再びゴッドイーターとしてアラガミと戦う彼であったが……自らの肉体に、ある変化が訪れていた事に気づき。
そしてその変化は、シエルとナナにも起きていた……。
「――ギャアアアアアッ!!!」
アラガミの悲鳴が廃ビル群に木霊する。
身体に致命的な斬撃を叩き込まれ、その断末魔の叫びを最期にアラガミ――ヴァジュラは地に伏せ動かなくなった。
それを見届ける事はせずに、フィアは次の標的であるグボロ・グボロへと向かって地を蹴った。
対するグボロ・グボロも、頭部の砲塔をフィアに向け水弾を放とうとしたが…その前にフィアの上段からの斬撃が叩き込まれた。
すかさず返す刀で二撃目を叩き込み、悲鳴すら叫ばせる暇すら与えず三撃目でグボロ・グボロを戦闘不能に陥らせるフィア。
「…………」
「フィア!!」
共に戦場で戦っている1人であるエリナの声が、フィアの耳に入る。
次の瞬間、彼に向けて右腕の砲身を向けていたヤクシャが、強力なオラクル砲撃を撃ち放った。
拙い、間に合わない、エリナはそう思ったが……ヤクシャの砲撃はフィアに当たらず。
「ッ、ギ……ガッ………!?」
「…………」
砲撃をあっさりと回避しながら一息で間合いを詰めたフィアの一撃が、ヤクシャの腹部を貫いていた。
ショートタイプの刀身がヤクシャの肉体を易々と貫いており、更にフィアは両手で神機の柄を握り締め――横薙ぎにヤクシャの身体を引き裂いた。
舞い散る鮮血と木霊するヤクシャの悲鳴、だがその悲鳴は最期まで続かず。
トドメの斬撃が、ヤクシャの頭部を左右2つに分けその命を終了させた。
倒れるヤクシャの巨体、それを前にしながら……フィアは戦闘中だというのに、何かを確かめるように自分の左手に視線を向けた。
(……この感覚は)
「フィア、後ろ!!」
「――――っ」
今度はローザの声が耳に入り、その瞬間にフィアは動いた。
刹那、先程まで彼が居た場所にイェン・ツィーの翼手が通り抜けた。
回避しなければ殴られ致命傷だっただろう、しかしフィアは落ち着いていた。
負けるわけがない、そう思っているわけではないが……少なくとも、彼は負けないという自信があった。
無論強がりではなく、それを裏付ける理由もあった。
(身体が軽い……相手の動きが見える)
そう、今のフィアは前とは比べものにならないほどに速さが増していた。
身体はまるで羽根のように軽く、アラガミの攻撃も手に取るようにわかる。
だからこそ彼は負けないと思えた、彼自身のパワーアップが彼の自信に繋がっているのだ。
事実――彼は既にイェン・ツィーとの勝負を終えているのだから。
「カ……ッ!!?」
「……終わり」
「えっ……嘘……!?」
(速い………!)
小さな悲鳴を上げながら。イェン・ツィーはその生涯に幕を閉じた。
だがそれも仕方がないだろう、既にイェン・ツィーの身体には深い裂傷が五つも刻まれているのだから。
一息、たった一息でフィアはイェン・ツィーの肉体に斬撃を五撃与えたのだ。
その速さたるは、今までの彼の比ではない。
アラガミ能力を持つローザでも辛うじて見切る事ができたが、同じ事をやれと言われれば…不可能だと言わざるおえない。
「――ローザ、エリナ、あと少しだから頑張ろう?」
「えっ、あ……うん!!」
「わかってるよ、フィア!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――はぐ、もぐもぐもぐ………」
「あ、あの……もう少し味わって食べてくれると嬉しいなあ……」
場所は変わって、ラウンジのカウンター席。
任務を終え、そこで暴飲暴食と言えるほどの勢いで食事をするフィア、そんな彼の食事を作ったムツミは顔を引き攣らせていた。
戦線復帰したものの、医務室に居た時と同じような食事量になってしまったフィア。
彼の食事を作るのは本当に大変であり、ムツミは内心泣きたかった。
沢山食べてくれるのは嬉しいが、限度というものがあるという事をわかってもらいたいものである。
「――相変わらず、凄い食べっぷりだねー」
「フィアさん、よく噛んで食べないと身体に毒ですよ?」
「あ、ナナさんにシエルさん……助けてくださいー!!」
「あはは……ムツミちゃん、お疲れ様」
ナナとシエルの登場に、ムツミは速攻で彼女達に助けを求めた。
その姿に苦笑しつつ、2人はそれぞれフィアの隣に座り一度彼の食事の手を止めた。
「フィアー、とりあえずもう少し遠慮ってものを覚えた方がいいよ?」
「んぐっ……食事に関しては、ナナに言われたくない」
「うぐっ……」
痛い所を突いてくるものだ、否定できないのが悲しかった。
「ですがフィアさん、ムツミさんの負担が大きくなりますから……」
「……うん、わかった」
「ちょっとー、どうしてシエルちゃんの言う事は反抗せずに利くのかなー?」
「だって、シエル怒ると恐いんだもん」
「………あー、成る程」
「ナナさん、どうして納得するんですか……?」
ジト目でナナを睨むシエル。
ほら恐いではないか、そう思いながらナナは口元を引き攣らせシエルから視線を逸らした。
……拙い、このままでは自分も怒られてしまう。
どうにか話題を変えなくては、ナナは頭を捻らせ……フィア達に話したかった事があった事を思い出す。
「そ、そういえばね……わたし、前より凄く強くなった気がするの!」
「えっ?」
「実はね、フィアとの一件を終えてからなんだけど……身体が凄く軽くて、アラガミの攻撃も前より簡単に避けたり見切ったりする事ができるようになってるんだ」
初めは勿論気のせいだと思っていた。
しかしあの一件から確実に自分は強くなっている、現に回避率も命中率も上がっているのだから。
そしてそれは、ナナだけではなかった。
「……実は、私も前よりも戦闘能力が上がっているようなのです」
「えっ、シエルちゃんも?」
「はい、フィアさんとの感応現象を果たしてからの戦績が前より格段に向上していました。
それだけではありません、ブラッドバレッドのOP消費の減少など……あらゆる点で、私の身体が強化されているんです」
「………偶然、なわけないよね?」
2人がそう感じた時期は同じであり、偶然とは考えられない。
だとすると理由はなんだというのだろうか、フィアとの感応現象を果たしてからとはいえ……それが直接の原因だとは思えない。
もちろん良い傾向なのは確かだが、正直少し不気味だと思ってしまう。
原因はなんだろうと思考を巡らせる3人であったが、当然ながらそれを理解できるわけもなく。
「――3人とも、ちょっといいかな?」
後ろからカズキに話しかけられ、3人は思考を中断させた。
「カズキさん、どうかしましたか?」
「もしかして、アラガミ討伐の任務?」
「いや、そうじゃない。ちょっと確かめたかった事があったんだ……」
そう言って、カズキはじっとフィア達を眺め始めた。
まるで彼等の何かを確認するかのように、無言のままカズキは3人に視線を向ける。
彼の行動を当然ながら理解する事ができず、3人が首を傾げていると。
「――成る程、強くなっていると思ったのはこういうわけだったのか」
納得するかのような呟きを、ぽつりと零した。
「あの……今のはどういう意味ですか?」
「ああごめん、ちゃんと説明するよ。とは言っても信じられるとは思えないけどね。
――3人とも、前よりずっと強くなってる」
「え、どうしてそれを……?」
「わかるさ。だって3人とも……
『…………えっ?』
カズキの言葉に、3人は間の抜けた返事を返してしまう。
しかしそれも無理からぬ事だ、彼の今の言葉の意味を理解する事などできるわけがない。
カズキ自身もそう思ったのか、説明不足な点を詫びながら言葉を続ける。
「通常、ゴッドイーターは偏食因子を一定期間内に摂取しなければオラクル細胞に捕喰されてしまう。それは知っているよね?」
「はい。ゴッドイーターとしては常識ですから」
「だけど一部の例外……僕やアリサみたいに、身体はアラガミと同じようにオラクル細胞で形成されながら人間としての意識を残して生きている者も居る。
そんな僕達は、普通のゴッドイーター以上の能力を持っている。それも知っているよね?」
「はい。それもカズキさん達から聞きました」
「通常のゴッドイーターの肉体はそれ以上の伸びは見せない。もちろん訓練によって基本的な身体能力は上がるけど劇的な変化は無い。
でも今の君達はオラクル細胞を自己進化できるような状態になっている、謂わば……僕達と同じ存在になりつつあるんだ」
尤も、フィアは初めから自分達側の存在だったが…シエルとナナは違う。
彼女達はあくまでもゴッドイーターであり、充分に強いが限界を超えた成長は得られない…筈だった。
しかしある理由によって彼女達の肉体に変化が訪れ、その結果今まで以上の力を得る事ができたのだろう。
「カズキさん達と同じって……じゃあわたし達、アラガミになったって事ですか!?」
「そうじゃないよ。だけどナナはゴッドイーターチルドレン…つまり生まれた瞬間から偏食因子を持って生まれている。
ゴッドイーターチルドレンに関する研究は殆ど進んでいないから不明な点も多いけど、普通のゴッドイーター以上の力を得てもおかしくはない」
「……だとすると、私はどうして」
「これもあくまでも憶測でしかないけど……2人はフィアとの感応現象で彼の深層意識にまで飛び込んだんだよね?」
「は、はい……それが何か?」
「わかっているとは思うけど、フィアは僕達と同じくオラクル細胞で肉体を形成させながら人間の意識を残した特殊な存在だ。
そんな彼と感応現象――それも深層意識にまで到達するほどの深い感応現象を引き起こした事によって、フィアの身体の一部が2人の肉体に流れ込んだんじゃないかってサカキ博士は言っていたよ」
――フィアが現実の世界に戻ってきてから、サカキはすぐさまシエルとナナの身体を調べ始めた。
大規模な感応現象を引き起こした事による肉体の変調が無いか調べるためであり……そこで彼は、2人の変化を発見した。
彼女達の体細胞の一部が、オラクル細胞へと変異していたのだ。
無論、通常ならばその時点で細胞侵食を引き起こしアラガミ化が発生する。
しかし2人の肉体にアラガミ化の傾向は認められず、けれどオラクル細胞による肉体強化の恩恵を受けていた。
彼女達のパワーアップの要因はそれだろう――それを聞き、当然ながら3人は驚きを隠せなかった。
「……ですが、強化されたと感じた時期がフィアさんの一件後ならば辻褄は合いますね」
「正直、これから2人の身にどんな変化が訪れるかは僕達にもわからない。このまま僕達と同じような存在になるのか……それともそれ以上の変化はしないのか」
「それとも――アラガミ化を果たすのか、ですか?」
「…………」
シエルの問いに、カズキは何も答えない。
しかしその無言が肯定と同意であり、しかしシエルもナナも恐怖心は抱かなかった。
その時はその時だ、今はただ……フィアを守り支える力を得る事ができた事実を、ただ感謝しよう。
シエルもナナもそう思っているから、最悪の未来があるかもしれないという可能性を聞いた後でも、心を乱すことはなかった。
……強い子達だ、2人の決意を感じ取りカズキは自然と笑みを浮かべる。
だからこそフィアも再びこの世界で生きる道を得る事ができた、2人の心の強さにカズキは感動すら覚えていた。
「――2人とも、ありがとう」
「えっ、どうしてフィアがわたし達にお礼を言うの?」
「……僕を支えようとしてくれているから」
「そんな事を気にする必要なんかありませんよフィアさん。私達が自分の意思で貴方を守りたいと…支えたいと思っただけですから」
「そうそう。それにフィアの事は大好きだもん、支えるのは当たり前だよ!!」
「……………」
(……おや? これは……)
大好きだとナナがフィアに向かってそう言った瞬間、僅かにシエルの表情が曇った事をカズキは見逃さなかった。
……どうやら、別の問題も浮上しているのかもしれない、違う意味でカズキは苦笑を浮かべてしまう。
自分の妻がこの光景を見たら、根掘り葉掘り訊き出そうとするだろうな……などと考えつつ、3人…否、フィアに再び声を掛けた。
「フィア」
「? なに?」
「今君と僕が使っている神機の刀身パーツ……あれの素材が正体不明のアラガミで造られているって事、覚えてる?」
「……そういえば」
結局、未だにそのアラガミの正体は掴めておらず、満足なメンテナンスができていないらしい。
それでも通常の刀身パーツを大きく上回る性能を誇っており、けれどこのまま使用し続ければ……終わりの時がやってくるだろう。
……それでは“アレ”に対抗するのは不可能だ、少なくとも今使っている刀身パーツを用いる事ができなければ、勝ち目は無い。
フィアがそう思っている中、カズキは驚くべき事実を口にした。
「実はね……あの刀身パーツに利用しているアラガミの素材は、“オーディン”のものだったんだ」
「オーディン……」
「オーディンって確か……前にカズキさんが戦ったアラガミですよね?」
「交戦回数が限りなく少なく、同時にヴァルキリー同様に強力なアラガミですね」
「前に戦った際にオーディンの肉体の一部が手に入ったから技術班に調べてもらったんだけど……どうやら間違いないらしい」
「じゃあ、オーディンを討伐すれば……」
「ああ、あの刀身パーツをパワーアップさせる事だってできる」
これは願ってもない朗報だ、あの強力な刀身を更に強化できるという事実は喜ばしいものであった。
とはいえ、オーディンはそこらのアラガミとは違い何処にいるのかわからない、個体数が限りなく少ないからだ。
「オーディンの討伐依頼が入ったら真っ先に知らせるよ」
「うん、僕達もそれがわかったらカズキに知らせる」
「ありがとう。それじゃあ僕はこれから任務だから」
そう言って、カズキは3人に手を振ってからラウンジを後にした。
(……強くならないと、今よりも…ずっと)
そうしなければ誰も守れない、今の自分の力では……守りたい存在を守る事など到底不可能だ。
けれどフィアはもう焦りを見せなかった、焦った所で現状が変わらない事をよく理解しているし。
(何よりも――僕を守ろうとしてくれるみんなに、心配を掛けたくない……)
自分は1人ではなく、そして1人で失っていい命ではないと、シエルとナナによって知る事ができたから。
「? フィアさん、どうかしましたか?」
「……ううん。なんだかお腹が空いてきたなって思っただけ」
「えー、あれだけ食べてたのにまだ足りないの? でも……わたしもお腹空いてきたなー。
ムツミちゃーん、わたしのごはん作ってくれるー?」
「じゃあ僕は、オムライスとカレーを15人前お願い」
「わたしはおでんパン10個ー!!」
「ええっ!? か、勘弁してくださいーーーーっ!!!」
「…………」
ムツミの幼くも儚い悲鳴を聞き、シエルはそっと彼女に同情を送った。
しかし同情を送るだけではいくらなんでも可哀想だ、なのでシエルはムツミの手伝いを買って出る事にしたのだった。
「フィアさん、ナナさん、もう少し加減というものを覚えてください」
「えー、これでも腹五分目くらいだよ?」
「僕は腹三分目」
「…………」
『ごめんなさい……』
To.Be.Continued...
今回は説明回というか、ある程度の複線を回収したかったので物語があまり進みませんでした。
おそらく次回もあまり進まないと思います、もう少しシリアスからは離れていたいので。