そこで彼女達は、彼の過去と……おぞましい光景を、目にする事になる。
「―――――」
「―――――、え」
シエルもナナも、“それ”を見て思考が一瞬で凍りついた。
目を限界まで見開き、次に息をするのも忘れ……ただただ、目の前に広がる地獄を見つめ続ける。
……コレは、一体何だ?
2人が踏み入れた場所は、先程と同じ冷たい石造りの部屋。
高さは二メートル程しかなく、横幅も五メートルもない小さな部屋だ。
その中で――十数人にも及ぶ子供達が、全員蹲っていれば思考が凍りつくのは当然と言えた。
「……何、これ……?」
「………………」
異常な光景に、ナナはガチガチと歯を鳴らし全身を震え上がらせている。
一方、シエルは過去二度の感応現象である程度の耐性が付いているのか、ギュッと握り拳を作り目の前の地獄に真っ向から立ち向かおうとしていた。
(先に、進まなければ………)
まだ入口に立ったに過ぎない、こんな所で立ち止まっては…フィアを救う事などできないのだから。
「……ナナさん、大丈夫ですか?」
「……………」
「ナナさん、しっかりしてください」
「ぁ……シエル、ちゃん」
「行きましょう。前に進まなければ………」
「………うん」
頷きを返すものの、ナナの心は既に奥に進む事を拒否していた。
これ以上進めば間違いなく心が死ぬ、それがわかっていてどうして進めるというのか。
断片を見ただけでこれだ、これ以上進めば今よりも酷くおぞましい地獄が広がっている。
……そうだ、進めば死ぬ、それがわかっているのに。
「――逃げるわけには、いかないよね。シエルちゃん」
「はい。その通りですナナさん」
シエルもナナも、自らの意思で一歩前へと進み――奥へと向かっていく。
「……………」
「……………」
聞こえてくる。
殺してと懇願する声、死にたくないと願う声。
生きたい者と死にたい者という矛盾する願いを抱いた者達が、この狭い世界の中で充満している。
全員目は虚ろ、これではただ呼吸を繰り返しているだけで生きているとは言えないではないか。
人間らしい感情など見られず、ただひたすらに呪詛のように繰り返す懇願の声が、シエルとナナの耳に入り込んでいく。
……おぞましい、などという表現は間違いだ。
ここは地獄などではない、人間では到底表現できるものではない世界だ。
「―――――っっっ」
「ぁ、―――っ」
歯を食いしばり、互いの手を痛いくらい握り締めながら、2人はそれに耐えていく。
……同情なんかしない。
この光景は過去のもの、救う事など……できないのだから。
そう必死に言い聞かせながら、2人は鉛のように重くなった足を一歩ずつ進めていき――部屋の一番奥まで、踏み入れた。
「………フィア?」
(この光景は………)
部屋の一番奥、そこに居たのは……少年少女。
少年は他の子供達と変わらず、瞳に光を失ったまま蹲っているが。
その少年を守るように抱きしめている少女は、この世界で生きる者とは思えない程の強い意志を持って生きていた。
――この光景を、シエルは見た事がある。
少年の方はナナの呟き通りフィアだろう、幼いが間違いなく彼の面影がある。
対する少女の方は当然面識はない、が……突如として、この少女が何者であるのか2人は理解した。
「この子……“マリア”って名前なんだ」
「……フィアさんと同じくグリードの実験台にされている、当時の彼にとって全てと呼べる子ですね」
知らない記憶が、2人の中に流れ込んでいく。
それはフィアの記憶、感応現象により彼の過去を体験している2人は、その副産物として彼の記憶を得ているのだ。
そしてこの少女――マリアがフィアにとってどれだけ大切なのかも、2人は理解する。
マリアは他の子供達とは違い、絶望しかないこの世界でも決して自らの境遇を嘆く事無く生きていた。
いつか必ずここから抜け出し、生き延びてみせると誓うその姿は、この世界にとっての光に等しい。
彼女は強かった、そして美しく尊かった。
だからフィアはこの世界の中でも生きている事ができた、彼女が隣で自分を支えているからこそ……完全に壊れることはなかったのだ。
「――フィア、絶対に生き延びようね?」
「うん………」
2人は今日も互いを励ましあい、支え合いながら生きている。
無駄な足掻きだったとしても、それでも2人にとってはこの上ない希望へと繋がっていた。
「ねえフィア、ここから抜け出したら……何がしたい?」
「……マリアを守る。そしてみんなも守る」
「ふふっ、前に約束してくれた事……覚えていてくれたんだ」
嬉しそうに微笑み、マリアは優しくフィアの頭を撫でた。
……彼女は結局最期まで気づかなかった、その誓いが如何に破綻しているのかを。
「……フィア、もしかして」
「ええ……フィアさんはこの時に誓ってしまったんです。自分の命全てを懸けても……名も知らぬ誰かを守ると」
愚かな誓い、破綻している願いだ。
だが、この世界の中では誰もが狂ってしまっている。
その中でこのような誓いを建ててしまう事は、仕方ないのかもしれない。
――そして、2人は見てしまう。
「―――フィア、来なさい」
「――――っ」
2人の心を支える希望がどれだけ小さく、儚いものなのかを。
「え―――」
「っ」
身構えるシエル、すぐさま後ろに振り返ると……入口の前に、初老の男性が立っていた。
所々が赤く薄汚れた白衣に身を包んでいるその男は――この世界を作り上げた狂った王。
……グリード・エグフィードだと、2人はすぐさま理解した。
「フィア、来るんだ」
「……………」
(……私達の事は、見えていないようですね)
自分の目の前に立っているというのに、グリードの視線は2人に向けられる事はなかった。
フィアの過去を追体験しているからだろう、シエルとナナの2人を認識できる存在はこの世界には居なかった。
「どうしたフィア、来なさい」
「ぅ、あ………」
この場にはあまりに似つかわしくない、優しい声でグリードはフィアを呼ぶ。
他の子供達はグリードの姿を見て脅え竦んでおり、如何にこの男が子供達にとって恐怖の対象かが否が応でも理解できた。
「――今日は、もう休ませてくれませんか?」
「……………」
その中でも、マリアはフィアを庇うように立ち上がり、グリードに進言した。
……グリードの冷たい瞳が、マリアを射抜く。
それのなんと恐ろしい事か、まるで視線だけで人を殺せる程に冷たく無機質な色を宿していた。
「――お願い、します」
それでもマリアは一歩も退かず、グリードに再び進言した。
……静寂が、場を支配する。
1分か、10分か、どれだけの時間が流れただろう。
グリードは無言を貫き、暫くマリアを見つめていたが。
「――フィア、来ないのなら次はそいつの番にするよ?」
背筋が凍るような優しい声で、グリードはフィアにそう言った。
「っ、わ、わかった! 行くから……ちゃんと行くから!!」
「……良い子だ」
にこりと微笑むグリード、その姿はまさしく悪魔の微笑そのものだった。
「フィア………!」
「………大丈夫。大丈夫だから」
安心させるようにマリアに言って、フィアは立ち上がりゆっくりとグリードの元へと歩んでいく。
――瞬間、景色が変わった。
「な、なに………!?」
「これは………」
一瞬だけ視界にノイズが走り、それが収まった時には――2人は先程とは違う場所に立っていた。
次に2人が立っていた場所は、ゴッドイーターの適合試験を行う際に通される周囲が対アラガミ装甲に覆われた広めの部屋であった。
ただその部屋は――周囲に塗りたくられたかのように赤い液体が付着し、鼻が曲がるほどの異臭に包まれているが。
《さあフィア。食べなさい》
部屋全体に響く、グリードの声。
その声に不快感を抱きつつ、2人は周囲を見渡して―――見てしまった。
「―――あれ、は」
「え――――え?」
2人の視界に入ったもの、それは……フィアと、彼の目の前で蠢く“肉塊”であった。
脈打ちながら震えるように蠢くそれは、まさしく肉塊としか呼べないモノだ。
しかもそれは……今の今まで
それが今では単なる肉の塊と化し、生きているのか蠢いているその姿は見ただけで正気を失ってしまうほどに醜く、冒涜的な光景であった。
シエルもナナも、ソレが人間だったモノだと理解しても思考が追いつけず、呆然としてしまう。
だが、少しずつ思考が現実に戻っていき。
『―――きゃああああああああああああああっっっ!!!』
2人は、自分の視界に映る狂気に耐え切れず、絶叫した。
《また実験が失敗してしまってね……だがこれを食べればまたお前は強くなる。さあ――食べなさい》
「………どうして」
2人が絶叫している間にも、過去の光景は進んでいく。
食せと、目の前のモノを喰らえと命ずる父に、フィアはもう何度目になるかわからぬ問いかけをぶつけた。
「どうしてこんな事をするの!? こんな……こんなの、人間がすることじゃないよ!!!」
《……………》
「戻してよ! この子達を元に戻して!!!」
涙を流し、フィアは叫んだ。
……わかっている、こんな事をしても意味がないという事ぐらい。
何故ならもう、自分は何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――数え切れないほど、コレを喰らってきたのだから。
今回のように意識が既に無くなっているモノはまだマシであった。
「殺してくれ」、「死にたくない」、「元に戻して」と懇願する声が肉塊から放たれた時は、思考が焼き切れて狂ってしまいそうだった。
――それでも、フィアは犠牲となった者達であった存在を喰らい続けた。
だって食べないと殺されるから、自分だけじゃなく……マリアだってコレになってしまうから。
だからフィアは自らの心を殺して喰らい続けた、犠牲となった者達の命を踏み躙り見捨てて……無様に醜く生き延びている。
終わらない地獄、永遠の苦痛と悲しみに、フィアの思考は限界まで追い込まれていた。
《――食べなさい、フィア》
そんな彼にも、グリードの放つ言葉はそれだけ。
彼が狂おうがどうなろうが、グリードにとってはどうでもいいのだ。
何故なら彼がコレ――特製の神機を組み込んだ子供達であったモノを喰らえば、それだけ強くなる。
――フィアは人間でありながら、生まれつき偏食因子を取り込めるという特異な能力を持って生まれた子だ。
どうしてそんな能力を持って生まれたのかはわからない、だがグリードにとってフィアはまさしく宝そのものだった。
彼に自分の造り上げた神機を組み込んだ人間を与え続ければ、アラガミはもちろんどんな存在にも負けぬ究極の人造兵器が完成する。
そうすれば自分はこの世界の神そのものになれる、フェンリルという巨大な組織すらその手中に収める事ができる。
……実の息子ですら、己の目的の為の道具にする。それがグリード・エグフィードという人間であった。
否、この男は人間ではない。
アラガミすら超える、この世に生きる全ての生物にとっての害悪であった。
「あ、ああ―――あああああああああああああああああっ!!!!」
『―――良い子だフィア。それでいいんだ』
絶叫しながら、フィアは肉塊を貪る様に喰らっていく。
それを満足そうに見ながら、グリードは高笑いを放ち続けた………。
「―――――」
「ぁ、あ、あ………」
シエルとナナの心が、砕けていく。
目の前に広がる光景に、強がっていた心を保つ事ができない。
心が死ぬと、もう耐えられないと訴えている。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い―――!
こんなものを見て耐えろというのが無理な話だ。
人間では決して耐えられない、耐えられるわけがない。
フィアを救いたいと、守りたいという誓いすら消えていってしまう程の衝撃。
既に2人の精神は磨耗しきっており、このまま彼の世界で溶け込むように精神が消えて―――
―――ダメだよ、そんなの。
「――――――あ」
「――――――えっ」
優しく、諭すような少女の声が聞こえ。
2人の精神は、消える筈の未来を回避していた。
(今のは……?)
確かに聞こえた、自分達以外の第三者の声。
しかも何故だろうか、その声をつい先程自分達は聞いたような気が……。
「シエルちゃん!!!」
「っ」
ナナの声で、我に返る。
今の声は気になるものの、今は自分の成すべき事を果たさなければ。
己にそう言い聞かせ――シエルはナナと共に、地を蹴り肉塊を貪るフィアの元へと駆け出した。
「フィアさん!!」
「フィア!!」
「――――――」
ピタリと、フィアの動きが止まる。
瞬間、周りの景色が消え白い空間と化し……シエルとナナ、そして…先程までとは違い、2人がいつも見慣れている姿のフィアだけが残された。
「………フィアさん」
「……………」
立ち上がり、2人へと向き直るフィア。
だが顔を俯かせ、まるで2人を拒否するように視線を逸らしていた。
そのあまりに儚く弱々しい姿に、シエルもナナも掛ける言葉を一瞬見失ってしまったが……。
「――帰ろうフィア? みんなの所へ」
「そうですよフィアさん、皆さんがフィアさんの帰りを待ってくれていますから」
優しく暖かな声で、2人はフィアへと声を掛けた。
「……………」
それでもフィアは何も応えない、そればかりか…2人から逃げるように一歩後退った。
彼の拒絶の意を見せられ、2人は一瞬悲しげに眉を潜めるが、再び彼へと声を掛ける。
「大丈夫ですよフィアさん、不安になる必要なんて無いんですから」
「そうそう。それにフィアが居ないと過保護なジュリウスとギルが結構煩いんだから!」
シエルは優しく、ナナはおどけたように、フィアの心を解き解そうとする。
……けれど、フィアは俯いたまま2人と視線を合わせようとせず。
「―――帰って、お願いだから」
小さな、本当に小さな声で、そう懇願した。
「……………」
「フィア……」
「僕は、みんなを傷つけた。守ると誓ったのに……傷つけ、殺そうとした」
「……それは、そうかもしれません。でも――」
それは貴方のせいではありません、そう返すシエルであったが。
「――結果論だ、そんなものは!!!」
自らを責めるように、フィアは己の激情を2人へとぶつけてしまった。
それは初めて見る、年相応のフィアだった。
だからだろうか、このような状況だというのに…2人は嬉しかった。
いつも冷静で、少し天然で、恐いくらい達観して…色々な意味で、年相応に見えないフィア。
そんな彼が、今こうして自分達に子供らしく喚き散らしている…それが嬉しいと、2人は思ってしまった。
だってそうだろう、今の彼は己の弱さを曝け出している。
今までそんな事は一度たりとも無かったのだ、それを見せてくれて嬉しいと思うのは、当然の事であった。
「君達も見ただろう? 僕の罪を。
僕はずっと多くの罪無き人を踏み躙って見捨て続けてきた、だからせめて――生き残った僕は、戦って戦って戦い続けて……守れなかった人の分まで、今を生きている人を守って死ななければならなかった!!」
だからこそ生き続けた、許されない存在だと分かっていても自ら死を選ぶ事はできなかった。
誰かを守って死ぬ事こそ自分の存在意義だと思っているから、でも……もうそんな生き方すら望めない。
意識はあった、だがアラガミ化した自分の暴走をフィアは止める事ができなかった。
もはや自分はただ守るべき人を喰らう化物でしかない、だからもうこのまま消える以外の選択は選べない。
否、選ぶわけにはいかないのだ。
だって、そうでなければ――自分が喰らってきた者達の無念は、消えたりしない。
戦って死ぬ事ができないのなら、このまま消えるのはフィアにとって道理だった。
だから2人が感応現象を用いても自分を救おうとするなど、到底許容できるわけがない。
このまま消えていく事こそ正しい選択だと、フィアは信じて疑わない。
だが――それを2人が認める事など、あるわけがなかった。
「ダメだよフィア、そんなの私達が認めない」
「……フィアさんに罪はありません。全て貴方の父であるグリード・エグフィードが行った事ではありませんか」
「それに関わった僕だって同罪だ。――僕が喰らった者達は、最期まで僕に呪いの言葉を放ちながら死んでいったんだから」
どうしてお前が生きているんだと、責められた。
死にたくないと、懇願された。
それすらも無視して、フィアはグリードによって人間では無くなった罪なき子供達を喰らったのだ。
……それだけではない、喰らいながらもフィアは――己の捕喰欲求が満たされていた。
つまり自分はその者達に同情しながらも、己の欲求を満たしていた。
そんな存在に、どうして罪が無いと言えるのだろうか?
「もう僕は消えるべきなんだ。正真正銘の化物としてしか生きられないのなら……」
「だから、私達が感応現象でフィアの世界に来たんだよ。私達と一緒に帰ればフィアはまた――」
「たとえそうだとしても、また今回みたいな事が起きないとも限らない。元々僕は…生きていてはいけない側の存在だったんだから」
「―――――」
自分は生きていてはいけない存在。
フィアのその言葉を聞いた瞬間――シエルは気がつくと足を動かしてフィアに近づき。
――バシンッと、容赦のない平手打ちをフィアに叩きつけていた。
「……………」
「シ、シエルちゃん……?」
普段の彼女では考えられない行動に、ナナは驚いてしまう。
フィアもまた、予想していなかったシエルの行動に、思考が停止してしまう。
「――今の言葉だけは、絶対に許しません」
「……………シエル」
「生きていてはいけない? 今すぐに消えるべき?
――どうして、どうしてそんな悲しい事を平然と言えるんですか? 私…私は、フィアさんに…生きていてほしいのに」
ぽろぽろと涙を流しながら、シエルはフィアを睨みつける。
悲しみと怒りが入り混じったその視線は、フィアの心を締め付けていく。
「貴方は何も悪くない。あの時の貴方は何もできない子供だった、ただ生き残るのに必死だっただけです。
それなのに、他ならない貴方自身が自分を否定しないでください……生きる事を、放棄しないでください」
「……だけど、僕は」
「ご自分の過去が罪だというのなら――私も一緒に背負います。
たとえ一生フィアさんが自分を許せなくても、私が傍に居ます。ですから……ですからどうか、生きてください」
幸せになってほしいと、願っている。
あのような過去を持った彼には、それすら霞む程の幸せを得てほしいと思ったのだ。
それは真摯な願い、シエルの心が純粋に願ったものだった。
その為ならば何だって背負う覚悟を既に彼女は抱いている、フィアが自分を罪だというのなら……その罪すら、背負う事だってできる。
そしてそれは――ナナも同じであった。
「――私も、フィアには幸せになってほしいな」
「ナナ………」
「だって、フィアは今まで誰かの為だけに生きてきたんだよ? 私や沢山の人を助けてきたんだよ?
それなのにフィアが幸せになれないなんて……そんなの絶対おかしいよ」
エゴでしかないのかもしれない、本来ならばそんな事を願うのは間違っているのかもしれない。
それでも、シエルとナナは心からフィアが幸せになってくれる事を願った。
彼と共に戦ってきたからこそ分かるのだ、彼がずっと…傷つきながらも戦い、沢山の人を守ってきた事を。
生きている限り人は幸せを求める権利がある筈だ、だからフィアだって……幸せになってもいい筈だ。
「……………」
「私が、いえ私達がずっと傍に居ます。ですから――生きてください」
「私達だけじゃないよ。ジュリウスもギルもロミオ先輩……それに極東支部のみんなも、フィアの帰りを待ってる。
みんなフィアが大好きだから、大切だから待ってるんだよ?」
「…………みんな、が」
―――どうしてお前だけ生きているんだ!!
―――許さない、お前だけは許さない!!
フィアの脳裏に、再び呪詛の言葉が再生される。
生きていてはいけない、許されてはいけない、自分はそういう存在だ。
それはわかっている、今更言われなくてもフィアだってわかっている。
だけど、それでも―――
―――フィアには、幸せになってほしいから。
何処か懐かしいこの言葉が、フィアの心を包み込んでいく。
今だって自分の気持ちは変わらない、自らの罪が消えたなどと微塵も思えない。
でも同時に―――“死にたくない”と、“まだ生きていたい”という願いが、フィアの中で生まれた。
誓いの為ではない、ただ純粋な生に対する当たり前の願望が、フィアの中で生まれていた。
「……まだ、生きていてもいいの?」
「勿論だよ。フィア!!」
「はい。――帰りましょう? 皆さんの元へ」
「……………」
優しい微笑みを浮かべ、フィアに対して右手を差し出すシエルとナナ。
……まだ、自分を許す事などできない。
でも、フィアは先程のように拒絶の意を見せる事はせず、躊躇いがちに右手を伸ばし…2人の手を握り締め。
―――大丈夫だよフィア、大丈夫だから……安心して、幸せになってね?
最後に、誰かの声を聞きながら。
フィアは、2人と共に――自らの世界に別れを告げた。
To.Be.continued...
……はい、とりあえずこれで一応一件落着!!
伏線が現れたり少々中途半端感もありますが、次回でもう少し補足するつもりです。
……難産だった、構図は頭の中にあったんですが表現する難しさを改めて認識した一話でした。