神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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選定の時は近い。
しかし、悪魔はただその時を待つ事はせず。

彼との決着を着けるためだけに、動きを見せた………。


第3部捕喰159 ~悪魔の進行~

「――もう少し、かかるの?」

 

「そうですね……あの子には、まだ絶望が足りないようです」

 

「そっか……なら、先にワタシの用事を済ませてこようかなー?」

 

「用事、ですか?」

 

「そ、どうせこの世界は一度生まれ変わるんだから……決着を、つけてこないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィアさん、少し…お時間よろしいですか?」

「シエル……?」

ある日のアナグラ。

ラウンジでまったりとしていたフィアに、シエルが声を掛けてきた。

両手で皿を持つシエル、その皿の上には焼きたてであろうクッキーが盛られていた。

 

「その……一緒に食べませんか?」

「いいの?」

「は、はい。お口に合えばいいのですが……」

「シエルは料理上手だもん、美味しいに決まってるよ」

「…………」

 

赤くなっているであろう顔を彼に見られないように、俯くシエル。

そんな彼女の様子に気づかないフィアは、早速とばかりにクッキーに手を伸ばし口の中へ。

サクッとした歯触り、香ばしさが口の中で広がり……甘さも控えめ。

なんだか紅茶が飲みたくなってきた、そう思ったフィアはムツミに自分とシエルの分の紅茶を頼んだ。

 

「シエルも座りなよ?」

「あ、はい」

 

失礼します、そう言ってフィアの隣に座るシエル。

……ちらりと、視線を無心でクッキーを食べているフィアへと向けた。

あどけない顔立ち、一見すると少女に見える幼い彼。

でもシエルにとっては、この世のどんな男性よりも魅力的で……。

 

(っ、わ、私は何を……)

 

考えているのか、ますますシエルの顔が赤く染まっていく。

だが……気分は悪くない、寧ろ幸せすら感じる事ができていた。

フィアの事を考える、ただそれだけの事が嬉しい。

 

「? シエル、どうかした?」

「……いいえ、なんでもありませんよ」

 

微笑むシエル、その笑みは柔らかく美しい笑みだった。

それを見て表情を固まらせるフィア、しかしそれは彼女の笑みに見惚れていたからではなく……。

その笑みが、“彼女”のように優しいものだったから懐かしさを覚えただけ。

もう取り戻す事のできない過去、決して忘れる事のできない悪夢。

思い出す度にフィアの心を鋭く傷つけ、けれど――不思議と、フィアは前ほどの痛みを感じなくなっていた。

そんな事はありえない、彼女を忘れるなどあってはならない事だ。

自分を人間として扱ってくれた彼女を裏切ったフィア・エグフィードは、死ぬまで他者に対し償いをしなければならないのだから――

 

「フィアさん」

「えっ……」

シエルの右手が、フィアの頬に触れる。

見ると、彼女の表情に曇りが見え、どうしてそんな表情をしているのかわからずフィアは混乱した。

 

「何か辛い事を思い出してしまうのなら、それを自分の中だけに溜め込む事はしないでください」

「…………」

「フィアさんは何も悪い事などしていません、命を踏み躙っても見捨ててもいないんです。

 ですから、もう自分を咎人だと思わずに幸せになる事を考えてくれませんか?」

「シエル……」

 

彼女の澄んだ優しい声が、フィアの心に染み渡っていく。

幸せになる事を考える、ああ……それのなんて魅力的な事か。

それをシエルは心から願ってくれている、彼女だけでなく他のブラッド達だってそうだ。

自分の周りには本当に優しい人達が居てくれる、こんな自分の幸せを願ってくれている。

……でも、だけど。

本当に自分は幸せになっていいのかと、思わずにはいられなかった。

答えは未だにフィアの中から出る事はなく、そしてこれからもその答えは決して―――

 

 

―――フィア、逃げて!!!

 

 

「――――えっ」

「? フィアさん、どうかしましたか?」

「いや、今……声が」

 

 

―――早く逃げて、みんなと一緒に!!!

 

 

「―――っ」

聞こえた、確かに聞こえた。

幻聴ではない、けれどこの場に存在する声でもない。

周囲には自分とシエルしかおらず、それに今の声は………。

 

「っ、ぐ………」

「フィアさん!?」

突然顔をしかめるフィアに、シエルは彼の顔を覗き込む。

心配そうに見つめるシエルに「大丈夫」と返してから、フィアは立ち上がった。

 

「………来る」

「えっ……?」

フィアの呟きの意味がわからず、間の抜けた声を出してしまうシエル。

 

――刹那、アナグラ全体にけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「な、何でしょう……!?」

「来る――あいつ等が」

「えっ………フィアさん!?」

何かを呟いた瞬間、フィアはラウンジから飛び出していく。

一体どうしたというのか、シエルが彼の後を追おうとした瞬間。

 

『極東支部に多数のアラガミが急接近しています! 支部の全神機使いは至急ブリーフィングルームへと集合してください!!!』

緊迫感の満たされたヒバリの放送が、アナグラ中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

――アナグラ、ブリーフィングルーム。

 

「――――これ、は」

モニターに映し出された光景に、全員が驚愕する。

画面を覆いつくす程に表示されている赤い点、それは全てアラガミの反応だ。

十や二十ではない、ゆうに百を超えた小型アラガミに……大型アラガミの反応も数多い。

 

「……アンノウン、か」

「えっ、カズキさん……アンノウンって」

「アレは余程僕達を滅したいらしい、そして……決着を着けたいみたいだ」

 

カズキにはわかる、アレの目的は……人間達の殲滅と、自分との決着。

それを達成させるために、あれだけの数のアラガミを従えてこの極東に向かってきている。

……いつかは、決着を着けなければならない時が来る事はわかっていた。

ならばするべき事は一つだけ、この極東を守り……あの悪魔を、今度こそ討つ。

大きく深呼吸を一度繰り返してから、カズキは全員に指示を出す。

 

「第一部隊は外部居住区の住人を避難させてから、アラガミの掃討。

 ブラッド隊は僕とアリサと共に空中から襲撃してくるアラガミを優先的に倒しておくよ」

「わかった。みんなもそれでいいね?」

『了解!!』

「サカキ博士、大型輸送機を使用させてもらいますよ?」

「わかった。カズキ君、キミの好きなように使ってくれたまえ」

 

「よし、いくぞみんな!」

「お兄ちゃん、無茶はしないでね?」

「わかってるよローザ、君も無茶するなよ?」

心配そうに自分を見つめるローザの頭を軽く撫でてから、カズキは傍に居たエリックへと視線を向ける。

「……ローザの事は、任せます」

「ああ、任せてくれ!!」

力強く頷きを返すエリックを見てから、カズキはアリサとブラッド隊と共に輸送機の元へと向かった。

 

「でもカズキさん、大型輸送機に乗り込んでどうするんですか?」

「空中から襲撃するアラガミの対処だよ。危険だとは思うけど……輸送機の上で奴らを迎撃する」

「ええっ!?」

カズキの言葉に、ロミオは驚きの声を上げてしまった。

しかし彼の驚きも無理からぬ事だ、輸送機の上でアラガミと戦うなど前代未聞なのだから。

 

「……面白え、やってやろうじゃねえか」

「マ、マジかよギル……」

「ですがやるしかありませんね、一部のアラガミは高い高度から接近してきています。地上から狙い撃ちするのは難しいかと」

危険ではあるが、自力で空を飛べない以上こうするしか方法は無い。

「地上のアラガミは第一と第三部隊に対処してもらうしかない、第二部隊と僕達以外のクレイドルのメンバーはサテライト居住区の防衛に回ってもらうからね。

 ――総力戦になるけど、みんな覚悟はできてる?」

「愚問ですよカズキ、ここで逃げるような人は存在しませんから」

「ロミオ先輩は?」

「どういう意味だよ!! ――もう臆病で役立たずのオレはいらねえんだ、やってやる!!」

 

――大型輸送機へと到着するカズキ達。

 

既に離陸する準備は終わっており、全員が入ったと同時に輸送機はアナグラを出発した。

中に用意されたバックパックを取り付け、すぐそばまで迫っているアラガミ達との戦闘に備えるカズキ達。

……だが、誰もがその表情に確かな不安の色を覗かせていた。

当たり前だ、いまだかつてないほどのアラガミの襲撃、それもこのような唐突にである。

準備も覚悟も、できているわけがないのは道理であった。

それでも戦わねばならない、自分達が戦わねば多くの人が死ぬ…そう自身に言い聞かせ、皆戦いの準備を済ませていく。

 

「カズキ」

「フィア、どうしたの?」

「……誰も死なずに、勝てると思う?」

「…………」

 

それは彼らしくない、不安に満ちた問いかけであった。

そのような考えでは死んでしまう、ある意味ではフィアの問いかけは不謹慎と思われるものだろう。

だが……カズキはそうは思わず、寧ろ何処か安心できた。

だってそうだろう、わずか13という幼さでブラッドの隊長となり常に強大な力を持つアラガミ達と戦い、そしてこの世とは思えぬ地獄を経験してきたフィアが…年相応の反応を見せてくれたのだから。

彼は自分を人間ではなく化け物だと思っている、でも今の彼は間違いなく人間だとカズキには思えた。

まだ幼く、けれど決して弱さを見せないまま戦い続けてきた少年が、弱さを隠さなくなった。

その事実は尊く、無くしてはならないものだ。

 

「――自分と仲間を信じ続けるんだ。そうすればどんな困難も乗り越えられる」

「………根拠が、無いね」

「そうだね。でも全ての物事に根拠なんか必要ないよ、信じる思いがそのまま力になる事だってある。フィアはその思いを信じる事ができない?」

「ううん、信じられるよ。僕だって()()()()()()()()()()()()()

 

そう、自分は1人ではない。

傍には大切な仲間達が、安心して背中を預けられる失いたくない仲間達が居る。

それだけ、たったそれだけでフィアは戦えるのだ。

 

「そろそろか……みんな、輸送機の上に行くよ」

言って、カズキは扉を開く。

すると強風が彼等を襲うが、構う事無く全員輸送機の上へ。

「うおっ……すげえ不安定だな」

「……落ちたら、終わりだな」

「こ、恐い事言うなよギル!!」

しかしギルの言う通り、この輸送機の上から落ちれば命は無いだろう。

地面は見えず、周りには雲しか見えない。

いや……見たくも無い存在、アラガミの姿も確認できた。

 

「何体居るんだよ……」

『――小型アラガミの反応は128、大型アラガミの反応は4だな』

「うわっ!? ……マリー、いきなり通信を送ってくるなよな」

突然の通信におもわず素っ頓狂な反応を示し、それに羞恥を覚えつつロミオはマリーに抗議の言葉を放つ。

『お前こそおかしな反応を返すな、声が震えてるぞ?』

「う、うっせえ!!」

悪態を吐くが、図星だったので否定できない。

しかし、そんなロミオに…マリーはただ優しく、語りかけた。

 

『………死ぬなよ、ロミオ』

「えっ……?」

『今回の任務は今までに無い程のものだ、だから……死ぬな』

「…………」

普段のマリーからは考えられない、弱々しい震えた声。

『……すまない。作戦開始前に言う言葉ではなかった』

「……そんな事ねえよ、ありがとなマリー」

彼女は、心から自分の身を案じてくれている。

それがわかるから、ロミオはただ彼女に感謝の言葉を送った。

 

「……ロミオ先輩、マリーちゃん、2人だけの世界に入ってる場合じゃないでしょ?」

「ばっ!? ナナ、な、何言ってんだよ!!」

「マリーさん、大型アラガミの反応もあるようですが……この高度でですか?」

『ああ。――ヨルムンガルド、大型で唯一の長距離の飛行能力を持つアラガミだ』

「ヨルムンガルド……」

 

ノルンのデータベースに記録されている、交戦経験の殆どない大型アラガミ。

……状況は、思っている以上に拙いものになっているらしい。

この場で相手をしなければならない小型アラガミだけでも百を超えているというのに、更に四体のヨルムンガルドの存在。

しかしこの場を突破されるわけにはいかない、地上でも死闘は繰り広げられているのだから。

 

「――ヨルムンガルドの相手は、僕がするよ」

「カズキさん!?」

「アリサ、君はここでフィアの指示に従って行動してくれ」

「………わかりました。どうか気をつけて」

 

掛ける言葉は、ただそれだけ。

だがカズキにとってそれだけで充分、自分を信じてくれるアリサにそっと口付けをしてから……彼は迷う事無く輸送機から飛び出した。

突然の彼の行動に驚くブラッド達、しかし……その後、すぐさまカズキの姿を確認する事ができた。

……背中に、イェン・ツィーの両腕翼を生やして飛んでいくカズキの姿を。

 

「嘘……」

「カズキさんのアラガミ能力って、あんな事もできるんだ……」

「ただ消耗は激しいんです。なので――少しでも早く殲滅させますよ!!」

言って、アリサは神機を銃形態へ。

 

「――ナナとロミオは輸送機に取り付こうとするアラガミを近距離で対応、アリサとシエルとギルは遠距離でアラガミを攻撃。僕は状況に応じて戦うよ」

「了解しました!」

「ああ、わかった」

「任せて!!」

「了解だ!!」

「……アリサ、すぐに終わらせるよ?」

「ええ。いきましょう、フィアさん!!」

 

輸送機が、アラガミの群れへと向かっていく。

それに伴い、小型アラガミ達――ザイゴート達がこちらに気がつき身体を視線を向ける。。

瞬間、フィア達は先制攻撃を仕掛け、戦いの幕が切って落とされた―――

 

 

 

 

 

一方、地上でも死闘が幕を開こうとしていた。

 

「――うわー、凄いね」

左手で双眼鏡を持ち、荒野を見るローザはおもわずそんな言葉を呟いた。

既に外部居住区の人達の避難は終わっている、現在第一部隊と第三部隊は最前線にてアラガミの群れを迎え撃つ準備を行っていた。

「ヒバリちゃん、アラガミの正確な数はわかる?」

通信でヒバリにそう問いかけるコウタ。

『申し訳ありません。正確な数は不明ですが……小型だけでも五十近い数を確認できます。

 それだけではなく、ウロヴォロスのような超大型のアラガミも確認できました……』

「うへえ……マジか……」

聞きたくなかった報告である、これにはコウタも苦笑いすら浮かばない。

 

「……私達だけで、保たせられるの……?」

おもわず、エリナの口から不安に満ち溢れた声が漏れる。

そんな彼女に、兄であるエリックは渇を入れた。

「エリナ、敗北を考えては駄目だ。ぼく達が敗れれば……多くの人がアラガミに殺される。

 でも決して自分の命を蔑ろにしてまで戦えってわけじゃないよ、それだけは忘れないでくれ」

「う、うん……」

エリックに言われ、少しだけエリナの中での不安が消えてくれた。

 

「よーし……それじゃあ、頑張るとしますか!!」

少し大袈裟に明るい口調で言って、ローザは神機を両手で持った。

まずはどキツい先制攻撃でも仕掛けてやろうか、そう思っていると……。

 

「――まずは、ラウエル達にお任せ!!」

「きゅー!!」

「ラウエル、タマモ!?」

突如として空中からアラガミの群れに向かって飛んでいくラウエルと、そんな彼女におぶさっているタマモが現れた。

そして、ラウエルとタマモはアラガミの群れに五十近い赤く輝くレーザーを一斉掃射。

その全てが命中し、断末魔の叫びを上げながら十数体のアラガミが地面に倒れ付した。

それを確認してから2人は後退し、ローザ達の前に降り立つ。

 

「ラウエル達も手伝うよ!!」

「きゅー!!」

「ラウエル、タマモ……」

「パパとママだって頑張ってるんだもん、ラウエル達が頑張らないわけにはいかないよ!」

「きゅきゅー、きゅー!!」

ぐっと拳を握り締めるラウエル達。

その姿を見て、ローザ達は彼女達を後方に下がらせるという選択肢を消してしまう。

 

「頼りにしてるよ、2人とも!!」

「うん!!」

「きゅぐるるる………」

「コウタ隊長、いこう!!」

「おうっ! みんな、無理だけはするなよ!?」

『了解!!!』

少しだけ数が減ったアラガミの群れに吶喊していくローザ達。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――始まった始まった、さてと……決着を着けるよ、カズキ?」

それを極東支部から離れた場所に位置するビル群から暫し見つめてから、アンノウンも動きを見せる。

目指すは当然、彼女が三年前から喰らいたいと思っている唯一にして絶対の存在。

 

――抗神カズキの元へと、向かっていく。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




ちょっとオリジナルを入れてみました。
最大の戦いまでもう少し……少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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