そして、フィア達はフライアに対してある行動に移る事にした………。
「――うーん、凄いもんだね」
「何が凄いんだ?」
神機保管庫の奥にある、技術班の研究室。
そこでコンソールを操作しながらモニターを見ていたリッカが上記の呟きを零し、そこにやってきたギルが声を掛けた。
「あれ? ギル、どうしたの?」
「ちょっと自分の神機を見に来ただけだ。それより何が凄いんだ?」
「ああ……ほら、これ見てよ」
「………こいつは?」
リッカが見ていたモニターに視線を向けるギル。
専門用語が羅列しており全ての意味はわからなかったものの、どうやら神機の出力計算が図面化されたもののようだ。
しかも、映っている神機は前にフィアが使っていた【アビークレイグ】のものだった。
「前にオーディンとの戦いの時、フィアが神機のリミッターを解除したでしょ? その時の出力を数値化してみたんだけどさ…それがあまりにも凄まじいものだったから、つい驚いちゃって」
「っ、通常の神機の五倍以上の出力、だと……!?」
モニターを見て、ギルはおもわず驚愕の声を上げる。
当たり前だ、彼の言葉通りあの時の――リミッターを解除した時の【アビークレイグ】の出力は、通常の神機の五倍以上の数値を叩き出していたのだから。
「勿論正確な数値ってわけじゃないよ、【アビークレイグ】の破損状態から予測化した数値だからね。
でも少なくともリミッターを解除すれば、通常時の数倍以上の出力を出せるのは間違いないと思う」
それだけ、神機に施されたリミッターというのは大きいのだ。
そうしなければ神機使いの身体が瓦解するばかりか、神機の暴走を招きかねない。
あくまで神機の解放は“理論上可能”なだけであり、現在の技術では本来起こしてはならない現象である。
「……ただ、もしかしたらフィアなら任意でリミッターを解除する事ができるかもしれないんだ」
「何……!?」
「フィアの【血の力】、【喚起】の力を媒介にすれば可能かもしれないんだ。ただ勿論それを現実のものにするには外部からのサポートは必須だけどね」
そもそも神機の完全解放を行えば、使用者の命はほぼ間違いなく消えてしまう。
今回フィアが生き残れたのだって、様々な偶然が重なっただけであり、まさしく奇跡の領域だったのだ。
強い力には当然代償が存在し、おいそれと使用する事ができる程甘いものではない。
ただ、それを可能にできるのであれば、フィアのパワーアップだけではなく今後の技術革新にも繋がるだろう。
故にリッカ達技術班の面々は、この力を実用化させるために奮起しているのだから。
「……あまり無理すんなよ?」
「わかってる。ありがと、ギル」
ニッと笑みを浮かべ、再び作業に戻るリッカ。
そんな彼女の近くにそっと餞別の冷やしカレードリンクを置いてから、ギルは神機保管庫を後にする。
「ギル」
「フィア、どうした?」
ミッションでも受けに行こうかと移動していたギルの前に、フィアが姿を現した。
しかし普段の彼とは様子が違い、その表情はやや険しいものになっている。
一体どうしたのか、そう問いかけようとしたギルであったが……その前に、フィアが彼の心中の答えとなる指示を告げた。
「――フライアに潜入する。だからすぐに準備して」
「………なんだと?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――フライアは、収容した黒蛛病患者の治療を行ってはいない。
サツキの調査、およびフライアに居たフランの証言を合わせた結果――そのような結論に達した。
しかも現在フライアは外部との連絡を絶っている状態だ、あきらかに様子がおかしいのは明白。
なので支部長のサカキはブラッド達にフライアに潜入し調査を行うよう指示を出した。
ブラッド達はそれを当然承諾、すぐさま準備を終え久しぶりにフライアへと足を踏み入れた………。
「…………」
「……なんか、不気味だよな」
歩きながら、内側から現れ始めている不安を口にするロミオ。
それに応える者はおらず、しかし…この場に居る誰もが彼と同じ不安をその身に抱いていた。
(……この感じは、なんだ……?)
その中でフィアは正体不明の感覚に戸惑いを見せつつも、先頭を歩く。
――やがて一向は、神機兵保管庫へと足を踏み入れる。
巨大なフライアの中でも特に大きい空間が広がっており、ブラッド達の視線はある一点へと注がれた。
その視線の先にあるのは、数十を超えるカプセルのような物体だった。
等間隔で並べられたそれの周りにはケーブルなどが繋がれ、その中には………。
「な、なんだよ、これは………!」
「ひどい……」
その中には――人間が横たわっていた。
しかもよく見ると、その人間達は
「…………」
フィアがカプセルに手を伸ばす。
〈――まて、勝手な真似は許さんぞ〉
すると、部屋全体に響き渡るようなジュリウスの声が、彼等の耳に入った。
「……ジュリウス、この状況の説明をしてもらいましょうか?」
〈話す必要があると思うのか?〉
冷たい口調で、シエルの問いを切り捨てるジュリウス。
〈今すぐに極東支部に戻れ、これ以上進むというのならば……〉
「――いいえ、私達は戻らないわよ。ジュリウス」
ジュリウスの言葉を遮り、厳しい口調と視線を見せるのは……後方で待機していた筈のユノであった。
「ユノさん、危ないですよ!?」
「大丈夫よロミオ。……ジュリウス、あなた達が行っている非道な行為は、全て白日の下に晒されるわ!!」
〈…………〉
「……どうしてこんな事をするの? サテライト拠点で、黒蛛病の人達の為に頑張っていたあなたがどうしてこんな」
〈これが最後の通告だ。おとなしく極東支部に戻れ〉
「ジュリウス!!!」
搾り出すようなユノの叫びが、木霊する。
それでもジュリウスの返答は無く、代わりに奥の扉が開き……神機兵が姿を現した。
「ジュリウス……これが、あなたの答えなの……!?」
非道な彼の答えに、ユノの瞳から涙が零れていく。
「っ、ジュリウス………!」
「あいつ……許さねえ………!」
「フィアさん、迎撃しましょう!!」
「フィア!!」
ユノの涙を見て、ブラッドの全員が怒りを露わにした。
そんな中、フィアだけはその表情を変えぬまま、こちらに向かって突進してくる神機兵へと視線を向け。
「――ジュリウス、僕をなめているのか?」
瞬間――彼の姿が消えた。
………。
――全員の瞳に、驚愕の光景が映る。
フィアの姿が消えた、誰もがそれを認識した時には。
「――こんな玩具で、僕達を止められてると思っているのか?」
彼の持っていた神機、【ニーヴェルン・クレイグ】の刀身が、神機兵の駆動部分を貫いていた。
ギギギ…という鈍い機械音を発しながら、神機兵はそのまま地面に倒れ動かなくなる。
「他者を踏み躙ってまで、自らの理想を掲げる。
それは僕がこの世で一番憎いと思うグリードと同じ行為だ、
ビリビリと、フィアの怒声で空気が震える。
あれだけの激情を放つ彼は珍しい、心の底から怒りを抱いている証拠だ。
「ジュリウス!! これ以上言ってもわからないのなら……お前は、僕にとって敵だ!!」
〈……………そうか。残念だ〉
神機兵が現れた奥から、複数の足音と機械音が聞こえてくる。
「――ユノ、泣くのは後だ」
「…………」
「手筈通りに患者を連れ出してほしい。神機兵は……僕達が抑え込むから」
「っ……ええ、そうね。サツキ、聞こえる!?」
すぐさまサツキに向かって通信を送るユノ。
それを確認してから、フィアは右手に持っていた【ニーヴェルン・クレイグ】をリッカに特注で作ってもらった鞘へと収める。
サイズとブレード、2つの神機を扱うが故に、使用しない方の神機を手を使わずに持ち運べるようにするために造ってもらったのだ。
「みんな、いくぞ!!」
『了解!!!』
サイズ――【アスガルズ】を両手で持ち替えてから、神機兵に吶喊していくフィア。
ブラッドの隊員達も、そんな隊長の背中を追うように神機兵へと向かっていった………。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――おらあああっ!!!」
「うらあああっ!!!」
裂帛の気合を込め、ロミオの斬撃とギルの刺突が神機兵の装甲を貫く。
大きく仰け反り、そのまま倒れ込み機能停止に陥る神機兵。
倒した事に安堵しつつも、2人の息は大きく上がっており消耗は激しいのが見て取れた。
「ち、ちっくしょう……なんだよこいつら……めっちゃ強いじゃねえか………!」
「ど、どうやらジュリウスの野郎…【血の力】で神機兵を強化しているようだが、これほどとはな………!」
一体一体が、大型アラガミに匹敵するほどの戦闘力を秘める神機兵。
しかもその装甲は並のアラガミとは比べものにならない程に硬く、ブラッド達は苦戦を強いられていた。
「やあああああああああっ!!!」
ナナのハンマーが、神機兵の持っている剣を大きく弾く。
それにより神機兵の身体が仰け反り、隙を見せたそれにシエルのブラッドバレット【フルーグル】が撃ち込まれる。
雷もかくやという速度で放たれたそれは容易く神機兵の装甲を貫き、活動停止に追い込ませた。
「はぁ…はぁ……」
「ナナさん、大丈夫ですか……!?」
「へ、平気平気…シエルちゃんこそ、OPは大丈夫?」
「……正直、あまり芳しくはありません」
珍しく弱気な発言を放つシエルだが、事実彼女はOPを大きく消耗してしまっていた。
というのも神機兵の装甲が硬過ぎるからだ、【フルーグル】を以てしても一撃では倒せない時があった。
結果としてブラッドバレットを連射する事となり、いくら回復する手段が残されているとはいえ…このままでは押し切られてしまうだろう。
だが消耗しているのはシエルだけではない、ナナも既に体力の多くを消費してしまっている。
神機兵はまだ残っている、その中心では――フィアがサイズとブレードを用いて凄まじい戦いを繰り広げていた。
「……フィアだって頑張ってる。私達も頑張らないと!!」
「そ、そうですね……負けるわけにはいきません!!」
フィアの戦いを見て、ナナとシエルは再び闘志を燃やしていく。
――だが。
彼女達の闘志は、突如現れた第三者によって呆気なく圧し折られてしまう。
「―――やっほー」
「っ、ぐ………!?」
明確な殺気を感じ取り、半ば無意識にサイズを振るうフィア。
瞬間、サイズの刃が何か硬い物体に当たり弾かれる。
僅かに後退してから、一体何が現れたのかとそちらに視線を向けるブラッド達。
「っ、アンノウン……!?」
「そんな……どうして……!?」
「やあ、ひ・さ・し・ぶ・り♪」
前と変わらぬ、狂気に満ちた笑みをフィア達に向ける悪魔――アンノウン。
(ユノ達は……まだ………!)
黒蛛病患者の収容は終わっていない、このまま撤退には速すぎる。
(相手をするしかない………!)
覚悟を決め、標的をアンノウンに変えるフィア。
彼の闘志を感じ取ったのか、アンノウンは嬉しそうに笑みを深めていく。
「フィアさん!!」
「シエル、君は他のみんなと一緒に神機兵を抑え付けるんだ!!」
「ですが………!」
「そうそう。隊長様の命令は聞いておいた方がいいよ? どうせ――死ぬんだからさ?」
刹那、アンノウンの姿が消える。
それと同時にフィアの姿も消え、甲高い音が響き――両者は再び場に現れた。
フィアは既にサイズを投げ捨て【ニーヴェルン・クレイグ】を持ち、構えている。
対するアンノウンは、何故か少し呆けた表情で自らの右手を見つめていた。
……血が、アンノウンの右手から流れている。
先程、フィアの斬撃とぶつかり合った際に刻まれた傷なのだろう。
暫し呆けた表情のアンノウンであったが……。
「――キヒッ、ヒヒヒヒヒヒ………!」
ニタァッという不気味な笑みを浮かべながら、狂った笑い声を発し出した。
「…………」
「ヒヒヒヒ……凄いよお前、まさかこんな短時間でここまで成長するとは思わなかった。
ううん、成長じゃないね。今のお前……前とは違って
「……どうして、フライアにお前が居る?」
「そんなのどうだっていいでしょ? それより……続きをしようか?」
刹那、フィアの眼前にアンノウンが迫る。
右腕の爪を振り下ろし、フィアの身体を刻もうとするアンノウン。
それを神機で弾き、返す刀でアンノウンの頭部に斬撃を叩き込むフィア。
しかし不発、続いて三本の尾がまるで槍のようにフィアを貫こうと迫った。
装甲を展開…する事は間に合わない、そう判断したフィアは徐に左手を動かして。
「おおっ……!?」
「――うおおおおおおおっ!!!」
アンノウンの尾の一本を文字通り掴み取り、左腕一本で投げ飛ばしてしまった。
すかさず跳躍し、アンノウンの上をとり神機を振り下ろすフィア。
「ぐぅ………っ!!?」
僅かに苦悶の声を上げながらも、アンノウンは両腕を交差して神機を一撃を受け止めた。
しかし衝撃は殺しきれず地面に激突、更にその地面を砕きながら吹き飛んで行き……戦っていた神機兵達まで巻き添えにしてしまった。
「………んー、いいねぇ…実にいいよお……」
土煙の中から聞こえる、心からの歓喜の声。
やがて土煙が晴れると、そこには額から血を流しながらも背筋が凍りそうな程に美しい笑みを浮かべたアンノウンの姿があった。
口元まで伝ってきた自らの血を舐め取りつつ、アンノウンはゴキゴキと間接を鳴らしながらフィアに歩み寄っていく。
そして、互いの距離が七メートルほどまで近づいてから、アンノウンはピタリと歩を止め視線をフィアに向けた。
「はっきり言って、ワタシはカズキ以外とは愉しめないと思ってた。
でも今は違う、何があったのかは知らないけど……お前の心は生への執着に溢れている。
それもただみっともなく生に縋るわけじゃない、確固たる意志と願い、そして想いに溢れた執着だ。――そういうヤツは本当に強いんだ、だからこそ……遊び甲斐がある」
「遊んでいる暇も意味もこちらにはない。お前は――ここで殺す」
「前だったら戯言だと笑ってやった所だけど、今のお前だったらできるかもね。―――でも」
―――ワタシを殺すのは、大変だよ?
To.Be.Continued...
原作では当然神機の鞘なんてありませんけど、フィアは2つ神機を扱いますので持ち運べるようにしないと不便と判断したが故の設定です。