神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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少しずつ、人から遠ざかっていくカズキ。

それでも彼は、ゴッドイーターとして戦いに身を投じるのだった。


捕喰18 ~あの日の真実~

「カズキ、頼む!!」

「…………」

 

 リンドウの声に無言で頷き、カズキは地を蹴り剣を振るう。

 日本刀のような片刃の刀身パーツ「火刀」が熱を生み出しながら、極地対応型――通称「コンゴウ堕天種」の身体を容赦なく切り裂く。

 青白い身体は血で赤く濡れ、コンゴウ堕天種は苦しげに呻き声を上げた。

 それには構わず、カズキは後ろに跳躍しながら神機を可変、銃形態で炎属性の弾丸を連射する。

 それは迷う事なく先程剣で斬った箇所に撃ち込まれ、たまらずコンゴウ堕天種はその場に倒れ込んでしまった。

 

「―――終わり」

 

 短く呟き、間合いを詰めながら再び神機を可変させ剣形態へ。

 跳び上がり、そのままコンゴウ堕天種の背に剣を突き刺した。

 ビクンと身体が痙攣したが、コンゴウ堕天種はそのまま動かなくなる。

 

「…………」

 

 無言で剣を抜き取り、刃に付着した血や肉片を拭う。

 

「よーし、お疲れさん」

「……リンドウさん、見てないで戦ってくださいよ」

 

 タバコを吸い始めるリンドウに、カズキはジト目で睨みつける。

 今回は彼と2人だけのミッションだった、しかしリンドウは戦闘には消極的というか……ぶっちゃけ殆どカズキに任せっきりだったのだ。

 これには、さすがのカズキも文句の一つも言いたくなる。

 しかし、リンドウは一応謝るものの、そこに反省の色は見受けられない。

 

「………はぁ」

 

 もう何度もこんなやりとりをしてきたので、もういいやと自己完結させカズキはアラガミのコアを抜き取ろうと神機を構えたが。

 

「――――」

 

 どぐりと、鼓動が変な音を鳴らす。

 

(っ、また、か……)

 

 この正体を彼はよく知っている、再び隊に復帰して時々起きる現象。

 

――アラガミを「食したい」という、欲求だ。

 

「カズキ、どうした?」

「……リンドウさん、すみませんが……向こうへ行っててください」

「………もしかして、“また”なのか?」

 

 カズキの様子に、あの欲求が来たのかと尋ねるリンドウ、カズキも震える身体でどうにか頷きを返した。

 ……拙い、もうこれ以上は我慢できない。

 ただでさえ我慢してきたのだ、目の前にこんな美味そうなモノがあって我慢できるわけが――

 そう思っていたら、カズキは知らぬ間にアラガミの身体を喰らい始めていた。

 肉だけでなく、中の骨さえも残さないように、貪欲なまでな勢いで。

 

「…………」

 

 そんな異常な光景を見ながら、リンドウは眉を潜める。

 

(相変わらずすげえなぁ……少しは見慣れたとはいえ、カズキのコレは一体何なんだ……?)

 

 明らかに人間の範疇を超えた行動、アラガミと大差ないこの行いは……未だリンドウしか知らない。

 だからこそ、カズキは1人もしくは彼と2人だけのミッション以外では、アラガミを喰らうという行為は決してしない。

 そのおかげで、こうして喰らう環境が整うと大抵我慢する事ができなくなるのだが。

 

「……普通のコンゴウより淡白だな」

「おいおい、元の味がわかんないからコメントしづらいぞ?」

「リンドウさんも食べます?」

「……お前、最近開き直ったよな」

 

 初めの頃は罪悪感やら後ろめたさがあったのか、軽く錯乱する事もあったのだが、最近ではすっかり慣れたのかこんな事を言うまでにもなった。

 それに関して文句は無いが、ちょっとぞっとしてしまう。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 口に付着した血を拭いながら、綺麗さっぱりアラガミの身体を喰らったカズキは手を合わせる。

 

(……やっぱ、不思議な光景だな)

「帰りましょう、リンドウさん」

「おぉ」

 

 だが、たとえアラガミを喰らうという異常な行動をしようとも、彼はリンドウにとって命の恩人であり、共に戦う仲間だという事に偽りはない。

 

(守ってやんなきゃな……)

 

 芯は強く、逞しい彼でも……その心はまだ甘さや優しさに満ち溢れている。

 そんな彼の心が壊れてしまわないように守るのが、大人の役目だ。

 リンドウはそう自分に言い聞かせ、カズキと共にアナグラへと帰還した。

 

 

 

 

 

「んん……?」

「………?」

 

 極東支部――アナグラへと戻ってきたカズキとリンドウは、揃って首を傾げる。

 何故なら、エントランスロビーにタツミ達防衛班の面々が神妙な面持ちで何か話し合っていたからだ。

 

「おーい、お前等どうしたんだ?」

 

 不思議に思い、リンドウが話しかける。カズキもその後に続いた。

 

「あっ、リンドウさん」

「しけた面してどうした? 便秘か?」

『…………』

 

 最悪だこのオッサン、その場に居た誰もがそう思った。

 無論冗談だという事くらいはわかるが、それにしたって酷いものだ。

 

「冗談だ。それで本当にどうした?」

 

 全員にジト目で睨まれ少し顔を引きつらせながら、リンドウはもう一度タツミに尋ねる。

 

「……それが、見た事がないアラガミが現れて……」

「あん?」

「見た事がない、アラガミ?」

「ああ。限りなく人間のような……しかし恐ろしく強いアラガミだった」

 

 そう答えたのは、銀に近い色の短髪にフェンリル支給の青いジャケットを着た防衛班の1人、ブレンダン・バーデル。

 その見た事がないアラガミと交戦したのか、説明する彼の声は僅かに震えていた。

 

「どんなアラガミだったんですか?」

「……全身が青い鎧のような身体で、頭には白い羽根が生え手には槍と盾を持っていた」

「――――」

 

 ブレンダンの説明に、カズキは目を見開いた。

 ちょっと待て、そのアラガミは……。

 

「正直、俺達で倒せるようなアラガミじゃなかった……強すぎるんだ」

「けど、そんなに強いアラガミなのによく生きて帰れたなお前等」

「それが……向こうから反撃してくる事がなくて、ちょっと交戦したらその場から居なくなったんです」

「んん……?」

 

 カノンの言葉に、リンドウは首を傾げる。

 人間が居たのに捕喰する事無く居なくなった、そんなアラガミなど聞いた事がない。

 

「……まあとにかく、お前等が無事だったのはよかったよ」

 

 考えても仕方ないな、そう自己完結させリンドウはカズキへと視線を向けた。

 

「カズキ、神機を預けに……って、どうした?」

 

 見ると、カズキの表情がひどく強張っている事に気づく。

 

「……いえ、なんでもありません。それよりリッカちゃんの所に行きましょう」

「………おぉ」

 

 明らかになんでもないようには見えないが……あまり深く詮索するのもよくないと思い、リンドウはとりあえず頷きを返しカズキと共にエレベーターへと向かった。

 

(……あのアラガミが、また現れたのか)

 

 正体不明の、あのヴァジュラすら上回る力を持った謎のアラガミ。

 いつか、戦わなければならない時が来る。

 そう思うと……カズキの胸は何故か痛み出していた……。

 

「あっ……カズキ!」

「こんにちは、アリサちゃん」

 

 神機をリッカに預けた後、カズキはそのまま医務室へと足を運んだ。

 中に入ると、どこか嬉しそうな顔をしたアリサが、声を弾ませてカズキに視線を向ける。

 

「調子、良さそうだね」

「はい。これなら近い内に原隊復帰が……できそう、です」

「………?」

 

 どうしたのだろう、急にトーンを落としたアリサに、カズキは首を傾げる。

 

「……でも、復帰したとしても、リンドウさん達にあんな事した私なんか」

「そんな事ない。みんなアリサちゃんが帰ってくるのを待ってるよ。

 特にコウタなんか、毎日のように「アリサどう?」って心配してる。

 リンドウさんもサクヤさんも、アリサちゃんが帰ってくるのを望んでる。

 だから、早く良くなってね」

 

 優しくアリサの白銀の髪を撫でる。

 そう、みんな彼女が帰ってきてくれる事を望んでいる。

 ソーマは……よくわからないが、少なくとも望んでいると思う。

 

「……カズキも、私が復帰するのを……望んでいますか?」

 

 どこか不安そうに、アリサはカズキを見つめながら問いかける。

 だから、カズキは精一杯の笑顔を見せて問いかけに答えた。

 

「もちろんだよ。僕だって……アリサちゃんが帰ってくる事を望んでるさ」

「あっ……!」

 

 途端に嬉しそうに頬を綻ばせるアリサ、随分素直になったというか……心を開いてくれたようだ。

 それがカズキには嬉しくて、互いに笑みを浮かべあっていると。

 

「よぉ、青春してるなお前等」

「っ、リンドウさん」

「サクヤさんも……」

 

 入ってきたのは、リンドウとサクヤ。

 アリサの表情が強張り、顔を俯かせる。

 

「アリサ、別に俺達はお前を責めに来た訳じゃねえ。だからそんな顔すんな」

「なら、どうして……」

「――あの時、お前の身に起こった事を知りたいんだ。辛いかもしれねえが、話してくれねえか?」

「…………」

 

 ちらりと、カズキに視線を向けるアリサ。

 

「……アリサちゃんが話せるなら、話してほしい」

「…………両親が殺されて数年間、私は精神不安定なまま病院生活を送っていました」

 

 カズキの言葉に頷きを返してから、アリサはゆっくりと話し始めた。

 

「それから、新型の神機使いの適合があるって聞いて、フェンリルの病院に無理矢理移されたんです……」

「……そうか」

「でも、むしろ私はよかったと思ってます。両親の仇を討てると思いましたし、病院の先生――オオグルマ先生も、よくしてくれましたから」

「……………」

 

 オオグルマ、その名を聞くと反応してしまう。

 あの時、カズキが聞いたオオグルマの会話が、否が応でも思い出された。

 アリサはオオグルマを信頼しているようだが、その信頼は……。

 

「極東支部に仇のアラガミが出るって聞いて、赴任して……。

 それで、ようやく仇を見つけたと思ったのに……あの瞬間、何故か仇のアラガミがリンドウさんになってて……! うぅ……!」

「アリサちゃん、もういいよ。もういいから」

 

 頭を抱え苦しむアリサを抱きしめるカズキ。

 

「……サンキュー、もう大丈夫だ。ゆっくり休んでくれ」

 

 これ以上は無理だな、そう判断したリンドウはアリサにそう告げサクヤと共に医務室を出る。

 

「……カズキ、私……」

「大丈夫だよ。大丈夫だから……」

 

 必死に宥め、落ち着かせる。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい……」

「…………」

 

 まだ、精神が不安定なままのようだ。

 もう少し、そっとしておかなければならないらしい。

 大丈夫だよと言いながら、暫く落ち着くまでカズキはアリサの頭を撫で続けていた……。

 

 

 

 

「……リンドウ、アリサは一体どうしたのかしら?」

「さてな、だが大丈夫だろうさ。カズキが傍にいるからな」

 

 先程のやりとりを見る限りでは、アリサはカズキに対して心を開いている。

 これならば、アリサの回復はすぐだろう。

 

「……ところでリンドウ、貴方……どうして狙われるような事になってるの?」

 

 この間のミッションで、リンドウが命を狙われた事はサクヤも気づいている。

 だからこそ、問い詰めるような口調で尋ねるのだが……。

 

「さぁてな、何ででしょう?」

「…………」

「……そんなジト目で睨むなよ、今はちょっと言えねえんだ」

「リンドウ……」

 

 自分にも話してくれないのか、はぐらかすリンドウに不満げに口を尖らせるサクヤ。

 

「別にサクヤを信用してないわけじゃないぜ、けどな……」

「わかってる。けど……時が来たら、ちゃんと話してね?」

「おぅ、約束するさ」

 

 ならばよし、そう言ってリンドウの胸を軽く叩くサクヤ。

 そして、2人は顔を見合わせ笑い合うのだった。

 

 

―――それから、数日後

 

 

「あっ……」

「おっ……」

 

 カズキはエントランスロビーでコウタと談話をしていると、彼等に近づいてくる1人の少女。

 

「アリサちゃん……」

 顔を俯かせながらこちらにやってくる、アリサの姿を視界に入れた。

 

「……本日より、原隊復帰となりました。また宜しくお願い致します」

 こちらと視線を合わせようとはせず、アリサは言う。

 

「実戦にはいつ復帰するの?」

「……それは」

 

 アリサがコウタの問いに答えようとした、その時だった。

 

「聞いたか? 例の新型の片割れ、また復帰するみたいだぜ?」

 エントランスの一階から、神機使いの話し声が聞こえてきた。

 

「ああ。リンドウさんを、新種のヴァジュラと一緒に閉じ込めたんだってな。

 もう1人の新型が命懸けで助けなかったら、間違いなく死んでたぜ」

「だけどよ、偉そうな事言ってた割にはすぐ壊れちまって。ざまあねえよな」

「…………」

 

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、わざと聞こえるように陰口を叩く神機使い達。

 しかし、アリサにとって真実である以上反論はできない。

 ――だが、そんな彼女を守るためにカズキが動いた。

 

「笑うな!!」

「…………えっ?」

 

 気が付いたら、カズキは下に降りその神機使い達に怒鳴っていた。

 

「な、何だよ……」

「アリサちゃんだって好きであんな事をしたわけじゃない、それなのに笑うな!!」

 

「…………」

「あいつさ、ああやってアリサを笑う奴に必ず怒鳴ってるんだよな」

「えっ―――」

「お人好しだよなカズキは、でもそんなあいつだからオレも友達として鼻が高いっていうか……」

 

 こちらに戻ってくるカズキに手を振りながら、コウタは言う。

 

(私なんか、に……)

 

 優しくしてくれる、庇ってくれる。

 それが嬉しくて――同時に申し訳なかった。

 守られているだけじゃ、嫌だと思った。

 

「―――カズキ」

「ん? どうしたのアリサちゃん?」

 

 だから――守られるだけじゃダメだから。

 

「私に――もう一度戦い方を教えてください!!」

 

 今度は、私がカズキを守る。

 そう決意を固め、アリサはカズキに対してそう告げた―――

 

 

 

 

To Be Continued...

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