さて、今回の物語は………。
「――合体技を作ろう!!」
「えっ……?」
「合体技、ですか?」
フィアが戻り、一時的ではあるが日常が戻ってきた極東支部。
任務の疲れを癒すためにフィアの部屋で寛いでいたナナは、同じく寛いでいたフィアとシエルに上記の提案を口にした。
「そう。あの正体不明のアラガミに勝つには私達が力を合わせた合体技が必要だと思ったの!」
「成る程、確かに個人個人で攻撃を仕掛けてもあのアラガミには効果が薄いというのは先の戦闘で証明されていますし、でしたらフォーメーションによる特殊な攻撃法を編み出すのは良い判断かと」
「でしょう? シエルちゃんは話がわかるねー!!」
「……一理あるけど、一体何に影響されたの?」
ナナの事だ、絶対に何かしらの影響を受けたに違いない。
するとナナは、懐から映像ディスクを取り出す。
「これね、アラガミが現われるより前に販売されてたゲームのPVが入った映像ディスクなんだけど、そこで無数のロボットがカッコいい合体技を披露してて「これだ!!」って思ったの」
「……ナナ、コウタやロミオみたいな考えを持つようになったね」
「えー。だってものすごくカッコよかったんだよ? しかも中にはものすごくおっきなハンマーを持って「光になれえええっ!!」って叫びながら――」
「ナナさん、映像に対する感想も良いのですが、具体的な内容を話しませんか?」
ナナの言葉を遮るシエル、今の彼女は何故かやる気を出しているように見えた。
具体的にはバレッドエディットを勤しんでいる時の雰囲気を醸し出している、この状態のシエルはほんの少しだけめんどくさくなる。
なのでフィアもナナも余計な事を言うのは止め、早速話し合いに移る事にした。
「合体技っていうけど、具体的にはどんな風な攻撃方法なの?」
「うーんとね……映像だと複数のロボットが敵に対して連携しながら連続攻撃を行ったり、同時に強力な攻撃を叩き込んだりしてたかな」
「連携による連続攻撃に、同時攻撃……どちらも一朝一夕で身に付くものではありませんね。それに予め各々がどんな行動や攻撃をするのかも決めておかなくては」
「そうだね。まずはどういったフォーメーションによる攻撃方法かを決める所から始めないと」
「よーし、なんだか燃えてきたよ!!」
グッと握り拳を作り、意気込むナナだったが……彼女のお腹から、キュルル~という可愛らしい音が聞こえてきた。
おもわずキョトンとしてしまうフィアとシエル、一方のナナは羞恥からか顔を真っ赤に染め上げていく。
そういえばもうすぐ昼だ、なので3人はラウンジへと向かい昼食を食べる事にした。
何を食べようかなーと談笑しながら3人はラウンジへと入り――足を止めてしまう。
――何だか、ラウンジの雰囲気がおかしい。
別に殺伐とした空気に包まれているわけではない、どちらかというと……甘ったるい雰囲気だ。
……あちらこちらから、男達のすすり泣く不気味な声が聞こえてくる。
一体このラウンジで何が起きているのだろうか、そう思い視線を中央にあるカウンター席に向け……フィア達はああ成る程と理解した。
「はいカズキ、あーんしてください」
「パパー、あーん!」
「きゅー、きゅー!!」
「……あの、3人同時にやられても食べれないんだけど」
「はいエリック、あーんしてねー」
「ロ、ローザ……自分で食べられるから」
「あ、もしかして口移しの方がよかった? もぅ、それがいいなら最初から言ってくれればいいのに」
「言ってないから、だから用意しようとしないでくれ!」
『…………』
3人の目のハイライトが消えていく。
ラウンジを包み込む奇妙な空気の正体、それは……バカップル達のピンク結界によるものであった。
カズキを囲むアリサとラウエルとタマモ、そしてその近くではエリックとローザがいちゃいちゃしてやがりました。
一瞬でも身構えそうになった自分を殴りたいと思いながら、3人はその場に立ち尽くす。
正直言って微塵もあの連中に関わりたくない、しかしムツミの美味しい昼食を食べたいので別の場所に行くという選択肢はない。
「ちくしょう、ムツミちゃんのエンジェルスマイルで癒されに来たっていうのに、何が悲しくて最強親子とローザちゃん達のいちゃいちゃを見なきゃいけないんだよ………!」
「あてつけか? 彼女が居ない非モテ男であるオレ達に対するあてつけなのか!?」
「アリサ先輩、相変わらず綺麗だよなー……それにおっぱいがまた大きくなってる気がする」
「オレの目測だと……90は超えてるな」
「なん…だと……!?」
「ラウエルちゃんにパパって言ってもらいながら抱きついてもらいたい!」
「同意、あとタマモちゃんの尻尾もふもふしたい」
「カズキさん、アンタ鬼や……非モテ男達が持ってないモン全部持ってて、尚且つそれを見せびらかすとか……もげてしまえぇぇぇぇっ!!!」
周りの男達は次々に血涙を流しながら、巨乳人妻とロリ娘達にあーん攻撃をされているカズキに呪詛を送っていく。
しかし標的はカズキだけではない、同じくらいエリックも妬まれていた。
「うぉぉぉぉ……ローザちゃん……」
「エリックの野郎、オレ達の天使を独り占めしよってからにぃぃぃぃ………!」
「呪ってやる、呪ってやるぞエリックゥゥゥゥゥゥ………!」
「ちょっと前まで厨二秒を患ってたぼっちゃんのくせにぃぃぃぃぃ」
好き勝手な事を言いながら、非モテ男達は嘆きの言葉を紡いでいく。
その姿はただただ情けなく、フィアとナナは冷たい視線を男達に向け。
「――醜悪ですね」
シエルに至っては、辛辣な言葉を吐き出す始末。
しかしだ、男達を庇うわけではないが……ちょっとばかり、いやかなり迷惑である。
みんなが集まるラウンジの中央でいちゃいちゃいちゃいちゃ……爆発しろ。
とはいえアレを邪魔すれば痛い目を見るのは必至、なのでみんな手出しせずに遠巻きで嘆いているのみであった。
「――ねえ、いちゃいちゃするなら部屋でした方がいいと思うよ?」
そんな中、フィアはカズキ達に歩み寄り上記の言葉を言い放った。
ピンク色の空間を何の躊躇いもなく、夫婦および恋人達の邪魔をした彼に、周りの非モテ男達は驚きと歓喜の声を上げた。
「す、すげえ……すげえぞアイツ」
「何の躊躇いもなく邪魔しやがった……さすがブラッドの隊長だ!!」
「いいぞブラッド隊長、もって言ってやって!!」
「ドン引きですね」
(シエルちゃんが黒い……)
彼女の黒い部分を見て、若干恐怖するナナ。
一方、フィアに割って入られたカズキとエリックは不機嫌顔…にはならず、寧ろ邪魔してくれてありがとうと言わんばかりの安堵の表情を浮かべていた。
それもその筈である、カズキもエリックも周りの目が痛くて痛くて堪らなかったのだ。
嬉しくないわけではないが、2人はどちらかというと草食系なのでガツガツするのは人目の付かない所の方がいいわけで。
「ダメなんですよフィアさん、ここでいちゃいちゃしないと意味がないんです!!」
そう反論するのは、極東一の肉食系女子であるアリサであった。
彼女に同意するように、ローザもうんうんと頷きを見せている。
「どうしてここじゃないと駄目なの?」
「それは勿論、私はカズキのものでありカズキは私のものであると皆さんに改めてわかってもらうためです」
「右に同じく!」
「………?」
それは一体どういう事なのだろう、アリサの言葉を聞いてフィアは首を傾げる。
そもそもアリサとカズキは夫婦であり、ローザとエリックは恋人だというのはこの極東では周知の事実ではないか。
ならば一々アピールする必要もないだろうとフィアが指摘すると、アリサとローザは揃って表情を険しくさせ……反論した。
「……実はですね、先週の話なんですが…私という妻が居るというのに、カズキが女性に告白されたんです」
「エリックにもね、ローザが居るってわかってるのに告白した女の子が居たの」
勿論彼等は断わったが、その話を聞いたアリサとローザは到底納得する事はできなかった。
しかし問い詰めるというのも可哀想なので、このような奇行に及んでしまったようである。
……アホかと、口には出さないがフィアはおもわずそう思ってしまった。
聞き耳を立てていた男達も、これには脱力してしまう。
「その気持ち、わかります!」
「そうですね、アリサさんもローザさんも正しいと思います」
(えぇー……?)
一方、シエルとナナは何故かアリサ達の奇行に賛成の意見を述べていた。
そして再び始まってしまうアリサ達のいちゃいちゃタイム、もう勘弁してくれ…という空気の中、一組の男女がラウンジへと入ってきた。
「……なんだ、この空気」
「おーい、カズキー、みんなー!!」
ラウンジへと入ってきたのは、場の空気を感じ取り怪訝な表情を浮かべているソーマと、気にせずカズキ達に元気よく手を振っているシオであった。
彼等の登場に、非モテ男達は再びどよめきだった。
「でた、ロリコン博士とシオちゃんだ!!」
「シオちゃん、相変わらず屈託のない可愛い笑顔だなあ……」
「子供っぽい所は三年前から変わらないけど、体つきは……ゴクリ」
「胸はアリサさんには及ばないけど、健康そうな肉つきだな!!」
「シオちゃんにイタダキマスって言われながら甘噛みされたい!」
「………おい、あれは何だ?」
「気にしない方がいいよ、ストレスが溜まるだけだから」
汚物を見るような視線を男達に向けながら問いかけるソーマに、フィアは容赦のない言葉を放った。
だがまあ仕方ない、鼻息を荒くしてシオを見ている男達は気持ち悪いの一言に尽きるのだから。
気にしたら本当にストレスが溜まりそうだ、そう自分に言い聞かせながらソーマはシオと共にカウンター席へと座る。
「ムツミ、コーヒーと……シオ、お前は?」
「初恋ジュース!!」
「……お前、相変わらずあの劇物が好きだな」
「えー、あれ美味しいよー? ソーマ、好き嫌いするのよくないぞー」
「断じて好き嫌いじゃない、あれは人間の飲める代物じゃないんだ」
無理矢理飲まされた時の事を思い出したのか、ソーマの顔が苦々しいものに変わる。
そうこうしている内にムツミがソーマにコーヒーを、シオに初恋ジュースを持ってきてくれた。
早速一口飲み、おもわずソーマの口から吐息が零れた。
「ソーマ、疲れてるみたいだね」
彼がこのような反応を見せる時は、決まって疲れが溜まっている時だ。
それがわかっているから、カズキは心配そうにソーマへと声を掛けた。
「ん? ああ、まあ多少はな」
「レトロオラクル細胞の研究は、進んでる?」
「さっぱりだ。研究なんてものは失敗の連続だとはわかっているが……何も進展しないというのは、堪えるもんだ」
「……あまり無理はしないでくれよ? ソーマはすぐ無理をするから」
「お前に言われたらおしまいだぞカズキ、お前もあまり気負うなよ?」
そう言って、ソーマはカズキに向かって優しい笑みを見せる。
カズキもそれを見てソーマに向かって感謝と喜びを込めた笑みを返した。
美しい男の友情である、しかし……ある方向からは黄色い声が上がり出した。
「カズキさんとソーマさんの友情……あれはいいものだわ」
「やっぱりカズキ×ソーマは鉄板ね!!」
「いやいや、エリック×ソーマもなかなか……」
口々にそんな事を言っているのは、非モテ男達とは反対側に位置する席に座っていた女性達であった。
何やら熱い視線をカズキ達男性陣に向けているが……その視線には、少々危険な色が見られる。
なんとなく恐くなったので、その女性達には視線を合わせないように決めたカズキ達男性陣なのであった。
「ところでソーマ、シオちゃんとは一体どこまでいったんですか?」
「またそれか……お前も飽きないな、アリサ」
もう何度目になるかわからないその問いかけは、しかしアリサにとって重要なものであった。
否、アリサだけでなく場に居た全員にとって重要なものであり、ソーマの言葉を一言も聞き逃さないように意識を集中するほどである。
妙な団結力を見せる皆にため息を零しつつも、ソーマは黙秘権を貫いた。
当たり前である、彼はアリサ達のようなバカップルではない、好き好んで自分達の関係をあれこれ暴露する事などしないのだ。
「何黙秘してんだソーマ博士ー!!」
「シオちゃんと何をしたのか言え! 言うんだ!!」
「ま、まさか……口では言えないようなハードなプレイを経験済み……とか?」
「あ、ありえる…シオちゃんはアラガミだから、ちょっとぐらいハードプレイでもついていけそうだし……」
「マジかよ、ソーマ最低だな」
口々に勝手な事をほざきやがる非モテ男達。
額に青筋を浮かべ軽く殺意を抱きながらも、大人なソーマ君は決して事を荒げたりはしない。
そう、彼は大人だからここは我慢を………。
「いや待て、よく考えたらあのヘタレなソーマがそんな大それた事できるわけがない」
「確かに! あのヘタレソーマができるわけないな!!」
「ヘタレだもんな、どうせシオちゃんとだって手を繋ぐ事ぐらいしかできてなさそう!」
「…………」
「ソーマ、気持ちは判るけどとりあえず無言で手をボキボキと鳴らしながら臨戦態勢に入るのはやめてくれる?」
目に冷たい色を宿すソーマにやんわりと説得の言葉を口にするカズキ。
それに続いてエリックも嫌な予感がしたのか、ソーマに落ち着くように言おうとしたのだが……時既に遅し。
「はっ、という事は……ソーマ君は童貞ということに……?」
「21で童貞……ふははははははっ! 勝った、勝ったぞ!!」
「えっ、ちょ、何お前童貞じゃないの?」
「なんだろう、ソーマ博士に一気に親近感湧いたんだけど」
「オレもオレも」
バカ男達のヒートアップは止まらない。
ここぞとばかりにソーマを弄り倒していく、非モテ男達の嫉妬の炎は激しいのだ。
とはいえ半分は普段研究ばかりで他の神機使いとの交流が少なくなり始めている彼を案じて、弄る事でコミュニケーションを図ろうとする思惑は……ないな、うん。
結局シオという嫁が居るソーマが妬ましいだけである、そして普段弄れないから弄り倒しているだけなのである。
尤も――その愚行は、罰となって襲い掛かってしまうのだが。
「ぶへえっ!?」
「ファッ!?」
突然響いた、一人のバカ男のくぐもった悲鳴。
一体何事かと思った他のバカ男達は、視線を悲鳴が上がった方へと向け…後悔した。
視線の先に居たのは、絶対零度の冷たさを瞳に宿しバカ男達を見つめながら拳を構えるソーマであった。
そして彼の近くには、頬を凹ませ悶絶しているバカ男の1人が地面に沈んでいる。
「あ、あの……ソーマさん? いえ、ソーマ博士?」
「………研究者っていうのは、なかなかストレスが溜まる仕事でな。まあストレスが溜まらない仕事なんざ存在しないが……とにかく、今俺は物凄く機嫌が悪い」
(あ、これはアカン)
(弄り過ぎた、相手があのソーマだって事忘れてた……)
狩られる、一瞬で判断したバカ男達は一斉にラウンジから逃走を始める。
それを追うソーマ、やがて全員がラウンジから居なくなった後……どこからか、悲鳴が聞こえたような気がした。
とりあえず、バカ男達の冥福を祈って全員が合掌を送り、さっさと忘れる事に。
「それでシオちゃん、ソーマとはどうなんですか?」
「ちゅーはよくしてるよー。でもソーマ、『よるのいとなみ』はしてくんない」
「なーんだ、じゃあソーマさんはやっぱりヘタレなんだね」
「ローザ、ソーマはああ見えて結構ロマンチストな面があるんだ。それにシオとの関係を大事にしたいからこそという気持ちもあるんだろう」
少し不器用な彼だが、だからこそシオとの関係はゆっくりと進めていこうと思っているのだろう。
まあ、確かにローザやバカ男達の言う通り彼が少々こういった事にヘタレな面も原因なのだろうが…自分もそうなので、エリックはそれ以上何も言わなかった。
「でも、いくら非番でもあんなに騒いだら情報管理局の連中がまた煩そうだね」
「そうかもね。でも……前より物腰が柔らかくなったと思わない?」
フィアと螺旋の樹の一件の後、極東支部と情報管理局の確執は前よりも減ってくれた。
相変わらず上からものを言ってくる者も居るが、それでも最初に比べれば格段に改善されたと言える。
このまま協力関係を強固なものにしていけば、きっと螺旋の樹の調査も円滑に進んでくれるだろう……カズキはそう信じていた。
「さあカズキ、邪魔者は居なくなったので続きをしましょう!」
「パパ、あーんして!」
「きゅー、きゅー!!」
「エリック、ローザ達も負けてられないよ!」
「いや、何を張り合っているのさ……」
「フィア、私達もいっぱいいちゃいちゃしようか?」
「えっ……?」
ちょっと待て、自分をそちら側に持っていくな。
そう抗議するフィアであったが、ナナに強引に座らされ料理の注文までされてしまう。
食事をするのは賛成だが、未だに続いているアリサやローザのような「あーん」攻撃は御免被る。
しかしだ、既にフィアに退路は存在する筈もなく。
「――フィアさん、あ、あーん…してください」
いつの間に用意したのか、反対側からシエルがフィアに「あーん」攻撃を繰り出してきた。
「あー! ちょっとシエルちゃん、ちゃっかり先にやるなんてズルイよ!」
「い、いいではありませんか。さあフィアさん……あ、あーんです」
(顔を真っ赤にするならやらなきゃいいのに……)
見てるこっちが恥ずかしくなってくるではないか。
それに、カズキ達も自分達のいちゃいちゃタイムを中断してまでこっちに視線を向けてきているので、恥ずかしい事この上なかった。
結局、フィアは羞恥を感じつつもシエルとナナの「あーん」攻撃を拒絶する事はできず……その日の食事は、全て2人に食べさせてもらう事になった。
「……あの、もういい加減自分達の部屋でやってくれませんか?」
因みに、バカップル達の逢引を間近で見せつけられ続ける事になったムツミが、暫くラウンジの料理のレパートリーを辛いもの全般にしたのは余談である。
To.Be.Continued...
日常というか……カオスな感じになっちゃいました。
でも書いてて楽しかった、また次回もシリアスはお預けになりそうです。
少しでも楽しんでいただければ幸いに思います。