロミオにとって今のフィアの言葉は衝撃であった。
当たり前だ、いきなりそんな事を言われてしまえば誰だって驚く。
「な、ななななな何言ってんだよ!!」
羞恥から顔を赤らめながら声を荒げるロミオ。
「だって、まるで自分の事のように不満を口にしてるよ?
マリーが可哀想だって、心配だって言っているように聞こえる」
「そ、それと大事とは別問題だろ!?」
「どうして? ロミオはマリーが大事だから今回の事で怒ってるんでしょ?」
「べ、別にそんなんじゃねーし! だ、大体オレはマリーみたいなガサツな女はタイプじゃないんだ!!
もっとこう……清楚で御しとやかな女の子が好きなんだっての!!」
「じゃあ、ロミオはマリーの事が嫌い?」
「そ、そうは言ってないだろ!!」
両極端なフィアに、ロミオは慌てるばかり。
……フィアとしては純粋にマリーを想っているロミオは凄いと思っているのだが、思春期なロミオは別の意味で捉えてしまっているようだ。
まあ尤も、あんな問いかけをされれば年頃の少年なら別の意味で考えるのが自然なのだが。
「嫌いってわけじゃないさ、口は悪いし煩いけど……いつも正論言ってるし、なんだかんだでオレの事心配してくれるし………って、何でお前にそんな事を言わなきゃいけないんだよ!?」
(自分が言い出したのに………)
「あーくそ……まさかお前にからかわれるとは思わなかった……」
「からかう?」
どういう事なのだろう、自分はロミオをからかったつもりなど毛頭ない。
そう言わんばかりの表情を見せられ、ようやくロミオは冷静になり彼の問いかけに変な含みなど無い事を悟る。
そうだ、彼はそういった話題にはとことん疎いのだ、それなのに慌てたのが恥ずかしい……そう思ったロミオは、別の意味で顔を赤らめた。
「けど、よかった」
「………?」
「マリーがみんなと仲良くなれてよかった、何だか壁があったから……」
「フィア……」
「やっぱり、みんな仲良くが一番良いよね?」
だから良かったと、フィアは嘘偽りのない純真な笑みを浮かべそう告げる。
その笑顔を見て、自然とロミオにも笑みが浮かび……ふと、空を見上げた。
雲1つ無い快晴、それを見ているだけでくだらない自分の悩みなど消えていくようで。
「………オレさ、ずっとお前に……お前らに嫉妬っていうか…劣等感を抱いていたんだ」
ロミオは、自らの弱さをフィアに告白した。
「えっ?」
「フィアはオレより後に入ってきたのに、すぐに隊長であるジュリウスと肩を並べて……副隊長になった。
ギルやシエルは豊富な知識と経験で、いつもみんなを助けてた。
ナナはどんな時でも明るくて、失敗にも気にせずにいつも前を向く強さがある。
――それを見せられてオレは思ったんだ、“オレには何も無い”って」
知識も経験も度胸も、自分には無いと思い知らされた。
でもそれを認めたくなくて目を逸らして……その結果、差は開くばかりで。
焦った頃には全てが遅過ぎた、自分以外のみんなはブラッドとして『血の力』に目覚め……彼は1人、取り残された。
「みんなの真似事をしたけど全然駄目で、ますます自分が何もできない役立たずだって思い知った。
ブラッドなのに『血の力』にも目覚めず、神機使いとしても中途半端……オレ、このままじゃ誰にも必要とされなくなるって、恐くなったんだ」
「そんな事ない、ロミオは僕達の大切な仲間だ。僕だけじゃなくてみんなだって心からそう思ってる」
誰一人欠けてはならないのだ、だからこそフィアは必死で仲間を守ろうとする。
皆が大切だから、失いたくないからと、皆が皆を守ろうと戦ってきたのだから。
「………そうなんだよ。あの時のオレは“それ”すらわからなかったんだ。
みんなはオレをブラッドとして認めてくれている、仲間だって心から信じてくれている。それに気づけなくて自分で自分を追い込んで……オレ、カッコワリーよなあ」
はははと、おどけるように笑うロミオ。
今でも思い出すだけでも情けなくて恥ずかしくなる、勝手に自分自身に失望して、仲間に迷惑を掛けた。
……だけど、今は違う。
「オレはみんなとは違う、だからこそ……オレはオレにしかできない事を探さなくちゃいけないんだ。
他人の真似じゃなくて、自分にしかできない事を。そう考えられるようになったらさ、なんだか気持ちが楽になったんだ」
自分にしかできない事――それが一体何なのか、残念ながら答えはまだ見つかっていない。
だがロミオの心は軽くなり、そして同時に……強くなった。
「ありがとなフィア。オレを仲間だと思ってくれて、守ってくれてありがとう。
今度はオレがお前を守れるように頑張るからさ、これからも……宜しくな?」
ニカッと笑みを見せながら、ロミオはフィアに向かって右手を差し出す。
フィアもまた笑みを見せながら右手を出し、ロミオと握手を交わした。
「おっ、ヘリが来たみたいだな」
「お腹空いたな……ロミオ、帰ったら何か食べない?」
「おおいいぞ。けど……驕りは無しだからな?」
「こういう時は、先輩が後輩に驕るべきじゃないの?」
「無理だって、ただでさえ前に迷惑掛けたお詫びとしてナナに根こそぎ吸い取られたんだからさ……。
ってか、こういう時だけオレを先輩扱いするなって!!」
「あははっ」
――心が、豊かになっていく
それは新たな変化、フィア自身も気づかぬほどに小さく……けれど、とても大切な変化。
あらゆるものを踏み躙り、あらゆるものを見捨ててきたと、彼は変わらず自分を責める。
だが、仲間達との出会いと触れ合いが、少しずつ彼の心を癒していた。
自らの命すら他者を守る道具にする彼に、“生”を謳歌する選択を与えてくれている。
仲間達が彼を支えている限り、彼はきっと変わっていけるだろう。
――尤も、それは
――彼の大切なものを奪おうとする、悪魔が居なければの話だが
「――あのさあ、人間達が一箇所に集まってるんだけど?」
「……急に現れては、驚いてしまいます」
「よく言うよ。人間じゃないくせに人間みたいな反応をするなんておかしな女だね」
ラケルの研究室。
この部屋の主であるラケルしか居ない部屋に、突如として現れる悪魔。
決して人間とは相容れない存在であるソレをしかし、ラケルはいつもと変わらぬ笑みで迎え入れていた。
「話を戻すけど、なんで人間達は一箇所に集まろうとしてんの?」
「一週間後に“赤い雨”が降る事を感知したからですよ」
「あー………チッ、人間の癖にアレがいつ降るのか予測できるようになったのかあ……これじゃあ迂闊に手が出せないなあ」
憎々しげに言い放つ悪魔にも、ラケルは笑みを浮かべ続ける。
だがその笑みはいつも以上に儚く……張り付いた不気味な笑みであった。
「――――なーんてね」
「………?」
「一週間の猶予があるから大丈夫だって思ってるだろうなあ人間達は、愚かだねえ……そんなの、根拠のない安心だっていうのに」
「それは……どういう意味でしょうか?」
「秘密だよ♪ ところでさ、あのオモチャに“細工”はしたの?」
「ええ。クジョウ博士――彼には特製の生体制御装置を渡しましたから」
「よろしいよろしい。さて、と……じゃあちょっと早いけど、始めるとしますか」
まるで童女のような純粋な笑みを浮かべ、悪魔は動き出す。
全ては己が欲望のため、他者の絶望を糧とする悪魔に慈悲などない。
だからこそ何だってやれるのだ、この悪魔は人間にとって全ての悪なのだから。
「くどいようですが、ジュリウスとフィアだけは……壊さないであげてくださいね?」
「はいはいわかってますって。まあ尤も……ワタシしか約束できないけど」
「???」
「なんでもない。じゃあ……そっちはそっちで、絶望の種を撒き散らしなよ♪」
悪魔が消える、残されたラケルは暫し虚空を見つめながら。
「―――絶望ではありませんよ。全ては……この星の為なのですから」
ラケルではない誰かの声で、謳うように悪魔へと返事を返した―――
To.Be.Continued...
次回はあのイベント開始になります。
かなりオリジナルが強くなると思いますが、ご了承してくださると嬉しいです。