皆を守るために神機使い達は戦場へと赴き、ブラッド達も出撃を開始した。
そんな中――この戦いの引き金となった悪魔、アンノウンも動きを見せる。
「―――見えた」
背中に生やしたイェン・ツィーの両手翼を羽ばたかせながら、カズキはヨルムンガルドの姿を確認する。
数は四体、反応通りの数だ。
しかしさすが大型に分類されるだけあって大きい、全長は二十メートル近くはあるだろう。
まともに戦えば勝ち目はない、なので――カズキは一気に全開の力を解放する。
「っ、かあああああああっ!!!」
体内のオラクル細胞を活性化させ、その力を神機の刀身へと集めていくカズキ。
現れるは光の剣、黄金に輝くその刃は瞬く間に伸び続け……カズキは神機を上段に構えた。
その力に気がついたのか、ヨルムンガルド達は雄叫びを上げながら巨大な口を開きカズキへと向かっていく。
彼の身体など容易に丸呑みできる巨大な口、そこへ――彼は自ら向かっていった。
「――落ちろよおおおおおっ!!!!」
全力の力で、上段から光の剣を振り下ろすカズキ。
刃がヨルムンガルドに頭部に触れた瞬間――いとも簡単に、当たり前のようにその身体が左右に分かれていった。
ただ斬れただけではない、光の剣は尚も勢いを止めないままヨルムンガルドの身体を分けていき。
カズキが神機を完全に振り下ろした時には、一体目のヨルムンガルドの身体は完全に左右二つに切り分けられていた。
「――次っ!!」
間髪入れずに次の一撃を放つカズキ、真横からフルスイングで神機を振るい二体目のヨルムンガルドの身体に食い込ませる。
光の粒子を放ちながら、黄金の剣は二体目の身体も容易に抉り斬った。
だがまだ生きている、先程とは違い胴体だけではその命を刈り取る事はできないようだ。
口から噴射する勢いで吐血を繰り返しながら、ヨルムンガルドの口がカズキに迫る。
それでも彼は動じない、背中の両手翼をおもいっきり動かし瞬時に高度を上げ回避。
「―――っ」
自身の更に上空から迫る気配、視線は見上げないまま彼は光の剣を真上に突き出した。
刹那、神機の柄に固い感触が伝わり、遅れて血の雨が降り注ぐ。
三体目のヨルムンガルドが上から奇襲を仕掛けたようだが、カズキには通用しない。
そのまま彼は力任せに神機を振り下ろし――三体目の身体と、二体目の頭部を斬り裂きその命を奪った。
さあ、残るは一体。カズキは最後のヨルムンガルドへと狙いを定め。
――周囲に、漆黒のレーザーが降り注いだ。
「っ、く………っ!?」
「ギャッ、ギギギ………!?」
突然の事態に反応が遅れるカズキだったが、どうにか両手翼を用いてレーザーを掻い潜るように回避していく。
一方、ヨルムンガルドは反応が遅れた事とその巨体のせいか、数百というレーザーに釣瓶打ちにされその身を焦がしていった。
レーザーの雨は止まず、しかしその一発一発が致命傷になりうる破壊力を秘めている。
一体何が…とは、カズキは思わなかった。
知っているからだ、この攻撃が何者によるものなのかを。
そして、彼は迫るレーザーを避けながら地面へと向かい。
「――よかった。こんな程度でやられたりしたらどうしようかと思ったよ」
既に息絶え地面に叩きつけられたヨルムンガルドの死体を喰らう、アンノウンと対峙した。
「…………」
「こんにちはカズキ、本日はお日柄も良く……絶好の殺し合い日和だねー?」
「それも今日で終わりだ、今度こそお前の命を奪わせてもらうぞ」
「殺る気満々だね、結構結構。――でもさ、その前にちょっと教えてくれる?
――どうして、“星の意志”を否定するのさ?」
「…………」
「カズキには判ってる筈だよ、この星は終末捕喰を願ってる。生命の再分配を望んでるのに……カズキはどうしてそれを否定するのかな?
一度“特異点”になっているなら、“星の意志”がどれだけ大切なものか理解できる筈なのに」
「…………」
「この世界はもう終わっている。アラガミに食い尽くされる未来しか残されていないのなら、このまま“星の意志”に総てを委ねれば――」
「黙れ」
アンノウンの言葉を遮る、カズキの冷たく重い声。
「黙って聞いていれば、星の意志? 終末捕喰? 生命の再分配?
無駄な問答をするつもりはないからはっきり言っておく、僕はそんな
「…………」
「僕は人間だ。だから最後まで人間として生き続ける、“星の意志”なんていうものに従うつもりはない。
大体いきなり何だ? お前はただ僕と殺し合いをすることだけしか脳の無いアラガミだろう? だというのに“星の意志”だなんだと……妄言を言いに来たのか?」
「………成る程、ね。クソくらえとは恐れ入ったよ」
事実、アンノウンの声色には確かな驚愕の色が含まれていた。
彼はアラガミ、それも一度“特異点”となった特別な存在。
だから彼は知っている、終末捕喰を望む星の声が聞こえている筈なのだ。
それは決して抗えぬもの、だというのに彼はそれを「クソくらえ」と言って一蹴した。
……ああやはり、彼は色々な意味で特別だ。
「そうだったね、ワタシ達の間に余計な言葉は不要だった。ただ互いの命を奪い合う……それだけで良かったんだ。
でも――ちょっと残念だよカズキ、最後くらいは解り合いたかったのに」
「戯言を。僕がお前と一度でも解り合えると本気で思っているのか?
お前は沢山の命を奪った悪魔だ、今までお前の欲望のままに殺された者達全てに頭を下げながら、あの世に行け!!」
「……それだけの力を持ちながら、まだ人間を守ろうとするなんてカズキは馬鹿だなあ」
「……………」
瞬間、カズキの姿がアンノウンの視界から消える。
すかさずアンノウンは九本の尾で防御の体制へと入り――凄まじい衝撃によって弾き飛ばされた。
「………いったぁ」
「――僕には生き続け人々を守らなければならない責任がある、かつて“人類”という種を守ろうとした人の願いを踏み躙った時からだ」
今でも鮮明に思い出せる、三年前のエイジス島であの人に放った誇れる答え。
あの人は――ソーマの父であるヨハネスは、自らを大罪人にしてまで“人類”という種を終末捕喰から守ろうとした。
それを真っ向から否定し、彼の願いを無にした事は……今でも本当に正しい事だったのかと思う時だってある。
だからカズキは今まで戦い続けてきた、ヨハネスの願いを踏み躙り自らの意志を押し通したあの時から、カズキが出した誇れる答えを最後まで貫き通すために。
「決着を、着けさせてもらうぞ!!!」
「………いいよ。今回ばかりはワタシも本当の意味で全力を出してあげる」
周囲の空気が、2人の殺気と闘気に反応し震え始める。
互いの距離はおよそ六メートル、だが互いに一息で踏み込める間合いだ。
そして―――
「――死の力を見せてあげるよ、カズキ!!!」
「消えろ、アンノウン!!!」
両者が同時に動きを見せ。
激闘の幕が、切って落とされた―――
――空でもまた、激闘が繰り広げられていた。
「く、そ………っ!!」
輸送機を捕食しているアラガミの一体を、一刀の元に切り伏せるロミオ。
しかし、そんなものは無意味とばかりに新たなアラガミが輸送機に取り付いていく。
『新たな小型アラガミの反応、数は十六!!』
マリーの報告を聞き、その場に居た全員の表情が一気に強張っていく。
――状況は、最悪であった。
小型アラガミの数は減らず、増えるばかり。
一撃で倒せるとしても、次から次へと新たな小型アラガミが現れていく。
既に輸送機のあちらこちらには捕喰された跡が刻まれ、このまま墜落するのは時間の問題であった。
……それでは駄目なのだ、ここでこの大群を食い止めなければ地上で戦っている者達の負担が増える。
それはわかっている、わかっているが……。
「こ、これじゃあキリがねえ………!」
「ロミオ、喋ってる暇があるなら身体を動かしやがれ!!」
「わかってるっての! だけどさ………!」
「…………」
ロミオの焦りと苛立ちは、尤もなものだ。
このままでは戦線を保てない、そうなれば……犠牲者が出る。
「………ふぅぅぅぅぅぅぅ」
大きく深呼吸をして、アリサは思考を切り替えた。
アラガミの数は既に二百を超えているだろう、そればかりかまだ増え続けている。
その全てを打ち倒すにはどうすればいいのか、その答えは簡単だ。
「―――はあああああああああっ!!!」
裂帛の気合を込めた叫びを放つアリサ。
その叫びに呼応するように、彼女の体内のオラクル細胞が躍動し彼女に際限なく力を与えていく。
「ア、アリサさん……?」
「――行きます!!」
宣言と同時に、アリサは動く。
刹那――空中に居た小型アラガミが五体、肉片と化した。
「えっ―――」
おもわず、その光景に他のブラッド達は動きを止めてしまう。
それと同時に、更に十体の小型アラガミの身体が粉々に砕け散った。
「………すげえ」
攻撃する事も忘れ、間の抜けた声を零すロミオ。
しかし彼の反応も致し方ないのかもしれない。
――鬼神の如き強さを発揮する、アリサの姿を見てしまっているのだから。
アサルトタイプの銃型神機から放たれる銃撃は、まさしく機関銃の如し。
しかしその一発一発が必殺の一撃であり、ただの一つも外さずにアラガミ達を撃ち砕いている。
射撃精度、速度、破壊力、その全てが限界まで高められていた。
まさしく今の彼女はゴッドイーターと呼ぶに相応しい、人でありながら神の領域まで達した強さをブラッド達に見せ付けている。
「――――っ」
だが、そんなアリサが浮かべる表情は、苦しみと痛みに耐えるものだった。
彼女は体内のオラクル細胞を限界以上に活性化させ、一時的とはいえ肉体のリミッターを解除した状態になっている。
しかしそれは当然ながら彼女の肉体に多大な負荷を与え続けており、秒単位で彼女の肉体は崩壊を始めてしまっていた。
ブチッと、筋繊維が一本ずつ千切れていく不快感と痛みが、絶えず彼女を襲っている。
それでもアリサは止まらない、自分が止まれば沢山の犠牲者が出るとわかっているから。
(カズキだって戦ってる、私だけが楽をするわけにはいかない………!)
愛する彼に負けないために、少しでも負担を軽くするためにアリサは駆け抜けていく。
既に八十体近い小型アラガミが撃墜され、確実にその数を減らしていく中で。
『大型アラガミの反応! これは……ヨルムンガルドだ!!!』
マリーの焦りを含んだ通信が、全員の耳に届いてしまった。
「くっ………!」
彼女の通信が届くと同時に、雲を切り裂きながらヨルムンガルドが現れる。
その大きさは輸送機を遥かに凌ぎ、周囲の小型アラガミを無差別に捕喰しながら輸送機へと向かってきた。
「この―――っ、くぅ………!?」
迎撃しようとしたアリサだったが、突如として彼女は膝をついてしまう。
……限界が、訪れてしまったのだ。
通常通りに戦っていれば、まだまだ彼女には余力が残されていただろう。
しかし彼女は輸送機を守りつつ短時間で大量のアラガミを倒すために無理をした、故にこのような短時間で限界が訪れてしまったのだ。
それでもアリサはヨルムンガルドを倒そうと、震える身体に喝を入れ立ち上がろうとする。
「――アリサさん、少し休んでいてください」
そんな彼女を、シエルはそう言って手で制した。
「シエルさん……」
「いつまでも先輩に甘えているわけにはいきませんから」
「そうそう! アリサさんは少し休んでて!!」
「後はオレ達に任せてくださいって!!」
「ロミオだけじゃ、不安でしょうけどね」
「なんだとー!?」
「皆さん……」
温かい言葉が、胸の内にじんわりと広がっていく。
「――みんな、ヨルムンガルドの動きを封じてくれる?」
「わかりました!! ギル!!」
「任せろ!!」
シエルとギルが前面に立ち、それぞれ銃撃をヨルムンガルドに向けて放つ。
2人の銃撃は巨体のヨルムンガルドに見事命中し、僅かに呻き声を上げさせた。
「ロミオ先輩、いっくよー!!」
「おうっ!!」
怯んだヨルムンガルドが、輸送機に近づいていく。
今ならば近接攻撃が届く間合いだ、その機を逃さずナナとロミオが動く!!
「どっせえええええい!!」
「おらああああっ!!!」
加減など微塵も無い、全力の一撃。
ぶるんっと神機をフルスイングで振るい、2人の神機はヨルムンガルドの身体に深々と叩き込まれた。
「ギィィイィィィィィィ………!?」
耳障りな悲鳴を上げるヨルムンガルド、それでも反撃に転じたのは流石と言えよう。
大きく口を開き、輸送機を噛み砕こうとするヨルムンガルド。
それを阻止しようとブラッド達は動いたが――その前に、彼の一撃が届いた。
「ギギャ………っ!?」
「邪魔だ」
冷たく言い放ち、フィアはニーヴェルン・クレイグの刀身をヨルムンガルドの頭部に突き刺す。
鮮血が彼の顔を汚すが、それには構わずフィアは左手でアスガルズを持ち、横一文字に振るいヨルムンガルドの顔を更に傷つけた。
「シエル!!」
「――準備はできています」
「よし、放って!!」
フィアの声に頷きを返し、シエルはヨルムンガルドに向けていた砲身から銃撃を放つ。
撃ち放たれたのはブラッドバレッド【フルーグル】、神速の速度を持って撃たれたそれは容易くヨルムンガルドの肉体を貫通させる。
頭部に風穴が開く……が、それでもヨルムンガルドは生きていた。
「――出鱈目だな、本当に」
しかしそれは想定内、フィアは既に次なる一手を用意していた。
神機を銃形態に、砲身は尚も輸送機を狙うヨルムンガルドに向けられ。
「落ちろ、テカブツ!!!」
爆撃めいた音と共に、砲身から大型の光弾が撃ち放たれた。
眩い光を放つ大型の光弾は、ヨルムンガルドに見事着弾――した瞬間、
続いて起こる連鎖爆発、それらが確実にヨルムンガルドの肉体を壊していき……やがて、その身体は跡形も無く消し飛んでしまった。
その光景におもわず呆けてしまうブラッド達だったが、フィアはすかさず先程と同じ銃撃を残る小型アラガミ達に撃ち放っていく。
次々と爆発の中に呑み込まれていく小型アラガミ達、そして何度目かの爆音を耳に入れた時には。
「……思ったより、手こずったな」
フィアのそんな呟きと共に、周囲のアラガミ達は肉片一つ残らず消滅してしまっていた。
『…………』
誰もが、何も言えずフィアの見る事しかできなかった。
凄まじい強さを目の当たりにして、呆ける事しかできなかったのだ。
「――みんな、次は地上に行こう」
「えっ、あ……」
いつもと同じ、彼の澄んだ優しい声。
それを聞いて、ブラッド達は現実へと戻る。
――同時に、フィアの強さと
彼は普通の神機使いではない、幼き頃から狂った父親によって怪物にされ続けてきたのだ。
その結果、彼は人としての思考と外見を持ちながらも、内側は酷く歪で……恐ろしい。
彼のこの凄まじいまでの力が再び暴走してしまったら――そこまで考え、ブラッド全員は己を恥じた。
そんなくだらない事を考えている場合ではないし、何より考える必要など無いのだ。
彼はブラッドの隊長であり、大切な仲間であり、失いたくない存在。
たとえ再び彼の中のアラガミが暴走した所で、また止めればいいだけだ。
(……良い絆を、育んでいるようですね)
ブラッド達の心中を理解したアリサは、口元に優しげな笑みを浮かべていた。
とにかくここでの戦いは終わりだ、空中戦で大分極東支部から離れてしまったが、この輸送機はまだ飛べる。
急いで極東に戻り、地上で戦っているローザ達の援護に……。
「―――!!?」
ぞわりと、アリサの全身が悪寒に包まれた。
一体何に対するものだったのか、それは彼女にもわからない。
わからないが、決して無視してはならぬものだと本能が訴えていた。
「アリサ、どうしたの?」
「っ、いえ……なんでもありません」
嫌な予感は、決して拭えない。
しかし今はこの悪寒の正体を突き止めている余裕は無い。
そう自分に言い聞かせ、アリサはブラッド達と共に一度輸送機の中へと戻っていった。
To.Be.Continued...
暫く戦いが続きます。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。