……本当に平和である、誰がなんと言おうと平和なのである。
………平和なんだってば。
「――お前等、今日は足について語るぞ!!」
しょっぱなからとんでもなくくだらない事をほざきやがったのは、極東のエロ兄貴こと真壁ハルオミであった。
ラウンジの隅にあるテーブル席に集まる四人の男達、ハルオミにコウタにロミオ、そして例の如く無理矢理連れてこられたフィア。
ああまたこれか、内心大きな溜め息をつきながら3人を冷たい目で見つめるフィアは、もう好きにしてくれといった様子でコーヒーを啜る。
どうせこちらの言い分など無視されるのだ、だったらもう流れに身を任せながらムツミの用意してくれたコーヒーと菓子に舌鼓を打っていた方が良いに決まっている。
フィア・エグフィード13歳、既に彼は大人の対応…というか諦めの経験をすっかり体験してしまっていた。
それが良い事なのかはともかくとして、今日の話題はハルオミの言ったように女性の足らしい。
「コウタ、お前……生足派か? それとも何か身につける派か?」
さっそくとばかりにエロ話題が開始される。
ハルオミに問われたコウタは、待ってましたと言わんばかりの表情で自分の性癖を吐き出した。
「俺はやっぱりパンストで、色は黒っすね!!」
ぐっと握り拳を作りながら恥ずかしげも無く言い放つコウタ、ある意味で男らしいが傍から見たらドン引きである。
コウタの意見にハルオミは「いいねー」と賞賛をするが、ここで意義を唱える少年が居た。
「黒も悪くないと思いますけど、オレはガーターで白ストが最高だと思います!!」
意義を唱えた少年、ロミオはこれこそが正義だと言わんばかりの口調で自分の性癖を暴露。
これもドン引きものである、彼等がわざわざ人が集まりにくい端のテーブル席を利用している理由がわかるだろう。
まあ尤も、今回のような事は既に数回行われているので、他の者達(特に女性局員)は敢えて近寄らないようにしているのだが。
「ぬうっ、ガーターに白スト……それも捨てがたいな、さすがロミオ!!」
「いえいえ、コウタさんのも十二分に魅力的な組み合わせだと思いますよ」
「2人とも成長したな、だがニーソとミニスカ装備の“絶対領域”も良いと思わないか?」
『それだ!!』
それだ、じゃねえだろぶっ飛ばすぞ。
口には出さず心の中でそう思いながら、フィアは自分の中に少しずつストレスが増えていくのを感じていた。
三馬鹿のエロ談義は続いていく、アナグラは今日も平和である。
「あ、そういえばさ……最近このアナグラに帰ってきたっていう元第一部隊の……えっと、ソーマさんでしたっけ?
その人のすぐ傍に居るシオって子、結構可愛いですよね。それにあの健康的な生足はなかなか……」
「……ロミオ、気持ちは判るがあいつはやめておけ、命が惜しいのならな」
「えっ!?」
コウタの言葉に、ロミオは当然ながら驚いた。
あまりにも物騒な言葉が返ってきたのだ、どうしてなのか彼は当然問い返す。
しかし返ってきたのは「世の中には知らない方がいい事もある」という無駄に達観した答えであった。
余計に困惑するロミオであったが、コウタだけでなくハルオミの神妙な面持ちで頷くものだから、なんだか恐くなってシオの事は考えないようにした。
賢い判断である、もし彼女の事をこのバカエロス談義の話題に上げてしまえば、もれなく褐色博士が吶喊してくるからだ。
なんとも微妙な空気になってしまったがそこは三馬鹿トリオ、すぐさま元の状態に戻りエロスに華を咲かせていく。
その後は足関係から胸、二の腕、尻と多岐に渡り、フィアがコーヒーを二十杯ほど飲んでもいまだに終わりを見せない。
もうこいつら本当にアラガミの群れに放り込んでやろうか、割とマジでそうフィアが思い始めていた頃、彼にとって救世主になるかもしれない青年が姿を現した。
「――コウタ、フィア、こんな所に居たの?」
「あれ、カズキどうした?」
現れたのは“最強のゴッドイーター”と名高い抗神カズキであった。
彼の登場にエロ談義は中断され、4人の視線が彼に向けられる。
余談だが、フィアのカズキに向ける視線がかなり熱かったのは別の話。
別に変な意味ではない、ただ彼の登場によってこのくだらない空間から抜け出せるという期待からくるものだ。
だがしかし、カズキはフィアにとっての救世主にはなれなかった。
「よしカズキ、お前も参加しろ!!」
「は……?」
「お前、生足がいいのか? それともガーター? パンストも捨て難いよな!?」
「………あの」
詰め寄ってくるハルオミに困惑しながら、とりあえず……カズキは右手で握り拳を作った。
まずは落ち着いてもらわなければ会話にならない、なのでカズキはハルオミの右頬を容赦なくぶん殴った。
別に詰め寄ってくる彼がとてつもなく不気味でウザかったわけではない、ただ冷静になってもらいたいだけで他意はない、ええ決して。
ぶべらっ、というひどい悲鳴を放ちながらぶっ飛んでいくハルオミ、ちょっとやり過ぎた感が否めないが不思議とカズキの中に罪悪感は一片も生まれなかった。
「……また変な話題で盛り上がってるの? フィアまで巻き込んで……」
「誤解だカズキ、俺達はただフィアに女の子の素晴らしさを教え、そして仲間達で己の趣味を語り合うという崇高な会話をしているだけだ!!」
「モノは言い様だね、本当に」
「………くっくっく、そんな事を言ってもいいのかねカズキくーん?」
ハルオミが立ち上がり、不気味な笑みを浮かべている。
ただ鼻から血を流しているから、どう見ても滑稽にしか見えないのはご愛嬌。
「俺達の会話に参加しないというのなら、今すぐアリサに「今夜、激しく燃え上がろう」って言うぞ!!」
「なっ!? そ、それだけはやめろ!!」
ハルオミの言葉に、つい敬語すら忘れてしまう程語尾を荒げてしまうカズキ。
しかし彼にとっては今の言葉をアリサに伝えてしまえば色々と大変なのだ、なにが大変なのかは残念ながら表現できないが。
勝ち誇った笑みを見せつつ通信機を取り出すハルオミ、コウタとロミオもさり気なく彼を逃がさぬように移動している。
……仕方ない、本当は嫌だがもはや敗北は決まってしまった。
「…………わかりましたよ。けどあまり時間は掛けれませんからね」
「カズキ愛してるー!!」
「殺すぞコラ」
「あ、ハイ。すみません……」
本当に嫌そうに、渋々とソファーに腰を降ろすカズキ。
さて早速先程の質問を答えてもらおうか、ニヤついた三馬鹿はそう思っていたが…その前に、フィアはカズキに声を掛けた。
「ねえ、カズキ。さっきの言葉をアリサに伝えたら何か問題でもあるの?」
「………フィア、いずれわかるかもしれない事だから、僕の口からは説明させないで」
「???」
さっぱりわけのわからない返答を返され、フィアは首を傾げた。
ただ、カズキの哀愁漂う表情を見せられてしまえば、フィアとしてもそれ以上何も言えない訳で。
「それでカズキ、お前……奥さんにどんな性癖を向けているんだ?」
「……足の話じゃありませんでしたっけ?」
「それもある。でもそれだけじゃ満足できん!!」
『そーだそーだ!!』
(うぜえ……)
「まあまずは足関係だな。たしかアリサはよく黒ストを履いているが……あれはお前の趣味か?」
「人の奥さんの足を観察しないでください、あれは僕の趣味ってわけじゃなくて、アリサが昔から着慣れているからってだけです」
クレイドルの活動が忙しく、アリサは18という若さでありながらあまりお洒落といったものをしていない。
だから自然と身につけるものは昔と変わらないのだ、その事に夫として申し訳なく思うが致し方ないと言えよう。
「で、お前はそれで満足なのか?」
「満足とかそういう次元の話じゃないですよ、まあ………好きだというのは否定しませんが」
「おおっ、やけに素直じゃないのカズキくん」
意外な反応に驚きつつも喜ぶハルオミ。
別にカズキはこの三馬鹿のように自分の性癖をオープンにしたいわけではない、ただ早く終わらせたいから否定しなくなっただけだ。
人はそれを諦めと言うが、そうしなければならない状況なわけで。
少なくとも嘘は言っていない、彼女の黒スト(+ガーターというコンボである)姿はカズキにとって興奮…ゲフンゲフン、大変魅力的な姿である事は間違いない。
「カズキさん、白ストにガーターというのもいいと思いません?」
「アリサはミニスカ着用だから、ニーソを履いて“絶対領域”っていうのも悪くないと思わないか?」
「………否定はしません」
三馬鹿の空気にあてられたのか、答えなくていい質問まで答えていくカズキ。
と、彼はチラリと時計を見て……勢いよく立ち上がった。
「コウタ、フィア、そろそろ支部長室に行くよ」
「へ?」
「支部長室……なんで?」
「サカキ博士が呼んでいるんだ、というか元々僕がここに来たのだってそれを伝えようとしたからなんだよ」
だというのに、こんなバカエロスな会話に付き合わせやがってコノヤロウ。
そんな副音声が聞こえてきたような気がして、三馬鹿は漸く自分達の愚かさを自覚し震え出した。
その無様な姿を見れて満足したのか、「それじゃあ失礼します」と言ってカズキはフィアとコウタを連れてラウンジを後にする。
震えながら後ろからついてくるコウタを無視しながら、カズキは移動中フィアに声を掛けた。
「フィア、本当に嫌なら強引に断ってもいいんだよ?」
「……大丈夫、確かにイラッとする時はあるけど、楽しそうなみんなを見ると…僕も楽しくなるから」
「………そうか」
ならばこの質問は終わりにしよう、そう思いカズキは口を閉じ歩を進めていく。
エレベーターに乗り、サカキが居る支部長室へ。
ノックをして部屋に入る3人、中に居たのはこの部屋の主であり極東支部の支部長であるペイラー・榊、そして……懐かしい男が3人を迎え入れてくれた。
「よおお前等、久しぶりだな」
「あっ! リンドウさん!!」
「相変わらず元気そうで何よりだ」
「…………」
初めて見る人だ、コウタと仲良さそうに話す男に視線を向けるフィア。
年齢は自分よりも一回り以上年上だろう、僅かに口元には皺が見えるが内面から溢れ出す覇気と生命力は凄まじいの一言だ。
かなり強い、神機使いとしての能力は超一流と判断できる。
ただ彼が浮かべている人懐っこい笑みを見るだけでは、なかなかに信じられないが。
と、彼の視線がフィアに向けられた。
「おっ? お前さんが噂のブラッドの隊長さんか? 俺は雨宮リンドウ、フェンリル極東支部独立部隊「クレイドル」のメンバーだ」
「フィア・エグフィード、よろしくねリンドウ」
「ああ、まあ旧型だがお前さんの足を引っ張らないように頑張るからよ。でもあまりオッサンを酷使しないでくれな?」
冗談めかした口調でそんな事を言ってくるリンドウに、フィアはおもわず笑ってしまう。
こっちの緊張を解してくれようとしているのだろう、本当に極東は色々な意味で…変わった神機使いが多い。
「彼は元第一部隊の隊長、つまりコウタ君とカズキ君より前の隊長をやっていたんだ」
「今は【キュウビ】っていう特殊なアラガミを追っていたんだが……最近そのキュウビがこの極東近辺で見かけるようになったという情報が入ってな」
「それで戻ってきたんですか」
「まあそういう事だ。とにかく暫くまたこの極東で頑張らせてもらいますから、宜しく頼むわ」
「うん、頼りにしてる」
「ほほう、ブラッドの隊長さんにそこまで言われちゃ頑張らんわけにはいかねえな」
そう言って、タバコを吸おうとするリンドウ、当然ここは禁煙なのでサカキに止められた。
「…………」
「驚いた? リンドウさんってちょっといい加減な所があるけどやるべき事はちゃんとやる人だから」
「ううん、そうじゃないよ。ただ……ああいう人が“お父さん”だったら、きっと子供は幸せになるだろうなあって思っただけ」
「………フィア」
気さくで、暖かくて、ちょっと抜けてて、でも優しくて。
出会ったばかりのフィアにもわかる、雨宮リンドウという人となりを。
だからだろうか、自分と歳が離れているというのもあるけれど……リンドウの中に父性を感じたのは。
彼が父親だったら、きっと自分は普通の人間として生きれたかもしれないと思ったのは。
そう言ったら、何故かカズキに頭を優しく撫でられてしまい、フィアは首を傾げながらもされるがままになる。
――暫く支部長室にて雑談を交わしてから、フィア達は外に出る。
「あれ? アリサ」
外に出た瞬間、フィア達は支部長室前で立っていたアリサと遭遇した。
「ようアリサ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
久しぶりにあった仲間に、リンドウは先程と変わらない気さくさで声を掛ける。
だが彼女からの返答は無く、どうしたのかとフィア達が怪訝な表情を浮かべる中……カズキは、何故か冷や汗をかき始めていた。
ヤバイ、すぐにここから逃げなくては、本能がそう訴えているが――少々遅過ぎた。
「…………カズキ、ごめんなさい」
「えっ……?」
「私、いくら忙しいと言っても妻として貴方を支えないといけなかった……そして貴方の“性欲”を発散しなければならなかったんです!!」
「……………はい?」
何かを決意したような表情で、おかしな事を口走るアリサ。
この子は一体何を言っているんだろう、そう思う中でアリサが動きを見せた。
素早くカズキの前に出て、彼の両手を掴み歩き始める。
当然彼の手を掴んだまま、凄まじい腕力で彼の巨体を引っ張るように歩いていった。
「ちょ、アリサ!?」
「ハルオミさんから聞きました。カズキ……溜まっていたんですね?」
「あの変態野郎おぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!!」
「大丈夫です。今日はもう仕事はほっぽって……朝まで私が貴方の身体を満足させてみせます!!」
「ちょ、待ってアリサ、君を相手に朝までとか本当に身体が保たないいいぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
カズキの悲鳴が、エレベーターの扉が閉じると同時に聞こえなくなる。
茫然とするフィア、しかしコウタとリンドウは何故か同情するような視線をカズキが消えたエレベーターに向けながら合掌していた。
「――あのさ、カズキが医務室で寝込んでるんだけど」
「あー……きっと仕事のし過ぎで疲れてるんだよ」
「でも、アリサはものすごく生き生きしてるよ?」
「………栄養でも貰ったんだろ、きっと」
「………???」
To.Be.Continued...
なんだこれ?
な ん だ こ れ?
いや違うんですよ、今まで以上にはっちゃけようと思っただけで私は変態ではないんです、ええ本当に。
……だって、八雲伝承記は今シリアス真っ盛りだから、たまには思いっきりふざけたかったというか。
リンドウさんが帰還しただけじゃ尺が足りなかったし、なんか……ごめんなさい。
でも楽しかった!!後悔はしてないぜワハハハ!!!