楽しんでいただければ幸いです。
「うーん………」
(? リッカ……?)
神機保管庫へとやってきたギルの視線が、難しい顔をして粉々に砕かれたアヴェンジャーを見ているリッカに向けられる。
「リッカ、どうしたんだ?」
「あ、ギル。……これをね、どうやって修復しようかなって」
「………ああ、これか」
リッカと同じく、視線をアヴェンジャーに向けるギル。
……見事に砕け散っている、出来る限り破片は集めたものの既に刀身としての役割は完全に失われていた。
そもそもどうやったらここまでの破損状態になるというのか、さすがあの最強夫婦の妻だけはあると2人は妙に納得してしまった。
「これだけ破損しているとなると、通常の修理に使う素材程度じゃ全然足りないなぁ……」
一応、アリサの神機は常に修理できるように素材を多めに用意してあるが、どう考えても足りないのは明白。
しかもこれだけの破損状態となると、新規に神機パーツを作るのと同じくらいの素材が必要だ。
カズキ辺りに素材を取りに行ってもらいたいが、彼はアリサと共に最近建築を始めたサテライト居住区での任務で極東を離れてしまっている。
さて困った……うんうんと悩むリッカの視界に、自分と同じように難しい顔になっているギルの顔が映った。
「ねえ、ギル」
「……………なんだ?」
リッカの声を聞いた瞬間、ギルの第六感が瞬時に警鐘を鳴らした。
すぐさま反転し逃げ出すギル…であったが、その前にリッカに左腕を掴まれてしまった。
ギギギ…という音が聞こえそうな動きで首を回し、リッカを見るギル。
すると彼女は優しく可愛らしい笑みを浮かべていた、そこらの男など簡単に魅了できるほどの笑みであったが…今のギルには、悪魔の微笑みにしか見えない。
「お願いがあるんだけど」
「……断ったら?」
「別に無理強いはしないよ? でも……断ったら、ギルの神機が何故か不調になるだろうなあ」
「…………」
ヤバイ、本気の目をしている。
リッカの黒い面を見たギルは、神機使いは整備班には逆らえないという事実を目の当たりにしてちょっぴり悲しくなった。
結局、彼にはリッカの頼みを聞く以外の選択肢は選べないわけで。
「じゃあ、よろしくね?」
「………はい」
リッカから素材リストを受け取り、神機保管庫を後にするギル。
その背中は、哀愁に満ちていたとかなんとか……。
仕方がないので素材集めを開始しようとするギルであったが、さすがに1人で集めるのは大変なので他の神機使いに手伝ってもらう事にした。
しかしブラッドの皆は全員既に別の任務に出てしまっている、なので極東の…できれば腕の立つ神機使いに頼みたい。
そう思いながらエントランスロビーを歩いていると……なにやら珍妙な光景を目にした。
「………なんだアレ」
おもわずそう口に出してしまうほどに、ギルの視界の先にある光景はおかしなものだった。
男女数名の神機使いおよびアナグラスタッフ達が、みな一同に項垂れている。
皆が悔しそうな表情を浮かべており、中には真っ白に燃え尽きている者も居た。
一体何が起きているというのか、もう少し注意深く見ると……成る程と、ギルは納得する。
「――はいエリック、ローザ特製のクッキーだよー♪」
「あ、いや、ローザ…自分で食べれるから……」
「遠慮しない遠慮しない、それとも……口移しがいいのかなー?」
珍妙な光景の更に先にあるソファーに座る、一組の男女。
その正体は最近恋人同士になった第一部隊のローザとエリックであった。
満面の笑みを浮かべ、右手にクッキーを持ちエリックの口へと持っていこうとするローザに対し、エリックは顔を真っ赤にしながら弱々しい抵抗を見せている。
……どう見てもイチャついてます、本当にありがとうございました。
ようするにあのバカップルのラブラブを見て、ローザとエリックに対し少なからず好意を持っていた者達が燃え尽きてしまっているというわけだ。
(他所でやれよ……)
幸いにもギルはあのような光景を目にしてもロミオやコウタと違い精神的ダメージを追う事はない。
しかし、しかしだ、これからミッションを受ける者達も居るであろうエントランスロビーでやっていい事ではない。
あの抗神夫妻ですらここでは自重……しないけど、とにかくイチャついていい場所ではないのだ。
それに自分以上に哀愁漂う者達を見ていると、悲しくないのに涙が出そうになるので、ギルは勇気を振り絞ってバカップルに声を掛ける事に。
「……ローザさん、エリックさん、ちょっといいですか?」
「あーん……ってギルさん? どうかしたんですか?」
「や、やあギル君……」
どこかほっとしたような表情を浮かべるエリック、その顔は羞恥心で真っ赤に染め上がっていた。
なんとなく良い事をしたなあと思いながら、ギルは2人にリッカから依頼された素材集めを手伝ってほしいと頼み込む。
本当は話しかけてこのピンク一色の世界を払拭させたかっただけなのだが、ついでなので手伝ってもらう事にしたのだ。
それに対し2人は快くギルの願いを聞き入れた、どことなくエリックが食い気味だったのはきっと気のせいではあるまい。
そして、背後からギルを褒め称えるような視線が向けられているのも、きっと気のせいではないだろう。
「じゃあパパッと終わらせてお姉ちゃんの神機を直してあげないとね、それに……エリックとの時間、もっともっと欲しいから」
「あ、あはは……」
「…………」
急激にブラックコーヒーを飲みたくなった。
どうもローザはアリサと同じタイプだったらしく、やたらとエリックとのスキンシップを図ろうとしている。
そのせいで周囲に被害が及んでいるのは言うまでもなく、今だって数人の男性神機使い達から悲鳴と血涙が流れていた。
そんな憐れな非モテ男達に合掌を送りつつ、ギルはエリックに腕を絡めているローザ達とともに戦場へと赴いたのであった……。
「――ところでギルさんって、リッカさんと付き合ってるの?」
「……いきなりなんだ?」
ミッションを終え、回収班を待つギル、ローザ、エリックの三名。
空を見上げながら待機しているギルに、ローザのそんな質問が投げかけられた。
対するギルは若干驚きつつも、すぐさま呆れたような溜め息をつきつつローザに視線を向けた。
「付き合ってないの?」
「極東っていうのはこんなんばっかりだな……男女で行動を共にするとすぐそれに繋げやがる」
「えー、でもギルさんとリッカさん、普通のお友達のようには見えないけど……」
「整備の件で色々と聞いているから行動する時間が増えてるだけだ、それ以上でも以下でもない」
「むー……」
不満げな表情を見せるローザに、ギルは再び溜め息を吐いた。
どうして自分とリッカをくっ付けたがるのか、意味がわからない。
しかし…ローザの言葉に触発されたわけではないとは思うが、ふとギルはリッカの事を考え始めた。
あの若さで技術者としては超一流、おまけに明るく優しい人格者。
容姿だって普段は油まみれだから気づかない者も居るが、可愛らしく愛嬌のある顔立ちだ。
充分に魅力的な女性だ、それはギルとてはっきりと言える。
(……オレは、彼女をどう思っている?)
魅力的とは思っている、だが女性として意識しているかどうかは…彼自身もわからない。
自分は彼女をどう思っているのか、そもそも彼女は自分に対しどんな感情を抱いているのか。
そこまで考え……ギルは内心自分自身に失笑を送る。
自分がこんな色恋沙汰な事を考えるなど、今までなかったというのに。
(ローザの言葉で踊らされて…まったく、情けねえ)
「でも、ローザはリッカさんがギルさんに好意を抱いてると思うけどなあ」
「しつこいぞ、ローザ」
「でもでも、もし好き合ってるなら絶対にお互いの想いを伝えた方が良いと思うの! エリックもそう思うでしょ?」
「それは確かにそうかもしれないけど、ギル君が違うと言っているならあまり周りが囃し立てない方が良いと僕は思うけどね」
「むう……」
やや不満げなもののエリックの言葉が正論だと思ったのか、ローザは押し黙った。
彼の機転に感謝するギルであったが、まだエリックの言葉は終わっていなかった。
「でもギル君、この先君がリッカ君に対しどんな感情を抱くかは君自身だってわからないんだ。だからローザの言葉の全てを受け流すような事はしない方がいい」
「…………」
「女性として意識するようになったのなら、後悔する前にキチンと想いを伝えた方が良い場合もある。それだけは覚えておいてくれ」
「……わかりましたよ」
ぶっきらぼうにそう返し、帽子を深く被り直すギル。
その態度はもう話しかけるなという意味だったので、エリックもローザも迎えが来るまで彼に話しかける事は止めにした。
今の言葉はちゃんと彼に伝わっただろう、ならばこれ以上言うのは野暮というものだ。
「ところでエリック、この回収作業が終わってアナグラに帰ったら……ローザの部屋、来る?」
「ファッ!!?」
「――ふむふむ、よーしこれだけの素材があればどうにか修復できそうだよ」
「そ、そうか……そいつは、よかった……」
「………私が頼んだとはいえ、大丈夫?」
ぜーぜーと荒い息を繰り返し満身創痍になっているギルを見て、リッカはの良心がちょっぴり痛んだ。
さすがに彼にこれだけの素材集めを頼んだのは間違いだったかもしれない、カズキが割と余裕でこなした事があったから大丈夫かなーっと思ったのだ。
しかし冷静に考えたらカズキは普通ではないのだから、そんな彼と同一に考えるのは間違いだったかもしれない。
だがギルは荒い呼吸を繰り返しつつも気にするなと伝える為にリッカに向かって片手を挙げる。
とはいえどう見てもやせ我慢にしか見えず、おもわず苦笑を浮かべてしまうリッカなのであった。
「とりあえず、美味しいコーヒーでも淹れようか? もちろん私の奢りだよ!」
「……悪いな」
「そんな事ないよ、というより謝るのはこっちの方だって。普通の任務で忙しいのに脅迫するような事しちゃって……ゴメン」
「…………」
申し訳なさそうに、しおらしく謝るリッカを見て。
ギルは、なんだか自分の胸に暖かなものが流れ込んでいくのを感じていた。
それに困惑しつつも、リッカの前ではいつも通りの態度を崩さずに、彼女と共に神機保管庫を後にする。
「さーて、ギルが頑張ってくれたんだから、私達もこれから頑張らないとね」
「どれくらいで修復できそうなんだ?」
「うーん……まず刀身の八割が砕けてるから、芯金を新しく作り直して、刀身も新しくしないといけないし…アリサのパワーに耐えられるように合金に混ぜ込まないと。
それが終わっても微調整が通常の神機よりかなり掛かるから……まあ、上手くいって四日徹夜すればいけるんじゃないかな?」
「……無理をしてそれか、そんな事をすれば倒れるぞ?」
「平気平気、極東の整備班をあんまりなめないでよ? カズキ君の神機をパワーアップさせた時なんて……一週間かかって整備班の半数が病院送りになったんだから」
その時の事を思い出したのか、リッカの瞳から光が消えていく。
……あの時は本当に大変だった、というか思い出すとトラウマまで思い浮かぶのでリッカは考えるのを止めた。
「早くアリサさんの神機を直したいのはわかるが、お前等が無理をしてまで早く仕上げる事をアリサさんは望んでないと思うがな」
「うん。アリサは優しいからきっとそう思ってるよ、だけどあの子は私達の何倍も大変な道を歩んでるんだ。
私達に出来ない事もいつでも一生懸命にこなして、傷ついて、それでも立ち止まらないで……そんなあの子だからこそ、私達も全身全霊を込めて応えたいんだ」
彼女の、否、この極東の神機使いの戦う力になるのならば、いくらだって無理をできるのがこの極東の整備班なのだ。
だって自分達の頑張りを決して皆は無駄にせず、その何倍もの結果を見せてくれるのだから。
そう告げるリッカの顔はギルにはただ眩しく…美しく映った。
「……オレも、出来る限り手伝う。色々と指示してくれ」
「えっ、でも……」
「全身全霊を込めて応えたいのは、お前達だけじゃないんだぜ?」
「………ん、ありがとうギル!!」
ニカッと笑うリッカに、ギルも優しく笑みを返す。
――その後、ギルを含めたリッカ達技術班は早速アリサの神機の修復作業に取り掛かった。
最低でも四日掛かると思われたその作業も、ギルという助っ人が参入したおかげか三日で完成。
その素早い仕事振りにアリサはただ驚き、惜しみない感謝の言葉と彼等に送ったのは言うまでもない。
しかしやはり無理が続いたせいか、作業を終えたと同時にリッカとギルは同時に倒れてしまい、暫く医務室の世話になる事になってしまった。
その際、ベッドが隣同士だったせいでブラッドの皆や極東スタッフに冷やかされたのは、また別の話である。
To.Be.Continued...
「防衛班」のイベントはスルーします、理由としてはそれを入れると第4部に入るのがどれくらい先になるのかわからないからです。
さて、次はどんな話にしようかなー。