己の弱さを思い知った彼女は、カズキに特訓を願うのだった……。
「私に――もう一度戦い方を教えてください!!」
「…………」
「へ……?」
アリサの言葉に、コウタはキョトンとした。
戦い方を教えてほしい、アリサはカズキにそう言った。
(戦い方も何も……アリサ強いじゃん)
それなのに、どうしてそんな事を言うのかと思ったコウタだが。
「……僕より、リンドウさんの方が適任じゃないかな?」
カズキは疑問に思う事はなく、アリサにそう告げる。
しかし、アリサは首を横に振って言葉を返した。
「新型の戦い方なら、カズキの方が適任だと思ったんです。
――もう、あんな事がないように強くなりたい。カズキが私を守ってくれたように……私も、あなたや誰かを守れる強さが欲しいんです!!」
「…………」
アリサのアクアブルーの瞳が、カズキを見つめる。
……この子の想いは、本物だ。
その瞳を見れば、カズキだって理解できた。
だから――カズキはアリサの願いを聞き入れ、しっかりと頷きを返した。
「……わかった。僕でいいなら協力するよ」
「ありがとうございます!!」
地面についてしまうのではないかと思えるくらい、頭を下げるアリサ。
それに苦笑しながら、カズキは視線をコウタに向ける。
「コウタ、リンドウさんを見かけたらアリサちゃんと一緒にミッションに行ってるって言っておいてくれないか?」
「おぅ、気をつけてな」
頷きを返し、カズキはアリサと共に受付のヒバリの元へと向かう。
それを何気なく見つめながら、コウタは思った。
「……いいなぁ、カズキの奴アリサともフラグ建てたのかよ……」
――雨が、2人の身体を濡らしていく。
カズキ達が向かったのは平原エリア、ここでシユウの討伐ミッションを受けたのだ。
「…………」
「………恐い?」
アリサの神機を持つ手が震えている事に気づき、カズキは優しく声を掛ける。
「い、いえ……大丈夫です」
「無理しないで、ほら」
「あっ……」
カズキの右手が、アリサの手を優しく包み込んだ。
恥ずかしさから顔をほのかに赤く染めるアリサだが、嫌がる事はなく黙ってカズキのされるがままになる。
すると、不思議と少しだけ震えが止まり緊張がほぐれてくれた。
「あ……ありがとうございます」
「気にしないで。……それより、来るよ」
「えっ―――」
カズキの視線を追うように、アリサはある方向へと視線を向けた。
そこに居たのは――アラガミ、シユウ。
向こうもこちらに気づいたのか、まっすぐ向かってくる。
「は、ぁ―――」
震えが再発する。
恐い恐い恐い恐い……!
トラウマが頭にフラッシュバックし、口を押さえていないと叫んでしまいそうだ。
(動け、ない……!)
アラガミに対する恐怖心が、アリサから戦意を奪い動きを縛る。
「死にたいのか!!」
「―――っ」
初めて聞いたカズキの怒声に、アリサはビクッと身体を震わせながらも、我に返る。
見ると、眼前には既にシユウの両腕羽が迫り。
アリサに当たる前に、カズキが装甲を展開して防いだ。
「ひゃ―――!?」
後ろに後退しながら、アリサの腰に手を回し抱きかかえ跳躍するカズキ。
「アリサちゃん、自分に負けないで。君はこんな事で負けたりするような弱い子じゃない。僕も傍にいるから、自分を信じて戦うんだ!!」
「………カズキ」
――シユウが迫る。
(…………私、は)
逃げれない、逃げるわけにはいかないのだ。
自分の為に傍に居てくれるカズキの為に。
何より――もう二度と、あんな愚かな事をしないように、強く!!
(強く、なるんだ……私は、もっと強く―――!)
シユウの両腕羽から、火炎球がアリサ目掛けて放たれる。
その、瞬間――
「っ、やぁ―――!」
顔をキッと上げ、その場で跳躍、火炎球を回避する。
空中で神機を可変、氷属性のレーザーをシユウの頭へと連射した。
「グゥゥ……! グォォォォッ!!」
呻き声を上げながら、シユウは後ろに跳躍、両腕羽を広げ滑空攻撃を仕掛ける。
「こ、のぉ―――!」
着地と同時に剣形態へと変形させ、アリサは装甲を展開――させるのではなく、なんと刀身を天高く掲げ力任せに振り下ろした―――!
「グォォォッ!!?」
「きゃぁぁぁっ!!?」
吶喊してくるシユウの頭部に、アリサの剣がぶつかり合い、シユウは頭部から血を流しながら倒れ、アリサはぶつかり合った衝撃により地面を滑りながら吹き飛んでいった。
だが、その途中でカズキがアリサの身体を抱きかかえ衝撃を殺す。
「アリサちゃん、無茶するね……」
「こんなの、無茶の内に入りません!! それに、強くなるのに……多少の無茶は必要です!!」
(……凄い気合い)
おしとやかなイメージがあったアリサだが、こういうアグレッシブな面もあるらしい。
まあ、それもまた魅力的かもしれないが。
「それより、来ますよカズキ!!」
「―――うん!」
立ち上がり、剣を構える2人。
度重なるダメージからか、シユウは怒りで活性化していた。
「アリサちゃんは右に、僕は左から攻める!!」
「は、はい!!」
まだ、アリサの手は震えたままだ。
だがそれでも、自分を信じてくれるカズキの為に、内なる恐怖に打ち勝たなければ。
「グァオォォッ!!」
左右から攻めてくる2人を近づけさせないとばかりに、シユウは一度身体を捻りその場で回転する。
まともに受ければ肉を断ち切るそれを、2人はすぐさまバックステップで回避。
「そこです!!」
アリサは神機を銃形態へと変形させ、シユウを狙い撃ち。
「はぁぁぁ………!」
カズキはその場で力を込め、チャージクラッシュの準備に入る。
「グァァァァッ!!」
遠距離から攻撃してくるアリサに、シユウは狙いを定めようと身体を向ける。
……それで、終わりだ。
「今です、カズキ!!」
アリサの声に頷きを返し、カズキは。
「だりゃぁぁぁっ!!」
裂帛の気合いを込め、濃い紫のオーラによって伸びた刀身を、シユウの頭部に叩き降ろす―――!
その一撃は、シユウの頭部から胸辺りまでを両断させ。
「くっ――あぁぁぁぁぁっ!!」
力任せに、神機を振り下ろし、シユウの身体を2つに分けた。
「………ふぅ」
「はぁ…はぁ……」
シユウのコアを摘出し、戦いが終わったという事を自覚して、アリサはその場に座り込んでしまった。
「……アリサちゃん、大丈夫?」
「は、はい……」
……ダメだ、やはりまだ恐怖を拭いきれない。
もっと経験を詰み、この恐怖を完全を克服しなければ、自分は変われない。
「………そんなに焦らなくても大丈夫だよ」
「あ……」
帽子越しに、カズキの手がアリサの頭を撫でる。
優しい手つきに、アリサは目を細め力を抜いた。
「ゆっくりやっていけばいいさ、焦っても結果を得られるわけじゃない。僕でよければまた付き合うから、今は生き残った事に感謝すればいい」
「………はい」
嬉しい。
自分が欲しい言葉を、彼はいつだって与えてくれた。
それに、こうして撫でられていると……本当に安心できる。
恐いものも、全部居なくなってくれる。
「さあ、そろそろ帰ろう」
アリサから一歩離れ、手を差し出す。
それを少し残念そうに思いながらも、アリサは頷きを返しカズキの手を握りしめた。
「――あ、あの。ちょっといいですか?」
「えっ……?」
報告書を書かないといけないからと言って、カズキがアリサと別れた矢先。
少し遠慮がちに、カノンがアリサに声を掛けてきた。
「はい、何でしょうか?」
少しだけ警戒しつつ、アリサはカノンへと身体を向けた。
すると、カノンは口を開いては閉じ開いては閉じを何度か繰り返し……言葉を放った。
「その……カズキさんの事、どう思っているんですか?」
「…………」
数秒、カノンの言葉を理解するのに時間を要した。
そして、その言葉を理解した瞬間――アリサの頬が赤く染まる。
「えっ、あ、な、何を言ってるんですか!?」
どうしていきなりそんな事を訊くのか、若干混乱しつつも言葉を返すアリサ。
見れば、カノンも顔を赤くしている。恥ずかしいなら訊くなよと言ってやりたい。
「せ、宣戦布告です!! カズキさんは、その……渡しませんから!!」
「はぁっ!?」
「あぅぅ……えっと、えっと……」
「あ、あの……少し落ち着いてくれませんか?」
このままでは会話が成り立たない、あぅあぅと混乱しているカノンを見て幾分か冷静さを取り戻したのか、呆れた視線を向けるアリサ。
一体、彼女は自分に何が言いたいのだろうか、そう思っていたら再びカノンが口を開く。
「そ、その……最近カズキさん、アリサさんと一緒に居るのが多いですし、アリサさんもカズキさんと一緒に居ると楽しそうですし……」
「…………」
ああなる程、とアリサはようやくカノンの言いたい事を理解する。
要するに、彼女は好意を抱いているカズキが自分にばかり構っているのが不安で仕方ないらしい。
「……カズキは、私の特訓に付き合ってくれているだけで、別に深い意味はないんですよ」
「……本当に?」
「本当です」
「これっぽっちも?」
「そうです」
「………そう、ですか」
きっぱりと言い放つとようやく納得してくれたのか、カノンはほっとしたような表情を見せた。
いきなり何なんだと言ってやりたいアリサだったものの……先程自分が言った言葉に、若干傷ついている自分に気づき驚いていた。
――深い意味はない。
当たり前だ、というより命懸けの戦いをしているのに深いも浅いもないではないか。
……でも、何故だろう。
何だかわからないけど……ひどく面白くない。
アリサ自身もわからないが、深い意味が無いという事実が面白くなかった。
「あの……どうかしました?」
「っ、いえ……なんでもありません」
何を考えているんだ、理解できない自分の感情に戸惑いつつも、忘れる事にする。
「す、すみません早とちりしちゃって……」
「いえ、でも……カノンさんってカズキの事……」
「うぅー……内緒ですよ?」
真っ赤な顔をして言うものだから、おもわずアリサも頷いてしまった。
まあ、もちろん無闇に話す気など無いが。
(そっか……カズキ、優しいもんね……)
まだカズキが極東支部に来て半年足らず、それでも彼は周りから好印象に見られている。
(私も、カズキに負けないように頑張らないと………!)
失った信頼は、必ず取り戻す。
固く決意を誓い、アリサはその場で拳を握りしめた。
――僅かに自分の胸に走る、小さな痛みに気づかないまま。
To Be Continued...