神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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たとえ血の繋がりが無くとも、確かな愛情は注ぐ事ができる。
たとえ人間でなくとも、その絆は決して偽物ではない。

そして今日――とある少女ととある夫婦の関係が変わる。


第3部捕喰145 ~パパとママ~

「――ラウエルって、パパとママは居るの?」

「えっ?」

 

 それは、いつも通りラウエルがサテライト居住区へと遊びに来ていた時であった。

 すっかり顔馴染みとなった子供達と遊んだり、背負って空を飛んであげたりと、変わらぬ日常を過ごすラウエル。

 そんな中、このサテライト居住区に住む少女から、上記の質問を投げ掛けられた。

 

「パパと、ママ……」

「うん。アラガミにもおとうさんとおかあさんって居るの?」

「おとうさん、おかあさん……」

 

 知識としては、知っている。

 人間の男女が大人となり、夫婦となり、子を成した時、それぞれ父親と母親となる。

 しかしラウエルは人間ではなくアラガミだ、故に……父親や母親は居ない。

 

「ラウエルは、気がついたら生まれてたから、パパとママはいないんだー」

「そうなの? やっぱりアラガミにはパパとママは居ないんだねー」

「よくわからないけど、アラガミの構造は人間とは全然違うから、親子の関係を持つアラガミは居ないんだって」

 

 そんな事を話しつつ、やがて会話の内容は取りとめのないものへと変わっていった。

 再び戻るいつも通りの日常の中で、ラウエルはふと……父親と母親について考えていた。

(パパとママって……どんな感じなのかな?)

 一緒に遊ぶ子供達の親ならば、今まで何度か目にしてきた。

 時に厳しく、けれど優しく、子供達に接している親達。

 そんな親達を、子供達は満面の笑みを浮かべてじゃれ付く。

 ……それを見て、時折羨ましいと思った事だってあった。

 

(でも……ラウエルには、パパとママは居ないもんね……)

 

 無いもの強請りなど、虚しいだけだ。

 それに自分には両親など居なくても平気だ、だって大人なんだから。

 ラウエルはそう自分に言い聞かせ……それでも、少しだけ寂しいと思ってしまった。

 

 

―――数日後。

 

 

「ふー……終わった終わった」

「お兄ちゃん、お疲れ様」

「ああ、エリナもお疲れ様」

「…………」

 

 瓦礫犇めく悪道を、無理矢理車で移動していくのはコウタ達第一部隊。

 運転はエリックに任せコウタは座席に背を預けつつ空を見上げ、エリナは兄であるエリックに労いの言葉を掛けつつ飲み物を口に含む。

 そして、そんな彼等を乗せた車の横を、手伝いに来たラウエルがふわふわと飛んでいた。

 今日もアラガミから生き延び、戦い抜くことができた。

 その事に感謝しながらコウタ達は帰路へと着く中で……ラウエルは、無言のまま移動を続けていた。

 

「? ラウエル、どうかしたの?」

 

 いつもとは違う様子のラウエルに気がついたのか、エリナが声を掛ける。

 普段の彼女ならば帰路の途中にも縦横無尽に飛び回り、忙しなく会話をするというのに…今日は本当におとなしい。

 アラガミとの戦闘で怪我をしたわけではないし、相も変わらず旺盛な食欲を披露していた。

 エリナの声に反応して、移動しながら視線を彼女達に向けるラウエル。

 

「……何か、悩み事でもあるの?」

「えっ、なんでわかったの?」

「だっていつもと違って静かなんだもん。……どうかした?」

 

 心配そうにラウエルを見つめるエリナ。

 それを見たせいか、ラウエルは少しだけ迷いながらも。

 

「…………パパとママって、どんな感じなのかな?」

 先程から考えていた事を、皆に告げた。

 

「えっ?」

「パパとママって……ようするに両親って事か?」

「いきなりどうしたの?」

「うん、実はね――」

 

 サテライト居住区での出来事を話すラウエル。

 

「成る程なあ……」

「それでね、パパとママってどんな感じなのかなって……」

「うーん……」

 

 事情はわかった、しかし…その問いはなかなかに難しいものだ。

 とはいえ悩むラウエルを楽にさせてあげたいので、3人は考える。

 暫しの沈黙を経て……最初に口を開いたのは、コウタ。

 

「そうだなあ……やっぱ、子供を育てるのが親だろ」

「……隊長、そんなの誰だって知ってますよ」

 当たり前すぎるコウタの言葉に、エリナは冷たい視線と声をぶつけた。

 それによる精神的ダメージを負いつつも、コウタは言葉を続ける。

 

「あ、後はだな……子供を無条件で愛するのが親じゃないか?」

「無条件で……」

「そうだね。だけどその愛情も時折一方通行になってしまう事があるだろうけど」

「えっ?」

「親の心子知らず、極東に伝わる諺さ。

 両親という存在は、子供に対して絶対的な愛情を与え続け育てる義務があるけど、当の子供にその愛情が届かない事があるんだ」

「…………」

 

 エリックの言葉に、ラウエルは驚きを隠せなかった。

 愛情はとても尊く、与えられれば無条件で暖かな気持ちになり幸せを得る事ができる。

 少なくともラウエルはそう思っているからこそ、エリックの言葉は驚愕に値した。

 

「その結果、確執や亀裂を生んでしまう事もあるけど、それでも親は子供を守らなければならないんだ」

「………パパとママって、大変なんだね」

「確かにね。……ボクも、父には随分と迷惑を掛けたものさ」

「そういえばお兄ちゃん、私ぐらいの年齢の時に凄い反抗期だったもんね」

 

 当時の事を思い出しながら、エリナは楽しげに言った。

 それを聞いて彼も当時の自身を思い出したのか、恥ずかしそうに顔を赤らめ視線を逸らす。

 

「反抗期って?」

「子供が親に逆らう時期の事さ」

「どうして? エリック、自分のパパに酷い事されたの?」

「どの家庭にも大なり小なりあるもんなんだよ。オレだって母さんの小言を聞いて反抗した時期があったし」

「隊長は今でもじゃないんですか?」

「エリナお前な……。そういうお前はどうなんだよ?」

「………実は、少し。でもお父様だって「少しは女らしくしろ」なんて言うから……」

 

 いつの間にか、反抗期トークが始まってしまった。

 すっかり蚊帳の外になってしまったラウエル、不満そうに頬を膨らませ3人を睨みつける。

 その視線に気づいた3人は苦笑しつつ、ラウエルの問いかけに答えを返した。

 

「つまりだな、パパとママっていうのは子供にとってなくてはならない存在ってわけだ」

「コウター、それぐらいラウエルだってわかるよー」

 彼女が知りたいのは、子供にとって親という存在が居てどう思うのかだ。

 改めてそう問いかけると……3人は、何故かラウエルに対して苦笑を浮かべた。

 

「ラウエル、それが知りたかったの?」

「うん」

「……だったら、ラウエルはもう答えをとっくに知っているじゃないか」

「えっ? でもラウエル、パパもママも居ないからみんなに訊いたのに……」

 

 そう言うと、3人は再びラウエルに対して苦笑を浮かべる。

 

「???」

「……だったらさ、今度“あの2人”にこう言ってみろよ」

 言いながら、こっちに来い来いとラウエルを呼ぶコウタ。

 おとなしく近寄っていくラウエル、するとコウタは。

 

「―――って、言ってみろよ。絶対に喜ぶぞ」

「えっ………」

 ある提案を、ラウエルに告げたのだった。

 

………。

 

「―――ふぅ、ようやく帰ってこれましたね」

「仕方ないとはいえ、さすがに疲れたね」

 

 深夜の廊下を歩く一組の男女。

 クレイドルの活動を終え、久しぶりに極東支部へと帰ってきたカズキとアリサである。

 音を立てないように、自分達の部屋へと向かう2人。

 そして部屋の前まで辿り着く前に、2人を迎え入れる存在が現れる。

 

「――おかえり、カズキ、アリサ」

「あれ? ラウエル?」

「どうしたの?」

 

 2人を出迎えたのは、ラウエルであった。

 とっくに寝ているものだと思っていた2人は驚きつつも、とりあえず彼女と共に部屋へと入る事にした。

 

「わざわざ待っていてくれたんだね、ありがとうラウエル」

「ううん、気にしないで」

「ごめんね。最近遊んであげられなくて、でも私もカズキも明日はお休みだからおもいっきり遊ぼうね?」

「…………」

 

 優しい言葉、確かな愛情が自分に向けられている。

 2人はいつだってそうだった、アラガミである自分を受け入れただけでなく、一生懸命に愛してくれた。

 だから2人に会えない日は寂しかったし、いっぱい我が侭だって言った事がある。

 ……そう、その関係はまるで。

 

(そうなんだ……そうだったんだ………)

 

 ようやく、ラウエルはある事に気づく。

 2人から向けられていた確かな愛情、それはまさしく――

 

「とりあえず、今日はもう寝ようか?」

「ふふっ、今日は久しぶりに3人で寝ようね?」

「…………」

「? ラウエル、どうかしたのか?」

 

 

「―――いつもありがとう。パパ(・・)ママ(・・)

 

 

『―――――』

 

 ラウエルの口から放たれた言葉を聞いて、カズキもアリサもその場で固まってしまった。

 当たり前だ、2人にとって今の言葉は不意打ち以外の何者でもない。

 そんな呼び方をされたのも初めてであり、でも――その驚きは、決して嫌悪からのものではなく。

 

「ラウエル!!」

「ひゃあっ!?」

 

 素っ頓狂な声を出してしまうラウエル。

 それも無理はないだろう、何故なら……突然アリサに抱きしめられたからだ。

 何故抱きしめられたのかわからず、更に…アリサが僅かに泣いている光景を見て、ラウエルはすっかり混乱してしまっていた。

 そんな彼女達に苦笑を見せつつ、カズキは優しくアリサをラウエルから離す。

 

「気持ちはわかるけど、ラウエル吃驚してるよ?」

「……すみません。でも嬉しくて」

「嬉しい……?」

「当たり前だよ。だって……僕達の事を親だと思ってくれたんでしょ?」

 

 いつからか、カズキとアリサはラウエルの事を妹のようではなく……娘として見るようになっていた。

 そして、彼女からいつか両親のように思ってくれればと、願った時だってあったのだ。

 だからこそ、ラウエルが自分達をパパママと呼んでくれたのが、両親として見てくれているのが嬉しくて堪らなかった。

 幸せそうに、本当に幸せそうに微笑みながら、カズキとアリサは改めてラウエルを優しく抱きしめる。

 

「ありがとうラウエル、凄く嬉しい」

「私の事をママだと思ってくれてありがとう、ラウエル」

「…………」

 

 いつだって、2人はそうだ。

 自分の望みを知らず知らずの内に叶えてくれる、その度にラウエルは確かな幸せを感じていた。

 そして今――ラウエルは新たな幸せを手にする。

 大好きな2人に、大切な2人に今までとは違う愛情を注がれた。

 それは最愛の子に向ける親の愛情、今までと同じくらい大きく…けれど、少しだけ違う愛情だ。

 

「――ぅん。パパ、ママ」

 

 だから、ラウエルも2人と同じように幸せそうに微笑んだ。

 瞳に涙を浮かべながらも、心から幸せだと表現するかのように、満面の笑みを浮かべる。

 

「………むふふふふ」

「マ、ママ……」

「ヤバイです、もう幸せ過ぎて笑みが……むふふ、むふふふ……」

「………アリサ、ちょっと恐いよ」

 

 ちょっと怪しい笑みを浮かべ始めたアリサに、カズキとラウエルはちょっと引いた。

 だがしかし、幸せ絶頂状態の彼女は少しだけ暴走を始めてしまう。

 

「じゃあラウエル、ママと一緒にお風呂に入ろうか?」

「えっ……」

「アリサ、もう深夜だから……」

「親子のスキンシップに、深夜もクソもありません!!」

「あ、あの……ママ……?」

「はーい。あなたのママでちゅよー?」

「……パパ、ママが恐い」

「…………はぁ」

 

 幸せなのはわかるけが……暴走していい理由にはならない。

 しかも今は深夜だ、あまり騒いでは他の迷惑になってしまう。

 なのでカズキは疲れたように溜め息をつきつつ、尚も不気味な笑みを浮かべているアリサをそっと黙らせるのであった。

 

 

「ふふ、ふふふふ………」

「アリサ、だからその笑み恐いってば……」

 

 

 

 

To.Be.Continued...




ちょっと短めでしたが、楽しんでいただければ何よりです。
次回からはまたストーリーを進めていきます、シリアス多めになりますがオンリーにはしないように頑張ります!!!
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