神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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アンノウンとの戦いは終わった。
しかし選定の時はすぐそこまで迫っている。

……そして、フィア自身の未来が決まる選択も、すぐそこまで迫っていた。


第3部捕喰164 ~孤独な道へ~

――地獄を見た。

 

あの時の、僕に何の力も無かったあの時のものとは違う。

広がるのは何処までも続いていると錯覚してしまうほどの荒野、その中で倒れている多くの人間達。

身体から流れている血によって大地は赤く染まり、客観的に見てもその出血量は手遅れだと判断できるものだった。

 

――地獄を、見た。

 

物言わぬ死体達に、ゆっくりと近づいていく。

倒れているのは、まだ若い少女や青年達。

この時代では決して珍しくもない、けれど本来はあってはならない光景。

……だけど、それよりも。

どうして、倒れている者達が……僕のよく知っている人達なのか。

 

――ブラッドの、みんななのかが理解できない。

 

ピクリとも動かず、息もしていない。

近くで見なくてもわかる、みんな……死んでいた。

どうして、何故、浮かぶ疑問は数え切れずに僕の脳裏を圧迫していく。

いつも元気なナナも、物静で優しいシエルも。

ちょっと無愛想なギルも、騒がしいロミオも、みんな……。

 

『――お前が居たから、みんな死ぬんだ』

 

脳裏に響く声。

無機質で、不気味で、でも決して頭から離れない声。

 

『この光景はいつか訪れる未来の姿、お前がブラッドに居る限り……いずれみんな死ぬ』

 

声が、笑う。

残酷な未来を告げながら、愉しそうに笑う。

 

『お前、まさか自分が普通に生きられると思っているのか? だとしたらお笑いだ。

 ――忘れるな。お前の罪を、お前の生きる意味を』

 

『お前は本来生きていてはいけない化け物だ、多くの罪なき子供達を殺し、喰らい、無様に生き延びた化け物だ』

 

『そんなお前が仲間達と生きる? 無理だよそんなのは、お前にできるのはアラガミを殺して殺して殺し尽くして、少しでも多くの戦えぬ人間の為に戦って死ぬことだ。

 幸せになるなんて許されない、誰かを幸せにする事なんてできるわけがない』

 

耳を塞ぐ、聞きたくないと意識を逸らす。

それでも声は決して僕を逃がさない、まるで呪詛のように僕の内側から語りかけてくる。

やめろ、やめてくれ、そんな事改めて言われなくてもわかってる………!

 

『わかっていない。お前はブラッドのみんな…極東のみんなと過ごす内に自らの幸せを望んだ』

 

『自分の罪も忘れて、幸せになろうとしたんだ』

 

声は消えない、消えてくれない。

……だけど、その言葉を否定する事もできなかった。

僕には幸せになる権利なんかない、そう思っていたのに……気がついたら、幸せになる事を望んでいた。

そんな権利なんか、ある筈が無いのに。

 

『――だったら、自分が何をすればいいのかわかるよな?』

 

僕のすべき事……しなければならないこと。

そうだ、僕がすべき事は決まっている。

アンノウンは倒れた、後は――僕と同じ、否、僕以上の化物を止めるだけ。

そうすれば今起こっている問題は一応の解決を見せる筈だ、だったら……。

 

 

「―――だったら、行かないと」

 

 

白い天井を視界に入れながら、フィアは呟きを零す。

上半身を起こす、自分の今居る場所が自室だと理解しながら、彼はベッドから降りた。

すぐさまブラッドの制服に身を包み、ミッションに向かう際に持っていくバックパックの準備を始める。

バックパックを腰に身につけ、自室を後にするフィア。

そのまま彼はヒバリの居るミッションカウンターに…ではなく、神機保管庫へと向かった。

 

「…………」

 

周囲に人の姿は無い、気配を殺しながらフィアは自分の神機が建て掛けられているアームの元へ。

改めて周囲に人の姿がない事を確認してから、フィアは自らの神機を手に取り神機保管庫を後にする。

 

「…………」

 

ほんの少しの恐怖と後悔が、フィアの中で生まれていく。

やめろ、行くな、そんな内なる声が聞こえてきて…フィアはそれらに無理矢理蓋をした。

行かなければならない、それが自分の役目だ。

必死にそう言い聞かせながら、フィアは神機を持ったまま外へと続くゲートの前に辿り着いた。

重苦しい機械音を響かせながら、ゲートが開いていく。

外の景色が見え始め、フィアはアラガミが闊歩する外の世界へと向かおうとして…一度立ち止まり、アナグラへと振り向いた。

 

「……ごめんね、みんな」

それは、何に対する謝罪だったのか。

フィア自身も理解できず、彼はそのまま外へと出て。

 

――ラケルをこの手で始末するために、単身でフライアへと向かったのだった。

 

 

 

 

「…………」

コンソールを凄まじい速度で操作する1人の少女、シエル・アランソン。

モニターにはブラッドバレッドに関する今までの戦闘データが記載されており、彼女は真剣な瞳でそれに目を通しながら知らず小さな溜め息をついた。

 

(ダメですね……現状では、“フルーグル”以上の破壊力を持ったブラッドバレッドの作成はできない……)

 

破壊力、射程距離、貫通力、連射性、消費OP。

様々な能力を総合した結果、“フルーグル”が一番能力が優れたブラッドバレッドだという結論に達した。

しかし同時に、“フルーグル”以上のブラッドバレッドを作成するのは不可能だという結論も出てしまった。

……それではダメなのだ、あれが限界であってはならない。

もっと強い力が無ければ……フィアを守ることはできないのだから。

 

フィアは際限なく強くなっている、現段階でもブラッドの誰よりも強いのだから。

だが、彼だけが強くなってしまえば…彼を守れる者が居なくなるということ。

そうなれば彼は1人になってしまう、強くなるということは孤独になるということでもあるのだ。

もう彼を1人にするわけにはいかない、彼はずっとずっと悲しみの中で生きてきたのだから。

たとえ彼と同じ領域に達する事ができなくても、せめて彼を支えられる強さを身につけなければ……。

 

「――シエルちゃーん、いるー?」

「っ、ナナさんですか? 今開けます」

外から聞こえたナナの声で一瞬身体がビクッと反応しながらも、シエルは立ち上がり入口の扉を開ける。

「あ、もしかして何かの作業中だった?」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりどうしたんですか?」

「あー……えっと、シエルちゃんの部屋に、フィアいない?」

「フィアさん、ですか? いえ、今日は一度も会っていませんが」

少しキョトンとしながらそう答えると、ナナの表情が曇っていった。

 

「ナナさん、どうかしたんですか?」

「いや、その……実はね、さっき一緒に朝ごはんを食べようとフィアの部屋に行ったんだけど、居なかったの」

「居なかった?」

「うん。でもヒバリさんやフランちゃんに訊いてもミッションに行ったわけじゃないって話だし、だとしたらシエルちゃんの所かなあって思って……」

「…………」

 

フィアが、いない。

何故だろうか、その話を聞いた瞬間、シエルの内側で警鐘が鳴り響いた。

考え過ぎだと己に言い聞かせても、嫌な予感は決して消えてはくれない。

 

「シエルちゃん?」

「……ナナさん、フィアさんを捜しましょう」

「えっ?」

「何か………嫌な予感がします」

 

 

 

 

「………あら、まさか1人でやってくるなんて」

 

場所は変わり、フライア内部にあるラケルの研究室――

とある来訪者の存在に気づき、ラケルは無機質な表情に笑みを浮かばせる。

仮面のように張り付いた笑みのまま、彼女は車椅子を動かしある場所へと向かった。

向かった場所は――神機兵保管庫。

既にそこは保管庫というよりも神機兵の亡骸が打ち捨てられた墓場に近く、その中心で――ラケルは“彼”を迎え入れた。

 

「ようこそ。1人で来るのは想定外でしたが、私にとってはとても嬉しい事よ。―――フィア」

「…………」

自分に対し、絶殺の意志を込めた視線と両手に持った神機を向けてくるフィアを前にしても、ラケルの表情は先程の不気味な笑みから変化は無い。

「……ジュリウスは、どこだ?」

「そう慌てなくても大丈夫よ。それより……どうして1人で来たのかしら?」

「…………」

「今のあなたはブラッドの皆に甘えている、だというのにどうしてたった1人で来たのかしらねえ?」

「……質問に答えろ」

次に余計な事を言えば容赦なく斬る、フィアの瞳がそう告げていた。

それでもラケルは動じない、ますますその無機質で不気味な笑みを深めながら……口を開く。

 

「――今更、恐くなってしまったの?」

「――――」

その問いかけだけで、フィアの身体はまるで凍りついたかのように動かなくなった。

 

「ブラッドの皆と共に戦い過ごす内に……1人になるのが恐くなってしまったのね」

「何を……」

「自分の罪を忘れて、幸せになろうとしたのでしょう? ――マリア・ドレイクの犠牲すら忘れて」

「――――」

 

限界まで目を見開き、ラケルを見つめるフィア。

その表情には驚愕と…確かな恐れが刻まれており、それを見てラケルは本当に嬉しそうに笑った。

まるでフィアの内側に宿った恐れと後悔を噛み締めるように、自分の言葉一つで何もできない子供のような弱々しい反応を見せた彼を、ラケルは慈しむように…嘲笑った。

 

「それは決して許されない、なのに……そんな事を望んでしまうだなんて、あなたはどこまでいっても“人間”のままなのね」

「……違う。僕は…マリアの事を忘れた事なんて一度も」

「ええ、そうでしょうね。でも自分以外の子供達全ての命を見捨てて…それでも生き延びたのに、自分の幸せを望んでしまった」

「それ、は………」

「ふふふ、私は責めている訳ではないの。だって幸せを望むのは生きている限り誰だって当たり前のように考えてしまうものなのだから。

 けれどそれは普通の人間の話、人間ではないのに……そんな事を考えてしまえばあなた自身の存在そのものが瓦解してしまう。だからこそたった1人でこのフライアに来たのでしょう?」

「――――っっっ」

 

ダメだ、これ以上ラケルの話を聞いてしまえば戦えなくなる。

そう判断したフィアは、すぐさま全身に力を込めて地を蹴りラケルへと肉薄した。

右手に持ったニーヴェルン・クレイグの刃をラケルの身体に容赦なく叩き込み――彼女の姿が消えてしまった。

 

「っ、ホログラフ……!?」

「あらあら、普段のあなたならすぐに気づく筈なのに、随分と心を乱されてしまっているのね」

「っっっ」

周囲を見渡すフィア、しかしラケルの姿は見当たらない。

「――彼はこの世界の新たな秩序となり、王となり、神となる。その為には贄が必要なの。だからフィア、あなたに最期の任務を与えるわ」

 

―――ジュリウスの、贄になりなさい。

 

今まで以上に冷たいラケルの声が、保管庫全体を包む。

刹那、上空からフィアの前に何かが落ちてきた。

落ちてきたのは、四速歩行の機械まみれの怪物だった。

巨大なロボットのようなそれはしかし、全身がオラクル細胞で構成されている“アラガミ”だ。

けれどただのアラガミではない、フィアが感じ取ったこの感覚は――神機兵とよく似ている!!

 

「くっ………!」

身構える、とにかく今は目の前に現れた新たな脅威をなんとかしなければ。

自らにそう言い聞かせ、フィアは現れたアラガミ――零號神機兵に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うっ…………」

 

痛みと気だるさによって、ジュリウスは目を覚ます。

意識を取り戻し、倒れていた自分の身体を起き上がらせようとしたが…それは叶わなかった。

 

「く、そ………」

 

意識は完全に覚醒し、自分の身に何が起こったのかをジュリウスは完全に思い出した。

首だけを動かし周囲を見渡す、視界には神機兵の残骸が無造作に転がっていた。

どうやらここは破棄された神機兵の謂わば“墓場”と呼べる場所のようだ。

そんな所で倒れている事を理解し、ジュリウスは自分自身を嘲笑うかのような笑みを口元に浮かばせる。

 

「……神機兵を支配する王気取りだったが、自分が支配されていた側とは……笑い話にもならないな……」

 

情けなさと悔しさで、どうにかなってしまいそうだ。

……だが、いつまでも自分の愚かさを嘲笑っている余裕はない。

既に黒蛛病の進行を表す痣のようなものは、ジュリウスの全身に広がっている。

終わりの時は近いだろう、しかしこのまま黙って死を待っているわけにはいかない。

 

「……ラケルを、止めなくては……!」

 

それが、死に体となった自分にできる唯一の贖罪。

そんなもので己の罪が消えることはない、だがせめてラケルを止めなくては文字通り無駄死にだ。

だからジュリウスは最後の力を振り絞り、元凶のラケルを己の命と引き換えに止めようとして。

 

「―――なんだよ。まだ目覚めてないの?」

彼の前に、あってはならない存在が現れた。

 

「っ、アン、ノウン………!」

「やっほー…ごぶっ、あー……クソ、もう保たないな……」

 

ジュリウスの前に現れたアンノウンだったが、既に身体は半ば崩壊していた。

両腕は無く、右足も根元から千切れてしまっている。

身体の至る所には風穴が開き、全員が黒く炭化してしまっていた。

正直生きていると表現するにはあまりにも酷い状態だ、本当は死んでいてそれでも動いているのではないかと思ってしまう。

そんなアンノウンが、倒れたままのジュリウスの前で止まった。

 

「しょうがないなあ……目覚めを手伝ってやるか」

「何を、言って………」

「星の意志は…もう、決まってる、世界は、一度…変わらなきゃいけないん、だよ」

アンノウンの身体が、ジュリウスに触れる。

「っ、な、に………!?」

刹那、ジュリウスの身体が激しく躍動し始めた。

 

「ぐ、ああああああああ………!?」

急速に身体が作り変えられていくような、絶大な不快感。

堪らず叫び声を上げ、ジュリウスの意識は一気に落ちていく。

必死にそれから逃れようとしても叶わず、完全に彼の意識が途切れる瞬間。

 

 

「――バイバイ、カズキ。楽しかったよ、本当にね」

心から、別れを惜しむようなアンノウンの呟きが、聞こえた気がした――

 

 

 

 

To.Be.Continued...




物語もクライマックスに近づいてきました。
少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。
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