……わかりました、精一杯その役目を務めさせていただきます!!
……こんなものでいいでしょうか。
ふぅ、と息を吐きつつ、私――シエル・アランソンはモニターから目を離す。
そこには、バレッドエディットについての私なりの考察・研究が記された論文が広がっている。
バレッドエディットにはまさしく無限の可能性が秘められています、だからこそ私は日々研究を続けているのですが……私以外の神機使いの方々は、どうもバレッドエディットを軽視しているようで。
確実な戦力アップには、バレッドエディットは欠かせないというのに……嘆かわしい事です。
とはいえ、誰にだって得手不得手というものがあります、かくいう私とて……その、少々柔軟性に欠けていると言われますし。
なので少しずつ、少しずつこのバレッドエディットの良さをわかってもらえればと思いながら、私は休憩しようと立ち上がり外へと出ました。
「あ、シエル」
「フィアさん……」
すると、ちょうど私と同じように部屋から出てきたフィアさんと鉢合わせに。
……偶然とはいえ、なんだか嬉しいですね。
少しだけ弾んだ心のまま、私はフィアさんに話しかけました。
「こんにちは、フィアさん」
「こんにちはシエル、ごはんでも食べに行くの?」
「いえ、部屋で少々バレッドエディットに関する論文を纏めていまして……」
私がそう言うと、何故かフィアさんは苦笑を浮かべてしまいました。
はて、何かおかしな事を言ったでしょうか……?
「相変わらずシエルは生真面目だね。今は待機を指示されてるのに」
「あ……それはそうですが……」
「あまり無理をしてはいけないよ? シエルはすぐに無理をするから」
「…………」
それは、フィアさんには言われたくない言葉ですね……。
貴方が一番無理をするんですよ? わかっているんですか?
「ところで、フィアさんはこれから何処へ?」
「神機保管庫に行くつもりだよ、リッカに頼みごとがあるんだ」
「リッカさんに、ですか?」
リッカさんに頼みごと……となれば、やはり神機関係でしょうか。
フィアさんの頼みごとの内容が気になり、同行してもいいか訊ねてみました。
別に構わない、そう言われたので私はフィアさんと共にリッカさんが居る神機保管庫へ。
相変わらず技術者の皆さんは忙しそうに作業を行っていました、その中で特に忙しそうにしているのは……やはりリッカさんですね。
少し声を掛けるのを躊躇ってしまいそうになってしまいましたが、フィアさんはそんな事は微塵も考えずにリッカさんへと声を掛けました。
「リッカ」
「えっ、何……って、フィアにシエル? どうしたの?」
作業用ゴーグルを外し、こちらに駆け寄ってくるリッカさん。
「ちょっとリッカに頼みがあるんだ」
「頼み?」
「うん。その……アスガルズを、別の刀身パーツにする事ってできる?」
「えっ?」
「フィアさん?」
その言葉に、リッカさんだけでなく私もつい反応を見せてしまいました。
アスガルズ、その武器はフィアさんが愛用するヴァリアントサイズの名前です。
オーディンという特殊なアラガミの素材を用いたその武器は、他のパーツよりも遥かに高い能力を持っている。
フィアさんの高い戦闘能力を十二分に引き出せるポテンシャルを秘めているその武器を変えたいというのは、一体どういう事なのでしょうか。
「まあ、別の刀身パーツに変える事はできるけど……どうしたの? フィアがそんな事を言うなんて初めてじゃない?」
「……アスガルズが弱いってわけじゃないんだ。でもどうもヴァリアントサイズは僕の戦闘スタイルに合っていないんじゃないかって最近思い始めて……」
「ふーん……まあ確かに各々の戦闘スタイルは違うものだから、得手不得手はあるだろうけど……じゃあどうして今まではそう思わなかったの?」
「思わなかった、というより……気づいてなかっただけなのかもしれない。でも魔神やハンニバル神速種との戦いで、僕はヴァリアントサイズの力を引き出す事ができなかった」
その時、フィアさんは自分には別の刀身パーツの方が合うのではないかと思ったそうです。
……そういえばと、私はある事を思い出す。
今までフィアさんの訓練を手伝ったり、実際の戦場で彼の戦いを見てきましたが……彼は一撃の破壊力を重点に置くのではなく、素早い連撃で相手を畳み掛ける戦い方をしていたような気がします。
それに一時期はバスターブレードを使っていましたが、すぐに使用を止めてロングブレードを主体に使っていましたし、ハンマーに至っては一度たりとも使っていませんでした。
その点を踏まえると、ヴァリアントサイズのような一撃一撃の間隔が比較的長い武装はフィアさんには合わないのかもしれません。
既にニーヴェルン・クレイグというロングブレードタイプの神機を装備しているので、もう一方は広範囲を攻撃できるヴァリアントサイズを選んでいましたが……その判断は適切ではなかったのかもしれませんね。
寧ろ、そういった戦闘スタイルで戦うフィアさんだとすると……彼に合う刀身パーツは。
「――ショートブレードタイプが、合うかもしれませんね」
「シエル?」
「あ、いえ……すみません、割って入るような事をしてしまって……」
「……いや、試してみる価値はあるよ。
リッカ、訓練場に行って少し感覚を確かめてみる」
「了解、でもちょっと私は手が離せないから別の技術班を行かせるよ」
お願い、そう言うやいなやフィアさんはさっさと神機保管庫から飛び出していってしまった。
し、しまった……おもわず出遅れてしまいました。
慌ててフィアさんの後を追おうとして、私はその足を止める。
私が行った所で何かができるわけではありませんし、かえってフィアさんの邪魔になりかねませんね。
「……いかないの?」
「えっ?」
「フィアの傍に、居てあげないの?」
「……フィアさんの邪魔になるだけですし」
「そんな事ないと思うけどなあ。――それに、好きな子の傍にいつでも居たいって思ってないの?」
「…………」
直球過ぎるリッカさんの言葉に、少しだけ頬が熱くなった。
本音を言えばですね、その……やっぱり、傍には居たいです。
でも先程も言ったようにただ居るだけでは、フィアさんのご迷惑になりますし……。
「意気地がないだけじゃないの? それ」
「うぐっ……」
リッカさん、本当に直球過ぎます……。
ですが、やはりその言葉を否定できないわけでして。
「傍に居てあげるだけでも、力になる事だってあるんだよ? 少なくともフィアはそう思ってると思うなあ」
「……そうでしょうか?」
「そうだよ。だってフィアはカズキ君によく似てるからね、良い所も……悪い所も」
そう話すリッカさんの表情は、とても優しいものでした。
そういえばリッカさん、カズキさんの話をする時はいつもこんな風に優しい顔になっていますね。
もしかしてカズキさんの事を……?
「ほらほら、さっさと行ったら?」
「あ、はい……」
リッカさんに促され、私は神機保管庫を後にする事に。
……本当に、邪魔にならないだろうか?
そんな考えが頭に浮かび上がったものの、私の足は自然とフィアさんを追いかけ始めていました。
■
「――はいフィアさん、お疲れ様です」
「ありがとう、シエル」
訓練を終え、汗を拭いていたフィアさんに私は飲み物を渡す。
結局私は訓練場に居たフィアさんの元へと向かい、彼を見守るという選択肢を選んでしまいました。
けれどフィアさんは私を迷惑だとは思わず、寧ろ「動きにおかしな所があったら遠慮なく指摘してほしい」と頼んできてくださいました。
ショートブレード使いとしての私の能力を信頼してくれているのがわかり、口元が緩んでしまったのは余談です。
尤も、ショートブレードの運用自体に対し、フィアさんのそれは文句の付けようがないものでしたけど。
やはり機動性を重視した近接戦闘を好むフィアさんは、小回りの効くショートやロングの運用が適しているようですね。
これはリッカさんに報告です、とまあ……それはさておきですが。
――2人っきりなんですよね、今。
休憩室で休んでいるのですが、周りには誰も居ません。
私の隣にはフィアさんが座っている、こ、これは……所謂チャンスというやつでしょうか!?
い、いえ……まずは落ち着いて冷静になるんですシエル・アランソン。
ここは一先ず冷静になって……だ、だ、だ、抱きしめたりとか……すればいいんでしょうか?
いやいやいやいや! なんですか抱きしめるって!?
いきなりそんな事をすればフィアさんが困惑しますし、あ、でも……ちょっとやってみたいですね。
じゃなくて!! い、いけません……どうしてこんなはしたない考えが思い浮かぶのでしょうか。
…………でも、フィアさんは抱きしめられたら一体どんな反応をするのでしょうか?
「シエル、今日はありがとう」
「えっ?」
「せっかくの非番なのに訓練を手伝ってくれて、嬉しかった」
そう言って、にこりと微笑みを見せてくれるフィアさん。
……あ、駄目ですねこれ。
フィアさんの歳相応の笑みを見せられると、否応なく心が弾んでしまって。
「えっ――わぶっ」
気がついたらですね。
私、フィアさんを両手で引き寄せて。
しっかりと、抱きしめてしまいました。
『…………』
はい、えっと…………この後、どうしたらいいんでしょうか?
フィアさんは突然の事態に戸惑っているのか、何の反応も返してくれません。
対する私も、自分自身の行動によって驚きと羞恥心が湧き上がってどうしていいのかわからなくなってしまいました。
だというのに、私の心臓は早鐘のように鳴り響いているというのに……心自体は、今までに無い程に満たされていました。
恥ずかしいのに、それ以上の幸福感に包まれているというのは、不思議な気分です。
想い人の温もりを感じる、ただそれだけなのに心の全てが満たされている。
ああ……身体が震えてしまいそうなほどの幸せを、私は今全身で感じ取っている。
それのなんと尊く、暖かなものなのでしょう。
「…………」
だから、たとえ休憩室の外から私達の事を見つめているハルオミさんとコウタさんが居たとしても、ちっとも気にならない……。
……………………はい?
ハルオミさんとコウタさんが、休憩室の外から、私達の事を見ている?
フィアさんを抱きしめたまま、視線だけを外へと向ける。
「…………いいネタ、発見~」
そこに居たのは、血涙を流しながら悔しそうにフィアさんを睨んでいるコウタさんと。
上記の言葉を放ちながら、それはそれはもう凄まじいまでの爽やかさを込めた笑みを浮かべ、こちらにサムズアップをしてくるハルオミさんの姿が……。
「よっしゃ、今からアナグラ中にこの光景の事を知らせるんだ!!」
「――ちくしょおおおおおっ、最近はおとなしいと思ってなのにさあああああっ!!」
「ちょ――ちょっと待ってくださいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
私は駆けた、ゴッドイーターとしての身体能力をフルに用いて既に逃走を開始したお2人を捕らえる為に。
今の光景を周りの皆さんに知られたら、絶対にからかわれる!!
それだけは避けなくてはなりません、そんな事をされたら……恥ずかしくて暫く部屋から出られなくなります!!
なので私はアラガミを追う気概でお2人の後を追いかけたのですが、今の状態の2人の機動力は戦闘時よりも優れており。
結局、私がフィアさんを抱擁していた事を、周りの人達に言いふらされ。
アリサさんとローザさんにはからかわれ、ヒバリさんやマリーさん、フランさんといった人達には微笑ましい視線を向けられ。
あと一部の男性神機使いの皆さんが、物凄い形相で泣いていました……何故でしょう?
――そして何より、その事をナナさんに知られた際には。
「…………」
「……うぅ……」
ジト目で睨まれました、はぅ……針の筵状態です。
「……いいなーシエルちゃん、フィアと一緒に非番だったからなー」
「うぐぐ……」
反論できず、私はどんどん小さくなる事しかできませんでした。
抜け駆けをしたつもりは……無いとは言えませんが、まさかナナさんがそこまで怒るなんて想定外でした。
「…………まあ、しょうがないのかなあ」
「えっ?」
「んーん、なんでもないよー」
そう言うと、ナナさんの雰囲気がいつもの彼女のものに戻っていきました。
どうやら機嫌を直して……くれたわけではないようですが、とりあえずは許されたみたいです。
これにて一安心、なのですが。
やはり……ハルオミさんとコウタさんをこのまま許すわけにはいきませんね。
後日。
お2人は何故か、数日間医務室のお世話になられたようです。
なんででしょうかねー? 私にはさっぱり理由が理解できませんよー。
ふふ、うふふふ……。
To.Be.Continued...
次回も螺旋の樹調査は一旦お休み、日常と新しい武器イベントをこなそうかと思います。