神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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――物語に、ちょっとした変化が訪れる

些細な、けれど確実に物語が変わる確かな変化。
その変化にはしかし、まだ誰も気づかない……。


第3部捕喰144 ~ある女性達の会話と……~

「――さて、始めましょうか」

 

抗神夫妻の部屋。

そこには……この極東支部の女性達が集まっていた。

ヒバリにアリサ、ローザにマリー、更にはナナにシエルの姿があった。

全員にローザとヒバリ特製の紅茶と、アリサとナナ特製のお茶菓子が振舞われている。

所謂“女子会”的な集まりになったのだが……ヒバリとアリサを除く全員は、怪訝な表情を浮かべていた。

 

何せここには半ば強引に連れてこられたのだ。

しかもアリサではなく、ヒバリにである。

普段のおとなしい彼女からは考えられない強引さだったので、驚いているわけで。

しかも今のヒバリはどこかテンションがおかしい、一体どうしたというのか。

 

「時間が勿体ないので、本題に入りましょうか」

「そうですね、ヒバリさん」

「あの……お姉ちゃんにヒバリちゃん、今回ローザ達を呼んだ目的は何?」

「よくぞ訊いてくれましたローザさん!」

(……なんでこんなにテンションが高いのかなあ……)

 

なんだか嫌な予感がすると、ローザの第六感が囁いていた。

そして、彼女の予想は見事に当たってしまう事になる。

 

「今回はですね、あなた方4人の恋愛話を聞かせてもらおうかと思いまして!」

『…………』

 

嬉しそうな顔で、上記の言葉を口にするヒバリ。

しかしローザ達4人は、当然ながらその言葉を聞いて困惑した。

いや本当に意味不明である、恋愛話とは一体……。

 

「じゃあ早速参りましょう! まずは……ローザさん!!」

「えっ? ローザ……?」

「そうです!! ふふふ……私、知ってるんですよ?」

「知ってるって何を…というか、ヒバリちゃんのテンションがさっきからおかしいよ……?」

(オペレーターの業務というのは激務だからな、まだまだ足を引っ張るわたしでは彼女の支えにはなれないか……)

 

天然マリーは盛大な勘違いをしつつ、改めてヒバリに負担を掛けないように決意したがそれはさておき。

 

「この間、エリックさんに食事に誘われたそうじゃないですか!!」

「えっ!? ちょっとローザ、私そんな話聞いてないんだけど!?」

「当たり前じゃん。お姉ちゃんに言ったら絶対に変な噂にして拡散する事は確実なんだから」

「ええっ!?」

 

その言葉にショックを受けるアリサ。

だがしかし、その場に居た誰もが否定できない所を見る辺り、ローザの言い分は正しいという事だろう。

誰もフォローしてくれない事に再びショックを受け、隅っこで体育座りを始めるアリサ。

そんな彼女を無視しつつ、ヒバリは再びローザに詰め寄った。

 

「食事をした後は……お持ち帰りされたんですか!?」

「? お持ち帰り……?」

「ヒ、ヒバリさん! 何を訊いているんですか!?」

 

あんまりといえばあんまりな問いかけに、顔を真っ赤にしてシエルが割って入った。

当のローザは今の言葉の意味を理解していないのか、キョトンとしている。

ナナは意味を知っているのか僅かに顔を赤らめ、マリーは特に気にした様子もなく紅茶を飲んでいた。

 

「だって気になるじゃないですか!!」

「だ、だからって今の問いかけは…その、不謹慎です!!」

「そんな事言って…シエルさんだって、気になってるんじゃないですかー?」

「なっ!? べ、別に私はそのような………!」

 

否定しようとするシエルだが、顔を真っ赤にさせ最後まで否定の言葉を放つ事ができなかった。

……要するに、彼女もちょっとだけ気になっているという事である。

シエルが意外と耳年増な事が判明した事はさておき、ローザの回答を待つ事にしたヒバリ。

 

「お持ち帰りって…何を? ごはんを食べた後は一緒に買い物をして、その後は普通に別れたよ?」

「ええっ!?」

「……なんでそんなに驚くの?」

「クッ……エリックさんがヘタレなのはわかっていましたが、ここまでとは思いませんでしたよ畜生………!」

「ヒ、ヒバリお姉ちゃん……?」

 

今日の彼女は本当におかしい。

普段見せないような凄みのある顔を見せられ、ローザは半分混乱していた。

 

「ローザさんは、エリックさんの事好きじゃないんですか!?」

「えっ……好きだよ? 優しいし、ミッションの時は頼りになるし、ローザの事をよく心配してくれるし」

「だったら、色々してみたいと思わないんですか!?」

「え、えっと……」

 

ずずいっと迫るヒバリに、ローザは恐くなって瞳に涙を溜めていく。

要するに、彼女は自分とエリックが恋人同士じゃないのが変だと言いたいらしい。

まだまだ子供っぽい所があるローザではあるものの、それぐらいの事は理解できた。

理解できたが……どうしてここまで必死なのかは、よくわからなかった。

それがわからないのはまだまだローザが子供だからである、要するに……ヒバリは日頃のストレスを他者の甘酸っぱい恋愛話を聞いてニヤニヤしつつからかって発散したいだけなのである。

あまり良い趣味とは言えないが、普段の彼女の激務を考えると致し方ない…のかもしれない。

 

「あのー……」

「あっ、ナナさんとシエルさんの尋問は後でしますから」

「尋問って……」

「えっと、ヒバリさんは先程からその…れ、恋愛に対する問いかけをしているようですが、他ならぬヒバリさん自身は――」

「―――ああ?」

『ひぃっ!?』

 

シエル、さり気なくヒバリの地雷を踏み抜いてしまいました。

軽率な質問に対しヒバリが返したのは…マリーすら悲鳴を上げて恐れるほどの、怒りに満ち溢れた表情と視線だった。

彼女達は知らない、これだけの好条件でありながらヒバリに寄ってくるのは昔からタツミだけだという事を。

生まれてこの方、恋愛どころか恋すらしていない事を。

だからヒバリは、せめて他人の恋愛話を聞いてニヤニヤしたいと思ったのだ。

 

「――ローザは、エリックさんの事をどう思っているの?」

 

ここでようやく復活したアリサが場に復帰し、ローザに問いかけた。

その問いによって恐ろしい顔になっていたヒバリが元に戻り、シエル達は揃って安堵の溜め息を零す。

一方のローザは、アリサの問いかけに考える仕草をして…すぐに悩み顔になった。

 

「うーん……どうなんだろ? エリックは確かに好きだけど、お姉ちゃんがお兄ちゃんに向けているような吐きたくなるほどの愛情を持っているわけじゃないし……」

「吐きたくなる!?」

「ローザさん、アリサさん基準で考えたら駄目ですよ。この人はちょっと…ねえ」

「ちょ、ヒバリさん、言葉を濁すような言い方は止めてくださいよ!!」

「ふむふむ、どうやらローザさんはまだまだそういった感情がわからないみたいですねえ」

「あはは、そうみたい」

「…………」

 

無視された。

その事実に再びアリサは隅っこでいじけ始めた。

それを当然ながら無視しつつ、ヒバリは次の犠牲者の名を呼ぶ。

 

「とりあえずローザさんの件はここまでにして……次は、マリーさん!!」

「………わたしですか?」

 

先程まで我関せずを貫きつつ、用意された紅茶やお茶菓子に舌鼓を打っていたマリーが、顔を上げる。

どうも耳を傾けていると恋愛話に華を咲かせるという女性らしい会話をしているが、そこでどうして自分に白羽の矢が立つのかマリーには理解できなかった。

マリー自身、自分がそういった話題に昇るなど微塵も考えていなかったからだ。

だがしかし彼女は知らない、密かにある少年との関係を噂されている事に……。

 

「マリーさん、ロミオさんとは……どのような関係で?」

「ロミオ…ですか? わたしは少なくとも彼の事を好いていますよ?」

『ファッ!!?』

 

まさかの返答に、その場に居た全員が驚いた。

当たり前である、あっけらかんと世間話をするかのように異性を好きだと言ったのだ。

驚愕しつつ、速攻で口元に笑みを浮かべたヒバリとアリサが、改めてマリーに詰め寄る。

 

「好いているというのは…友人的な意味で?」

「そう………いえ、きっと異性的な意味ででしょうね。

 わたしは生まれてこの方恋愛なんてものは経験した事はありませんし微塵も興味がありませんでした、でも多分この気持ちは……“恋”なのでしょうね」

 

まるで自分自身に問いかけるように、マリーは言った。

ストレートな言葉に聞いている側が恥ずかしくなったのか、全員が僅かに顔を赤らめる。

一方のマリーは放った口調と同じくあっけらかんとした表情であった、そこに羞恥心といったものは見られない。

とはいえそれは当然だ、何故なら彼女は自分の心にただただ正直なだけなのだから。

天然と言ってもいいだろう、ともかくマリーはロミオの事が好きである事に恥じらいなど持っていなかった。

 

「じゃあ……告白するんですか!?」

「告白、ですか」

「そうですよ。ロミオさんなら絶対にOKしますって!!」

「…………」

 

そうかもしれないと、マリーは口に出さずにそう思った。

だがその根拠は自分の美貌を信じているから…という理由ではない。

そもそもマリーは自分自身を過小評価している、女としての魅力などないと本気で思っているのだ。

では何故そう思ったのか?答えは簡単、ロミオが優しい少年であると知っているから。

もしも自分が彼に告白すれば、優しい彼はきっと自分を受け入れるだろう。

 

「――いいえ。わたしは別にそういうつもりはないです」

だから、マリーは現状の関係を変えようとは思わなかった。

 

「えっ?」

「ど、どうしてですか?」

「わたしはきっとロミオに恋をしているでしょう。でもわたしは彼の成長を近くで見て、彼の戦いを支えられればそれで満足なんです」

 

それは決して虚勢ではない、今のマリーの本心だ。

オペレーターとして彼の戦いのサポートをする、それだけで充分なのだ。

それに何よりも……先程も説明したが、マリーは自分を過小評価している。

だからこんな自分がロミオに告白をすれば、間違いなく彼の枷になるのだろう。

そう思っているから彼女は現状以上の事は望まない、否、望めなかった。

 

「ロミオはお調子者でよく失敗をするドジなヤツです、でも人一倍努力を欠かさない。

 だからわたしも自分のできる範囲で成長しなければなりません、ですから今はそのような事を考えている場合じゃないんです」

『…………』

 

その言葉も本心だ、尤も全てではないが。

だって上記の理由を話せば間違いなく「それは違う」と否定されるから。

極東支部の面々は揃って御人好しが多過ぎる、だからマリーは本心を全て話さない。

……たとえ、ほんの少しの罪悪感が胸を痛ませても、心配されたくないから。

 

「ところで……この恋愛トーク、ナナとシエルにもするんですか?」

なんだか微妙になった空気を晴らすように、マリーは矛先をナナとシエルに向けた。

 

「――そうですね。次はナナさんとシエルさんにしましょうか!!」

 

上手く矛先を変えられたのか、はたまたマリーの心中を理解したが故か、ヒバリとアリサの視線がナナとシエルに向けられた。

途端に嫌そうな顔になるナナとシエル、しかしそんなもので今のヒバリ達は止まらない。

 

「えーと、ぶっちゃけフィアさんとはどうですか?」

「うわー……本当にぶっちゃけてるなあ……」

 

捻りも何もない直球過ぎる問いかけである。

これにはナナは苦笑し、シエルは……何を想像したのか、再び顔を赤らめた。

今時珍しい初々しさを見せるシエルにちょっと萌えながら、ヒバリとアリサは詰め寄った。

 

「どこまでいきました?」

「A? B? それとも……」

「あのー……別に私達とフィアはそういう関係じゃないんですけど……」

「そ、そうです! べ、別に私達は…その、えっと……あぅ……」

(可愛い……)

 

シエルの様子に再び萌える面々。

だがしかし、そんなものでは止まらない。

 

「ネタは上がってるんですよ! フィアさんの事好きなんでしょ!?」

「そうそう、潔く認めちゃいなさいって!!」

「……お姉ちゃん、ヒバリちゃん」

 

駄目だこの2人は、そう思いつつもローザは2人を止めようとはしない。

止めれば自分に飛び火するからだ、可哀想だがナナとシエルにも2人の洗礼を受ける以外に道はないわけで。

というかさっきから何なのだこのヒバリのテンションは。

やはりオペレーターとしての激務の反動なのだろうか、そう思うとちょっと彼女に同情した。

 

「フィ、フィアさんの事は隊長として尊敬していますが、い、異性として意識しているわけでは………!」

「うーん、シエルさんはなかなか素直じゃないですねー」

「わ、私は素直です!!」

 

がーっと怒るシエルだが、顔を真っ赤にしては全然説得力がなかった。

こういう風な状態の彼女をからかうのも楽しいが、やはりこうもっと甘酸っぱさが欲しいものである。

そんな最低な事をヒバリとアリサが考えていると。

 

「――ねえシエルちゃん、それって本当?」

シエルの隣に座っていたナナが、彼女に問いかけてきた。

 

「えっ……?」

「フィアの事、前々から別に意識してないって言ってるけど……本当に本当?」

「え、あ……ほ、本当です」

「…………ふーん」

 

その呟きは、どこか冷たい色を宿していた。

ナナの雰囲気が変わった事にシエルは驚き、他の者達も怪訝な表情を浮かべる。

……空気が、だんだんと重いものに変わっていく。

どれくらいそうしていたのか、誰もが何も発せない中――ナナは徐に立ち上がった。

 

「――シエルちゃん、ちょっと来てくれる?」

「えっ――きゃっ!?」

 

シエルの答えを待つ間もなく、ナナは彼女の右手を掴み強引に立ち上がらせた。

そしてそのままアリサ達に「失礼します」と告げた後、そそくさと部屋を後にした。

突然のナナの行動に反応する事ができず、アリサ達は暫くポカンとした顔を浮かべていたのは言うまでもない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――あ、あの、ナナさん!?」

「…………」

 

シエルの声にも返事を返さず、ずんずんと歩を進めていくナナ。

一体どうしたのか、疑問を浮かべるシエルだったが…ふと、ナナはその足を止めた。

周りには誰も居ない廊下の隅、ナナはそこで止まり掴んでいたシエルの右手を離す。

 

「…………」

「…………」

 

しかしナナは何も言わない、それがシエルには少し不気味に思えた。

普段の彼女ならばこのような行動は決して見せない、だというのに何故こんな事をしたのか。

だが何だか話しかける事を躊躇ってしまい、両者の間になんともいえない空気が流れる。

 

――どれくらいの間、そうしていたのか。

シエルが息苦しさすら感じる中、ようやくナナが口を開いた。

 

「……あのさ、シエルちゃん」

「な、なんですか?」

「さっきの話だけど……シエルちゃん、本当にフィアの事はなんとも思ってないの?」

「えっ……」

 

今の問いかけで、再びシエルの頬が赤みを帯びていく。

本当に自分はこのような事に慣れない、その事実を少々恥ながら彼女はナナの問いに答えを返した。

 

「は、はい。その…私は別に、フィアさんの事を…その、異性として意識しているわけでは……」

「…………」

 

顔が熱い、動悸が激しくなる。

そして――少しだけ、シエルの胸に痛みが走った。

自分は嘘など言っていない、フィアの事を尊敬しているがそれはあくまで隊長としてだ。

それに間違いはない、間違いはない………筈だ。

……だとしたら、この胸の痛みは一体何だ?

自問しても答えは返ってはこず、内心混乱しているシエルにナナは。

 

「―――じゃあ、いいんだね?」

ほっとしたように、けれどシエルを少し責めるように…上記の言葉を言い放った。

 

「何が、でしょうか……?」

「…………」

ナナの顔が僅かに強張る。

その表情は、どこか自分を責めているようにも見え、シエルはおもわず視線を逸らして。

 

 

 

 

「――フィアの事、貰ってもいいんだね(・・・・・・・・・・)?」

ナナの、そんな言葉を耳に入れた―――

 

 

 

 

To.Be.Continued...




ヒバリさんファンの皆様、すみません。
でも生真面目な彼女だからこそはっちゃけたら凄くなるかなあという思いつきが浮かんでしまい、暴走してしまいました。

さて……次回は恐らくアラガミ娘たちの話になります、ラストが中途半端に終わりましたがこれの続きはまた追々という事で……。
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