えっ、お呼びでない?
そ、そんなこと言わないで見てくださいよぉ。
「――おはようございます、カノン先輩」
「おはようございます、カズキさん」
今日もアラガミ討伐に精を出すフェンリル極東支部。
朝食を食べていたわたし――台場カノンに、1人の青年が話しかけてくれました。
この人は抗神カズキさん、半年前にこの極東支部に来ました初の新型神機使いです。
優しくて強い、とっても頼りになる後輩さんです。
……わたしは既に一年以上ここに居ますが、なんだか皆さん……既にカズキさんの方を頼りにしているような気がします。
た、確かによく誤射して皆さんに迷惑を掛けたりしてますけど……。
「……あの、どうかしました?」
はっ、いけないいけない。ちょっとネガティブ思考になってました。
何でもないですと答えてから、食事を再開する。
……でも、今日は朝からラッキーです。
だって、その……カズキさんとお話しできましたから。
っと、今日は朝から任務があるんでした。
「任務ですか?」
「はい。居住区の見回りの後は、偵察部隊のお手伝いです」
「大変ですね……」
「そんな事ないです、人手不足ですからこれくらいやらないと」
それに、いつも皆さんには迷惑を掛けてますし……これくらいは。
「なら、僕も手伝いますよ。今日は非番ですから」
「えっ、いいんですか?」
わたしとしても、とても助かる話です。やっぱりカズキさんは優しい人だなぁ……。
お願いしますと言うと、カズキさんは満面の笑みを返してくれました。
よっしゃ、すっごくやる気が出てきました!!
えへへ……カズキさんと2人だけのお仕事、楽しみだなぁ。
さて、早速居住区の見回りに行く事になったわたしとカズキさん……。
……だけ、だったはずなんですけど。
「すみませんエリックさん、手伝ってもらって……」
「構わないよ。華麗な僕の実力が必要だろうしね」
何故か、エリックさんまで見回りに参加する事になってしまいまして。
はぁ……カズキさんと2人だけがよかったのに、エリックさんのあほー。
「ところで、最近大活躍らしいじゃないか、さすが新型というべきかな?」
「いえ、まだまだですよ僕は。もっと……強くならないと」
そう言って、カズキさんは険しい表情になりました。
そこには、何か強い決意が見えて……おもわずわたしもエリックさんも黙ってしまいました。
……同じ歳なのに、わたしなんかよりずっとしっかりしてます。
「……そういえば話は変わるけどね」
少し微妙な空気を拭うように、エリックさんが別の話題を振る。
「最近、妹に同じ年頃の男友達ができたんだよ」
「妹さん……たしかエリナさんでしたよね?」
「ああそうさ、僕に似てしっかりした良い子でね、兄としては少々微妙な気持ちだけど、エリナと仲良くしてくれる子が居るのは、素直に嬉しいものだね」
そう言って笑うエリックさん、相変わらず妹さん想いですね。
「そういえば抗神クン、キミには兄妹は居るのかい?」
「―――――」
そういえば、カズキさんの家族の事……訊いた事ないなぁ。
わたしも知りたい、そう思い耳を傾ける。
「……妹は居ました、けどアラガミに……」
「………そうか。申し訳ない」
「いえ、もう昔の事ですから大丈夫です」
……また、周りの空気が微妙なものになってしまいました。エリックさんのばかー。
ど、どうしよう……こういう空気、苦手なのに。
どうにかしないと、必死に頭を回して考えていた、その時でした。
「カノンおねえちゃーん!!」
わたしを呼ぶ子供の声が、この声は……。
声が聞こえた方へとわたしは振り向きますと、そこに居たのは……十数人の子供達。
その子達の近くには、お世辞にも立派とはいえない家があります。
「カノン先輩、もしかしてあの子達みんな弟や妹さん達ですか?」
「ふふっ、違いますよ。あの子達はあの孤児院に暮らす子供達です。
わたし、見回りの時によく寄って子供達とお話ししたり作ったお菓子をあげたりしてるから、懐かれたんです」
そう話している間にも、子供達は駆け寄りあっという間にわたし達を囲んでしまいました。
「ねーねー、おかしはー?」
「おねえちゃん、おままごとしよー!」
「なにいってんだよ、おにごっこのほうがたのしいって!」
わらわらと群がる子供達、あはは……懐かれるのは嬉しいですけど、相変わらず子供達の元気さには驚かされます。
ああっ、カズキさんにエリックさんも囲まれちゃいました。
「おにいちゃんたち、おねえちゃんのこいびとさん?」
「えっ?」
「なっ、何言ってるんですか!?」
1人の子供が放った言葉に、カズキさんはキョトンとして、エリックさんは苦笑、そしてわたしは顔を赤くしてしまいました。
「すげー、りょうてにはなだー!」
「おねえちゃん、やるー!」
「ち、違います! お二人ともお姉ちゃんの仕事仲間です!!」
……カズキさんは、違いますけど。
すると子供達はなーんだとあからさまにガッカリしたような表情に。
「せっかくおねえちゃんにもはるがきたとおもったのになー」
「余計なお世話です!!」
何て失礼な事を言うんでしょうか、わたしだって本気を出せば……。
って、今日はあまりのんびりできないんでした。
「ごめんなさい、今日はもう行かないといけないんです」
言った瞬間、子供達からは大ブーイング。
し、仕方ないじゃないですか。この後は偵察部隊の仕事があるんです!!
……結局、子供達を説得するのに時間がかかってしまいました。
はぁ……。
一度アナグラに戻り、エリックさんとはここで別れ、今度は偵察部隊の皆さんと一緒に市街地エリアへと向かいました。
偵察部隊とは、簡単に言えば各エリアに出現したアラガミを記録して極東支部に届ける部隊です。
これを、普段わたし達が発注しているミッションになるわけですから、この仕事だって重要なものなんですよ?
とはいえ、いくら偵察だけだとしても危険がない訳じゃありません。
だから、神機使いが護衛をする事もあるわけでして。
……偵察部隊の皆さんがカズキさんも一緒だと聞いて、ほっとしている人が居るのは何故ですかね?
わ、わたしじゃ頼りにならないんでしょうか!?
うぅ……そりゃあ誤射は多いし、一年以上居るのにまだ新人気分が抜けてないとか言われてますけど、後輩のカズキさんの方が頼りにされてるというのは……。
「カノン先輩、どうしました?」
「あっ、い、いえ何でもありません!!」
「ならいいですけど……無理はしないでくださいね?」
はぅぅ〜、カズキさんは優しいですね〜。
よし、またやる気が出てきました。ぐっと拳を握りしめ市街地エリアを歩き出したわたし達。
「……そういえば、このエリアでカノン先輩達は正体不明のアラガミと戦ったんですよね?」
「はい。もうちょっと端のエリアでしたけど」
そういえば、ちょくちょくそのアラガミの目撃情報が出てるって、タツミさん言ってましたよね。
……あのアラガミ、タツミさんとブレンダンさん、わたしにジーナさんの四人がかりでも殆ど攻撃を当てる事ができませんでした。
凄く速くて、それにきっと強いアラガミです。多分……防衛班のわたし達じゃ適わない。
けど、どうしてあのアラガミは反撃してこなかったんでしょうか?
まるで、わたし達と戦うのを拒むように――
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『――――っ!!?』
場の空気が変わる。
男性の悲鳴を拾い、わたし達は一斉にそちらへと振り向きました。
すると、そこに居たのは……あの時の、正体不明のアラガミ―――!
驚くわたし達を見て、右手に持つ大きな槍を構えました。
「みんな、下がって!!」
叫び、カズキさんは剣を握り直しアラガミの元へと向かいます。
わ、わたしも戦わないと!!
「―――いくわよ!!」
この間のカリ、返してあげるよ!!
「し―――!」
カズキさんの剣が横薙ぎに振るわれる。
それを槍で弾き、間髪入れずにアラガミはその槍をカズキさんの額へと放ち――避けられる。
回避と同時にカズキさんは間合いを更に詰める。
そのまま下から掬い上げるような一撃を放つが、アラガミは、その間合いから離れ攻撃は見事に空を切る。
「そら―――っ!!」
その隙を逃さず、わたしは火属性の砲撃を叩き込んでいく。
が、アラガミはわたしの攻撃を嘲笑うかのように回避、当然掠りもしない。
「っ、ああもう鬱陶しいのよ!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
裂帛の声を上げながら、再びカズキさんとアラガミがぶつかり合う。
一撃、二撃、三撃、四撃。
ぶつかり合う度に互いの武器から火花が散り、甲高い音が戦いの場に響き渡る。
カズキさんの剣戟は速く、それでいて重い。
バスタータイプの剣を使っているというのもあるけれど、それでも威力はブレンダンさんのそれを上回っていた。
しかし、アラガミもまた別格の強さを見せている。
元々リーチの長い槍を使っているが、それでも確実にカズキさんの攻撃を弾き防ぎ、自分の有利な間合いで立ち合っていた。
わたしも加勢したい、けど2人の動きが速すぎて上手く照準が定まらない。
いくら誤射が多いわたしでも、アラガミの姿を捉えない限りは不用意に撃つ事はしない。
「はっ、は、あ―――!」
カズキさんの息が上がっている。
当たり前だ、さっきから全力で戦っているのだから。
「―――っっっ!!」
歯を食いしばり、カズキさんが勝負に出ようと大きく踏み込む。
放たれるアラガミの突き。
それは寸分違わずカズキさんの心臓へ―――
「カズ―――」
おもわず、駆け寄ろうとした、次の瞬間。
「っ、ぐ―――!」
カズキさんはすんでのところで身体を横にずらし、攻撃を回避。
でも避けきれなかったのか、槍がカズキさんのわき腹を斬り裂き鮮血が舞う。
それには構わず、カズキさんはアラガミの眼前まで迫り、渾身の力を込めて。
「――りゃぁっ!!」
上段から、アラガミの身体を2つに分けようと振り下ろす―――!
「っ、ちぃっ!!」
悔しそうに顔を歪ませながら、カズキさんは上を見上げる。
そこには、カズキさんの剣で2つに分けられた筈のアラガミが、廃墟と化している建物の上に立っていた。
あれを避けるなんて……何て反射神経なんでしょうか。
けれど――あのアラガミ、右腕が無くなってる。
視線を下に戻すと、カズキさんの足元にはあのアラガミの右腕が槍ごと落ちていた。
「―――逃げた」
「えっ?」
再び顔を上げる。
……あのアラガミの姿が、消えていた。
「……皆さん、怪我はありませんか?」
辺りを見回しながら、カズキさんは声を掛ける。
欠けた人員はいないみたいですね……よかった。
「それにしてもさすがカズキさんです、あのアラガミに攻撃を当てるなんて!」
「いえ……けど、次は負けません」
言って、表情を引き締めるカズキさん……かっこいいです。
はっ、いけないいけない、任務中に浮ついた気持ちになるのは御法度でした。
とはいえ、偵察任務もこれで終わり。後はアナグラに帰るだけです。
「あっ、このアラガミの右腕は回収しておいてくださいね?」
そうでしたそうでした、すっかり忘れてました。
コアではないにしろ、正体不明のアラガミの事を知る為には、必要なものですから。
「あっ……カズキ!」
神機保管庫に神機を預けてから、アナグラのエントランスロビーに着いた瞬間、わたし達に……いえ、カズキさんに近づく1人の女の子が。
「アリサちゃん、どうしたの?」
「いえ、偵察任務に行ったと聞きまして……帰ってくるのを待っていたんです」
「そうだったんだ、わざわざありがとう」
「………はい」
ああっ、頭撫でられるなんて……いいなぁ、アリサさん。
わたしもして貰いたいけど、「お願いします、頭撫で撫でしてください!」なんて言えるわけもないですし……。
「カズキ、その怪我!!」
「えっ? ……ああ、別にたいした怪我じゃ――」
「何言ってるんですか、医務室に行きますよ!!」
「えっ、ちょ――」
言うやいなや、アリサさんはカズキさんの手を掴んで医務室に行ってしまいます。
……あのー、わたしの事は無視ですか?
って、2人っきりにさせるわけにはいきません、わたしも行かないと!!
………。
「……あ、あれ? えっと……このっ」
医務室には誰もおらず、アリサさんがカズキさんの手当てをする事になったみたいですけど……。
「……アリサちゃん、自分でやるからいいよ」
「ど、どういう意味ですかそれは!! いいから黙っててください!!」
「だって、アリサちゃん不器用なんだもん」
「なっ――!?」
カズキさん、はっきり言いすぎです。
でも……たしかにアリサさん、その……あまり器用じゃないんですね。
包帯は弛んでいるし、グルグルと巻きすぎですし……。
「こ、これくらいできますから!!」
「いや、包帯巻きすぎだし緩んでるから、正直意味ないよ?」
「ぐぅ……!」
「あ、あの…わたしがやりましょうか?」
「カノンさんは黙っててください!!」
「………むっ」
い、いくらなんでも今のはちょっとカチンと来ました。
「ち、ちょっと――」
強引にアリサさんを押しやり、巻いた包帯を一度外してから改めて巻き直す。
サクヤさん仕込みの手当ては、伊達じゃありません!
「……カノン先輩、手慣れてますね。凄いです」
「は、はい。こういうのは得意ですから」
えへへ、カズキさんに褒められちゃいました。
「…………」
あっ、アリサさんが悔しそうにこっちを睨んでます……。
……ちょっと優越感を抱いてしまったわたしは、心が狭いかもしれません。
「……カズキ、私には感謝してくれないんですね」
「いや、アリサちゃんにも感謝してるよ?」
「何ですかそのついでに感謝みたいな言い方は、どん引きです!!」
「えぇ〜……?」
がーっ、と怒るアリサさん、カズキさんはどうして怒られてるのかわからず困惑気味。
あわわ、止めた方がいいですよね?
「あ、あの……」
「大体、今日はカノンさんと2人だけで任務に行ったそうじゃないですか!!」
「いや、居住区の見回りにはエリックさんが居たし、偵察任務でも2人だけじゃなかったけど……」
「口答えしないでください!!」
はわわわ、と、止められません。
……でも、アリサさんってやっぱりカズキさんの事が。
この間は、別にカズキさんの事を意識してるわけじゃないって言ってましたけど、この態度は間違いないですね……。
むむむ、強力なライバル出現です。
「お〜い、修羅場るのは一向に構わんが、ここは医務室なんだから静かにしないと怒られるぜ?」
『えっ?』
揃って、医務室の入口に視線を向けるわたし達。
そこには、ニヤニヤと変な笑みを浮かべているリンドウさんが。
「カズキ、お前も両手に花で羨ましい限りだなオイ」
「な、何言ってるんですかリンドウさん!!」
顔を赤くして否定するカズキさん、もしかして……少なくとも女の子として意識してくれているんでしょうか?
……拙いです、顔がにやけてしまいそうです。
見ると、アリサさんもわたしと同じように口元を緩ませています。
やっぱり間違いありません、口では否定してますけどアリサさんは……。
「で、お前はどっちが好みなんだ? 胸のデカさならアリサに軍配が上がるが、カノンだって負けてねえぞ。
顔はどっちもかなりイイ線いってるし、難しい選択だよな?」
……リンドウさん、それちょっとセクハラじゃないですか?
さすがに、わたしでも今のはいただけません。
「……どん引きです」
アリサさんに至っては、まるで汚い物を見るかのように冷たい目になってます。
「べ、別に僕はそういう風に見てませんよ。2人とも大切な仲間ですから」
『…………』
大切な、仲間ですか。
うぅ……ちょっとショックです、わたしそんなに魅力ないですかね?
それにしたって、カズキさんの発言は仮にも恋をしているわたし達の前で言うものとは思えません。
――だから、ちょっとお仕置きですね。
「カズキさん」
「えっ、何……ですか?」
「―――えい」
「っっっ!!?」
少し強めに、傷の所を叩いてやりました。
ふーんだ、カズキさんが無神経な事を言うのが悪いんですよー。
To Be Continued...