フィアの命懸けの戦いによって、アンノウンは去りブラッド達は誰も死なずに窮地を脱する事ができた。
しかし赤い雨を受けフィアの身体は変調を来し……。
静かに、けれど確実に破滅への道を歩んでしまっていた………。
「――グレム局長、どういう事ですか!!」
フライアのグレム局長の局長室にジュリウスの怒声が響く。
表情もその怒声と同じく怒りに満ち溢れており、彼だけでなく後ろのブラッド隊も同様の表情を見せていた。
一方、ジュリウスの怒気を受けてもグレムの顔は変わらず、しれっと返答を返す。
「これは決定した事だ、覆すと思っているのか?」
「しかしそれはあまりにも早計です。
――
「馬鹿な事を言うな。アレが生きているというのか?」
言いながら、グレムはモニターを開く。
そこに映されたのは……周りの対アラガミ装甲で囲まれた部屋で拘束されている、フィアであった。
いや、もはやそれはフィア・エグフィードではなく――まさしくアラガミそのものだ。
目は血走り、肉体は人間のそれではなく醜く肥大化しており、荒い息を繰り返している。
拘束されている特別製の鎖をガチャガチャと鳴らし、今にも引き千切って暴れ出してしまいそうだ。
「化物になったアレを見て、まだ処分するなというのか?」
「彼は人間です。我々と同じブラッドの仲間です!!」
「フン、化物を人間だとほざくのか?」
「っ」
「いいか? これ以上アレを拘束するのにも金が掛かる。
役に立たんものをこれ以上このフライアに置いていく道理はない、そればかりか化け物として人を襲う可能性があるアレをどうして生かしておこうと思うのだ?」
「しかし………!」
「ジュリウス」
尚も食い下がろうとするジュリウスだったが、ラケルの無機質な声が彼の声を遮る。
おもわずラケルを睨むジュリウス、しかし彼女は気にした様子もなく変わらぬ口調で言葉を続けた。
「フィアはもう完全にアラガミ化を果たしているわ、そしてアラガミ化を果たした人間を元に戻す方法はない。
――ならどうするべきなのか、貴方ならわかるわね?」
「……介錯をしろと?」
「当然だ。アラガミは神機で対応するのは当然だろう?
……それにしても、あの小僧は最期まで俺の手を煩わせたな」
忌々しげに呟くグレム。
そこにはフィアに対する確かな憎しみの感情を感じられた。
「聞けばあのガキ、あのグリード・エグフィードの息子だそうだな? 神機使いをアラガミにしてしまうような危険な神機を開発したらしいが……所詮化物の子は化物という事だったんだな、親子揃って迷惑な存在だ」
「………っ」
その暴言を聞き、ジュリウスは両の手を握り拳にする。
今の発言だけは許せない、彼は自分達を守るために……命を懸けてくれた。
だというのに何だ今の暴言は、フィアの決意と覚悟を踏み躙るような発言を到底許容できるものではない。
罰を受けても構わない、その覚悟でジュリウスは拳を振り上げようとして――その手をシエルに掴まれた。
「……………」
視線をグレムに向けたまま、けれど強い力でジュリウスの手を掴み続けるシエル。
そして同時に、彼女の手がまるで怒りを抑えるように震えていた。
……彼女も、耐えているのだ。
それがわかり、ジュリウスはそっと拳に込めている力を緩めた。
「とにかくだ。貴様等は貴様等のやるべき事をやればいい、話は以上だ」
「……………」
「聞こえなかったのか。俺は忙しいんだ、早く行け!!」
「………………失礼します」
一礼し、足早に部屋から去っていくブラッド隊。
皆無言のまま歩みを進め……庭園エリアに赴き、誰もいないのを確認して。
「―――くそったれ!!!」
開口一番、ギルの怒声が庭園エリアに響き渡った。
「おいジュリウス、このままでいいのかよ!?」
「………わかっている」
「だったら、どうしておとなしく引き下がったんだ!!」
「落ち着けよギル、あそこで下手な行動を起こしてたら余計に事態が悪化するだけだって、わかるだろ?」
「っ、お前なんかに言われなくてもわかってんだよロミオ!!」
怒り心頭のギル。
だが彼の怒りは尤もだとわかっている、皆も同じ気持ちなのだから。
……しかし、事態は思っていた以上に深刻なものになっていた。
神機兵停止事故から既に3日、日を追う毎にフィアのアラガミ化は進み続け……遂に、その危険性から介錯される事が決まってしまった。
無論そんな事を認める事などブラッド達にはできない。
が、同時にフィアの危険性を無視できないのも事実であった。
「……どうしたら、いいのかな?」
「元に戻したいけど……アラガミになった人間を、元に戻すなんてできないよな……」
アラガミ化を果たしてしまった人間は、他の神機使いによって介錯される。
そして、アラガミになった人間を元の人間に戻す方法はない、つまり……フィアを助ける方法は。
(っ、いいえ……諦めてはダメ………!)
頭に浮かんだ最悪の未来を振り払いながら、シエルは懸命に道を模索する。
諦めるわけにはいかない、彼を守り支えると誓ったのだ。
(何か方法は……人間に戻す事は不可能だとしても、せめてフィアさんの意志が戻れば……)
今の彼は怪物だ、フィア・エグフィードという人物の意志は感じられない。
だがもしも、彼の意志が戻れば人として生きる事ができるかもしれない。
(………アラガミとして、生きる道………)
何という夢物語か、そんな都合の良いものがあるわけがない………そこまで考え、シエルはようやく思い出す。
否、冷静になれば簡単に思い付く事だった。
打開策になるかはわからない、だが
「……シエルちゃん?」
「……………」
「シエル、どうした?」
「……カズキさんとアリサさんに、フィアさんの事を訊いてみようと思います」
「あの2人に?」
「そっか、カズキさんもアリサさんもアラガミになってるけど、普通に生きてるもんな!!」
希望が見えてきた、そう思いブラッド達の表情が明るいものに変わる。
とにかく訊いてみなければ始まらない、ブラッド達はすぐさま2人の元に向かおうとして。
――恐れていた事態が、起きてしまった。
「な、なんだ……!?」
突如として鳴り響く、警報を告げるアラーム。
非常事態が起きた事を意味するそれを耳に入れ、ブラッド達は立ち上がり身構える。
その中で―――シエルは、本能的に何が起きたのか気がつく事ができ。
「―――フィアさん!!!」
「あっ! シエルちゃん!?」
気がついたら、背中に響くナナの声を無視し、彼女は駆け出していた。
一直線でエレベーターへと乗り込み、ある場所へと向かう。
その場所は――フライア最下層にある、アラガミ実験室であり――現在、フィアが拘束されている部屋だ。
「…………っ」
まだ着かないのか、もどかしさと苛立ちが彼女を襲う。
やがて電子音が響き、エレベーターが開く。
開ききる前にシエルは外へと飛び出して。
――彼女の目の前に、悪魔が君臨していた
「………フィア、さん」
震える声でシエルは悪魔――フィアの名を呼ぶ。
その呟きが耳に入ったのか、フィアはゆっくりと彼女の方へと向き直り……口元に、歪んだ笑みを浮かべる。
「っ、く………っ!!!」
その笑みで全身が震え上がったシエルは、咄嗟に横に跳んだ。
刹那、先程まで彼女が居た場所に火球が通り過ぎ、エレベーターが爆音と共に破壊される。
「しまった………!?」
これではジュリウス達がここに来れない、自分の迂闊な行動を悔いるシエル。
だが彼女にそんな時間など与えないとばかりに、フィアは唸り声を上げながらシエルに襲い掛かった。
「グアアアアアッ!!!」
「きゃあっ!?」
振り下ろされる右腕、それはもはや人の腕ではなくアラガミ――ハンニバルの腕へと化していた。
そこから繰り出された剛力は容易く彼女の身体を叩き潰す破壊力を秘めている。
迫る死の恐怖を感知し、シエルは無我夢中でその攻撃から回避。
ゴロゴロと転がりながらフィアの背後へと移動し、起き上がり戦慄した。
(な、なんて破壊力……)
フィアの右腕周囲の地面が、大きく陥没している。
このエリアは全て対アラガミ装甲で造られているというのに、軽々と破壊してしまっていた。
「ウゥゥゥゥゥゥ………」
「フィアさん……」
わかっている。
今自分の目の前に居るのは、フィア・エグフィードではなく……アラガミだ。
故に倒さねばならない、ゴッドイーターとして…倒さねばならない敵でしかない。
わかっているのだ、でも――それでも。
「フィアさん、お願いです……もう、やめてください!!」
それでも、シエルにはフィアを討つ事などできなかった。
頭では理解している、だが心が……彼女の心が、決してそれを認めない。
守ると誓った、支えると誓ったのだ。
二度感応現象で彼の過去を見た以上、幸せを知るまで死なせたくないと思った。
その誓いは破れない、破りたくない。
命を何度も救ってくれた、だから今度は――
(私が救います、何があっても……私だけは、貴方を否定する事も見捨てる事もしない!!)
新たな誓いを胸に抱き、シエルは再びフィアと対峙する。
……とはいえ、状況は彼女にとって最悪だと言わざるおえない。
相手の力量は自分より上、更に彼女は初歩的なミスを犯している。
アラガミとなった彼を止めるには力づく以外の方法はない、だというのにその方法を行使するのに必要不可欠な神機を持ってきていないのだ。
いくら慌てていたからといっても、このミスは普段の彼女からすればありえない。
「ガアゥッ!!」
「っ」
フィアが吼える、それと同時にゴキゴキという骨が軋む音が周囲に響き…彼の左腕が変貌する。
その腕はまさしくガルムのガントレットと呼ばれる腕と化し、フィアを中心に高熱が漂い始めた。
「―――ジャ!!」
「っ、ぐう………!?」
横に回避、自身の全力を以ってシエルは見事フィアの左腕による一撃を避ける事に成功――
――したかに思えたが、掠っただけで彼女の脇腹が黒く焦げ激痛が走った。
再びゴロゴロと転がりやがて壁に叩きつけられるシエル、起き上がろうとするが脇腹に走る熱と痛みが彼女の動きを止めてしまう。
「あぐ………!」
「……………」
起き上がれないシエルに、ゆっくりと近づいていくフィア。
逃げなければ、そう思うシエルだがその動きは遅く逃げられるものではなく。
そして――シエルの眼前までフィアが迫り、そのまま右腕を振り上げる光景、が。
(………フィアさん)
もう、逃げられない。
このまま振り上げた右腕で、自分はバラバラにされるだろう。
それに対しての恐怖はシエルにはなく――あるのは、フィアに対する申し訳ないという気持ちだけ。
(守れなかった………)
過去に二度、シエルはフィアの過去を見ている。
詳しい事情はわからない、けれど彼が地獄の中で生きていた事だけはわかっている。
だからこそ守りたかった、幸せにしてあげたかった。
自分の事を二の次にして誰かを守ろうとする彼を、支えてあげたかったのに……。
己の弱さを悔やみ、そして助けられなかったフィアに謝罪しながら、シエルはそっと目を閉じる。
――だが、いつまで経っても痛みが訪れる事はなかった。
「………?」
不審に思い、目を開けるシエル。
すると、フィアは何故か振り上げていた右腕を下ろしており、ただじっとシエルを見つめていた。
「フィア、さん……?」
「……………」
フィアは答えない、血走った瞳のままただシエルを見つめ続ける。
……どれくらい、そうしていたのか。
「えっ………」
シエルの方に、フィアの右手が触れた。
攻撃のためではない、まるで慈しむかのような優しさで触れている。
一体どうしたのか、身体の緊張が解けないままのシエルに。
「―――助ケテ、アゲテ」
フィアの口から、フィアではない声が、放たれた。
「えっ……?」
「ググ―――アアアァァァァァァァァァッ!!!」
「フィアさん!?」
突如として苦しげな声を上げ、近くの壁を破壊し始めるフィア。
轟音が暫し響き、壁に大穴を開けたフィアは、そのまま飛び込むように外へと逃げ出してしまう。
「……………」
何故、彼は自分を殺さなかったのだろう。
殺さない理由など無いし、現に彼はつい今ほどまで自分を殺し捕喰しようとしていた筈。
では何故?考えるが当然ながら答えが出るはずも無く。
「っ、ぁ………」
ここに来て、極度の緊張から解かれた疲労と死の恐怖が、彼女の身体から急速に力を奪っていき。
ジュリウス達がここに到着するまで、シエルはその場から一歩も動く事ができなかった―――
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「――そうか。そんな事が」
「はい……」
「それで、シエルは?」
「今は医務室で治療を受けています。幸いにもダメージはそこまで酷いものではなかったようでしたから……」
ジュリウスのその言葉を聞き、カズキはほっと胸を撫で下ろす。
……だが、思っていた以上の現状の悪さに溜め息が出てしまいそうだった。
フライアで何か事件が起きた、そんな話を聞いたカズキは――ジュリウスを自室へと招き入れた。
一体何が起きたのか、詳しい話を彼から聞き……話は冒頭へと戻る。
フィアはフライアから逃げ出し行方不明、シエルは命に別状は無いものの傷を負い医務室へ。
「……グレム局長が、すぐさま討伐隊を編成しようとしていまして」
「だろうね。たとえ局長でなくてもそうするだろう、それだけの事を……彼はしてしまったのだから」
尤も、それは彼の意志ではないとカズキとてわかっている。
わかっているが、事実は事実として受け入れ認めなければいけないというのも、わかっている。
……もう、彼を救うという選択肢は選べない所まで来ているのかもしれない。
しかし、カズキには1つだけ気になった事があった。
「ねえジュリウス、フィアはシエルと一対一で対峙していたそうだけど……どうして、彼女を捕喰しなかったと思う?」
「えっ……?」
「今のフィアはまさしくアラガミそのものだ。本能に従い捕喰するだけの存在になってしまっている、だというのにシエルは捕喰せずに逃げ出した。
――何故だと思う?」
「それは……シエルがたまたま捕喰欲求から外れていたからでは?」
「確かにそれも1つの可能性として考えられる。だけど……僕は、まだフィアに人としての意志が残っていると思うんだ」
「……それは、希望的観測だと思いますが」
無論、ジュリウスとてカズキの言葉を肯定したかった。
とはいえ現実はそう甘いものではない、現にフィアはフライアを破壊し仲間であるシエルを襲ったのだから。
……しかし、確かに何故彼がシエルを捕喰しなかったのか、その点は疑問に残る。
「……僕も、かつて戦いの中で今のフィアと同じようになった事がある」
「えっ………!?」
「その時、ローザとアリサが僕を救ってくれたんだ。アラガミという化物に成り下がっていた僕を…再び人として生きる道を与えてくれた」
だからこそ、カズキは信じたかった。
フィアはまだ人としての意志が残っていると、まだ戻れると信じたかった。
たとえそれが、都合の良い夢物語だとしても……そうあってほしいと願いたかった。
あの子は今ここで失っていい存在ではない、きっとこの先の未来で戦えぬ人々にとって希望の光になる筈だ。
何よりも――こんなにも暖かく、優しい仲間に囲まれ支えられている彼が、こんな所で終わるなど認めたくない。
「――もしもフィアの中に彼の意志がまだ残っているのなら、僕と同じように戻れる可能性があるかもしれない」
「本当ですか!?」
「もちろんこれはあくまで可能性の話だ。成功する保障なんか無いし何よりも危険すぎる方法だ。
――最悪の場合、フィアもその方法を試した子も死ぬ」
「…………っ」
一種の賭け、否、賭けにもならない方法だとカズキは言った。
そんな都合の良いものではないと、はっきりと現実を口にしながらも……彼は決してその方法を否定しようとはしなかった。
……委ねているのだ、ジュリウス達に。
仲間であるフィアを救う事は、同じブラッドである自分達がやるべき事だと告げている。
「………皆と、話をしてみます。詳しい内容はその時に」
「それがいいよ。でもこれは確実な方法なんかじゃない、あまり……強硬な事はしないでね?」
「……ええ、わかっています」
そう返してから、ジュリウスはカズキ達の自室を後にする。
その後ろ姿を見送ってから、カズキはそっと自分自身に対しため息を吐き出したのだった―――
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「――シエルちゃん、何してるの!?」
「……ナナさん」
場所は変わり、アナグラの医務室。
お見舞いにとそこへ赴いたナナが見たのは……まだ傷が癒えてないというのに、何処かへと行こうと立ち上がるシエルの姿であった。
ナナは驚き、少しだけ声に怒気を孕ませながらシエルへと駆け寄る。
尚も立ち上がろうとする彼女を強引に制し、ベッドへと寝かせるナナ。
「もう……傷が深くないとはいえ、一部の皮膚は完全に壊死してたんだよ?」
「大丈夫です。ゴッドイーターである私なら、この程度の傷すぐに治りますから」
「シエルちゃん………」
「……時間が、無いんです。このままではフィアさんが……」
「……………」
既に、極東支部と連携してフィアを討伐しようとする作戦は進められている。
もちろんジュリウスやブラッド隊の面々は反対した、しかし彼は既に明確な敵意を持ってフライアを破壊したのだ。
グレムに一蹴され、ラケルやレアにまで制されてしまえば、引き下がる事しかできなかった。
……八方塞がりだ、フィアを戻す方法が見つからない、時間も無い。
このままただ黙って彼を討つしかないのか……?
(っ、そんなのダメだよ………!)
失いたくない、討ちたくなどない。
フィアは自分達にとって大切な仲間で……放っておけない存在だ。
自分よりもずっとずっと強いけど、傍に居て支えてあげないと危うい面があるフィアを討つ事など、ナナは死んだってできるわけがない。
だって、そんなの………。
「――大丈夫ですか?」
「あ……アリサさん」
医務室に現れるアリサに、ナナは涙で滲みかけていた瞳を慌てて拭う。
「……アリサさん、フィアさんを助ける方法…なにかありませんか?」
「……………」
「失うわけにはいかないんです、フィアさんは……生きなきゃいけないんです。
だけどこのままでは彼はアラガミとして討たれてしまう、だからアリサさん……フィアさんを助ける方法があれば……」
「落ち着いてください、お願いします」
荒い息をしながら身を乗り出そうとするシエルを、落ち着いた口調で宥めるアリサ。
まずは平静にさせなければ、今の彼女は冷静な面を完全に失っている。
「――失礼します」
「っ、ジュリウス……皆さん!!」
医務室に入ってくるジュリウスとギル、そしてロミオ。
……3人の表情が、決意を決めた者の顔になっている事に気づき、アリサは静かに3人へと視線を向けた。
「……アリサさん、カズキさんから聞いたのですが」
「フィアさんの意志を呼び戻す、アラガミでありながら人として生きる為の方法を……カズキから聞いたんですか?」
「っ、それは本当ですか!?」
「方法まではまだ、この方法はあまりにも可能性が低く……最悪の場合、フィアだけでなく俺達の命も失われると聞いたので、まずは全員と話をしようと思ったんです」
「そうですか……」
「ジュリウス、フィアさんを……フィアさんを助ける方法があるんですか!?」
「シエルちゃん、落ち着いて!」
「お願いです、その方法を……早く!!」
無理矢理起き上がり、ジュリウスに詰め寄るシエル。
そのあまりにも必死な姿にジュリウス達は驚き、普段の彼女の面影は微塵も感じられなかった。
瞳からはポロポロと涙を流し、まるで親に縋る子供のように小さく映っている。
「フィアさんは生きなければならないんです、あんな地獄の世界で生きたあの人を幸せにできないまま死なせるなんて……」
「シエル………」
「お願いです。どうか……どうかフィアさんを助ける方法があるなら……」
「――シエルさん、落ち着いてください」
少し強めにシエルをジュリウスから引き剥がし、あやすように彼女を抱きしめつつ頭を撫でるアリサ。
興奮しているのか暫しアリサの腕の中で暴れていたシエルであったが…やがて冷静さを取り戻したのか、おとなしくなる。
「シエルさん、お気持ちはわかります。でも……ここで貴女が平静さを失って焦ってばかりでは前へ進めません。フィアさんを助けたいのなら、自身を見失う事はあってはなりません」
「…………アリサ、さん」
「そうだよシエルちゃん、一旦落ち着こう?」
「そうだシエル、ナナやアリサさんの言う通り落ち着くんだ」
「………………」
大きく深呼吸を数回繰り返すシエル。
そうだ、今は一度落ち着かなければ、焦りを見せた所で何が変わるというのか。
落ち着け、冷静になれと、何度も何度もシエルは己に言い聞かせ続ける。
「……すみません、もう大丈夫です」
そしてようやくいつもの調子に戻り、自分の力でシエルは立ち上がった。
「それで、フィアさんを戻せる可能性がある方法とは、一体何なのですか?」
「いや、先程も言ったがこの方法はフィアだけでなく俺達の命すら失ってしまう危険性があるらしい。だからみんなに――」
「――訊く必要なんかありません。私はフィアさんを助けるためならなんだってする覚悟ならとうの昔に抱いていますから」
強い口調、強い意志を込めてシエルは言い放つ。
……本気だと、ジュリウスは彼女を見て瞬時に理解し。
「――俺もシエルと同じだぜジュリウス、わざわざ確認なんかとる必要はねえ」
「そうだぜジュリウス、フィアはオレ達の大切な仲間で…助けたいって心から思ってるんだ!!」
「だからジュリウス、カズキさんに詳しい方法を訊きに行こう?」
ギル、ロミオ、ナナもまた、シエルと同じ覚悟を抱いていた。
誰の瞳にも迷いは無く、たとえ何があってもフィアを助けるという気概に溢れていた。
……どうやら愚問だったようだと、ジュリウスは苦笑する。
(……フィアさん、貴方は素晴らしい仲間に囲まれていますよ)
皆の強く美しい決意を見て、アリサは微笑み心の中でフィアへとそう告げる。
これは是が非でも戻ってきてもらわねばならない、こんなにも暖かい仲間に囲まれているのだから。
「では、カズキの所に行きましょうか?」
「そうですね、では―――」
「っ、ちょっと待ってください!!!」
「アリサさん……?」
突然大声を張り上げるアリサに、ブラッド達は怪訝な表情を浮かべる。
一方――アリサは己の内側に突如として発生した警鐘に驚きつつ、その正体を探ろうと瞳を閉じた。
アラガミとしての自分を外側へと押しやるアリサ、それが意味するものは――つまり。
(強い力……けどアンノウンじゃない。この感じは……)
何か、強大な力を持ったアラガミが真っ直ぐこの極東へと向かってきている。
アリサの中にあるアラガミがそれを訴えかけており、けれどこの力は………。
「―――フィア、さん?」
To.Be.continued...
投稿がなかなか進まずすみません。
なんだか難産です……楽しめるでしょうか?
さて次回は……いつ頃できるかなあ。
暫くはブラッド達にスポットライトが浴びるので他のキャラクターの出番はかなり少なくなりますが、ご了承ください。